過敏性腸症候群に対する抗うつ剤少量投与の有効性(2023年プライマリケアのデータ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet誌に2023年10月16日付で掲載された、
過敏性腸症候群に対する抗うつ剤少量使用の有効性についての論文です。
過敏性腸症候群は世界的に、
人口の5から10%が生涯で罹患する、
と言われるほど多い病気です。
主に自律神経系の調節の乱れにより、
腸の運動のバランスが崩れて、
下痢や便秘、腹満、腹痛、便の性状の異常などの症状が、
慢性的に持続するのです。
上記文献での記載によれば、
イギリスにおいては過敏性腸症候群の治療は、
主に専門医療機関ではなく、
一般のプライマリケア医で施行されていて、
ガイドラインにおけるスタンダードな治療は、
バランスの良い食事や生活改善、
食物繊維の摂取や鎮痙剤、便秘治療薬などの使用です。
こうした治療により改善が見られない場合に、
補助的に検討される治療の1つは、
抗うつ剤、特に古典的な三環系抗うつ剤の少量投与です。
ただ、そのプライマリケアにおける有効性は、
現時点であまり確認されていません。
そこで今回の研究では、
イギリスの55か所のプライマリケアの医療機関で、
通常の生活改善や鎮痙剤などの治療で改善の見られない、
過敏性腸症候群の患者トータル463名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗うつ剤のアミトリプチリン(商品名トリプタノールなど)を、
1日10㎎で開始して30㎎まで増量し、
もう一方は偽薬を使用して、
6か月の治療効果を比較検証しています。
その結果、
偽薬と比較してアミトリプチリン使用群では、
治療半年の時点での過敏性腸症候群の症状スコアが、
有意に改善していました。
有害事象には両群で明確な差は認められませんでした。
この治療は使用量は少量のため、
比較的使用継続し易く、
その有効性が厳密な臨床試験において確認されたことの、
プライマリケアにおける意義は大きなものだと思います。
ただ、過敏性腸症候群と一口に言っても、
実際にはかなり幅のある疾患概念なので、
今後そのサブタイプと抗うつ剤の有効性との関連など、
より詳細な解析がされることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet誌に2023年10月16日付で掲載された、
過敏性腸症候群に対する抗うつ剤少量使用の有効性についての論文です。
過敏性腸症候群は世界的に、
人口の5から10%が生涯で罹患する、
と言われるほど多い病気です。
主に自律神経系の調節の乱れにより、
腸の運動のバランスが崩れて、
下痢や便秘、腹満、腹痛、便の性状の異常などの症状が、
慢性的に持続するのです。
上記文献での記載によれば、
イギリスにおいては過敏性腸症候群の治療は、
主に専門医療機関ではなく、
一般のプライマリケア医で施行されていて、
ガイドラインにおけるスタンダードな治療は、
バランスの良い食事や生活改善、
食物繊維の摂取や鎮痙剤、便秘治療薬などの使用です。
こうした治療により改善が見られない場合に、
補助的に検討される治療の1つは、
抗うつ剤、特に古典的な三環系抗うつ剤の少量投与です。
ただ、そのプライマリケアにおける有効性は、
現時点であまり確認されていません。
そこで今回の研究では、
イギリスの55か所のプライマリケアの医療機関で、
通常の生活改善や鎮痙剤などの治療で改善の見られない、
過敏性腸症候群の患者トータル463名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は抗うつ剤のアミトリプチリン(商品名トリプタノールなど)を、
1日10㎎で開始して30㎎まで増量し、
もう一方は偽薬を使用して、
6か月の治療効果を比較検証しています。
その結果、
偽薬と比較してアミトリプチリン使用群では、
治療半年の時点での過敏性腸症候群の症状スコアが、
有意に改善していました。
有害事象には両群で明確な差は認められませんでした。
この治療は使用量は少量のため、
比較的使用継続し易く、
その有効性が厳密な臨床試験において確認されたことの、
プライマリケアにおける意義は大きなものだと思います。
ただ、過敏性腸症候群と一口に言っても、
実際にはかなり幅のある疾患概念なので、
今後そのサブタイプと抗うつ剤の有効性との関連など、
より詳細な解析がされることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
太陽劇団「金夢島」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
演出家アリアーヌ・ムヌーシュキン率いる、
太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)が、
実に22年ぶりとなる来日公演を行っています。
東京公演は既に終了し、11月初めには京都公演が予定されています。
太陽劇団は1964年に結成され、
集団としての姿勢や、劇場ではなく、
倉庫を本拠地とした舞台のダイナミックな演出などは、
日本のアングラの1つのお手本になっているようなところがあります。
主宰のムヌーシュキン自体日本の文化芸術に高い関心を持ち、
日本の古典芸能などを自分の作品に取り入れています。
前回の来日は2001年で新国立劇場での招聘でした。
演目は「堤防の上の鼓手」、
これは本当に素晴らしい公演でした。
これまでに観た演劇作品の中でもベスト級と断言出来ます。
新国立劇場の中劇場の公演だったのですが、
通常の客席は使用せず、
大きな舞台奥のスペースに仮設劇場を作った、
というようなスタイルの上演でした。
観客は通常の客席を抜けて、舞台の裏を通り、
太陽劇団の役者たちが準備している、
楽屋のスペースを抜けて、
その奥に通常と逆向きに設置された仮設の客席から、
舞台を見守ることになるのです。
これは本当にワクワクしましたし、
何より作品が素晴らしかったのです。
舞台は古代の中国で、
1つの村が愚かな人間の対立により滅んでしまうという、
叙事詩的な物語が、
日本の文楽のスタイルで演じられるのですが、
文楽人形も人間の役者が演じ、
それを数人の黒子が抱え込んで、
見事な人形振りを演じるのです。
圧倒的な驚異に満ちた最高の舞台でした。
それで今回の22年ぶりの公演も、
本当に楽しみにして出掛けました。
ただ、今回の作品はオムニバス的というか、
太陽劇団のエッセンスを見せます、
というような感じのもので、
その演出センスの素晴らしさや、
美的センスの豊饒さ、
役者の体技を含めた技術の高さは十全に感じられましたが、
独立した演劇作品としての充実度では、
「堤防の上の鼓手」には遥かに及びませんでした。
舞台も前回とは違って、
通常の客席と舞台をそのまま使用したもので、
舞台上に本国の倉庫の壁が再現されているので、
とても舞台が小さく遠くに見えてしまい、
せっかくの舞台の迫力が伝わり難くなってしまっていました。
この辺りもう少し工夫が出来なかったのかと、
前回の22年前の意欲的な上演と比較すると、
正直非常に残念に感じました。
そんな訳で期待はかなり萎んでしまったのですが、
それでも世界最高水準の、
素晴らしい演劇作品であったことは間違いなく、
演劇の豊饒さに心から酔うことは出来たのです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
演出家アリアーヌ・ムヌーシュキン率いる、
太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)が、
実に22年ぶりとなる来日公演を行っています。
東京公演は既に終了し、11月初めには京都公演が予定されています。
太陽劇団は1964年に結成され、
集団としての姿勢や、劇場ではなく、
倉庫を本拠地とした舞台のダイナミックな演出などは、
日本のアングラの1つのお手本になっているようなところがあります。
