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2022年に観た映画を振り返る [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は大晦日でクリニックは休診です。

今日は今年観た映画を振り返ります。
昨年映画館で観た映画がこちらです。

1.ラストナイト・イン・ソーホー
2.クライマッチョ
3.スパイダーマン・ノー・ウェイ・ホーム
4.ハウス・オブ・グッチ
5.コンフィデンスマンJP 英雄編
6.ノイズ
7.ザ・バットマン
8. モービアス
9. ナイトメア・アリー
10.コーダ 愛のうた
11.ファンタスティックビーストとランブルドアの秘密
12.シン・ウルトラマン
13.死刑にいたる病
14.マルチバース・オブ・マッドネス
15. 流浪の月
16.犬王
17.FLEE
18. PLAN75
19.トップガン マーヴェリック
20.ベイビー・ブローカー
21.神は見返りを求める
22.ノープ
23.ジュラシックワールド 新たなる支配者
24.ブレッド・トレイン
25.この子は邪悪
26.異動辞令は音楽隊!
27.ヘルドックズ
28.沈黙のパレード
29.キングダム2
30. 千夜一夜
31.アムステルダム
32.すずめの戸締まり
33.ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー
34.ある男
35.月の満ち欠け
36.ザリガニの鳴くところ
37.ブラックアダム
38.MEN 同じ顔の男たち
39.アバター ウェイ・オブ・ウォーター
40.余命10年

以上の40本です。
今までになくせわしない1年で、
かなり映画館に行く機会は減りました。
洋画は矢張り配信が多く、
映画館のみで公開される新作というもの自体が、
少なくなっているのが実際です。
実際20本以上は観たいと思う映画を見逃していました。

良かった5本を洋画と邦画とに分けて、
エントリーしてみます。
2022年に公開された新作に限っています。

それではまず洋画編です。

①コーダあいのうた
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-05-07-1
今年素直に良い映画だった、と思えた1本です。
聴覚障碍者をメインに据えたドラマは、
日本でも今年流行したという感がありますが、
聴覚障碍者同士が結婚した家族の中で、
唯一聴覚障碍を持たない少女を主人公として、
複雑な家族の機微を描いたという点が斬新で、
あざとい泣かせとは別物の、
純粋で自然な感動に満ちた作品です。
こういう良い映画が、目立って少なくなっているのが、
残念ながら今の傾向であるように思います。

②トップガン マーヴェリック
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-07-10
2022年を代表するヒット作であることは間違いがありません。
ベテランパイロットが新人を鍛える物語と思いの外、
「ならず者国家」にかつてのヒーローが、
新人を助けて殴り込みを掛けるというお話で、
かつてのシンプルな善悪二分法のアメリカ映画の世界を、
極めて精緻なリサーチを元に、
力業で再現したノスタルジックな力作です。

③ノープ
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-08-27
鬼才ジョーダン・ピール監督の待望の新作は、
モンスター・パニック映画であると同時に、
動物を飼うという行為の裏にある、
人間ならではの屈折した病的な心理を抉り出した、
ピールらしい変態的な映画で、
ややメジャーな映画を志向している点が、
個人的には少し残念ではありましたが、
今年一番興奮した1本で、
唯一アイマックスを含めて2回鑑賞した映画でした。

④アバター ウェイ・オブ・ウォーター
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-12-30
「アバター」の13年ぶりの続編は、
ジェームズ・キャメロンの執念を感じさせる力作で、
後半には「タイタニック」を丸ごと取り込んで、
その映像の作り込みの見事さは、
間違いなく今年一番の奇観でした。

⑤スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-01-16-1
今年のアメコミ映画の一番のヒット作で、
これまでに別個に登場した3人のスパイダーマンが総登場して、
時空を超えて集結したこれまでの全ての悪役を改心させようとするという、
メタバースを逆手に取って、
全てのサブストーリーを力業で1つにまとめた快作で、
アメコミ娯楽映画の1つの頂点と言って良い作品でした。

それでは次は日本映画のベスト5です。
今年は作品が多かった割には、
クオリティは今一つという印象でした。
ただ、見逃している作品も多いので何とも言えません。

①PLAN75
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-06-18
75歳以上で安楽死を選べる世界を描いた、
新鋭監督の冷徹な肌触りの傑作で、
倍賞千恵子さんの名演を含め、
今年一番の完成度と戦慄に満ちた作品でした。

