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コーヒーの種類と健康効果の差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーの種類と健康効果.jpg
European Journal of Preventive Cardiology誌に、
2022年9 月27日ウェブ掲載された、
コーヒーの種類とその健康効果の差を検証した論文です。

1日3から4杯程度までのコーヒーを飲む習慣が、
心血管疾患や癌、糖尿病などのリスクを低下させ、
生命予後にも良い影響を与えることは、
これまでの多くの精度の高い疫学データにおいて、
ほぼ立証されたと言って良い知見です。

コーヒーが健康に良い飲み物であるというのは、
現在では科学的常識と言って過言ではないのです。

ただし…

それがコーヒーのどのような成分によっているのか、
という点についてはまだ明確な結論は出ていません。

カフェインやその代謝産物の量と、
健康効果が一致するとする研究は多くあり、
この点からはコーヒーの健康効果の主体は、
カフェインであると想定されます。

ただ、他にもカフェインを含む飲み物はありますが、
コーヒーに匹敵するような健康効果は確認されていません。
また、レギュラーコーヒーでもカフェインレスやデカフェのコーヒーでも、
その健康効果には差はなかったというデータもあり、
このことからは、
カフェイン以外の成分の方が、
コーヒーの健康効果の主体ではないか、
という考え方も成り立つのです。

今回のデータはイギリスの有名な大規模医療データである、
UKバイオバンクのデータを活用して、
コーヒーの健康効果を、
レギュラーコーヒーとインスタントコーヒー、
デカフェのコーヒーに分けて検証しています。

対象は449563名の一般住民で、
年齢の中間値は58歳、
観察期間は12.5±0.7年の大規模なものです。

その結果、
3種類のコーヒー全てにおいて、
心血管疾患のリスク低下が有意に認められました。
コーヒー全体では、
心血管疾患のリスク低下は1日5杯まで認められ、
最もリスクが低下していたのは、
1日2から3杯で11%(95%CI:0.86から0.91)でした。
また総死亡のリスクも1日5杯まで認められ、
最もリスクが低下していたのは、
1日2から3杯で14%(95%CI:0.83から0.89)、
心血管疾患による死亡のリスク低下は、
1日1杯が最も大きく、
18%(95%CI:0.74から0.90)、
有意に低下していました。

レギュラーコーヒーのみでみると、
総死亡のリスクは1日2から3杯で最も大きく、
27%(95%CI:0.69から0.78)有意に低下していて、
心血管疾患による死亡のリスクは、
1日4から5杯で最も大きく、
35%(95%CI:0.69から0.78)有意に低下していました。

インスタントコーヒーのみでみると、
総死亡のリスク低下は1日2から3杯で最も大きく、
11%(95%CI:0.86から0.93)有意に低下していて、
心血管疾患による死亡のリスクは、
9%(95%CI:0.88から0.94)有意に低下していました。

デカフェのコーヒーのみでみると、
総死亡のリスク低下は1日2から3杯で最も大きく、
14%(95%CI:0.80から0.91)有意に低下していました。
心血管疾患による死亡のリスク低下は、
1日1から3杯で認められ1日1杯で最も大きく、
26%(95%CI:0.61から0.89)有意に低下していました。

興味深いことに同時に検証された、
心房細動を含む不整脈のリスクについては、
レギュラーコーヒーとインスタントコーヒーでは、
1日1から5杯の範囲で有意なリスク低下が認められましたが、
デカフェのコーヒーではリスクの低下は認められませんでした。

データの解釈は難しいところがあるのですが、
トータルにコーヒーに心血管疾患予防効果と、
生命予後の改善効果のあることは、
今回も疑う余地なく確認されています。
総死亡のリスクでみると、
レギュラーコーヒーと比較して、
インスタントコーヒーとデカフェのコーヒーでは、
その低下効果はやや低い傾向は認められます。
このことは、カフェインがコーヒーの健康効果において、
一定の役割を示していることを示唆していますが、
カフェイン抜きのコーヒーでも有効性は認められていて、
これはクロロゲン酸など、
カフェイン以外の成分にも、
コーヒーの健康効果の理由はあることを示しているように思われます。
また従来カフェインは不整脈のリスクを高めるのでは、
と想定されることが多かったのですが、
今回の検証ではデカフェ以外で、
不整脈リスクの低下が認められていました。