主宰のムヌーシュキン自体日本の文化芸術に高い関心を持ち、
日本の古典芸能などを自分の作品に取り入れています。
前回の来日は2001年で新国立劇場での招聘でした。
演目は「堤防の上の鼓手」、
これは本当に素晴らしい公演でした。
これまでに観た演劇作品の中でもベスト級と断言出来ます。
新国立劇場の中劇場の公演だったのですが、
通常の客席は使用せず、
大きな舞台奥のスペースに仮設劇場を作った、
というようなスタイルの上演でした。
観客は通常の客席を抜けて、舞台の裏を通り、
太陽劇団の役者たちが準備している、
楽屋のスペースを抜けて、
その奥に通常と逆向きに設置された仮設の客席から、
舞台を見守ることになるのです。
これは本当にワクワクしましたし、
何より作品が素晴らしかったのです。
舞台は古代の中国で、
1つの村が愚かな人間の対立により滅んでしまうという、
叙事詩的な物語が、
日本の文楽のスタイルで演じられるのですが、
文楽人形も人間の役者が演じ、
それを数人の黒子が抱え込んで、
見事な人形振りを演じるのです。
圧倒的な驚異に満ちた最高の舞台でした。
それで今回の22年ぶりの公演も、
本当に楽しみにして出掛けました。
ただ、今回の作品はオムニバス的というか、
太陽劇団のエッセンスを見せます、
というような感じのもので、
その演出センスの素晴らしさや、
美的センスの豊饒さ、
役者の体技を含めた技術の高さは十全に感じられましたが、
独立した演劇作品としての充実度では、
「堤防の上の鼓手」には遥かに及びませんでした。
舞台も前回とは違って、
通常の客席と舞台をそのまま使用したもので、
舞台上に本国の倉庫の壁が再現されているので、
とても舞台が小さく遠くに見えてしまい、
せっかくの舞台の迫力が伝わり難くなってしまっていました。
この辺りもう少し工夫が出来なかったのかと、
前回の22年前の意欲的な上演と比較すると、
正直非常に残念に感じました。
そんな訳で期待はかなり萎んでしまったのですが、
それでも世界最高水準の、
素晴らしい演劇作品であったことは間違いなく、
演劇の豊饒さに心から酔うことは出来たのです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「月」(石井裕也監督映画版) [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は院長の石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
相模原障碍者施設殺傷事件を元にした、
辺見庸さんの同題の小説を原作とした映画が、
今ロードショー公開されています。
これは原作は、
外界とのコミュニケーションが一切取れない、
障碍者の女性の内面を、
ジョイスばりの意識の流れで描写する、
というかなり実験的な小説で、
実際の障碍者の内面を描いたというよりは、
作者自身がそうした身体状態になった時の内面を、
想像力で描写したという感じの作品です。
事件をもとにはしていますが、
それを正面から描いた、という性質の作品ではありません。
それを「ジョニーは戦場に行った」や、
僕の大好きな「潜水服は蝶の夢を見る」のように、
ナレーションなどを使用してそのままに映像化することも、
不可能ではないと思うのですが、
今回はそうした手法は取ってはいなくて、
原作の主人公の女性は、
その外面を少し描写するに留め、
宮沢りえさん扮する作家の女性を新たに主人公に設定して、
彼女と夫のオダギリジョーさんの物語を主軸に据え、
その関わりの中で事件を描く、
というほぼオリジナルの物語に改変しています。
それで何で辺見庸さんの「月」が原作なのかしら、
というようには思うのですが、
監督の石井さんは筋金入りの辺見さんの大ファンなので、
これはもう充分分かった上でのアクロバティック的な発想なんですね。
途中で犯人役の磯村勇斗さんが、
絞首刑の時の首が折れる音の話をするのですが、
これは石井監督が辺見さんから聞いた話が、
そのまま使われているんですね。
原作には勿論そんな話は出て来ないのです。
つまり、石井監督は原作を映画化するというよりも、
大好きな辺見さんの作品世界のイズムのようなものを、
今回の映画で表現したかったように感じました。
ただ、その情熱は理解した上で、
今回の作品が映画として成功しているかと言うと、
その点はちょっと微妙です。
この映画、前半は割とオドロオドロしい感じなんですね。
登場する施設は幽霊屋敷のようで、
昔は病院を舞台にしたホラーが良くありましたが、
そんな雰囲気なんですね。
登場する職員の二階堂ふみさんにしても、
磯村有斗さんにしても、
他人の心を理解せず、
土足で踏み込んで踏みにじるような、
つまり、SNS全盛の現代的な怪物で、
その2人が主人公の宮沢さんの家で、
彼女を傷つけたり不快にする発言を、
悪意なく言い募るところなど、
恐怖映画のテイストで慄然とするものがありました。
なるほどこれは新しい発想で面白い、
とは思ったのですが、
この調子で事件を再現するつもりなのかしら。
深刻な事件をホラーにしてしまって、
本当に大丈夫なのかしら、
多方面から叱られることにならないのかしら、
というように危惧する思いも同時にありました。
ただ、実際には段々と映画のテイストは変わり、
基本的に傍観者的で知識人を気取る感じの主人公夫婦の、
「芸術家の苦悩」的なテーマが前面に出て、
それに対峙する現実として事件は置かれ、
事件自体は割とリアルに描写されていましたが、
実際の殺人の描写自体は描かない、
というスタイルで終了となりました。
まあ勿論、これで仕方がなかったのかな、
というようには思うのですね。
障碍者を惨殺する場面をそのまま描くことは、
それを結果として残酷見世物にする、
ということになりますから、
到底映像にするべきではないのですね。
そうなると、結果としてこのようになるしかないのですが、
それで映画として成立しているのかと言うと、
ちょっと難しいように思いました。
「芸術家の苦悩」というのは、
身内受けはすると思うのですね。
でも観客の多くは芸術家や表現者ではないと思うので、
その辺りもちょっと計算違いがあったのではないかな、
というようには感じました。
テーマとしては、
「存在すること自体の意味」
という重いものがあるのですが、
個人的にはあまり刺さるテーマではないんですね。
僕も医療従事者で、
障碍のある方や認知症の方に、
接する機会は多いので、
「存在すること自体の意味」ということについては、
割と抵抗なく受け入れられる感じではあるからです。
原作でも映画でも、
老人の入所者が汚物に塗れて自慰行為をする姿に、
衝撃を受けて事件を起こすことを決意する、
という流れになっているのですが、
個人的にはあまりそれが衝撃的とは思わないんですね。
そういうのは日常茶飯事のことだと思うからです。
それより多分あり得るのは、
障碍者や認知症の方に殴られたりする職員はいるんですね。
それから罵倒されたり、
召使のように命令されたり、
汚物を投げつけられたり、
というようなことですね。
こうしたことが積み重なると結構きつくて、
それが理由で施設を辞めるという職員については、
僕も何度か経験があります。
ただ、そうした描写をすると、
それはそれで障碍者の方を悪く描く、
という感じになってお叱りを受けることにもなるので、
その辺りの匙加減は、
現実的には非常に難しいところであるように思います。
総じて、本当に難しいテーマに、
真っ向から取り組んだ力作ではあるのですが、
矢張り正攻法でこのテーマは映画にするのは困難だ、
という事実を確認したような作品でもあったように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は院長の石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
相模原障碍者施設殺傷事件を元にした、
辺見庸さんの同題の小説を原作とした映画が、
今ロードショー公開されています。