②余命10年
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-03-26
難病もので悲恋ものという手垢に塗れた素材を、
藤井道人監督が息を呑むような美しい映像と、
清廉で格調の高い演出で、
完成度の高い力作に仕上げていました。
主演の2人の演技がまた絶妙でした。

③ある男
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-11-20
僕の大好きな石川慶監督の新作で、
今年一番期待して映画館に足を運びました。
さすが石川監督というところは随所にあり、
映像の完成度もさすがと感じましたが、
内容的には今一つ食い足りない部分はありました。
次に期待したいと思います。

④異動辞令は音楽隊!
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-09-17-1
これも大好きな内田英治監督の新作で、
今回はかなりベタな感動系の日本映画と刑事ドラマとを融合して、
前作ほどの個性はありませんが、
非常に完成度の高い、
胸のすく日本映画に仕上げていました。
完成度で言えば今年一番です。

⑤神は見返りを求める
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2022-06-25
これもまた大好きな吉田恵嗣監督の新作で、
こちらはかなりの問題作。
ユーチューバーに支配されたディストピアとしての日本を描いた、
如何にも吉田監督らしい現代と格闘した壮絶な作品で、
ムロツヨシさんと岸井ゆきのさんという、
希代の曲者役者の競演が一番の魅力です。
ただ、前作の「空白」が圧倒的傑作であったので、
それに比べると構成はやや散漫で、
ラストも少し投げ出し感を感じました。

来年はもう少し沢山の映画を観たいと思いますし、
また良い作品に出逢えればと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い大晦日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「アバター ウェイ・オブ・ウォーター 」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは年末の休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アバター2.jpg
2009年に公開されて3Dブームの火付け役ともなった、
大ヒット作「アバター」の続編が、
13年ぶりに映画館に戻って来ました。

これはなかなか良かったですよ。

アイマックスの3Dで観たのですが、
決して仰々しい感じの3Dではないんですね。
むしろ臨場感を増すための3Dという感じで、
海から浮かび上がるところなど、
水面がこちらまで広がっているような体感なんですね。
画面も明るくて観やすいですし、
ポイントとなる場面で効果的に3D効果を使用しているのが、
とても好印象です。

物語は本当に正攻法で、
ただ、主人公達は青い異星人で、
敵の悪役が地球の人間という趣向なんですね。
色々含みはある倒錯的な設定ですが、
ここまで徹底すると清々しい感じがあります。

本当に潤沢にお金と手間と時間を掛けているなあ、
と思います。
異世界の作り込みも本当に凄くて、
画面の隅々まで情報量も凄まじいですよね。
これを観てしまうと、
最近のスターウォーズもマーベルも、
結構手を抜いているという気がします。

ただ、その作り込みの凄まじさのために、
上映時間はあまりに長いですよね。
正直内容的には2時間くらいの尺でも充分語れるものなのに、
情景描写のために1時間くらいは消費しているという映画でした。
海の描写の辺りはさすがにやり過ぎですが、
それでも画面の密度が凄まじいので、
個人的には退屈はしませんでした。
そしてクライマックスは宮崎駿タッチの活劇が、
超弩級のスケールで展開され、
異星版タイタニックという感じのおまけまで付いています。

ジェームズ・キャメロンにしてなし得た、
現時点の映画表現の技術的頂点を示すと言って良い大作で、
その内容や思想は好みの分かれるところはありますが、
その3D映像の臨場感だけでも、
映画館で体験する価値はあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「MEN 同じ顔の男たち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは年末年始の休診に入ります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
同じ顔の男たち.jpg
イギリスのアレックス・ガーランド監督による、
オリジナルのサスペンス・ホラー映画で、
如何にもイギリスという、
かなりひねくれた尋常ならざる世界が展開されます。

女性を暴力的に蹂躙する男性たちが、
そっくりホラー映画の「モンスター」である、
という趣向になっていて、
基本的には変態的でグロテスクなサイコ・ホラーなのですが、
今の社会的風潮を巧みに設定に盛り込んで、
男性の支配からの抵抗と解放の物語、
というように見えなくもない、
という作品に落とし込んでいるところが、
如何にも今の映画、という感じがします。