これまでのデータの多くは、
コーヒーの健康効果はその種類によらない、
というものだったので、
今回の検証結果は非常に興味深く、
今後より詳細な分析にも期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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スタチンと筋肉痛との関連(臨床試験メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは用の話題です。
今日はこちら。
スタチンの筋肉系有害事象の頻度.jpg
Lancet誌に2022年8月26日ウェブ掲載された、
コレステロール降下剤の良く知られた有害事象についての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力に血中コレステロールを低下させる作用を持ち、
それ以外に抗炎症作用などを併せ持つことにより、
動脈硬化性疾患の再発予防などに、
高い有効性が確認されている薬剤です。

ただ、そのメカニズムから、
筋肉細胞が不安定となって炎症を起こし、
稀に横紋筋融解症という、
重症の筋肉系の有害事象の原因となることが知られています。

このためスタチンの使用時には、
筋肉の痛みや脱力などの症状がないかを患者さんに聞き取りし、
症状が見られた時には血液検査をして、
横紋筋融解症に見られる筋肉系の酵素クレアチニンキナーゼなどが、
上昇しているかどうかを確認することが行われています。

確かにスタチンの使用時には、
筋肉痛などの訴えをする患者さんは多く、
クレアチニンキナーゼが軽度上昇していることも、
しばしばあるのですが、
高度に上昇するような事例は、
当初想定されていたより少なく、
血液検査では異常がなく、
症状のみが見られる、
というケースも多いのが実際です。

しかし、こうした血液検査に異常がなかったり、
クレアチニンキナーゼの上昇が軽度に留まる場合にも、
スタチンの使用は中止されることが多いのが実際だと思います。

この判断は正しいものなのでしょうか?

今回の研究はこれまでに行われた、
スタチンの有効性を長期に渡って確認した臨床試験のデータを、
まとめて解析するメタ解析の手法により、
この問題の検証を行っているものです。

偽薬とスタチンとを比較した、
これまでの19の臨床試験に含まれる、
トータル123940例のデータをまとめて解析したところ、
中間値で4.3年の観察期間において、
スタチン使用群の27.1%、偽薬群の26.6%で筋肉痛もしくは筋力低下が認められ、
スタチン使用により3%(95%CI:1.01から1.06)
筋肉症状は有意に増加していました。

スタチン使用開始1年以内には、
偽薬と比較して筋肉痛もしくは筋力低下は、
相対リスクで7%(95%CI:1.04から1.10)増加し、
これは年1000人当たり11件スタチン使用により増加した、
というように推計されます。
こうしたデータからの推計では、
スタチン使用時に筋肉痛などの症状を訴える患者さんのうち、
実際にスタチンが原因であったのは、
その15分の1程度だと考えられます。
そしてスタチン使用1年後以降では、
スタチン使用による筋肉痛や筋力低下の、
有意な増加は認められませんでした。

今回のデータは臨床試験の解析なので、
通常の診療のデータではない点に注意が必要ですが、
スタチン使用後早期に筋肉痛などを訴える患者さんは多いものの、
実際にそれがスタチンによる筋肉病変である可能性は、
それほど高いものではないことは、
これまでの他の臨床データでも一致している知見で、
ほぼ間違いのないことのように思われます。

臨床医としては、
患者さんの個々の症状に対して、
慎重に向き合う必要がありますし、
稀ではあるものの横紋筋融解症が生じることは事実であるので、
その可能性も常に念頭には起きつつ、
スタチンと無関係と思われる場合には、
患者さんを説得する努力も怠らないようにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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飲酒量の変化と癌リスクとの関係(韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコールと癌リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年8月24日ウェブ掲載された、
飲酒量の変化が癌の発症リスクに与える影響についての論文です。

多量の飲酒習慣が癌のリスクであることは、
多くの疫学データにより実証された事実です。
特に咽頭、喉頭癌、食道癌、虫垂癌を除く大腸癌、
肝細胞癌、女性の乳癌は、
明確に飲酒量との関連のがある癌として知られています。

アメリカの疫学データによれば、
修正可能な癌のリスクとして、
喫煙、肥満に次いでその影響が大きいのが、
飲酒習慣であるとされています。

それでは、飲酒の習慣のある人がそれを止めたり、
飲酒量を減らすことで、
その後の癌のリスクは低下するのでしょうか?
逆に飲酒量が増えることにより、
癌の発症リスクも増加するのでしょうか?