これは原作は、
外界とのコミュニケーションが一切取れない、
障碍者の女性の内面を、
ジョイスばりの意識の流れで描写する、
というかなり実験的な小説で、
実際の障碍者の内面を描いたというよりは、
作者自身がそうした身体状態になった時の内面を、
想像力で描写したという感じの作品です。
事件をもとにはしていますが、
それを正面から描いた、という性質の作品ではありません。
それを「ジョニーは戦場に行った」や、
僕の大好きな「潜水服は蝶の夢を見る」のように、
ナレーションなどを使用してそのままに映像化することも、
不可能ではないと思うのですが、
今回はそうした手法は取ってはいなくて、
原作の主人公の女性は、
その外面を少し描写するに留め、
宮沢りえさん扮する作家の女性を新たに主人公に設定して、
彼女と夫のオダギリジョーさんの物語を主軸に据え、
その関わりの中で事件を描く、
というほぼオリジナルの物語に改変しています。
それで何で辺見庸さんの「月」が原作なのかしら、
というようには思うのですが、
監督の石井さんは筋金入りの辺見さんの大ファンなので、
これはもう充分分かった上でのアクロバティック的な発想なんですね。
途中で犯人役の磯村勇斗さんが、
絞首刑の時の首が折れる音の話をするのですが、
これは石井監督が辺見さんから聞いた話が、
そのまま使われているんですね。
原作には勿論そんな話は出て来ないのです。
つまり、石井監督は原作を映画化するというよりも、
大好きな辺見さんの作品世界のイズムのようなものを、
今回の映画で表現したかったように感じました。
ただ、その情熱は理解した上で、
今回の作品が映画として成功しているかと言うと、
その点はちょっと微妙です。
この映画、前半は割とオドロオドロしい感じなんですね。
登場する施設は幽霊屋敷のようで、
昔は病院を舞台にしたホラーが良くありましたが、
そんな雰囲気なんですね。
登場する職員の二階堂ふみさんにしても、
磯村有斗さんにしても、
他人の心を理解せず、
土足で踏み込んで踏みにじるような、
つまり、SNS全盛の現代的な怪物で、
その2人が主人公の宮沢さんの家で、
彼女を傷つけたり不快にする発言を、
悪意なく言い募るところなど、
恐怖映画のテイストで慄然とするものがありました。
なるほどこれは新しい発想で面白い、
とは思ったのですが、
この調子で事件を再現するつもりなのかしら。
深刻な事件をホラーにしてしまって、
本当に大丈夫なのかしら、
多方面から叱られることにならないのかしら、
というように危惧する思いも同時にありました。
ただ、実際には段々と映画のテイストは変わり、
基本的に傍観者的で知識人を気取る感じの主人公夫婦の、
「芸術家の苦悩」的なテーマが前面に出て、
それに対峙する現実として事件は置かれ、
事件自体は割とリアルに描写されていましたが、
実際の殺人の描写自体は描かない、
というスタイルで終了となりました。
まあ勿論、これで仕方がなかったのかな、
というようには思うのですね。
障碍者を惨殺する場面をそのまま描くことは、
それを結果として残酷見世物にする、
ということになりますから、
到底映像にするべきではないのですね。
そうなると、結果としてこのようになるしかないのですが、
それで映画として成立しているのかと言うと、
ちょっと難しいように思いました。
「芸術家の苦悩」というのは、
身内受けはすると思うのですね。
でも観客の多くは芸術家や表現者ではないと思うので、
その辺りもちょっと計算違いがあったのではないかな、
というようには感じました。
テーマとしては、
「存在すること自体の意味」
という重いものがあるのですが、
個人的にはあまり刺さるテーマではないんですね。
僕も医療従事者で、
障碍のある方や認知症の方に、
接する機会は多いので、
「存在すること自体の意味」ということについては、
割と抵抗なく受け入れられる感じではあるからです。
原作でも映画でも、
老人の入所者が汚物に塗れて自慰行為をする姿に、
衝撃を受けて事件を起こすことを決意する、
という流れになっているのですが、
個人的にはあまりそれが衝撃的とは思わないんですね。
そういうのは日常茶飯事のことだと思うからです。
それより多分あり得るのは、
障碍者や認知症の方に殴られたりする職員はいるんですね。
それから罵倒されたり、
召使のように命令されたり、
汚物を投げつけられたり、
というようなことですね。
こうしたことが積み重なると結構きつくて、
それが理由で施設を辞めるという職員については、
僕も何度か経験があります。
ただ、そうした描写をすると、
それはそれで障碍者の方を悪く描く、
という感じになってお叱りを受けることにもなるので、
その辺りの匙加減は、
現実的には非常に難しいところであるように思います。
総じて、本当に難しいテーマに、
真っ向から取り組んだ力作ではあるのですが、
矢張り正攻法でこのテーマは映画にするのは困難だ、
という事実を確認したような作品でもあったように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
起立性低血圧を伴う高血圧症の治療はどうするべきか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談や老人ホームの診療で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2023年10月16日付で掲載された、
起立性低血圧と立位低血圧の患者さんにおける、
降圧治療の有効性についての論文です。
高血圧の患者さんを治療する際に問題となるのが、
起立性低血圧を伴う患者さんへの対応です。
起立性低血圧(Orthostatic Hypotension)というのは、
一般的に言う「立ちくらみ」や「貧血症状」というもので、
急に立ち上がった時に、
めまいやふらつきを感じたり、
一瞬目の前が暗くなる、
というような症状がある場合に疑われます。
その定義はそれほど定まったものがありませんが、
一般に座っている時の血圧と比較して、
立ち上がって3分以内に、
上の血圧が20mmHg以上、もしくは、
下の血圧が10mmHg以上下がることとされています。
無症状の場合の方が多いのですが、
有症状の場合には、
前述のように立ちくらみなどの症状が起こるのです。
立ち上がった時には、
重力によってそのままでは血液が下に下がってしまいますから、
身体は瞬時に反応して下半身の血管を収縮させ、
血圧を維持するのです。
その反応を媒介しているのは自律神経です。
立ち上がって、血圧が低下するのは、
その自律神経の調節が低下していることが、
一番大きな要因と考えられています。
自律神経に障害を来すような病気で起こることもありますが、
その多くは体質的なものです。
また加齢により自律神経機能は低下するので、
高齢であることも起立性低血圧のリスクを高めます。
起立性低血圧の患者さんはそうでない場合と比較して、
生命予後に悪影響があるとするデータがあります。
その多くは転倒や骨折によるものと思われます。
そして、高血圧の患者さんにおいても、
少なくない頻度で、
起立性低血圧の患者さんがいると考えられます。
それでは、
起立性低血圧を伴う高血圧の患者さんでは、
その治療をどのようにするべきなのでしょうか?
座っている時や寝ている時の血圧を指標として、
降圧剤による治療を行うことは、
立ちくらみなどのリスクを高める可能性があります。
血圧のコントロールは通常座位の血圧を基本としているのですが、
それが厳密なコントロールで120mmHgになったとすると、
起立性の低下により、
100未満になってしまうからです。
これを避けるためには、
通常の患者さんよりマイルドなコントロールとして、
目標の血圧を少し高めに設定するという考え方があります。
しかし、それでは降圧治療の有効性を、
低下させてしまうという可能性もあります。
そもそも起立性低血圧のある患者さんとそうでない患者さんとで、
座位では同じ高血圧があったとしても、
その予後には差があるのでしょうか?