ただ、おそらくですが、
作り手としては別にテーマ性はどうでも良くて、
トラウマを受けた傷心の女性が、
1人で田舎町を訪れて奇怪な体験をする、
という古典的なホラー映画のプロットを利用して、
前半は不気味なムードのみを醸成して何も起こらない、
というジャパニーズホラー的な雰囲気ホラーをやり、
後半は一転して怪物たちが次々と襲い掛かるという、
派手なモンスター映画の趣向を、
ロリー・キニアという希代の怪優を使って、
まずはかつてのユニバーサル・ホラーのボリス・カーロフのように、
役者のメイクや演技のみで怪物性を見せ、それから一転して、
リック・ベイカーやスクリーミングマッドジョージ的な、
作り物のSFXを繰り出すという2段構えでやりたかった、
ということなのではないかと思います。

クライマックスは悪趣味の極致ですが、
最近はこうしたビジュアル重視のホラーは、
あまりありませんでしたから、
その出来栄えの良さも含めて感心しました。
申し訳ありません。
こうしたものが嫌いではないのです。
多分この悪趣味をギリギリ成立させるために、
男性優越主義を怪物に見立てる、
というテーマ性が必要であったのだと思います。

主人公を演じたジェシー・バックリーという俳優さんが、
なかなかいいですよね。
この役は弱弱しいと作品から外れてしまうのですが、
かと言って、強気で力強い感じだと、
最初からそうした物語として観客に見られてしまうので、
それはそれでまずいのです。
その微妙な匙加減を、
バックリーさんは良く心得ていて、
説得力のある演技で最初の傷ついた繊細な感じから、
その所々に強い意志を見せ、
それが後半のある種の開き直り以降に、
説得力を与えているのです。

そして勿論、
複数の怪物を1人で演じたロリー・キニアの怪演は素晴らしく、
これは趣向としては、
間違いなくロン・チャニィやボリス・カーロフ、
ベラ・ルゴシ、ヴィンセント・プライスといった、
かつての怪奇映画役者へのトリビュートなんですね。
批評で「何故中途半端に全員を1人で演じるのか分からない」
というような意見がありましたが、
それはね、そうじゃないのです。
理屈じゃなくて、そのこと自体がやりたかったんですよ。
怪奇映画役者の百面相という、
かつての怪奇映画のモチーフを再現したかったのです。

そんな訳で、色々と含みはある作品ですが、
基本的にはかつての怪奇映画の古典的プロットを、
歴史的な様々な趣向で映像化した、
「ホラー映画早分かり百科事典」的作品で、
その意味ではとても楽しく鑑賞することが出来たのです。

ただ、相当悪趣味なので、
向かない方も多いことをお断りしておきます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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スタチンと脳内出血リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後はワクチン接種や事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スタチンと脳出血リスク.jpg
Neurology誌に2022年12月7日掲載された、
脳内出血の発症リスクとスタチンとの関連についての論文です。

スタチンはコレステロールの合成酵素の阻害剤で、
高コレステロール血症の治療薬として広く使用されていますが、
コレステロールを低下させる以外に、
抗炎症作用や動脈硬化の進行予防など、
心血管疾患のリスクを低減する多くの作用を持ち、
心血管疾患の予防薬としてもその有効性が確立しています。

ただ、脳卒中のうち脳梗塞については、
スタチンの使用は脳梗塞のリスクを低下させることが、
ほぼ一致して報告されていますが、
脳内出血については、
特に脳梗塞の既往のある場合の脳内出血のリスクを、
スタチンが増加させるというデータが存在しています。

今回の研究はデンマークにおいて、
脳内出血を脳葉型出血とそれ以外の出血に分けて、
それぞれの新規発症リスクとスタチンの使用との関連を比較検証しています。
対象は脳葉型出血を来した989名と、
それ以外の部位の脳内出血を来した1175名で、
それをマッチングさせたコントロールと比較しています。
脳葉型出血は脳の表面に近い部位に起こる出血で、
それ以外の出血は、
脳の深部の基底核や小脳、脳幹などに起こるものです。

その結果、
スタチンの使用は脳葉型出血のリスクを、
17%(95%CI:0.70から0.98)、
それ以外の基底核などの出血のリスクを、
16%(95%CI: 0.72から0.98)、
それぞれ有意に低下させていました。