こうした疑問に対する精度の高いデータは、
実際にはあまり存在していません。

今回の疫学データは韓国においてその点を検証したもので、
平均年齢53.6歳の一般住民4513746名を、
6.4年観察した大規模なものです。

観察期間中の癌の罹患率は、
年間1000人当たり7.7件でした。
アルコール量を1日15グラム未満の少量と、
1日15から29.9グラムまでの中等量、
1日30グラム以上のヘビードリンカーに分類して、
飲酒量の変化と癌リスクを比較してみると、
いずれの飲酒量の群でも、
その量が経過中に増加すると、
癌のリスクはそれによって増加する傾向を示していました。

アルコール関連癌についてみると、
飲酒習慣のない人が少量の飲酒習慣に変化した場合には3%(95%CI:1.00から1.06)、
中等量の飲酒習慣に変化した場合には10%(95%CI:1.02から1.18)、
ヘビードリンカーになった場合には34%(95%CI:1.23から1.45)、
その後の癌リスクは増加していました。

少量の飲酒者が禁酒をすると、
そのまま飲酒していた場合と比較して、
全癌の発症リスクは4%(95%CI:0.92から0.99)、
有意に低下しました。
一方で中等量の飲酒者が禁酒すると、
全癌の発症リスクは7%(95%CI:1.03から1.12)、
ヘビードリンカーが禁酒すると、
全癌の発症リスクは7%(95%CI:1.02から1.12)、
いずれも一時的には有意に増加しました。
しかし、その後の経過をみると、
そのリスクは有意なものではなくなっていました。

ヘビードリンカーのままであった場合と比較して、
ヘビードリンカーが中等量まで節酒すると、
アルコール関連癌のリスクが9%(95%CI:0.86から0.97)、
全癌の発症リスクも4%(95%CI:0.92から0.99)有意に低下し、
ヘビードリンカーが少量まで節酒すると、
アルコール関連癌のリスクが8%(95%CI:0.86から0.99)、
全癌の発症リスクも8%(95%CI:0.89から0.96)、
こちらも有意に低下していました。

このように、
アルコールはアルコール関連癌のみならず、
全癌の発症リスクとも一定の関連があり、
節酒や禁酒はそのリスクを低下させるために、
一定の有効性があることは、
ほぼ明らかだと言って良いと思います。

ただ、禁酒で一時的に癌リスクが増加するなど、
アルコールの健康への影響は複雑で、
単純に良い悪いと言い切れない部分もあります。

いずれにしても他に肝障害など健康影響がない場合にも、
飲酒量はなるべく少なくすることが、
癌の予防のためにも有効であるというのが、
現状の一般的な科学的知見であると言って良く、
日本では1日20グラム(日本酒で1合程度)までの飲酒は、
健康上大きな問題がないとされていますが、
世界的トレンドとしては、
適正な飲酒量はより低く設定されている、という点も、
理解はしておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ヘルドッグス」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ヘルドッグス.jpg
原田眞人監督と岡田准一さんのコンビによるバイオレンスアクション映画が、
今ロードショー公開されています。

ヤクザ組織壊滅のために、
警官が身分を隠して潜入するというお話で、
「何を今更…」という感じは少しあるのですが、
昔は日本が本場であったヤクザ映画を、
世界標準で海外にも売れる作品として復活させたい、
という意欲と意図は強く感じました。

138分という上映時間ですが、
原田監督としては上手くまとめたな、という印象はあります。
本筋に入るまでの段取りが結構長いのですが、
見せ場を絞ってじっくり描くことで、
徐々に観客を引き込んでゆきます。
後半の交通整理はかなり難しかったと思うのですが、
それほどの破綻なくまとめ上げていて感心しました。

台詞が聞こえないのは原田監督の通常運転、
特に必要ない歌や踊りを挿入するのもいつもの悪い癖で、
今回もヤクザの秘書にオペラのアリアを歌わせたり、
告別式でヤクザが合唱したり、
変な動きの踊りがあったりするのはいつも通りですが、
比較的内容にはマッチしていて、
それほどヘンテコリンにはなっていなかったのは幸いでした。
原田さんの変な趣味と、
今回の作品世界は比較的マッチしていたのだと思います。