そうした点を明確に示すような臨床データが、
これまであまり存在していませんでした。
今回の研究は、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析することで、
起立性低血圧のある高血圧の患者さんの、
治療効果を分析したものです。
今回の研究では通常の定義による、
起立性低血圧と共に、
起立性の急激な低下はないものの、
座位と立位との血圧に明確な差があり、
起立時の血圧が上が110mmHg以下、
もしくは下が60mmHg以下が持続しているケースを、
立位低血圧(Standing Hypotension)と定義して、
その両者を分析しています。
これまでの9つの臨床試験に含まれる、
トータルで29235名の臨床データをまとめて解析した結果、
対象となった高血圧の患者さんのうち、
試験登録時で起立性低血圧が9%、
立位低血圧が5%に認められました。
起立性低血圧の患者さんはそうでない場合と比較して、
心血管疾患のリスクが14%(95%CI:1.04から1.26)、
総死亡のリスクが24%(95%CI:1.09から1.41)、
それぞれ有意に増加していました。
立位低血圧の患者さんもそうでない場合と比較して、
心血管疾患のリスクが39%(95%CI:1.24から1.57)、
総死亡のリスクが38%(95%CI:1.14から1.66)、
こちらも有意に増加していました。
ここで降圧剤による治療効果をみてみると、
起立性低血圧のない高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
19%(95%CI:0.76から0.86)有意に低下していました。
起立性低血圧を伴う高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
17%(95%CI:0.70から1.00)有意に低下していました。
起立性低血圧のあるなしによって、
降圧治療の有効性には明確な差は見られませんでした。
立位低血圧での同様の比較では
立位低血圧のない高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
20%(95%CI:0.75から0.85)有意に低下したのに対して、
立位低血圧のある高血圧の患者さんでは、
同様の傾向はあるものの、
そのリスク低下は有意ではありませんでした。
(HR 0.94:95%CI:0.75から1.18)
このように、
起立性低血圧も立位低血圧も、
いずれもそれ自体で高血圧と同様の健康リスクがあり、
そうした低血圧を伴う高血圧症の患者では、
高血圧の治療を施行することにより、
低血圧のない場合と、
同様に近い予後改善効果があることが確認されました。
ただ、実際には降圧剤による低血圧の悪化により、
有害事象が生じるケースもと想定されるので、
今後起立性低血圧もしくは立位低血圧を伴う高血圧患者において、
どのような点に留意し、
どのような目標設定をして降圧治療を行うべきなのか、
より具体的な検証が必要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談や老人ホームの診療で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
JAMA誌に2023年10月16日付で掲載された、
起立性低血圧と立位低血圧の患者さんにおける、
降圧治療の有効性についての論文です。
高血圧の患者さんを治療する際に問題となるのが、
起立性低血圧を伴う患者さんへの対応です。
起立性低血圧(Orthostatic Hypotension)というのは、
一般的に言う「立ちくらみ」や「貧血症状」というもので、
急に立ち上がった時に、
めまいやふらつきを感じたり、
一瞬目の前が暗くなる、
というような症状がある場合に疑われます。
その定義はそれほど定まったものがありませんが、
一般に座っている時の血圧と比較して、
立ち上がって3分以内に、
上の血圧が20mmHg以上、もしくは、
下の血圧が10mmHg以上下がることとされています。
無症状の場合の方が多いのですが、
有症状の場合には、
前述のように立ちくらみなどの症状が起こるのです。
立ち上がった時には、
重力によってそのままでは血液が下に下がってしまいますから、
身体は瞬時に反応して下半身の血管を収縮させ、
血圧を維持するのです。
その反応を媒介しているのは自律神経です。
立ち上がって、血圧が低下するのは、
その自律神経の調節が低下していることが、
一番大きな要因と考えられています。
自律神経に障害を来すような病気で起こることもありますが、
その多くは体質的なものです。
また加齢により自律神経機能は低下するので、
高齢であることも起立性低血圧のリスクを高めます。
起立性低血圧の患者さんはそうでない場合と比較して、
生命予後に悪影響があるとするデータがあります。
その多くは転倒や骨折によるものと思われます。
そして、高血圧の患者さんにおいても、
少なくない頻度で、
起立性低血圧の患者さんがいると考えられます。
それでは、
起立性低血圧を伴う高血圧の患者さんでは、
その治療をどのようにするべきなのでしょうか?
座っている時や寝ている時の血圧を指標として、
降圧剤による治療を行うことは、
立ちくらみなどのリスクを高める可能性があります。
血圧のコントロールは通常座位の血圧を基本としているのですが、
それが厳密なコントロールで120mmHgになったとすると、
起立性の低下により、
100未満になってしまうからです。
これを避けるためには、
通常の患者さんよりマイルドなコントロールとして、
目標の血圧を少し高めに設定するという考え方があります。
しかし、それでは降圧治療の有効性を、
低下させてしまうという可能性もあります。
そもそも起立性低血圧のある患者さんとそうでない患者さんとで、
座位では同じ高血圧があったとしても、
その予後には差があるのでしょうか?
そうした点を明確に示すような臨床データが、
これまであまり存在していませんでした。
今回の研究は、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析することで、
起立性低血圧のある高血圧の患者さんの、
治療効果を分析したものです。
今回の研究では通常の定義による、
起立性低血圧と共に、
起立性の急激な低下はないものの、
座位と立位との血圧に明確な差があり、
起立時の血圧が上が110mmHg以下、
もしくは下が60mmHg以下が持続しているケースを、
立位低血圧(Standing Hypotension)と定義して、
その両者を分析しています。
これまでの9つの臨床試験に含まれる、
トータルで29235名の臨床データをまとめて解析した結果、
対象となった高血圧の患者さんのうち、
試験登録時で起立性低血圧が9%、
立位低血圧が5%に認められました。
起立性低血圧の患者さんはそうでない場合と比較して、
心血管疾患のリスクが14%(95%CI:1.04から1.26)、
総死亡のリスクが24%(95%CI:1.09から1.41)、
それぞれ有意に増加していました。
立位低血圧の患者さんもそうでない場合と比較して、
心血管疾患のリスクが39%(95%CI:1.24から1.57)、
総死亡のリスクが38%(95%CI:1.14から1.66)、
こちらも有意に増加していました。
ここで降圧剤による治療効果をみてみると、
起立性低血圧のない高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
19%(95%CI:0.76から0.86)有意に低下していました。
起立性低血圧を伴う高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
17%(95%CI:0.70から1.00)有意に低下していました。
起立性低血圧のあるなしによって、
降圧治療の有効性には明確な差は見られませんでした。
立位低血圧での同様の比較では
立位低血圧のない高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
20%(95%CI:0.75から0.85)有意に低下したのに対して、
立位低血圧のある高血圧の患者さんでは、
同様の傾向はあるものの、
そのリスク低下は有意ではありませんでした。
(HR 0.94:95%CI:0.75から1.18)
このように、
起立性低血圧も立位低血圧も、
いずれもそれ自体で高血圧と同様の健康リスクがあり、
そうした低血圧を伴う高血圧症の患者では、
高血圧の治療を施行することにより、
低血圧のない場合と、
同様に近い予後改善効果があることが確認されました。
ただ、実際には降圧剤による低血圧の悪化により、
有害事象が生じるケースもと想定されるので、
今後起立性低血圧もしくは立位低血圧を伴う高血圧患者において、
どのような点に留意し、
どのような目標設定をして降圧治療を行うべきなのか、
より具体的な検証が必要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ロスバスタチンとアトルバスタチンの直接比較 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2023年10月18日付で掲載された、
コレステロール降下剤2剤の有効性と安全性を比較した論文です。
これは一般の臨床に有用な情報を提供してくれる研究だと思います。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
強力なコレステロール降下作用と共に、
抗炎症作用なども併せ持ち、
今では動脈硬化の予防薬的な位置づけとして、
幅広く使用されている薬です。
その有効性は特に狭心症や心筋梗塞などの、
心臓の血管の病気を持っている人の、
再発予防や予後の改善において最も認められています。
スタチンには多くの種類があり、
基本的な性質は同じですが、
個々の薬剤でその強さや副作用、有害事象には差がある、
という見解もあります。
そこで今回の研究では、
代表的なスタチンである、
アトルバスタチン(商品名リピトールなど)と、
ロスバスタチン(商品名クレストールなど)の2種類の薬剤を、
虚血性心疾患の患者さんに使用した際の、
その予防効果と安全性を比較検証しています。
アトルバスタチンは脂溶性、
ロスバスタチンは親水性のスタチンで、
両者とも世界的に広く使用されているので、
この2剤を比較することは意義のあることなのです。
韓国の12の専門施設において、
19歳以上で虚血性心疾患を発症した4400名の患者を対象とし、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はアトルバスタチンを使用し、
もう一方はロスバスタチンを使用して、
その経過を3年間観察しています。
これは別の目的で施行された臨床試験の二次解析で、
スタチンは高強度で使用するか、中強度で使用するかで区分され、
中強度治療では、
アトルバスタチンは1日20㎎、ロスバスタチンは1日10㎎が、
高強度治療では、
アトルバスタチンは1日40㎎、ロスバスタチンは1日20㎎が、
初期量として使用され、
コレステロールの目標値に合わせて調整されています。
その結果、
観察期間中の総死亡、心筋梗塞、脳卒中、
心臓カテーテル治療を併せたリスクには、
2種のスタチンの間で有意な差はありませんでした。
同じプロトコールの中では、
アトルバスタチンよりロスバスタチンの方が、
そのLDLコレステロール低下作用は強く認められましたが、
経過中の新規糖尿病発症リスクについてみると、
アトルバスタチン群が5.3%に対して、
ロスバスタチン群は7.2%で、
ロスバスタチンの糖尿病発症リスクは、
アトルバスタチンの1.39倍(95%CI:1.03から3.87)、
白内障の手術のリスクも、
1.66倍(95%CI:1.07から2.58)有意に増加していました。
このように今回の検証では、
アトルバスタチンとロスバスタチンの、
