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「月の満ち欠け」(2022年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
月の満ち欠け.jpg
佐藤正午さんの直木賞受賞作「月の満ち欠け」が、
豪華キャストで映画化され、
今ロードショー公開されています。

佐藤正午さんの作品は結構読んでいて、
好きな作家の1人です。
「ジャンプ」が抜群に好きで、
「5」と「身の上話」も結構好みです。
「鳩の撃退法」はとても期待して読んだのですが、
作者の集大成という感はあるものの、
やや冗長で期待したほどではありませんでした。

「月の満ち欠け」も勿論読んでいます。
個人的には「ボチボチ」という感じ。
「5」や「Y」と同じように、
超自然現象をお話の接ぎ穂として、
得意の情緒や因縁が交錯する人間ドラマを紡いでゆきます。
ただ、ちょっと変梃りんなんですよね。
あまりに複雑に生まれ変わりが連続しますし、
生まれ変わった少女と中年男にどんな未来が待っているのだろう、
と考えると異様な感じがして、
それを描かないといけない筈なのに、
その一歩手前で終わってしまうでしょ。
何かモヤモヤしますよね。
最後のオチも何か、
「取り敢えず出してみました」という感じで、
中途半端な感じが否めません。
同じようなテーマ作では、
「5」の方がずっといいな、
というのが正直な印象でした。

原作がかなりの問題作で、
相当変梃りんなので、
それを考えると映画はかなり頑張っている、
という印象はあります。

原作を少し整理して、
生まれ変わりを1つ減らしているんですね。
これは普通に考えると悪くない変更なのですが、
田中圭さんの役柄に、
「事故の原因」としての意味を持たせてしまっているので、
原作の趣旨が変わってしまったのが、
痛恨のミス、という気がしました。

だって、誰の落ち度でもない、
神様の悪戯的な不運な事故、
であるからこその物語であるのに、
それを田中圭さんの悪意のせいにしてしまっているでしょ。
これでは駄目だと思います。

また、ラストのオチを強調しているのですが、
これは原作でも無理矢理感のみあって、
あまり成功していないんですよね。
それを殊更に強調しているので、
「なんだかなあ」という感じでちょっと脱力しました。

最後に柴咲コウさんのカットを入れているでしょ。
あれ、絶対にいらないよね。
こうした安手の編集で、
ラストは一気に嘘くさいものになった、
という感じがありました。

良かったのは1989年の高田馬場の再現で、
これは個人的にはとてもグッと来ました。

それほど高田馬場と早稲田界隈には縁はないのですが、
それでも「早稲田松竹」には結構通いましたし、
近くの古書店街にも一時通いました。
何を観たかな…
寺山修司の「田園に死す」は間違いなくここで観ました。
それからヴィスコンティの「ベニスに死す」を、
最初に映画館で観たのもここでした。
あれは圧倒的で、何か夢現という感じで、
高田馬場の駅に向かったことは覚えています。
後は、今になるとちょっと思い出せないですね。
近くにもっと小さい、畳敷きのミニシアターがあって、
そこで「恋愛地獄変」を観たことも思い出しました。

あの辺の雰囲気がね、結構上手く出ているんですよね。
とてもノスタルジックな気分になりました。

そんな訳であまり成功例のない、
佐藤正午さんの映像化の中では、
結構頑張っている映画で原作にも比較的忠実なのですが、
根本的な部分でちょっとミスをしている感があって、
それほど入り込める感じの作品ではありませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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