このスタチン使用による新規脳出血の発症リスクの低下は、
スタチンの使用継続期間が長いほどより大きくなっていて、
5年以上継続した場合には、
脳葉型出血のリスクを33%(95%CI:0.51から0.89)、
それ以外の出血のリスクを38%(95%CI:0.48から0.80)、
それぞれ有意に低下させていました。

このように今回の検証においては、
スタチンの使用は脳内出血のリスクを低下させていて、
脳梗塞後の出血のリスクにおいては、
まだ未解決の部分を残していますが、
少なくとも新規の脳出血のリスクについては、
スタチンの使用はその抑制に一定の効果があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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低糖質ダイエットの2型糖尿病への有効性(デンマークの臨床試験) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
低糖質ダイエットの糖尿病への有効性.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2022年12月13日ウェブ掲載された、
低糖質ダイエットの2型糖尿病の患者さんへの有効性を検証した論文です。

僕が大学から研修医の頃に学んだ常識としては、
糖尿病食はカロリーの50から60%は糖質にする、
というのが教科書的な記載でした。
総カロリーを調整する時も、
主に糖質の量で調整を行うのです。

それがカロリーを変えずに糖質のみを制限する、
所謂糖質制限ダイエットの登場によって、
栄養指導のトレンドは大きく変わりました。

ただ、糖尿病のコントロールにおいて、
通常の糖質比率と比較して、
低糖質ダイエットにどのような有効性があるのかについては、
それほど精度の高いデータがあるという訳ではありません。

今回の研究はデンマークにおいて、
165名の2型糖尿病患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は糖質を総カロリーの20%未満に制限して、50から60%を脂質にする、
というかなり厳しい低糖質ダイエットを指導し、
もう一方は糖質は総カロリーの50から60%にして、
脂質を20から30%に制限するという低脂質ダイエットを指導して、
半年間その方針を継続しています。
両群とも特にカロリーの制限は指示されていませんが。
実際の患者さんの摂取カロリーは、
概ね1600から1800キロカロリーとなっていて、
それなりにカロリーは自己的に制限されていることを示しています。

その結果、6か月の介入により、
高糖質低脂質ダイエットと比較して、
低糖質高脂質ダイエットにより、
HbA1cは-0.59%(95%CI: -0.87から-0.30)低下し、
体重は-3.8キロ(95%CI: -6.2から-1.4)低下していました。
そして、介入終了後3か月での検証では、
両者のダイエット群に有意な差はありませんでした。

このように2型糖尿病の血糖コントロールや体重管理において、
従来の食事療法よりも低糖質ダイエットが優れていることが、
比較的長期の臨床試験で確認された意義は大きく、
今後のより大規模でより長期の検証にも期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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5α還元酵素阻害剤の認知症、うつ病リスク増加について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
5α還元酵素阻害剤と認知症、うつ病リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年12月22日ウェブ掲載された、
前立腺肥大や脱毛症に使用されている一般的な薬で、
認知症やうつ病のリスクが増加するのでは、
というちょっとショッキングな報告です。

フィナステリド(商品名プロペシアなど)と、
デュタステリド(商品名アボルブ、ザガーロなど)は、
男性ホルモンのテストステロンを、
活性型のジヒドロテストステロンに代謝する、
5α還元酵素を阻害する作用を持つ薬剤で、
前立腺や毛嚢などの局所の男性ホルモン活性を抑制することにより、
前立腺肥大症や男性型脱毛の治療薬として、
広く使用されている薬です。

こうした薬の有効性と安全性は、
基本的には確立されていると考えらえていますが、
最近その関連が危惧されている有害事象が、
認知機能の低下や抑うつ状態などの精神系の症状です。

フィナステリドやデュタステリドを使用継続することにより、
認知症のリスクやうつ病のリスクが増加する、
という疫学データが報告されています。
ただ、一方でそうしたリスク増加はないとする報告もあり、
この問題はまだ解決が付いているとは言えません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
50から90歳(平均55歳)の2236786名を登録し、
フィナステリドやデュタステリドの使用と、
その後の認知症やうつ病のリスクとの関連を比較検証しています。