虚血性心疾患患者における予後改善と再発予防効果には、
明確な差はない一方で、
新規糖尿病発症リスクと白内障のリスクについては、
ロスバスタチンがやや多い、
という結果が得られました。
この検証は今後の臨床に直結する有意義なもので、
今後これが脂溶性と親水性の差によるものなのか、
それとも他の因子が関連しているかなど、
より詳細な検証がなされることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
British Medical Journal誌に、
2023年10月18日付で掲載された、
コレステロール降下剤2剤の有効性と安全性を比較した論文です。
これは一般の臨床に有用な情報を提供してくれる研究だと思います。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤ですが、
強力なコレステロール降下作用と共に、
抗炎症作用なども併せ持ち、
今では動脈硬化の予防薬的な位置づけとして、
幅広く使用されている薬です。
その有効性は特に狭心症や心筋梗塞などの、
心臓の血管の病気を持っている人の、
再発予防や予後の改善において最も認められています。
スタチンには多くの種類があり、
基本的な性質は同じですが、
個々の薬剤でその強さや副作用、有害事象には差がある、
という見解もあります。
そこで今回の研究では、
代表的なスタチンである、
アトルバスタチン(商品名リピトールなど)と、
ロスバスタチン(商品名クレストールなど)の2種類の薬剤を、
虚血性心疾患の患者さんに使用した際の、
その予防効果と安全性を比較検証しています。
アトルバスタチンは脂溶性、
ロスバスタチンは親水性のスタチンで、
両者とも世界的に広く使用されているので、
この2剤を比較することは意義のあることなのです。
韓国の12の専門施設において、
19歳以上で虚血性心疾患を発症した4400名の患者を対象とし、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はアトルバスタチンを使用し、
もう一方はロスバスタチンを使用して、
その経過を3年間観察しています。
これは別の目的で施行された臨床試験の二次解析で、
スタチンは高強度で使用するか、中強度で使用するかで区分され、
中強度治療では、
アトルバスタチンは1日20㎎、ロスバスタチンは1日10㎎が、
高強度治療では、
アトルバスタチンは1日40㎎、ロスバスタチンは1日20㎎が、
初期量として使用され、
コレステロールの目標値に合わせて調整されています。
その結果、
観察期間中の総死亡、心筋梗塞、脳卒中、
心臓カテーテル治療を併せたリスクには、
2種のスタチンの間で有意な差はありませんでした。
同じプロトコールの中では、
アトルバスタチンよりロスバスタチンの方が、
そのLDLコレステロール低下作用は強く認められましたが、
経過中の新規糖尿病発症リスクについてみると、
アトルバスタチン群が5.3%に対して、
ロスバスタチン群は7.2%で、
ロスバスタチンの糖尿病発症リスクは、
アトルバスタチンの1.39倍(95%CI:1.03から3.87)、
白内障の手術のリスクも、
1.66倍(95%CI:1.07から2.58)有意に増加していました。
このように今回の検証では、
アトルバスタチンとロスバスタチンの、
虚血性心疾患患者における予後改善と再発予防効果には、
明確な差はない一方で、
新規糖尿病発症リスクと白内障のリスクについては、
ロスバスタチンがやや多い、
という結果が得られました。
この検証は今後の臨床に直結する有意義なもので、
今後これが脂溶性と親水性の差によるものなのか、
それとも他の因子が関連しているかなど、
より詳細な検証がなされることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
乳製品の摂取と大腿骨骨折リスク(2023年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Journal of Nutritional Science誌に、
2023年9月11日付で掲載された、
乳製品の摂取量と骨折リスクについての論文です。
乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。
乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。
一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。
チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。
今回の研究はこれまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
メタ解析の手法を用いて、
乳製品の種類別の摂取量と、
寝たきりの原因として重要な、
大腿骨頸部骨折のリスクとの関連を検証しているものです。
13の精度の高い臨床研究より、
トータルで486950人のデータが解析されています。
その結果、
牛乳を全く飲まない人と比較して、
牛乳の摂取量が400グラムまでの用量において、
牛乳の摂取量が多いほど大腿骨頸部骨折のリスクは増加していて、
その影響は1日200グラム当たり、
7%(95%CI:1.05から1.10)と算出されました。
その骨折リスクは、
1日400グラムで15%(95%CI:1.09から1.21)と最大となり、
それを超えると頭打ちになりますが、
750グラムまでは牛乳を飲まない人より、
リスクの高い状態となっていました。
一方でヨーグルトについての5つの臨床データの解析では、
ヨーグルト1日250グラム当たり、
大腿骨頸部骨折のリスクは、
15%(95%CI:0.82から0.89)有意に低下していて、
チーズに関する5つの臨床データの解析でも、
1日43グラム当たり19%(95%CI:0.72から0.92)、
大腿骨頸部骨折のリスクは有意に低下していました。
そして、牛乳にチーズ、ヨーグルトを併せた、
乳製品のトータルな摂取量と大腿骨頸部骨折のリスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。
このように、
今回の最新のメタ解析においても、
これまでの主な報告と同様、
牛乳の摂取は骨折リスクを、
低下させないばかりか、
増加させる可能性が高く、
ヨーグルトやチーズの摂取は、
そのリスクを低下させる可能性が高い、
という結果が得られました。
1日750ミリリットルを超えるとリスク増加がなくなる、
というのは解釈の難しいデータですが、
それだけ沢山の牛乳を毎日飲んでいる人は、
人数としてはかなり少なく、
アスリートなども含まれている可能性がありますから、
そうしたバイアスが掛かっている可能性は想定されます。
ただ、その牛乳によるリスク上昇は、
それほど顕著なものではなく、
特に高齢者においては、
手軽な蛋白の補充に有用性は高いとする報告もあるので、
1日200ミリリットルを超えない程度の摂取には、
大きな問題はないと考えて良いではないかと思います。
従って、牛乳好きの方は、
無理にそれを控える必要はないと思いますが、
乳製品のトータルな健康影響という観点から考えると、
生乳よりもヨーグルトやチーズの方が、
健康への良い影響が明確であるという知見のあることは、
確認しておいた方が良いように思います。
乳製品は賢く活用するのが吉と思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Journal of Nutritional Science誌に、
2023年9月11日付で掲載された、
乳製品の摂取量と骨折リスクについての論文です。
乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。
乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。
一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。
チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。
今回の研究はこれまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
メタ解析の手法を用いて、
乳製品の種類別の摂取量と、
寝たきりの原因として重要な、
大腿骨頸部骨折のリスクとの関連を検証しているものです。
13の精度の高い臨床研究より、
トータルで486950人のデータが解析されています。
その結果、
牛乳を全く飲まない人と比較して、
牛乳の摂取量が400グラムまでの用量において、
牛乳の摂取量が多いほど大腿骨頸部骨折のリスクは増加していて、
その影響は1日200グラム当たり、
7%(95%CI:1.05から1.10)と算出されました。
その骨折リスクは、
1日400グラムで15%(95%CI:1.09から1.21)と最大となり、
それを超えると頭打ちになりますが、
750グラムまでは牛乳を飲まない人より、
リスクの高い状態となっていました。
一方でヨーグルトについての5つの臨床データの解析では、
ヨーグルト1日250グラム当たり、
大腿骨頸部骨折のリスクは、
15%(95%CI:0.82から0.89)有意に低下していて、
チーズに関する5つの臨床データの解析でも、
1日43グラム当たり19%(95%CI:0.72から0.92)、
大腿骨頸部骨折のリスクは有意に低下していました。
そして、牛乳にチーズ、ヨーグルトを併せた、
乳製品のトータルな摂取量と大腿骨頸部骨折のリスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。
このように、
今回の最新のメタ解析においても、
これまでの主な報告と同様、
牛乳の摂取は骨折リスクを、
低下させないばかりか、
増加させる可能性が高く、
ヨーグルトやチーズの摂取は、
そのリスクを低下させる可能性が高い、
という結果が得られました。
1日750ミリリットルを超えるとリスク増加がなくなる、
というのは解釈の難しいデータですが、
それだけ沢山の牛乳を毎日飲んでいる人は、
人数としてはかなり少なく、
アスリートなども含まれている可能性がありますから、
そうしたバイアスが掛かっている可能性は想定されます。
ただ、その牛乳によるリスク上昇は、
それほど顕著なものではなく、
特に高齢者においては、
手軽な蛋白の補充に有用性は高いとする報告もあるので、
1日200ミリリットルを超えない程度の摂取には、
大きな問題はないと考えて良いではないかと思います。
従って、牛乳好きの方は、
無理にそれを控える必要はないと思いますが、
乳製品のトータルな健康影響という観点から考えると、
生乳よりもヨーグルトやチーズの方が、
健康への良い影響が明確であるという知見のあることは、
確認しておいた方が良いように思います。
乳製品は賢く活用するのが吉と思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
老人ホームにおける集団除菌の有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年10月10日付で掲載された、
老人ホームにおける除菌介入の有効性についての論文です。
感染症の流行時に必ず問題となるのは、
老人ホームなどの高齢者施設における集団感染です。
高齢者施設の高齢者の多くは慢性の病気を持ち、
免疫力も低下しているので、
感染のリスクは非常に高く、
一旦感染すると重症化のリスクも高く、
予後の悪いことで知られています。
特に認知症の高齢者では、
マスクや手洗い、咳エチケットなどの感染対策も、
大半は施行困難なので、
一旦感染者が出現すると、
瞬く間に施設の殆どの入所者が感染、
という事態が想定されるのです。
それでは、この集団感染を予防する、
有効な方策はあるのでしょうか?
