東野圭吾「人魚の眠る家」 [ミステリー]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
東野圭吾さんはまだ地味なミステリー作家であった時代の、
「鳥人計画」や「ブルータスの心臓」、
屈折した青春ミステリーの「魔球」などが好きで、
この辺りはまだブレイクする前に、
まとめ読みをしています。
その後はしばらくご無沙汰だったのですが、
「秘密」にビックリしてとてもとても感動して、
読み終えた時の二子玉川のケンタッキーの店内の雰囲気や、
曇天の夕暮れの空の色、寒さの感触まで今もリアルに覚えています。
それからの活躍は皆さんご存じの通りで、
あまりに多作過ぎるので、
作品の出来不出来が激しくて、
オヤオヤという感じのものも多いのですが、
語り口は極めて巧みでスイスイ抵抗なく読めてしまうので、
ちょっと時間が空いて読書という時には、
安心して手が伸ばせるので読んでしまいます。
個人的には「秘密」が抜群で、
次に「手紙」が凄いと思いますが、
前述の初期作も良いと思いますし、
最近では映画化もされた(最近はほとんどされていますが)
「祈りの幕が下りる時」が、
清張さんの「砂の器」を換骨奪胎して、
ミステリーと人間ドラマの案配が巧みな快作でした。
森博嗣さんのパクリとして始まったガリレオシリーズも、
長編はどれも粒揃いで読み応えがあります。
東野さんは端的に言えば「理系脳の悪意の人」で、
相当歪んだ倫理観をお持ちだと思います。
(悪口ではありません)
初期作ではそれが生々しい感じで出ていて、
そのために読者を選ぶ感じがあったのですが、
「秘密」はその屈折した人間観の奥底にある、
秘められた無垢な情念のようなものが、
初めて露になった観じがあって、
それ以降は理知と感情との相克が、
物語の骨格を作るようになりました。
初期は単純な勧善懲悪的なストーリーは、
決して書かなかったのですが、
ベストセラー作家となって以降は、
そうした穏当な作品がむしろ多くなって行きます。
ただ、そうなっても人間や社会を見据える視線は、
独特で屈折したダークな面を保っています。
この「人魚の眠る家」は映画化に併せて読んだのですが、
まだ時間がなくて映画は観ていません。
多分見ないままに終わる可能性が高そうです。
この作品は前半はなかなか読み応えがありました。
脳死と臓器移植の問題を扱っているのですが、
東野さんの見方は例によってかなりシニカルで、
その情緒を廃した怜悧な感じが作者ならではという感じがします。
2つの異なった考え方の対立を、
論理で徹底して詰める辺りが凄いですね。
途中にひねりを入れて、
アイラ・レヴィンの「死の接吻」を思わせる、
予想の付かない展開にもワクワクします。
この辺りワンテーマを掘り下げるという点では、
「手紙」を彷彿とさせますし、
横隔膜ペーシングや筋肉への電気刺激など、
今ある技術を利用して、
現実より少し進んだ絵を描いてみせるという、
SFにはならない科学応用というのも、
「鳥人計画」辺りに近いスタンスです。
ただ、クライマックスからラストに掛けては、
子供をだしにしたお涙頂戴的な感じになり、
ラストは如何にも予定調和的なもので、
夢と子供で決着させるという安易さには、
ちょっと落胆する感じがありました。
昔のもっと悪意に満ちた東野さんであれば、
母親の行為はもっととんでもない方向に、
シフトしたのではないかと思いますし、
万人向けで現実の医療にも寛容なラストなど、
決して選択はしなかったのではないか、
というように思いました。
映画は観ていませんが、
この原作通りにするのだとすると、
おそらく尻すぼみの印象になるように推測され、
何となく足が向かないというのが正直なところです。
映画が観られましたら、また感想は書きたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
東野圭吾さんはまだ地味なミステリー作家であった時代の、
「鳥人計画」や「ブルータスの心臓」、
屈折した青春ミステリーの「魔球」などが好きで、
この辺りはまだブレイクする前に、
まとめ読みをしています。
その後はしばらくご無沙汰だったのですが、
「秘密」にビックリしてとてもとても感動して、
読み終えた時の二子玉川のケンタッキーの店内の雰囲気や、
曇天の夕暮れの空の色、寒さの感触まで今もリアルに覚えています。
それからの活躍は皆さんご存じの通りで、
あまりに多作過ぎるので、
作品の出来不出来が激しくて、
オヤオヤという感じのものも多いのですが、
語り口は極めて巧みでスイスイ抵抗なく読めてしまうので、
ちょっと時間が空いて読書という時には、
安心して手が伸ばせるので読んでしまいます。
個人的には「秘密」が抜群で、
次に「手紙」が凄いと思いますが、
前述の初期作も良いと思いますし、
最近では映画化もされた(最近はほとんどされていますが)
「祈りの幕が下りる時」が、
清張さんの「砂の器」を換骨奪胎して、
ミステリーと人間ドラマの案配が巧みな快作でした。
森博嗣さんのパクリとして始まったガリレオシリーズも、
長編はどれも粒揃いで読み応えがあります。
東野さんは端的に言えば「理系脳の悪意の人」で、
相当歪んだ倫理観をお持ちだと思います。
(悪口ではありません)
初期作ではそれが生々しい感じで出ていて、
そのために読者を選ぶ感じがあったのですが、
「秘密」はその屈折した人間観の奥底にある、
秘められた無垢な情念のようなものが、
初めて露になった観じがあって、
それ以降は理知と感情との相克が、
物語の骨格を作るようになりました。
初期は単純な勧善懲悪的なストーリーは、
決して書かなかったのですが、
ベストセラー作家となって以降は、
そうした穏当な作品がむしろ多くなって行きます。
ただ、そうなっても人間や社会を見据える視線は、
独特で屈折したダークな面を保っています。
この「人魚の眠る家」は映画化に併せて読んだのですが、
まだ時間がなくて映画は観ていません。
多分見ないままに終わる可能性が高そうです。
この作品は前半はなかなか読み応えがありました。
脳死と臓器移植の問題を扱っているのですが、
東野さんの見方は例によってかなりシニカルで、
その情緒を廃した怜悧な感じが作者ならではという感じがします。
2つの異なった考え方の対立を、
論理で徹底して詰める辺りが凄いですね。
途中にひねりを入れて、
アイラ・レヴィンの「死の接吻」を思わせる、
予想の付かない展開にもワクワクします。
この辺りワンテーマを掘り下げるという点では、
「手紙」を彷彿とさせますし、
横隔膜ペーシングや筋肉への電気刺激など、
今ある技術を利用して、
現実より少し進んだ絵を描いてみせるという、
SFにはならない科学応用というのも、
「鳥人計画」辺りに近いスタンスです。
ただ、クライマックスからラストに掛けては、
子供をだしにしたお涙頂戴的な感じになり、
ラストは如何にも予定調和的なもので、
夢と子供で決着させるという安易さには、
ちょっと落胆する感じがありました。
昔のもっと悪意に満ちた東野さんであれば、
母親の行為はもっととんでもない方向に、
シフトしたのではないかと思いますし、
万人向けで現実の医療にも寛容なラストなど、
決して選択はしなかったのではないか、
というように思いました。
映画は観ていませんが、
この原作通りにするのだとすると、
おそらく尻すぼみの印象になるように推測され、
何となく足が向かないというのが正直なところです。
映画が観られましたら、また感想は書きたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2018-11-23 11:10
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