ただ、素材は極めて平凡で展開にも意外性はなく、
アクションや暴力描写を含めて、
それほどオリジナリティも感じないので、
メインキャストのファンでない方には、
やや辛い鑑賞になるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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リセット・オロペサ&ルカ・サルシ 華麗なるオペラ・デュオ・コンサート [コロラトゥーラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
リセット・オロペサ.jpg
アメリカの気鋭のコロラトゥーラ、
リセット・オロペサと、
イタリアのバリトン、ルカ・サルシのテデュオコンサートを、
聴きに行きました。

コロナ禍で海外のアーティストが来日する機会は、
殆どなくなっていましたが、
漸く最近になって、
海外の歌手の来日コンサートが企画され、
そのまま実現するようになって来ました。

こうしたリサイタルを聴きに行くのは、
もう4年ぶりくらいになります。

今回は非常に良かったですね。
生で良いコロラトゥーラを、
10年ぶりくらいに聴いた、という感じ。

若手実力派みたいな触れ込みで、
実際にはあまり活躍していなかったり、
二線級だったり、もう盛りをすっかり過ぎていたり、
ということも多いのですが、
今回の2人は間違いなく今が旬という感じで、
抜群というレベルには達していないかな、という気はしますが、
素晴らしい歌声を聞かせてくれました。

オロペサは音域も広く、
アジリタの廻しもなかなかです。
超高音がバシッと出る、
というところまではいかないのですが、
高音域も安定して声が前に飛ぶのはさすがです。
ビジュアルも写真の通りで、
表現力も豊かですから、
久しぶりに堪能させられました。

プログラムはまあ、
人気曲を一杯並べたという感じで、
「椿姫」もあれば「ルチア」もあって、
アンコールにはロッシーニの二重唱も歌いました。
正直狂乱の場はやや力不足という感じでしたが、
アンコールのロッシーニは、
力の抜けた歌唱で最良だったと思います。

来年はオペラの引っ越し公演も予定となっていますが、
どうなのでしょうか?
完全に元通りとはならないかな、という気もするのですが、
過度に期待は持つことなく、
なるべく良い歌がまた聴ける世の中を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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加藤拓也「ドードーが落下する」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドードーが落下する.jpg
加藤拓也さんの作・演出による、
「劇団た組。」の新作公演が、
今横浜のKAATで上演されています。

加藤拓也さんのお芝居は、
今年の「もはやしずか」で遅ればせながらとても感銘を受け、
その文体の新しさにも痺れました。

それで今回もとても楽しみにして劇場に足を運びました。

今回も非常に意欲的な素材で、
魅力的な台詞劇でした。

ただ、青春群像劇のようなスタイルで、
加藤さんの実体験も反映されているような作品なので、
ちょっとテーマと作者の距離感が近過ぎるような感じ、
饒舌に走ってやや散漫になった感じが抜けませんでした。
「もはやしずか」の冷徹で研ぎ澄まされた、
結晶体のようなお芝居とはまた肌合いが違います。

夏目という、
ある特異なパーソナリティを持ち、
精神的に危うい部分のある、
若手のお笑い芸人と、
彼の仕事のパートナーでもあり、
友人でもある信也という人物との、
微妙な交流をテーマにした作品です。

これは前作でも感じたのですが、
この信也のような人物の描き方が、
加藤さんの戯曲の一番の特徴なんですね。
真面目で誠実なのですが、
相手とはちょっと距離を持って接していて、
相手の立場に立って物を考えるということは、
基本的にしないし、
何に対してもあまり当事者意識はないんですね。
この作品でも夏目を助けようと、
その都度色々な行動をするのですが、
それが相手を考えてのことでというより、
自分のアイデンティティを守るためなんですね。
それで繊細な夏目から、
そのことを強く責められるのですね。
普通徹底して詰められ責められれば、
もっとショックを受けても良いし、
夏目を逆に憎んでも良いと思うのですが、
次の場面では、
「少し前に気まずくなったんだよね」
くらいの軽い反応しかしていないのです。

面白いですよね。
こういうキャラというのは、
あまり演劇で描かれることがなかったし、
描かれても成功はしていなかったと思うのですね。

「もはやしずか」ではこうしたキャラの主人公が、
人格崩壊するような作品だったんですね。
それが今回は、
誰も夏目のことを理解は出来ず、
理解出来ないから離れて行くのですが、
信也だけはそうではなく、
親身にはならずに絶妙の距離感で接し続けるので、
結果としてラストで、
最早会話ですらない、
シュールなギャグという名の、
全く別個のコミュニケーションツールを使って、
交信することにおそらく成功するのです。