観察期間中に70645名がフィナステリドを使用し、
8774名がデュタステリドを使用開始しています。
開始時の平均年齢は73歳です。

観察期間中のトータルの認知症リスクは、
フィナステリドの使用により22%(95%CI:1.17から1.28)、
デュタステリドの使用により10%(95%CI:1.01から1.20)と、
いずれも有意に増加していました。
個別の解析においても、
アルツハイマー病のリスクは、
フィナステリドの使用により20%(95%CI:1.10から1.31)、
デュタステリドの使用により28%(95%CI:1.09から1.50)、
血管型認知症のリスクは、
フィナステリドの使用により44%(95%CI:1.30から1.58)、
デュタステリドの使用により31%(95%CI:1.08から1.59)と、
いずれも有意に増加していました。

またうつ病のリスクについては、
フィナステリドの使用により61%(95%CI:1.30から1.58)、
デュタステリドの使用により31%(95%CI:1.08から1.59)と、
いずれも有意に増加していました。

この認知症のリスクの増加は、
投与期間が長くなるほど減少し、
4年以上の使用継続者のみの解析では、
有意な増加は認められなくなりました。
一方でうつ病のリスク増加については、
長期の使用者でも認められました。

自殺のリスクについては、
以前には関連があるとするデータもありましたが、
今回の検証では薬剤の使用者で、
有意な増加は認められませんでした。

このように5α還元酵素阻害剤の高齢での使用は、
認知症やうつ病のリスク増加に繋がる可能性があります。
長期の使用によりリスクが減少する理由は明らかではありませんが、
潜在的に軽度の認知機能低下を持つ高齢者において、
使用することによりその症状が顕在化すると考えると、
筋が通るという気もします。
つまり使用により徐々に認知症になる、ということではなく、
その使用が認知症発症の後押しになるのでは、
という仮説です。

こうした薬剤が精神症状に結び付くメカニズムも、
現状では明らかになっていませんが、
脳に移行した薬剤が、
脳内のステロイド系のホルモン合成を阻害する、
という可能性を指摘する専門家もいるようです。

いずれにしても、
高齢者における5α還元酵素阻害剤の使用継続時には、
その後の認知機能低下やうつ症状に留意し、
そうした症状が認められた場合には、
その使用を中止や他剤への変更を考慮するなど、
適切な対応を取る必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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松尾スズキ「ツダマンの世界」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ツダマンの世界.jpg
松尾スズキさんの久しぶりの新作が、
渋谷のシアターコクーンで上演されました。

今回は昭和初期から戦後すぐくらいを舞台に、
ツダマンと称された作家と、
太宰治をモデルにしたその弟子との葛藤を軸にして、
フェミニズムの時代から俯瞰して男女の性の問題を、
松尾さんなりに咀嚼してロマネスク的な舞台に仕上げた作品です。

タイトルロールを阿部サダヲさんが演じていて、
弟子の作家を間宮祥太朗さんが演じていますが、
どちらかと言えば吉田羊さん、江口のり子さん、笠松はるさんといった、
女性陣の生きざまに力点が置かれた作品です。
ラストはちょっと根本宗子さんばりに、
女性陣が自分の主張を客席に向かって歌い上げる、
というような趣向になっています。

阿部サダヲさんはどちらかと言えば引いた芝居に終始し、
皆川猿時さんと村杉蝉之介さんが、
かつての松尾作品の狂気を孕んだ役柄を演じますが、
以前と比べればかなり大人しい雰囲気で、
役者の狂気が梃子となって、
作品世界が予想もしなかった方向に転がり出すような、
昔の大暴れを期待すると、
やや肩透かしの気分にもなります。

僕はかつての「愛の罰」や「嘘は罪」で松尾戯曲の虜になり、
多くの地獄巡りを共に旅したという実感があるので、
勿論かつてのそうしたお芝居が、
今の社会状況やモラル意識、
フィクションで許容される表現のようなものに、
抵触する部分のあることは理解していますが、
それに匹敵する別種の魅力が今回の新作にあるかと言うと、
あまりなかったように感じました。

