杉井光「世界でいちばん透きとおった物語」 [小説]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日クリニックでレセプト作業の予定です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
今年文庫本形態で発売された杉井光さんの新作小説で、
非常に技巧的な内容で今話題になっているものです。
これは本好きの方なら一読の価値は絶対にあるので、
是非是非何の予備知識なくお読みください。
くれぐれもブログの感想などに目を通してはいけません。
以下ネタバレはありませんが、
何となく匂わせはあるので、
作品をお読みになった後で目を通して頂ければ幸いです。
よろしいでしょうか?
それでは続けます。
有名ミステリー作家の隠し子が主人公で、
癌で亡くなった、一度も会ったことはない父親が、
最後に残したミステリー小説の謎を追う、
という少年の両親探しの古典的な物語に、
ラストはこれまでにほぼ前例のない、
技巧的な真相が隠されています。
これはなかなか凄い小説で、
個人的には乾くるみさんの「イニシエーションラブ」
以来の感銘を受けました。
ともかく物凄い手間と執念とで成立している怪作です。
あとがきによると、
作者はある過去作にインスパイアされてこの作品を書いた、
と書かれていて、
その過去作も勿論読んでいるのですが、
間違いなくこちらの方が、
小説としての労力は格段に掛かっています。
ただ、あまりすっきりはしていなくて、
かなりそのアイデアを成立させている仕掛けが、
強引で無理矢理感があるので、
凄いな、とは思うのですが、
シンプルなどんでん返しにやられた、
というようなスカッとした感じはなくて、
伏線の1つ1つを含めて、
よくぞここまで粘ったな、というような、
その労力に感心する、という感じの作品です。
なので、
「イニシエーションラブ」も、
ちっとも感心などしない人が、
それなりの比率ではいるように、
この作品も、
「なんか無理矢理だな。何処が面白いの?」
というような人が、
一定数はいると思います。
技巧的なミステリーやマジック好きには、
これはもう絶対のお薦めですが、
「人工的なお話は好まない」という人や、
あまり読書が好きではない人には、
向いていないという気がします。
それから、こういう小説は、
必ず「途中で真相が分かった」というような人がいるのですね。
勿論そうした「不幸な人」が、
一定数世の中にいるのは事実だと思います。
ただ、マジックの種が「分かった」という人の多くが、
実際には正確に分かってはいないように、
「途中で分かった」という人の多くも、
大抵は何となく分かった気がしているだけなのです。
こういう仕掛けのある小説は、
100人読んで全員見抜けなかったら失敗なんですね。
誰も分からない真相というのは、
唐突で納得のいかない真相であるからです。
何となくわかる感じでちゃんとは分からない、というくらいが、
こうした作品の成功の肝で、
その点でもこの作品は、
なかなかいい線をいっていると思いました。
いずれにしても、
作者が拘り抜いた、
とんでもない力作で、
是非是非読んでびっくりして頂きたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日クリニックでレセプト作業の予定です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
今年文庫本形態で発売された杉井光さんの新作小説で、
非常に技巧的な内容で今話題になっているものです。
これは本好きの方なら一読の価値は絶対にあるので、
是非是非何の予備知識なくお読みください。
くれぐれもブログの感想などに目を通してはいけません。
以下ネタバレはありませんが、
何となく匂わせはあるので、
作品をお読みになった後で目を通して頂ければ幸いです。
よろしいでしょうか?
それでは続けます。
有名ミステリー作家の隠し子が主人公で、
癌で亡くなった、一度も会ったことはない父親が、
最後に残したミステリー小説の謎を追う、
という少年の両親探しの古典的な物語に、
ラストはこれまでにほぼ前例のない、
技巧的な真相が隠されています。
これはなかなか凄い小説で、
個人的には乾くるみさんの「イニシエーションラブ」
以来の感銘を受けました。
ともかく物凄い手間と執念とで成立している怪作です。
あとがきによると、
作者はある過去作にインスパイアされてこの作品を書いた、
と書かれていて、
その過去作も勿論読んでいるのですが、
間違いなくこちらの方が、
小説としての労力は格段に掛かっています。
ただ、あまりすっきりはしていなくて、
かなりそのアイデアを成立させている仕掛けが、
強引で無理矢理感があるので、
凄いな、とは思うのですが、
シンプルなどんでん返しにやられた、
というようなスカッとした感じはなくて、
伏線の1つ1つを含めて、
よくぞここまで粘ったな、というような、
その労力に感心する、という感じの作品です。
なので、
「イニシエーションラブ」も、
ちっとも感心などしない人が、
それなりの比率ではいるように、
この作品も、
「なんか無理矢理だな。何処が面白いの?」
というような人が、
一定数はいると思います。
技巧的なミステリーやマジック好きには、
これはもう絶対のお薦めですが、
「人工的なお話は好まない」という人や、
あまり読書が好きではない人には、
向いていないという気がします。
それから、こういう小説は、
必ず「途中で真相が分かった」というような人がいるのですね。
勿論そうした「不幸な人」が、
一定数世の中にいるのは事実だと思います。
ただ、マジックの種が「分かった」という人の多くが、
実際には正確に分かってはいないように、
「途中で分かった」という人の多くも、
大抵は何となく分かった気がしているだけなのです。
こういう仕掛けのある小説は、
100人読んで全員見抜けなかったら失敗なんですね。
誰も分からない真相というのは、
唐突で納得のいかない真相であるからです。
何となくわかる感じでちゃんとは分からない、というくらいが、
こうした作品の成功の肝で、
その点でもこの作品は、
なかなかいい線をいっていると思いました。
いずれにしても、
作者が拘り抜いた、
とんでもない力作で、
是非是非読んでびっくりして頂きたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。