非常に微妙で繊細で、
感動的なラストだったと思います。

夏目が象形文字の話をするでしょ。
あれも意味があるんですよね。
言葉を超えたもの、
不可能なコミュニケーションを成立させる何か、
というのがそこに象徴されていて、
それがこの作品のテーマなのです。

ただ、今回の作品はちょっと集約感には乏しいのですね。
台詞が非常に美しいのに、
それをしっかり聴かせるという演出ではなくて、
やや散漫に多くの場面が流れて行きますし、
KAATの寒々とした空間が、
その空虚さをより強くしているような感じがありました。
僕は個人的にはあまりこうした空間が好きではないですね。
この劇場で観た芝居は、
演劇の魅力が正直2割減、くらいになっているような気がします。
また一部の役者に2役をさせているのですが、
それがあまり良い方向に機能していない、
という印象がありました。
この芝居は1人1役で、
やるべきではなかったでしょうか。

そんな訳でちょっとモヤモヤする感じはあり、
加藤さんの真骨頂と言う感じのお芝居ではなかったのですが、
加藤拓也さんが今の演劇界を代表する天才であることは、
これはもう間違いがないと確信しましたし、
これからもその作品には、
何を置いても駆けつけたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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骨粗鬆症治療薬の止め方 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
骨粗鬆症治療薬の止め方.jpg
Journal of Internal Medicine誌に、
2021年9月28日ウェブ掲載された、
骨粗鬆症治療薬の中止に関する解説記事です。

慢性の病気に使用する薬というのは、
始め方と同じくらい止め方が重要です。

どんな薬でも、
確実に一生飲み続けた方が良い、
ということは基本的にはないからです。

ただ、臨床研究の多くは薬を使用した際の有効性や副作用に、
その力点を置いているので、
薬をどのようなタイミングでどのように止めることが、
最も科学的に正しい選択であるのか、
というような点については、
信頼のおけるデータが少なく、
ガイドラインなどでも言及されることが少ないのが実際です。

そのため2015年に薬の止め方に力点を置いた、
「薬の始め方・止め方」という本を書きました。

ただ、その本の中で言及していないのが骨粗鬆症治療薬です。

骨粗鬆症には長く有効な治療が存在しませんでしたが、
それが大きく変わったのは、
骨の表面をコーティングして骨吸収を強く阻害する、
ビスフォスフォネート製剤の飲み薬の開発で、
この薬の使用により、
骨塩量が増加し骨折リスクが明確に低下することが確認されたからです。

ただ、この薬の継続的な使用は、
抜歯の時に起こることのある顎骨壊死と、
大腿骨の幹の部分の非定型骨折のリスクを、
軽度ながら高めるような作用があります。

そのためビスフォスフォネートの長期使用時は、
一時的な休薬期間を設けることが、
そのリスクの軽減に繋がると考えられています。

その後ビスフォスフォネートに匹敵するか、
場合によりそれを凌駕する働きを持つ薬剤が、
複数開発されて一般にも使用が施行されています。

それが、抗RANKL抗体のデノスマブ(商品名プラリア)と、
副甲状腺ホルモン誘導体のテリパラチド(商品名テリボン)です。

このうちテリパラチドについては、
骨系腫瘍のリスクを長期使用により増加させる可能性が指摘され、
その使用は2年に制限されています。
つまり、中止の基準についてはかなり明確な薬剤です。

一方でデノスマブについては、
破骨細胞の形成を阻害する作用を持ち、
骨吸収をビスフォスフォネートより強力に抑制しますが、
その使用終了の明確な基準はなく、
そのメカニズムから破骨細胞の分裂した細胞が、
使用により蓄積し、
それが薬剤投与の中断により、
破骨細胞の急激な増加に繋がる可能性が指摘されています。

それでは、ビスフォスフォネートとデノスマブを、
骨粗鬆症の骨折予防のために1年を超えて継続使用した時、
薬はいつどのタイミングで、
どのように止めることが適切なのでしょうか?

