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「神は見返りを求める」(ネタばれ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
神は見返りを求める.jpg
昨年の「空白」の感銘と衝撃も記憶に新しい吉田恵輔監督の新作が、
今ロードショー公開されています。
今回も監督のオリジナルの脚本です。

これは「空白」が大傑作なのでとても期待したのですが、
抜群に面白い映画ではあるものの、
監督自身迷いながら、手探りをしながら作っていった、
という感じがあって、
構成にも着地にもまだ揺らぎのようなものが強くあり、
吉田監督としてはまだ完成形とは言えない作品でした。

ただ、今年必見の映画の1本では間違いなくあると思います。

以下少しネタバレがありますので、
未見の方は鑑賞後にお読みください。

子供がなりたい職業の一位がユーチューバーという、
どう考えても正常とは思えない今の社会に、
真向から切り込んでいる意欲作で、
そこで翻弄され自滅する主人公を、
ムロツヨシさん演じる広告会社の中年サラリーマンと、
岸井ゆきのさん演じる新人ユーチューバーが演じて、
後半には心が凍り付くような衝撃的な展開が、
つるべ打ちのように観客を待っています。

テーマはかなり複雑で、
1つにはディストピアとしての、
それもやや間抜けなディストピアとしての、
現在日本を描くということ、
それから題名にもなっている、
見返りを求めない人間関係というものはあるのか、
見返りも代償も求めない愛情というものは、
ただの愚行に過ぎないのか、
という、昔から何度も問い直されている、
人間と愛情との関係を深堀するようなテーマ、
そして、現代がディストピアだとするなら、
アメコミ的な読み替えをして、
この世界を遊んでしまうことも出来るのでは、
という企みです。

他の方も言っているように、
この映画の構造は明らかに「ジョーカー」の影響を受けていて、
ムロツヨシさんがダークヒーローになる、
という余地は映画の最後まで残されているんですね。
ただ、じゃあそうなるのか、と言うと、
映画の中ではそうはなっていなくて、
作り手の躊躇いが、
そこには見え隠れしているような気がするのです。

この映画はそうした異なる3つのテーマを追求しながら、
そのどれかに特化する、ということをしていないのですね。
それがこの映画のやや物足りなく感じる部分です。
昨年の「空白」では、
ちょっとベタな感じはしましたが、
主人公達が新しい人生を踏み出す姿を描いて、
観客もホッとするようなラストに帰着して成功したのですが、
この作品ではディストピアの今後も不明ですし、
主人公2人の関係性も、
何か宙ぶらりんのまま終わり、
ムロツヨシさん演じる主人公が、
何かに変貌することが出来たのかも、
明らかではありません。

それでも映像的には見どころ満載で、
オープニングの趣向も洒落ていますし、
画像の炎上が縫いぐるみの炎上に繋がり、
もっと悲惨な炎上にも繋がる、
という仕掛けも鮮やかです。
もう1つの重要なアイコンは岸井さんの「肌」で、
見返りのために画面の外で服を脱ぐ、
という印象的な場面から、
ブレイクのきっかけとなったボディペイント、
それが幾つか構図を変えて繰り返され、
最後はその肌は悲惨な形で刻印を押されます。

主人公の2人を、
ムロツヨシさんと岸井ゆきのさんが演じる、
というのが非常に豪華で、
ムロさんも勿論良いのですが、
岸井さんの売れない時と売れている時の振幅が素晴らしく、
撮影は2年ほど前とのことですから、
多分この映画に記録されている、
岸井さんの「売れない時の顔」を、
今の岸井さんが再現することは、
おそらく不可能ではないかと思います。
それだけでも、この映画が撮られた意義はある、
とそんな風にも思えます。

いずれにしても吉田監督にしてなしえた、
現代と真正面から格闘した意欲作であることは間違いがなく、
ただ、この作品を通過点として、
監督がよりこのテーマを深化させて、
「空白」に匹敵する傑作を生みだすことを期待して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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