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サイアザイド系利尿薬の有効性比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
クロスタリドンとヒドロクロロチアジド.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年12月14日掲載された、
高血圧治療の第一選択薬でもある、
利尿薬の効果を比較した論文です。

現在世界のガイドラインのどのガイドラインにおいても、
降圧剤の第一選択薬が、
サイアザイド系利尿剤、カルシウム拮抗薬、
ACE阻害剤、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、
であることはほぼ一致しています。

このうちサイアザイド系利尿剤は、
この4種の薬剤のうちでは最も古くから使用されていた薬で、
元が利尿剤ですから脱水になったり、
血液の尿酸値が上昇する、
カルシウムが上昇するなど副作用が多く、
そのためカルシウム拮抗薬などの血管拡張剤が使用されるようになると、
一時期はあまり使用されなくなりました。

その流れが大きく変わったのは、
2002年のことです。

ALLHAT 試験と呼ばれる、
4万人以上を対象とした大規模な臨床試験が、
アメリカを中心に行なわれ、
その結果として、
サイアザイド系の利尿剤は、
他のより高価で新しい降圧剤と同等の、
心筋梗塞予防効果が得られたのです。
部分的な解析では、
他剤より更に優れた効果が得られたケースもありました。

この知見によりサイアザイド系利尿薬は、
降圧剤の第一選択薬の1つに復権することになったのです。

ただ、この時に使用されていた利尿剤は、
サイアザイド系利尿薬のうちでも、
半減期が40から60時間と際立って長い、
クロスタリドンという薬剤です。

しかし、その後ヒドロクロロチアジドという、
もっと半減期の短いサイアザイド系利尿薬が広く使用されるようになり、
クロスタリドンの使用頻度は低下しました。

日本ではメーカーの都合などにより、
クロスタリドンはジェネリック薬品を含め、
使用が中止され、
使用出来ない状態となっています。

現状のガイドラインの多くでは、
サイアザイド系利尿薬全般において、
心血管疾患の予防効果が見られるように記載されています。

しかし、実際にはデータの主だったものはクロスタリドンによるもので、
ヒドロクロロチアジドの有効性が、
クロスタリドンと同等であるとする直接比較したようなデータは、
あまり存在していないのが実際なのです。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
65歳以上の高齢者で高血圧のため、
ヒドロクロロチアジドを1日25から50㎎使用継続している13523名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はそのままヒドロクロロチアジドを継続し、
もう一方はそれを12.5から25㎎のクロスタリドンに変更して、
中間値で2.4年の経過観察を施行しています。

その結果、
ヒドロクロロチアジド継続群は、
クロスタリドン変更群と比較して、
その後の心筋梗塞と脳卒中、
心不全による入院、心臓のカテーテル治療、
癌以外による死亡を併せたリスクに、
有意な差は認められませんでした。
一方で副作用の低カリウム血症のリスクは、
クロスタリドン群で6.0%に対して、
ヒドロクロロチアジド群では4.4%で、
クロスタリドン群が有意に高くなっていました。
ただ、サブ解析の結果では、
心筋梗塞や脳卒中の既往のある患者さんにおいては、
同様のリスクはクロスタリドン群がヒドロクロロチアジド群に比べて、
27%(95%CI:0.57から0.94)有意に低下が認められました。

このように今回の大規模な検証においては、
クロスタリドンとヒドロクロロチアジドの使用は、
心血管疾患の予防においてトータルには同等の有効性を示していて、
両者をほぼ同一の有効性のある治療として考えることに、
現状で大きな問題はないようです。
ただクロスタリドンは低カリウム血症にはより注意が必要である一方、
心血管疾患の既往のある患者さんにおいては、
その再発予防効果が高い可能性があり、
患者さんの背景によりその使い分けをすることが、
意義のある可能性も示唆されています。

日本においては主にメーカーの都合により、
クロスタリドンの使用は出来ない状態となっていて、
治療の精度よりもメーカーの都合を優先するという医療の姿勢には、
疑問を感じざるを得ないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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