2006年のJAMA誌に掲載されたFLEXという臨床試験の結果によると、
ビスフォスフォネート製剤であるアレンドロネートを、
5年間使用してから中止しても、
非椎体骨折の予防効果は維持されていました。
しかし、5年の使用でも骨量が低値のままであると、
中止により骨折リスクの増加が認められました。
ゾレンドロネートという別のビスフォスフォネートを使用した臨床データでは、
3年間使用継続後に中止すると、
椎体骨折のリスク増加が認められましたが、
6年使用継続後に中止すると、
骨折リスクの増加は認められませんでした。

これらの結果からは、
ビスフォスフォネートは少なくとも5年以上継続し、
その時点で骨量が一定レベルに保たれていれば、
中止して様子をみることは選択肢として無理がない、
ということを示しています。

一方でデノスマブについては、
その使用を中止すると、
その7から9か月後より骨吸収は上昇し、
1年後には使用開始前より50%を超えて増加する、
と報告されています。
このリバウンド的な骨吸収の増加により、
中止後18か月で治療による骨量の増加は、
元に戻ってしまうのです。

2021年のthe Journal of Internal Medicine誌に掲載された、
台湾の臨床データの解析によると、
デノスマブを1年以上使用していて使用を中止すると、
そのまま継続していた場合と比較して、
その後椎体骨折のリスクは2.18倍(95%CI:1.46から3.24)
有意に増加しており、
これが2年以上継続してからの使用中止になると、
椎体骨折のリスクは3.58倍(95%CI:1.74から7.40)と、
より高い増加を示していました。
大腿骨頸部骨折などの非椎体骨折に関しては、
有意な増加は認められませんでしたが、
2年以上使用後の中止では増加する傾向は示していました。

一方でビスフォスフォネートの同様の検討では、
1年以上の使用後の中止では有意な骨折の増加は認められず、
2年以上の使用後の中止においては、
椎体骨折のみ2.02倍(95%CI:1.07から3.08)と、
有意な増加が認められました。

つまり、デノスマブはその中断により、
1年以内に骨折のリスクがリバウンド的に増加する可能性が高く、
使用の中断には慎重な判断が必要な薬剤です。
ビスフォスフォネートも中断により骨折リスクは増加しますが、
中断後も一定の骨折予防効果がかなり長い間維持され、
その後の骨折リスクの増加もゆるやかです。

従って、この特徴をよく理解した上で、
どの薬剤を骨粗鬆症予防に使用するべきか、
将来を見据えた上で選択を行う必要があるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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糖尿病性神経障害に対する併用療法の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病性神経障害の併用療法.jpg
Lancet誌に2022年8月27日掲載された、
糖尿病性神経障害に対する、
複数の薬剤の併用療法の効果についての論文です。

糖尿病性末梢神経障害は、
糖尿病の代表的な小血管の合併症の1つで、
糖尿病の患者さんの半数はその人生において発症し、
その約半数が神経障害性疼痛と呼ばれる痛みを伴います。
この痛みは不眠や抑うつ気分などの原因にもなり、
生活の質を落とす結果になることも多いのです。

この糖尿病性末梢神経障害による疼痛の治療において、
現状主だった国際的なガイドラインで第一選択として推奨されているのは、
プレガバリン(商品名リリカなど)、ガバペンチンの、
疼痛改善効果のある抗けいれん剤の誘導体と、
アミトリプチリン(商品名トリプタノールなど)、
デュロキセチン(商品名サインバルタなど)などの、
慢性疼痛に有効な抗うつ剤です。

通常そのいずれかを単剤で使用して治療を行いますが、
それで充分な有効性が得られない時には、
抗けいれん剤の誘導体と抗うつ剤を併用することが、
しばしば行われています。
しかし、実際にどの組み合わせがより有効性が高いのか、
というような点については、
あまり精度の高い検証が行われていないのが実際です。

そこで今回の研究では、
イギリスの複数施設において、
一定レベル以上の重症度の糖尿病性末梢神経障害の患者、
トータル140名をくじ引きで6つの群に分けると、
患者さんにも主治医にも分からないように、
プレガバリン、アミトリプチリン、デュロキセチンの3剤の単独治療と、
アミトリプチリンの治療を行ってからプレガバリンを上乗せした場合、
プレガバリンの治療を行ってからアミトリプチリンを上乗せした場合、
デュロキセチンの治療を行ってからプレガバリンを上乗せした場合の、
6種類の治療を施行してその比較を行っています。
治療は16週の時点で評価されています。