おそらく明治から昭和の文豪の世界というものも、
今後は今の倫理観から俯瞰されて糾弾され、
その作品の価値も否定される流れになるのだと思いますが、
松尾さんにはもっと自由度のある世界で、
心ゆくまでその妄想の翼を広げて欲しいな、
というようには感じました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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三谷幸喜「ショウ・マスト・ゴー・オン」(2022年上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ショウ・マスト・ゴー・オン.jpg
三谷幸喜さんが東京サンシャインボーイズ時代に上演し、
再演もされた劇団時代の代表作の1つ「ショウ・マスト・ゴー・オン」が、
内容はほぼそのままながら、
主人公の舞台監督を男性から女性にするなど、
かなり設定に手を入れた改訂版として、
今上演されています。

これまでに4人のキャストが一時的に欠場し、
その都度三谷さん自身がその役を演じる、
という商業演劇ではほぼあり得ないような試みが、
注目されていますが、
僕は運が良かったのか悪かったのか、
全キャストが揃った公演を鑑賞しました。

この作品はある劇団の公演が、
幾つもの危機に見舞われる中、
何とかそれを乗り越えて、
ある日の舞台を終えるまでを描いた、
三谷さんのシチュエーションコメディを、
代表する作品の1つです。
僕は1994年に紀伊国屋ホールで上演された再演版を観ていますが、
劇団がこうした中劇場に進出し始めた頃でした。
前年にシアタートップスで「ラジオの時間」を観ていて、
それが僕にとっては三谷作品の初体験だったのですが、
その印象が結構強烈だったので、
「ショウ・マスト・ゴー・オン」はあまり乗れませんでした。
実際には「ショー・マスト・ゴー・オン」の方が、
書かれたのは前なのですが、
ほぼ同一の構成のシチュエーションコメディで、
一方は演劇で他方は生のラジオドラマでしょ。
一発撮りのラジオの方が、
小劇場で上演するには密度があるんですね。
演劇のハプニングは結局キャストや小道具がメインなのですが、
ラジオの方は内容がどんどん変更されてしまって、
収集がつかなくなったところで、
それが力業で着地する、という魅力がありました。
もともと「ショウ・マスト・ゴー・オン」の改良型が、
「ラジオの時間」という側面があるので、
そうした感想になるのは仕方のないことなのかも知れません。

今回リニューアルされた「ショウ・マスト・ゴー・オン」は、
非常に豪華キャストが揃っていて、
その顔ぶれと演技を見るだけで、
まあ、元は取ったな、という気分になります。

ただ、1994年に観た時の、
「何かもたつくなあ」という感じは、
特に後半は強く感じる部分はありました。
この作品はバックステージが舞台で、
観客から見えないところで舞台が進行している訳ですが、
それを感じにくいという側面があるので、
どうしても緊張感が途切れがちになるんですね。
その欠点は今回もあまり変わりはありませんでした。

そんな訳で、三谷作品としては、
やや乗れなかった本作ですが、
それでも一級のシチュエーションコメディであることは確かで、
多彩なキャストの競演も楽しく、
まずは充実した気分で劇場を後にすることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症罹患後の糖尿病発症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19と糖尿病リスク.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2022年5月21日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症後の糖尿病発症リスクについての論文です。

新型コロナウイルス感染症は、
オミクロン株の流行以降軽症化が指摘されています。
現状新たな変異株も確認されているものの、
その基本的な性質については、
感染力は非常に強いものの重症化は稀である、
という点についてはほぼ一致しています。

その一方で問題となっていることの1つは、
後遺症と呼ばれるような持続する症状が、
少なからずの患者さんで、
数か月以上という長期間持続していることです。

それに加えて動脈硬化性疾患や慢性の代謝疾患、
慢性の炎症性疾患などの、
本来は新型コロナウイルス感染症とは無関係な筈の病気のリスクが、
急性症状が改善した以降に、
増加していることが指摘されています。

そのうちの1つが糖尿病の増加です。

これまでの複数の疫学データにおいて、
新型コロナウイルス感染症の罹患と、
糖尿病の新規発症との間に関連があると指摘されています。

しかし、これまでのデータの多くは、
感染の急性期とそれ以降とに明確な区別がなく、
感染自体によ現象なのか、
それとも明確に回復後の現象であるのかが、
明らかではありませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの退役軍人の医療保険データを活用して、
罹患後30日経過後の糖尿病発症リスクを、
非罹患者と比較検証しています。

