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横溝正史「獄門島」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
獄門島.jpg
横溝正史の代表作「獄門島」です。

日本の本格ミステリー史上に残る名作ですが、
作品のポイントとなる部分に、
放送などには適さないとされる表現がある関係で、
これまで何度も映画やドラマ化はされながら、
オリジナルに忠実に映像化されたことが殆どない、
という曰く付きの作品でもあります。

この作品との出会いは小学校の低学年の頃で、
何年生くらいだったのかしら、
ちょっと覚えていないのですが、
それほど上の学年ではなかったことは確かです。
母親に夜色々な小説の読み聞かせをしてもらったのですが、
そのラインナップがかなりマニアックで、
最初は子供向けの読み物から始まって、
そのうちに横溝正史のミステリーや、
「西遊記」の原典からの完訳全巻などになりました。
勿論全部オリジナルで子供向けのリライトではありません。

横溝正史の長編ミステリーなら1週間くらい、
「西遊記」は多分1か月以上かかったと思います。

横溝正史ものはその時に、
「獄門島」、「八つ墓村」、「女王蜂」、「犬神家の一族」を、
読み聞かせてもらいました。

子供の頃にそれも耳から読んでいるので、
とてもとても強い印象がありましたし、
今でもこの4つの作品については、
そのイメージをありありと思い描くことが出来ます。

矢張り当時は「八つ墓村」が印象強烈でした。
ただ、今思うとあれは江戸川乱歩の、
「孤島の鬼」辺りの影響が強いですよね。
もともと横溝正史は編集者で、
乱歩に影響されて作品を書き始めて、
戦前のものは乱歩のパクリみたいなものが多かったんですよね、
それが戦後になって名探偵金田一耕助を登場させると、
その作風はカーをお手本にした、
本格ミステリーに変化したのです。
ただ、戦後の作品にも乱歩趣味のものがあり、
「八つ墓村」はその代表と言って良いのだと思います。

「獄門島」はそれに比べると印象は薄かったのですが、
他の作品にはない風格というか、
唯一無二という感じがあって、
子供心にもワクワクしました。

カーの幾つかの作品をお手本にしているのですが、
その変え方というか、アレンジの仕方も絶妙ですし、
犯人の造形も非常に印象的に描かれています。

綾辻行人さん以降の新本格のミステリーの系譜も、
矢張りこの作品なしでは生まれえなかった、
と言っていいような感じがありますね。

ミステリーとしての完成度についてはどうなのかな、
何度も読み返しているんですが、
最初の殺人は素晴らしいですよね。
2番目の殺人もとても魅力的なのですが、
少し意味不明という感じもあります。
トリックはとてもとても素敵なのですが、
そんなことしてもなあ、
という感じがあるのですね。
3番目の殺人は明らかに弱いですね。
また、殺人の動機がね、
とても有名なミステリーを下敷きにしている、
というのは分かるのです。
ただ、矢張りすっきりはしていないですね。
色々と補足や言い訳がついてしまっているので、
素直に腑に落ちない、という感じがあるのです。

その意味でミステリーの骨格としては、
「本陣殺人事件」の方が上とは思います。
今読むとラストが読めてしまう、というところはあるのですが、
動機も含めてとても完成度は高いですよね。
ただ、ちょっと短いですし、
乱歩タッチが抜けていないような仰々しさがあるので、
作品の風格と言う面では、
「獄門島」の方がはるかに上です。

そんな傑作ミステリーですが、
映像化ではあまり良い結果になっていません。

原作刊行から間もない1949年に、
松田定次監督により映画化されていますが、
これは片岡千恵蔵の多羅尾坂内シリーズの系譜にあるもので、
原作の設定は借りながら、犯人などは全く別になっている怪奇スリラーです。
このシリーズは横溝作品をかたっぱしから映画化しているのですが、
そのほぼ全てで犯人は原作と違っています。
これはまあ、1つの見識で、
ミステリーファンとしてはむしろ好ましく感じます。

その後角川書店が仕掛けた、
横溝作品リバイバルというのが1970代にあって、
角川映画の「犬神家の一族」が大ヒットしたので、
同じ市川崑監督が1977年に映画化しました。

「犬神家の一族」は僕も大好きですが、
横溝ミステリーがほぼ原作通りに映画化された、
史上初めてのケースと言って良い画期的映画でした。
ただ、一番良いところで佐清の仮面が透けて見えるところがあるでしょ。
あれはかなり痛恨のミスカットですね。
誰か気が付かなかったのかしら。

それで1977年の映画「獄門島」はとても期待して、
封切りに渋谷の映画館で観たのですが、
おやおや、という感じで正直ガッカリしました。

これね、犯人を変えているんですよね。
それは予告でもそう謳っていましたし、
松田定次方式と考えれば良いと思うのですが、
実際にはほとんど同じストーリーであるのに、
その一部だけを強引に変えて、
「犯人を変えた」と言っているんですね。
これじゃただ原作を詰まらなくしただけでしょ。
駄目だこりゃ、という感じでした。

これね、3つの殺人に3つのトリック、
というのがいいんですよ。
それを崩しちゃ駄目なのに、
映像化すると絶対変えちゃうんですよね。
確かに原作も3つ目のトリックが弱いので、
気持ちは分かるのですが、
でも変えちゃ駄目なんだよ。

ただ、原作そのままの部分は、
なかなかいいんですよね。
大原麗子さんも抜群にいいし。
原作の戦後の無常観のようなものも、
良く出ていたと思います。
それでこの映画は結構何度も観ています。
テレビでちょうどいいという感じ。
ただ、原作を変えた部分はまどろっこしくて、
イライラしてしまいます。

同年に古谷一行が主役のテレビシリーズで、
「獄門島」が放映されましたが、
これは原作の設定が大きく変わっていて、
放映に適さないとされる用語や設定が、
バッサリなくなっていました。
これなら、やらない方がましじゃん。
とても残念です。

その後何度かテレビドラマになりましたが、
例によって設定はガタガタに変えられていたので、
遺族の方もこれなら映像化にOKを出さない方がいいのに、
と無念の思いがありました。
2016年にBSで制作されたものは、
かなり原作に近く、用語もそのままであったようですが、
これは観ていません。

「獄門島」は今読んでも、
新鮮な驚きと戦後の喪失感のようなものを感じられる、
日本屈指の名作ミステリーだと思いますが、
テレビの情報などがあると、
予備知識があって楽しめない方が多いと思うので、
その点は非常に残念です。
ウィキペディアにも、
ネタバレとかの記載なく、
ストーリーが最後まで書かれていますし、
今の情報過多は本当に嫌になります。

私見ですが、
戦中戦後くらいの設定のドラマは、
もう絶対にその時の感触では再現できないので、
しばらく作るのは止めてもらった方が良いように思います。
これがもう100年くらいすれば、
ファンタジーとして成立するので良いのですが、
今は作るだけ嘘の上塗りになるだけなので、
昔の作品を見る機会を増やして頂いた方が、
よほど建設的であるように思います。

今日はすいません。
そんな感じでつれづれなるままに雑感でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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