感染は最初職員から持ち込まれることが多いので、
職員がしっかり感染対策をすることが何より大切です。
また、インフルエンザや新型コロナのように、
ワクチンで予防可能な疾患であれば、
ワクチン接種を適切に行うことも有効な方法です。
しかし、実際にはそうした感染対策に留意していても、
それだけで高齢者施設の集団感染を防ぐことは出来ません。
それでは、何か有効な対策はないのでしょうか?
病気を持っている高齢者は、
MRSAなどの耐性菌を、
鼻腔は皮膚などに保持していることが多く、
それが感染の悪化に繋がっているという指摘があります。
それでは、定期的に鼻腔や肌の除菌を行うことで、
高齢者の感染を防ぐことが可能なのではないでしょうか?
今回の研究では、
日本の特別養護老人ホームに近い施設である、
アメリカのナーシングホームにおいて、
ポビドンヨード(イソジン)による鼻腔の除菌と、
クロルヘキシジンという消毒剤による皮膚の除菌を、
継続的に入所者に施行することによって、
感染症の発症と重症化を、
予防出来るかどうかを検証しています。
アメリカの28か所のナーシングホームの入所者、
トータル28956名が対象です。
28か所のホームをくじ引きで14か所ずつに分けると、
一方は通常の感染対策のみを行い、
もう一方はポビドンヨード(イソジン)による鼻腔の除菌と、
クロルヘキシジンによる全身の清拭による除菌を行い、
それを18か月継続した効果を比較検証しています。
ヨードのよる鼻腔の除菌は、
施設入所時には1日2回5日連続で施行し、
その後は週に1回の施行を繰り返します。
クロルヘキシジンによる全身清拭(もしくはシャワー)は、
施設の入浴のタイミングに合わせて施行し、
クロルヘキシジンを含むクロスで全身を隈なく拭き、
自然乾燥させます。
その結果、
観察期間中の感染症による入院は、
除菌施行施設においては、
除菌開始後に17%(95%CI:0.79から0.88)有意に低下し、
未施行施設と比較して、
16.6%(95%CI:11.0から21.8)のリスク低下を示しました。
また、除菌施行施設における感染症を含む全ての入院のリスクは、
除菌未施行施設と比較して
14.6%(95%CI:9.7から19.2)こちらも有意に低下していました。
このように、
継続的に皮膚と鼻腔の除菌を施行することにより、
感染症の重症化が一定レベル予防可能であることが、
今回の検証において確認されました。
こうした介入は施設職員にかなりの労力を強いるもので、
効果がその労力に見合っているのかと考えると、
少し微妙な点はあるように思います。
またクロルヘキシジンは有害性の低い消毒剤ですが、
それでも皮膚の常在菌を含めた除菌を継続的に長期間行うことが、
本当に悪影響はないのか、
という点についても、
より詳細な検証は必要であると思います。
ただ、こうした対応を常に行うということではなく、
感染症の流行時などに一時的に行うことは、
感染防御の面で検討に値する対応ではあり、
今後そうした適応の問題を含めて、
様々な議論の成されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年10月10日付で掲載された、
老人ホームにおける除菌介入の有効性についての論文です。
感染症の流行時に必ず問題となるのは、
老人ホームなどの高齢者施設における集団感染です。
高齢者施設の高齢者の多くは慢性の病気を持ち、
免疫力も低下しているので、
感染のリスクは非常に高く、
一旦感染すると重症化のリスクも高く、
予後の悪いことで知られています。
特に認知症の高齢者では、
マスクや手洗い、咳エチケットなどの感染対策も、
大半は施行困難なので、
一旦感染者が出現すると、
瞬く間に施設の殆どの入所者が感染、
という事態が想定されるのです。
それでは、この集団感染を予防する、
有効な方策はあるのでしょうか?
感染は最初職員から持ち込まれることが多いので、
職員がしっかり感染対策をすることが何より大切です。
また、インフルエンザや新型コロナのように、
ワクチンで予防可能な疾患であれば、
ワクチン接種を適切に行うことも有効な方法です。
しかし、実際にはそうした感染対策に留意していても、
それだけで高齢者施設の集団感染を防ぐことは出来ません。
それでは、何か有効な対策はないのでしょうか?
病気を持っている高齢者は、
MRSAなどの耐性菌を、
鼻腔は皮膚などに保持していることが多く、
それが感染の悪化に繋がっているという指摘があります。
それでは、定期的に鼻腔や肌の除菌を行うことで、
高齢者の感染を防ぐことが可能なのではないでしょうか?
