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多発性脳内出血の血液を介した感染リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
輸血により伝播される脳出血リスク因子.jpg
JAMA誌に2023年9月12日付で掲載された、
輸血を介して脳出血のリスク因子が伝播されるのではないか、
という興味深い内容の短報です。
本格的な論文ではなく、
興味深い知見なので、
まだ科学的にしっかり検証されていないものの、
今の時点で公表する、という意味合いのものです。

脳の中を栄養する血管が破綻して起こる、
「脳内出血」は、
一度発症してしまうと完治は難しい、
治療の困難な病気の1つです。

その原因として最も頻度が高いのは、
高血圧を原因として起こる高血圧性脳内出血ですが、
それ以外に特に高齢者において、
血圧とはあまり関連なく、
小さな脳出血が多発する病態のあることが知られています。
中にはMRIを撮影して初めて分かるというものもあり、
微小脳内出血のような言われ方をすることもあります。

近年の研究によりこの微小脳内出血は、
アルツハイマー型認知症の病因の1つとして想定されている、
変異したアミロイドβ蛋白の脳の血管への沈着が、
その原因であると考えられるようになっています。
これをアミロイドアンギオパチーと呼んでいます。

この変異したアミロイドβ蛋白の沈着が、
脳組織や血液を介して感染するのではないか、
という考え方があります。

以前狂牛病騒動で話題となった異常蛋白質のプリオンは、
脳組織などを介して、
ただの蛋白質でありながら感染する性質のあることが知られています。

アミロイドβ蛋白もプリオンと同じように、
生物から生物、人間から人間へと、
感染するのではないか、という推測があり、
その可能性を示唆する事例や研究結果が報告もされています。

認知症や脳内出血が感染するとしたら、
非常に恐ろしいことであるのは間違いがありません。

今回の研究は輸血によって多発性脳内出血の病因が、
伝播するのではないか、
という仮説のもとに、
疫学データからその可能性を検証しているものです。

スウェーデンとデンマークにおいて、
多発性脳内出血を発症した患者からの輸血と、
その後の受血者の出血リスクとの関連を調査しています。

対象はデンマークで赤血球輸血を受けた329512名と、
スウェーデンで輸血を受けた759858名で、
それぞれ中間値で6.1年と5.8年の経過観察が施行されています。

その結果、
経過中に多発性の脳内出血を発症した患者からの輸血は、
発症していない人からの輸血と比較して、
多発性脳内出血の発症リスクを、
スウェーデンのデータで2.73倍(95%CI:1.72から4.35)、
デンマークのデータで2.32倍(95%CI:1.04から5.19)、
それぞれ有意に増加させていました。

この結果は、
脳内出血を来した患者の血液に含まれる何等かの因子が、
輸血を介して受血者に伝わり、
脳内出血を誘発したという可能性を示唆するものです。

ただ、今回の対象は多発性の脳内出血患者全員で、
その全てがアミロイドアンギオパチーの患者ではなく、
高血圧性の脳内出血の患者も含まれています。
また、そうした出血誘発因子があるとしても、
その実体は現時点では不明です。

従って、今回のデータは、
「興味深い結果」という範疇を出ないものですが、
認知症や脳内出血の病因が血液を介して感染する可能性がある、
という知見は非常に興味深くかつ深刻なもので、
今後のより精度の高い検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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