トータルな患者数は181280名で、
1年間の観察を行った大規模なものです。

その結果、
非罹患者と比較して新型コロナ感染の、
急性期以降1年間における新規糖尿病の発症リスクは、
1.40倍(95%CI:1.36から1.44)有意に増加していました。
これは1000人当たり13.46人の増加に相当します。
これを診断ではなく糖尿病治療薬の30日以上の使用で推計すると、
そのリスクは1.85倍(95%CI:1.78から1.92)とより高くなっていました。
新型コロナ感染の重症度で分けて比較すると、
入院を要したような事例でよりリスクは増加していましたが、
入院を要さない軽症事例においても、
リスク増加自体は確認されています。

このように、今回の大規模な検証においても、
新型コロナウイルス感染の回復期以降に、
糖尿病のリスクが増加することが確認されました。

それでは、何故こうした現象が起こるのでしょうか?

理論的には膵臓のインスリン分泌細胞に、
新型コロナウイルスが感染する可能性はあります。
ただ、実際にはそうした感染があるとしても、
極小規模に留まるという考え方が一般的です。
新型コロナの感染はその後の免疫異常や慢性感染に結び付きやすい、
という知見はあり、
それが事実であるとすれば、
自己免疫的な機序でインスリン分泌細胞が攻撃される、
また慢性の炎症によりインスリン抵抗性が生じる、
というような可能性も考えられます。
新型コロナの感染により隔離が続き、
運動量が低下したり食生活が乱れて、
そうした生活習慣が糖尿病の誘因となった、
というような可能性も否定は出来ません。

現状はこうした仮説が幾つか提示されているものの、
正確な原因は分かっていないのが実際であるようです。

いずれにしても新型コロナウイルス感染症後に、
糖尿病のリスクが増加すること自体はほぼ事実である可能性が高く、
感染された方は、症状に留意して、
健診などで血糖値のチェックをする機会は、
持った方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ADHD(注意欠如・多動症)への自動車運転訓練の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ADHDの運転模擬訓練.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年12月1日掲載された、
発達障害と診断された患者さんにおける、
自動車運転学習プログラムの有効性についての論文です。

ADHD(注意欠如・多動症)は、
12歳以前から認められる、
不注意と落ち着きのなさと衝動性などを特徴とする、
発達障害の一種で、
大人になるまで診断されないケースが多いことより、
近年注目されている疾患概念です。

ADHDを持つ方でも運転免許の取得は可能ですが、
その症状の特徴から運転中の脇見が多くなりやすいことが指摘され、
それが事故に結び付くことがないように、
注意が必要であると考えられています。

自動車教習所によっては、
取得時にADHD向けのコースが用意されていたり、
取得後もサポートの体制を持つところもあるようです。

ただ、そうしたサポートに、
現実にどのような効果があり、
それによりどの程度事故のリスクが軽減するのか、
というような点については、
あまり科学的なデータがないのが実際です。

今回の研究はアメリカにおいて、
年齢が16から19歳でADHDと診断され、
自動車免許を持つ152例を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の自動車運転教習を受け、
もう一方はそれに加えて、
集中力と注意力を高めるための、
運転のシミュレーションを含めた強化プログラムを施行して、
その有効性を比較検証しています。

その結果、
強化プログラムの施行により、
1回の運転シミュレーション中に、
2秒以上道路から目を逸らす「脇見行為」は、
プログラム施行後1か月では、
未施行群で28.0回に対して施行群で16.5回、
プログラム施行後6か月では、
未施行群で27.0回に対して施行群で15.7回で、
施行1か月の時点で強化プログラムは脇見行為を、
36%(95%CI:0.52から0.76)、
施行6か月の時点で36%(95%CI:0.52から0.76)と、
それぞれ有意に低下させていました。

また、訓練後1年間の実際の運転における衝突事故や異常接近の発生リスクは、
強化プログラムの未施行群で5.6%に対して施行群は3.4%で、
実際の衝突事故やそれに準じるリスクを、
強化プログラムは40%(95%CI:0.41から0.89)、
こちらも有意に低下させていました。

このようにADHDの特性に特化した強化プログラムの活用により、
実際に事故のリスクが低減した意義は大きく、
今後こうしたドライバーの特性に合わせた訓練を、
適宜自動運転と組み合わせることにより、
自動車事故のリスクが減少することを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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