今回の研究では、
日本の特別養護老人ホームに近い施設である、
アメリカのナーシングホームにおいて、
ポビドンヨード(イソジン)による鼻腔の除菌と、
クロルヘキシジンという消毒剤による皮膚の除菌を、
継続的に入所者に施行することによって、
感染症の発症と重症化を、
予防出来るかどうかを検証しています。
アメリカの28か所のナーシングホームの入所者、
トータル28956名が対象です。
28か所のホームをくじ引きで14か所ずつに分けると、
一方は通常の感染対策のみを行い、
もう一方はポビドンヨード(イソジン)による鼻腔の除菌と、
クロルヘキシジンによる全身の清拭による除菌を行い、
それを18か月継続した効果を比較検証しています。
ヨードのよる鼻腔の除菌は、
施設入所時には1日2回5日連続で施行し、
その後は週に1回の施行を繰り返します。
クロルヘキシジンによる全身清拭(もしくはシャワー)は、
施設の入浴のタイミングに合わせて施行し、
クロルヘキシジンを含むクロスで全身を隈なく拭き、
自然乾燥させます。
その結果、
観察期間中の感染症による入院は、
除菌施行施設においては、
除菌開始後に17%(95%CI:0.79から0.88)有意に低下し、
未施行施設と比較して、
16.6%(95%CI:11.0から21.8)のリスク低下を示しました。
また、除菌施行施設における感染症を含む全ての入院のリスクは、
除菌未施行施設と比較して
14.6%(95%CI:9.7から19.2)こちらも有意に低下していました。
このように、
継続的に皮膚と鼻腔の除菌を施行することにより、
感染症の重症化が一定レベル予防可能であることが、
今回の検証において確認されました。
こうした介入は施設職員にかなりの労力を強いるもので、
効果がその労力に見合っているのかと考えると、
少し微妙な点はあるように思います。
またクロルヘキシジンは有害性の低い消毒剤ですが、
それでも皮膚の常在菌を含めた除菌を継続的に長期間行うことが、
本当に悪影響はないのか、
という点についても、
より詳細な検証は必要であると思います。
ただ、こうした対応を常に行うということではなく、
感染症の流行時などに一時的に行うことは、
感染防御の面で検討に値する対応ではあり、
今後そうした適応の問題を含めて、
様々な議論の成されることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「キリエのうた」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
岩井俊二さんの新作映画が今公開されています。
岩井さんの映画は、
個人的には「リップヴァンウィンクルの花嫁」が、
何と言っても素晴らしくて、
これはもう僕のオールタイムベストの1本です。
ただ「LOVE LETTER」と「ラストレター」は、
あまり乗らなかったですし、
「スワロウテイル」は公開当時に物凄く期待をして観に行って、
「何だかなあ」という感想でした。
そんな訳で好き嫌いの大きな岩井映画ですが、
今回の作品は「リップヴァンウィンクルの花嫁」ほどではないのですが、
最初のかすれ声のオフコースから、
「いいな、いいな」と思って観ていて、
その後の展開の程よい「おとぎ話」感が心地良く、
ヒロインの歌声が素晴らしいですし、
途中で震災の場面は、
あまりにリアリティのない絵作りで、
ここは「オヤオヤ」という感じはしたのですが、
ラストにオフコースが再現された時には、
結構満足感がありました。
まあ、「リップヴァンウィンクル…」的な世界と、
「ラストレター」的な世界のミックスなのですが、
個人的には「リップヴァンウィンクル…」的部分がとても良くて、
「ラストレター」的な部分もそれほど邪魔にはならなかった、
という作品でした。
アイナ・ジ・エンドさんの個性を巧みに利用していて、
まあ岩井さん的にはCharaさんやCcccoさんの相似形なのですが、
今回アイナさんの歌う小林武史さんの楽曲は、
テーマ曲の1曲だけなんですね。
後は彼女自身の思いつくまま叫んでみた、
みたいな感じのもので、
それを巧みに利用して、
物語自体に何処に行くか分からないという感じの、
不安を孕んだ疾走感のようなものが生まれています。
対峙される広瀬すずさんがまたいいんですよね。
彼女はどんな役をやるときでも、
何か媚びたような計算を感じるのですが、
それを役柄にそのまま映しているのが岩井さんの卓越したセンスで、
その哀しさがラストは心に滲みました。
岩井さんの作品は、
何か禍々しい悪、
それは通常「男」ということなのですが、
そうしたものが登場する作品がいいんですね。
今回は最近の映画で、
男の醜悪さを一手に引き受けているような、
異能の松浦祐也さんが登場し、
北村有起哉さんとハミングの歌しか歌わない石井竜也さんなど、
禍々しさを振りまいているのが、
とても魅力的でした。
物凄く拘って作っている映画の筈なのに、
あの震災の場面の噓臭さと凡庸さは、
一体何なのかなあ、
という感じはどうしても残るのですが、
トータルには心に残るとても素敵な映画で、
最近では一番のお勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
岩井俊二さんの新作映画が今公開されています。
岩井さんの映画は、
個人的には「リップヴァンウィンクルの花嫁」が、
何と言っても素晴らしくて、
これはもう僕のオールタイムベストの1本です。
ただ「LOVE LETTER」と「ラストレター」は、
あまり乗らなかったですし、
「スワロウテイル」は公開当時に物凄く期待をして観に行って、
「何だかなあ」という感想でした。
そんな訳で好き嫌いの大きな岩井映画ですが、
今回の作品は「リップヴァンウィンクルの花嫁」ほどではないのですが、
最初のかすれ声のオフコースから、
「いいな、いいな」と思って観ていて、
その後の展開の程よい「おとぎ話」感が心地良く、
ヒロインの歌声が素晴らしいですし、
途中で震災の場面は、
あまりにリアリティのない絵作りで、
ここは「オヤオヤ」という感じはしたのですが、
ラストにオフコースが再現された時には、
結構満足感がありました。
まあ、「リップヴァンウィンクル…」的な世界と、
「ラストレター」的な世界のミックスなのですが、
個人的には「リップヴァンウィンクル…」的部分がとても良くて、
「ラストレター」的な部分もそれほど邪魔にはならなかった、
という作品でした。
アイナ・ジ・エンドさんの個性を巧みに利用していて、
まあ岩井さん的にはCharaさんやCcccoさんの相似形なのですが、
今回アイナさんの歌う小林武史さんの楽曲は、
テーマ曲の1曲だけなんですね。
後は彼女自身の思いつくまま叫んでみた、
みたいな感じのもので、
それを巧みに利用して、
物語自体に何処に行くか分からないという感じの、
不安を孕んだ疾走感のようなものが生まれています。
対峙される広瀬すずさんがまたいいんですよね。
彼女はどんな役をやるときでも、
何か媚びたような計算を感じるのですが、
それを役柄にそのまま映しているのが岩井さんの卓越したセンスで、
その哀しさがラストは心に滲みました。
岩井さんの作品は、
何か禍々しい悪、
それは通常「男」ということなのですが、
そうしたものが登場する作品がいいんですね。
今回は最近の映画で、
男の醜悪さを一手に引き受けているような、
異能の松浦祐也さんが登場し、
北村有起哉さんとハミングの歌しか歌わない石井竜也さんなど、
禍々しさを振りまいているのが、
とても魅力的でした。
物凄く拘って作っている映画の筈なのに、
あの震災の場面の噓臭さと凡庸さは、
一体何なのかなあ、
という感じはどうしても残るのですが、
トータルには心に残るとても素敵な映画で、
最近では一番のお勧めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
肉を含まない食事の消化器癌予防効果(2023年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
European Journal of Gastroenterology誌に、
2023年9月18日付で掲載された、
消化器癌と食事との関連についてのレビューです。
胃癌や大腸癌などの消化管由来の癌は、
食生活との関連が強いことで知られています。
特に関連が強いとされているのは、
赤身の肉やソーセージなどの加工肉の摂取量で、
こうした食品を多く摂ることが、
胃癌や大腸癌のリスクを高めることは、
多くの疫学データで確認されています。
それでは、
通常に肉を食べる生活をしている人と比較して、
ベジタリアンのように肉を一切摂らないと、
どの程度胃癌や大腸癌の予防に繋がるのでしょうか?
今回のメタ解析では、
そうした肉を一切摂らないという食事が、
消化管由来の癌のリスクに与える影響を、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する手法で、
検証しています。
ベジタリアンダイエットにも、
色々な制限の種類がありますが、
今回の研究では、
肉とその加工品のみを摂らない食事を、
その対象としています。
これまでの8つの臨床研究に含まれる、
686691人の臨床データをまとめて解析し、
他の癌リスクに繋がる喫煙、飲酒などの因子を補正した結果、
肉を一切摂らない食生活は、
普通に肉を食べる生活と比較して、
消化管由来の癌のリスクを23%(95%CI:0.65から0.90)、
有意に低下させていました。
このリスク低下は胃癌で最も顕著で、
59%(95%CI:0.28から0.61)のリスク低下に結び付き、
大腸癌でも15%(95%CI:0.76から0.95)の有意なリスク低下を示していました。
このリスク低下には、
興味深いことに性差と地域差とがあり、
男性では顕著に見られた一方、
女性のみでは有意な差はなく、
アジアと北米のデータでは認められた一方で、
ヨーロッパでのデータでは有意な差は検出されませんでした。
このように、
肉食は消化管由来の癌、特に胃癌との関連が深く、
その制限はリスク低下に結び付く可能性があります。
ただ、その効果には性差は地域差があり、
今後どのような因子がその違いを生んでいるのが、
より詳細な検証が必要と考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
European Journal of Gastroenterology誌に、
2023年9月18日付で掲載された、
消化器癌と食事との関連についてのレビューです。
胃癌や大腸癌などの消化管由来の癌は、
食生活との関連が強いことで知られています。
特に関連が強いとされているのは、
赤身の肉やソーセージなどの加工肉の摂取量で、
こうした食品を多く摂ることが、
胃癌や大腸癌のリスクを高めることは、
多くの疫学データで確認されています。
それでは、
通常に肉を食べる生活をしている人と比較して、
ベジタリアンのように肉を一切摂らないと、
どの程度胃癌や大腸癌の予防に繋がるのでしょうか?
