PSAとMRIを併用した前立腺癌検診の有用性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年12月8日掲載された、
前立腺癌の検診にMRI検査を組み合わせた場合の、
有効性を検証した論文です。
前立腺癌の検診は、
通常血液のPSAという腫瘍マーカーを測定することで行います。
概ね50歳以上の男性にPSAの計測を施行し、
4.0ng/mL以上であれば二次検査の対象とするのが一般的ですが、
検査値がそれより低くても、
二次検査の対象とする場合もあります。
通常精密検査として施行されるのは、
前立腺針生検と呼ばれる検査です。
これは肛門から器具を挿入して超音波でガイドした上で、
前立腺の組織に針を刺し、
通常12か所以上の組織を採取して、
悪性を疑う細胞がないかどうかを検査するものです。
ただ、この検査は短期入院が必要で、
痛みや検査後の出血を伴い、
患者さんに負担のある検査です。
また、この検査で検出される癌の多くは、
実際には放置しても命に関わるようなことはない、
悪性度の低いものであるとの指摘があります。
それではもっと効率的に、
前立腺癌を診断する方法はないのでしょうか?
現状試みられている方法の1つが、
生検の前にMRI検査を施行して、
癌の疑いのある部位を形態的に同定し、
その部位に限定して生検を施行するというものです。
実際にこうした試みは、
日本でも多くの医療機関で行われていますが、
MRI検査で振り分けをする方法が、
PSAのみで生検をする方法と比較して、
有効性や安全性において優れている、
という根拠のあるデータはあまり存在していません。
そこで今回の研究ではスウェーデンにおいて、
50から60歳の37887名にPSAの検診を推奨し、
そのうちの17980名をくじ引きで3つの群に分けると、
第1群はPSAが3ng/mL以上の男性にMRI検査を施行し、
癌を疑う所見のあった全例に通常の系統的生検を施行。
第2群は同様にMRI検査を施行して、
その異常部位に特化した生検を施行。
一方でPSAが10ng/mL以上の時には、
通常の系統的生検も施行します。
第3群は基本的には第2群と同じですが、
PSAが1.8ng/mL以上で二次検査を施行しています。
ただ、今回の検証ではPSAが3ng/mL以上の事例のみ、
解析を行っています。
その方法を図示したものがこちらになります。
その結果、結果として生命予後に関わらない前立腺癌が診断されたのは、
系統的生検施行群では1.2%であったのに対して、
MRIで所見のあった部位に特化して生検を施行した群では0.6%で、
MRI所見による振り分けを実施すると、
系統的生検の施行と比較して、
生命予後に関わらない前立腺癌の過剰診断を、
54%(95%CI:0.33から0.64)有意に低下させていました。
その一方で生命予後に関わる可能性の高い前立腺癌は、
通常の系統的生検使用群では1.1%であったのに対して、
MRI所見に特化した生検を施行した群では0.9%となっていて、
これは有意ではないものの、
MRI所見に依拠した検診を施行すると、
少数の生命予後に関わる可能性のある前立腺癌を、
見落とす可能性のあることも示唆されました。
このように、
MRI検査で疑いのある部位に絞って、
生検を行うという方針で検診を行うと、
PSAが高値であれば系統的な生検を施行する、
という方針と比較して、
過剰診断をかなり抑えることが可能ですが、
その一方で少数ながら治療の必要な前立腺癌を、
見逃す可能性のあることも、
推測されるという結果が得られました。
今後はこうしたデータを元にして、
どのような方針で前立腺癌の検診を行うことが、
最も効率的で有益であるのかが、
検証されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年12月8日掲載された、
前立腺癌の検診にMRI検査を組み合わせた場合の、
有効性を検証した論文です。
前立腺癌の検診は、
通常血液のPSAという腫瘍マーカーを測定することで行います。
概ね50歳以上の男性にPSAの計測を施行し、
4.0ng/mL以上であれば二次検査の対象とするのが一般的ですが、
検査値がそれより低くても、
二次検査の対象とする場合もあります。
通常精密検査として施行されるのは、
前立腺針生検と呼ばれる検査です。
これは肛門から器具を挿入して超音波でガイドした上で、
前立腺の組織に針を刺し、
通常12か所以上の組織を採取して、
悪性を疑う細胞がないかどうかを検査するものです。
ただ、この検査は短期入院が必要で、
痛みや検査後の出血を伴い、
患者さんに負担のある検査です。
また、この検査で検出される癌の多くは、
実際には放置しても命に関わるようなことはない、
悪性度の低いものであるとの指摘があります。
それではもっと効率的に、
前立腺癌を診断する方法はないのでしょうか?
現状試みられている方法の1つが、
生検の前にMRI検査を施行して、
癌の疑いのある部位を形態的に同定し、
その部位に限定して生検を施行するというものです。
実際にこうした試みは、
日本でも多くの医療機関で行われていますが、
MRI検査で振り分けをする方法が、
PSAのみで生検をする方法と比較して、
有効性や安全性において優れている、
という根拠のあるデータはあまり存在していません。
そこで今回の研究ではスウェーデンにおいて、
50から60歳の37887名にPSAの検診を推奨し、
そのうちの17980名をくじ引きで3つの群に分けると、
第1群はPSAが3ng/mL以上の男性にMRI検査を施行し、
癌を疑う所見のあった全例に通常の系統的生検を施行。
第2群は同様にMRI検査を施行して、
その異常部位に特化した生検を施行。
一方でPSAが10ng/mL以上の時には、
通常の系統的生検も施行します。
第3群は基本的には第2群と同じですが、
PSAが1.8ng/mL以上で二次検査を施行しています。
ただ、今回の検証ではPSAが3ng/mL以上の事例のみ、
解析を行っています。
その方法を図示したものがこちらになります。
その結果、結果として生命予後に関わらない前立腺癌が診断されたのは、
系統的生検施行群では1.2%であったのに対して、
MRIで所見のあった部位に特化して生検を施行した群では0.6%で、
MRI所見による振り分けを実施すると、
系統的生検の施行と比較して、
生命予後に関わらない前立腺癌の過剰診断を、
54%(95%CI:0.33から0.64)有意に低下させていました。
その一方で生命予後に関わる可能性の高い前立腺癌は、
通常の系統的生検使用群では1.1%であったのに対して、
MRI所見に特化した生検を施行した群では0.9%となっていて、
これは有意ではないものの、
MRI所見に依拠した検診を施行すると、
少数の生命予後に関わる可能性のある前立腺癌を、
見落とす可能性のあることも示唆されました。
このように、
MRI検査で疑いのある部位に絞って、
生検を行うという方針で検診を行うと、
PSAが高値であれば系統的な生検を施行する、
という方針と比較して、
過剰診断をかなり抑えることが可能ですが、
その一方で少数ながら治療の必要な前立腺癌を、
見逃す可能性のあることも、
推測されるという結果が得られました。
今後はこうしたデータを元にして、
どのような方針で前立腺癌の検診を行うことが、
最も効率的で有益であるのかが、
検証されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。