その結果、
3剤の単独治療と比較して、
いずれの併用治療も症状改善において有効性が認められましたが、
3種類の併用療法間の比較では、
どの組み合わせも明確な有効性の差は認められませんでした。

従って、
現状は3剤のうちいずれを使用しても大きな差はなく、
その1剤で充分な効果が得られない場合は、
メカニズムの異なるもう1剤を、
併用して経過をみることが妥当であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病と膵臓癌発症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2型糖尿病と膵臓癌リスク.jpg
the Lancet Regional Health- Western Pcific誌に、
2022年9月16日ウェブ掲載された、
2型糖尿病の発症年齢や罹病期間と、
膵臓癌の発症リスクとの関連についての論文です。

2型糖尿病の患者さんでは、
糖尿病のない一般人口と比較して、
膵臓癌の発症リスクが高いことが知られています。

ただ、糖尿病の発症年齢や罹病期間、
血糖コントロールの状態などと、
膵臓癌リスクとの間に、
どのような関連があるのかについては、
あまり明確なことが分かっていません。

今回の研究は中国上海において、
新たに診断された2型糖尿病の患者さん、
トータル428362名を登録して8年の経過観察を施行。
遺伝子変異の解析から推計された東アジア地域の、
平均的な膵臓癌の罹患率との比較検証を行っています。

その結果、
平均で4.5年の観察期間中に1056件の膵臓癌が診断され、
その年間10万人当たりの罹患率は、
55.28件と計算されました。
これは遺伝子変異から推測されるこの地域の平均的な罹患率より、
1.54倍(95%CI:1.45から1.64)有意に高いものになっていました。

膵臓癌の罹患率は年齢に伴い増加し、
特に2型糖尿病のある高齢者で高くなっていました。
膵臓癌の発症リスクは、
2型糖尿病の発症年齢が低いほど高く、
年齢が20から54歳においては、
平均的な罹患率の5.73倍(95%CI:4.49から7.22)有意に増加していました。

膵臓癌の発症リスクは、
2型糖尿病の罹病期間が長いほど増加し、
空腹時血糖が180mg/dL以上で明確な増加を示していました。

このように今回の中国での解析においては、
2型糖尿病の患者さんでは膵臓癌のリスクは高く、
それは糖尿病の発症が若いほど、
罹病期間が長いほど、
そして血糖値がより高いほど高くなっていました。

今後こうしたリスクの高い患者さんに対して、
どのような介入がその予後の改善に重要なのか、
定期的な検査を行って早期発見を目指すのか、
血糖コントロールの改善を行うことにより、
膵臓癌のリスク自体が抑制される可能性があるのか、
そうした点についての更なる検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ブレット・トレイン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ブレット・トレイン.jpg
伊坂幸太郎さんの小説を原作に、
異世界のような日本を舞台にしたハリウッド映画が作られました。
主役はブラッド・ピットで、
ラストにサンドラ・ブロックが華を添え、
真田広之さんも見事な立ち回りを繰り広げます。

これはもうもろにタランティーノ、
という感じの映画なんですね。
どう考えてもインチキな日本を舞台に、
エンタメ列車のような極彩色の新幹線で、
個性豊かな殺し屋同士のバトルロワイアルが展開されます。

非常に軽快に物語は展開されますし、
個性豊かな殺し屋の面々の、
その生い立ちがドラマとしてババッと展開されるのも楽しく、
入り組んだ人間関係と物語が、
パズルのように組み合わされ、
絵解きされるのも爽快感があります。

ただ、タランティーノに特徴的な、
時間軸が錯綜するような妙味や、
ラストに残るある種のやるせなさのようなものは、
この作品には全くなく、
ラストはあっさりとしたハッピーエンドに帰着しますし、
キャラの変態度や偏執狂的な情熱も希薄です。

前半はとてもワクワクしながら観ていたのですが、
物語的にはそれほどの捻りはなく、
ラストも予定調和的に集束するので、
ちょっと拍子抜けという感じはありました。

キャストはいずれも非常に魅力的で、
アクションにも迫力があり、
適度な過激さも利いています。
何より懐メロ主体の音効や、
多くのサブカル的なガジェットが楽しく、
何度観ても楽しめる、
カルト的な魅力のある1作に仕上がっています。

こうした遊びに満ちた娯楽アクションのお好きな方なら、
文句なくお勧め出来る快作で、
頭を空にして楽しむのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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