今回のメタ解析では、
そうした肉を一切摂らないという食事が、
消化管由来の癌のリスクに与える影響を、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する手法で、
検証しています。
ベジタリアンダイエットにも、
色々な制限の種類がありますが、
今回の研究では、
肉とその加工品のみを摂らない食事を、
その対象としています。
これまでの8つの臨床研究に含まれる、
686691人の臨床データをまとめて解析し、
他の癌リスクに繋がる喫煙、飲酒などの因子を補正した結果、
肉を一切摂らない食生活は、
普通に肉を食べる生活と比較して、
消化管由来の癌のリスクを23%(95%CI:0.65から0.90)、
有意に低下させていました。
このリスク低下は胃癌で最も顕著で、
59%(95%CI:0.28から0.61)のリスク低下に結び付き、
大腸癌でも15%(95%CI:0.76から0.95)の有意なリスク低下を示していました。
このリスク低下には、
興味深いことに性差と地域差とがあり、
男性では顕著に見られた一方、
女性のみでは有意な差はなく、
アジアと北米のデータでは認められた一方で、
ヨーロッパでのデータでは有意な差は検出されませんでした。
このように、
肉食は消化管由来の癌、特に胃癌との関連が深く、
その制限はリスク低下に結び付く可能性があります。
ただ、その効果には性差は地域差があり、
今後どのような因子がその違いを生んでいるのが、
より詳細な検証が必要と考えられます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
リウマチ性多発筋痛症に対するインターロイキン6受容体抗体の有効性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年10月5日付で掲載された、
リウマチ性多発筋痛症の新しい治療についての論文です。
リウマチ性多発筋痛症というのは、
50歳以上の高齢者に多い、
原因不明の炎症性の病気です。
熱が出て、全身特に首や肩の後ろ側や腰に強い、
筋肉痛のような痛みと、
関節リウマチを思わせる朝のこわばりがあるのですが、
関節リウマチの診断のための検査では、
リウマチとは診断されません。
クリニックでも時々遭遇する、
筋肉痛を伴う発熱症状では、
比較的多い病気です。
治療はステロイド(糖質コルチコイド)で、
通常プレドニンで1日15から20㎎くらいを使用し、
それが数日以内に劇的な効果を示します。
ただ、問題はステロイドの減量に伴って、
痛みや熱などの症状が再燃することで、
上記文献の記載では患者さんの半数以上は、
ステロイドを完全に中止することが困難であるとされています。
クリニックでも概ね1日5㎎程度のステロイドを、
止むを得ず継続している患者さんがいます。
リウマチ性多発筋痛症は、
関節リウマチではありませんが、
リウマチでも関節炎の原因となっている、
炎症性のサイトカインが、
重要な役割を果たしていると考えられています。
その代表はインターロイキン6です。
関節リウマチの治療においては、
既にインターロイキン6に結合して、
その働きを低下させる抗体製剤が、
一般の臨床で使用されています。
それでは、リウマチ性多発筋痛症に、
こうした抗体製剤を活用することは有用なのでしょうか?
今回の研究は世界17か国の60の専門施設において、
リウマチ性多発筋痛症でプレドニンの治療を受け、
1日7.5㎎以上の用量で再燃の見られた、
トータル118名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はインターロイキン6の抗体製剤である、
サリルマブを月2回200㎎皮下注射し、
もう一方には偽薬を使用して、
その経過を52週に渡り観察しています。
プレドニンは最初2週間1日15㎎で使用し、
その後はサリルマブ群では14週掛けて減量中止を図り、
偽薬群では52週掛けてゆっくりと減量し中止を図ります。
(44週以降は1日1㎎の使用です)
その結果、
52週の時点で症状も検査値も改善が持続しており、
プレドニンも予定通りの減量が継続されている寛解は、
サリルマブ群の28%、偽薬群の10%に認められ、
寛解率はサリルマブの使用により、
18ポイント有意に改善していました。
52週の時点での累積のプレドニン使用量は、
中央値でサリルマブ群777㎎に対して、
偽薬群では2044㎎で、
サリルマブの使用により、
ステロイドの使用量が抑制されることが確認されました。
サリルマブ群では白血球減少などの有害事象は認められ、
薬価も非常に高額ですから、
臨床的に使用するべきとまでは、
言い切れる結果ではありませんが、
ステロイド治療でなかなか減量が困難な患者さんにとっては、
有用な選択肢であることは間違いがなく、
今後その適応の絞り込みなど、
更なる研究の蓄積に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年10月5日付で掲載された、
リウマチ性多発筋痛症の新しい治療についての論文です。
リウマチ性多発筋痛症というのは、
50歳以上の高齢者に多い、
原因不明の炎症性の病気です。
熱が出て、全身特に首や肩の後ろ側や腰に強い、
筋肉痛のような痛みと、
関節リウマチを思わせる朝のこわばりがあるのですが、
関節リウマチの診断のための検査では、
リウマチとは診断されません。
クリニックでも時々遭遇する、
筋肉痛を伴う発熱症状では、
比較的多い病気です。
治療はステロイド(糖質コルチコイド)で、
通常プレドニンで1日15から20㎎くらいを使用し、
それが数日以内に劇的な効果を示します。
ただ、問題はステロイドの減量に伴って、
痛みや熱などの症状が再燃することで、
上記文献の記載では患者さんの半数以上は、
ステロイドを完全に中止することが困難であるとされています。
クリニックでも概ね1日5㎎程度のステロイドを、
止むを得ず継続している患者さんがいます。
リウマチ性多発筋痛症は、
関節リウマチではありませんが、
リウマチでも関節炎の原因となっている、
炎症性のサイトカインが、
重要な役割を果たしていると考えられています。
その代表はインターロイキン6です。
関節リウマチの治療においては、
既にインターロイキン6に結合して、
その働きを低下させる抗体製剤が、
一般の臨床で使用されています。
それでは、リウマチ性多発筋痛症に、
こうした抗体製剤を活用することは有用なのでしょうか?
今回の研究は世界17か国の60の専門施設において、
リウマチ性多発筋痛症でプレドニンの治療を受け、
1日7.5㎎以上の用量で再燃の見られた、
トータル118名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はインターロイキン6の抗体製剤である、
サリルマブを月2回200㎎皮下注射し、
もう一方には偽薬を使用して、
その経過を52週に渡り観察しています。
プレドニンは最初2週間1日15㎎で使用し、
その後はサリルマブ群では14週掛けて減量中止を図り、
偽薬群では52週掛けてゆっくりと減量し中止を図ります。
(44週以降は1日1㎎の使用です)
その結果、
52週の時点で症状も検査値も改善が持続しており、
プレドニンも予定通りの減量が継続されている寛解は、
サリルマブ群の28%、偽薬群の10%に認められ、
寛解率はサリルマブの使用により、
18ポイント有意に改善していました。
52週の時点での累積のプレドニン使用量は、
中央値でサリルマブ群777㎎に対して、
偽薬群では2044㎎で、
サリルマブの使用により、
ステロイドの使用量が抑制されることが確認されました。
サリルマブ群では白血球減少などの有害事象は認められ、
薬価も非常に高額ですから、
臨床的に使用するべきとまでは、
言い切れる結果ではありませんが、
ステロイド治療でなかなか減量が困難な患者さんにとっては、
有用な選択肢であることは間違いがなく、
今後その適応の絞り込みなど、
更なる研究の蓄積に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。