藤崎翔「逆転美人」 [ミステリー]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
藤崎翔さんによる技巧的なミステリーで、
「世界でいちばん透き通った物語」を読んだ時に、
似た傾向の作品として紹介されていたので、
どんなものだろう、
と思って読んでみたものです。
帯にも、
「ミステリー史上初の伝説級トリックを見破れますか?」
と仰々しいことが書かれていますし、
予備知識があると良くないのではないかしらと思ったのですが、
格別そうしたことはなく読むことが出来ました。
ただ、ネットで「逆転美人」と検索すると、
ネタバレのキーワードが出て来るので、
これは本当に嫌な時代になったな、
というように感じました。
ご興味のある方には一読の価値はあるので、
是非お読み頂きたいのですが、
くれぐれも題名のキーワード検索などはしないようにして下さい。
ガッカリします。
それからちょっと読むのに忍耐が必要で、
前半が湊かなえさんや桐野夏生さんの、
イヤミスの模倣みたいになっているんですね。
これは意図的にそうしたスタイルにしているのですが、
湊さんや桐野さんほど上手くはないので、
それを延々読まされるとうんざりしてしまうのですが、
ここはすいません、忍耐で乗り切って下さい。
勿論それだけの小説ではなく、本質は後半にあるからです。
これはもうミステリー好きのための小説なので、
普通小説のお好きな方にはあまりお勧めは出来ません。
現実の事件をモチーフにした、
かなり深い考察があり、
ルッキズムについての考察もあって、
単純に技巧的なミステリーを書きたいという訳ではなくて、
かなり現代と格闘したいという思いがあって、
書かれた労作だと思うのですが、
普通の小説の好きな方には、
「それならもっとストレートに書いた方がいいのに」
という感想を持ってしまうと思うからです。
たとえば、佐藤正午さんの「身の上話」という小説があるでしょ。
内容的にはかなり似ている部分があるんですね。
人生の有為転変の不思議さであるとか、
「悪」の描き方みたいなものですね。
でも、「身の上話」は普通の小説好きに、
興奮と感銘を与える小説だと思いますが、
この「逆転美人」はそうではないですよね。
そこがこうした小説の弱点ではあるんですね。
本来は技巧に徹した方が良いのですが、
作者としては技巧だけの小説にはしたくない、
という思いも当然あるので、
テーマ的な部分をより膨らませたくなり、
それが全体のバランスを欠く結果になってしまうような気がします。
でも、そこが微笑ましくも感じられ、
僕自身は嫌いではありません。
この小説はスタイルは古典的で、
最初に手記があるという、
ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」のパターンですね。
あの小説は高校生の時に読んで、
結構興奮したことを覚えています。
傑作ですが、何度読んでも、
少し辻褄が合わないような感じがあるんですね。
そこに他の幾つかのミステリーの要素を取り込んで、
メタフィクション的に1つの本の形に全体を落とし込んでいます。
相当苦労して書かれたことの分かる作品で、
少し詰め込み過ぎかなという感じはしますが、
ミステリー好きには一度は読んで損はない力作だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
藤崎翔さんによる技巧的なミステリーで、
「世界でいちばん透き通った物語」を読んだ時に、
似た傾向の作品として紹介されていたので、
どんなものだろう、
と思って読んでみたものです。
帯にも、
「ミステリー史上初の伝説級トリックを見破れますか?」
と仰々しいことが書かれていますし、
予備知識があると良くないのではないかしらと思ったのですが、
格別そうしたことはなく読むことが出来ました。
ただ、ネットで「逆転美人」と検索すると、
ネタバレのキーワードが出て来るので、
これは本当に嫌な時代になったな、
というように感じました。
ご興味のある方には一読の価値はあるので、
是非お読み頂きたいのですが、
くれぐれも題名のキーワード検索などはしないようにして下さい。
ガッカリします。
それからちょっと読むのに忍耐が必要で、
前半が湊かなえさんや桐野夏生さんの、
イヤミスの模倣みたいになっているんですね。
これは意図的にそうしたスタイルにしているのですが、
湊さんや桐野さんほど上手くはないので、
それを延々読まされるとうんざりしてしまうのですが、
ここはすいません、忍耐で乗り切って下さい。
勿論それだけの小説ではなく、本質は後半にあるからです。
これはもうミステリー好きのための小説なので、
普通小説のお好きな方にはあまりお勧めは出来ません。
現実の事件をモチーフにした、
かなり深い考察があり、
ルッキズムについての考察もあって、
単純に技巧的なミステリーを書きたいという訳ではなくて、
かなり現代と格闘したいという思いがあって、
書かれた労作だと思うのですが、
普通の小説の好きな方には、
「それならもっとストレートに書いた方がいいのに」
という感想を持ってしまうと思うからです。
たとえば、佐藤正午さんの「身の上話」という小説があるでしょ。
内容的にはかなり似ている部分があるんですね。
人生の有為転変の不思議さであるとか、
「悪」の描き方みたいなものですね。
でも、「身の上話」は普通の小説好きに、
興奮と感銘を与える小説だと思いますが、
この「逆転美人」はそうではないですよね。
そこがこうした小説の弱点ではあるんですね。
本来は技巧に徹した方が良いのですが、
作者としては技巧だけの小説にはしたくない、
という思いも当然あるので、
テーマ的な部分をより膨らませたくなり、
それが全体のバランスを欠く結果になってしまうような気がします。
でも、そこが微笑ましくも感じられ、
僕自身は嫌いではありません。
この小説はスタイルは古典的で、
最初に手記があるという、
ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」のパターンですね。
あの小説は高校生の時に読んで、
結構興奮したことを覚えています。
傑作ですが、何度読んでも、
少し辻褄が合わないような感じがあるんですね。
そこに他の幾つかのミステリーの要素を取り込んで、
メタフィクション的に1つの本の形に全体を落とし込んでいます。
相当苦労して書かれたことの分かる作品で、
少し詰め込み過ぎかなという感じはしますが、
ミステリー好きには一度は読んで損はない力作だと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。