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別役実「カラカラ天気と五人の紳士」(2024年加藤拓也演出版)(ネタバレ注意) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カラカラ天気と五人の紳士.jpg
別役実さんの旧作が、
気鋭の加藤拓也さんの演出で、
堤真一さんを初めとする、
超豪華なキャストで上演されました。

これは1992年に俳優座劇場で初演されたもので、
1971年に「ポンコツ車と五人の紳士」という作品があって、
それをアレンジした続編が1991年に発表され、
その更に続編的な体裁のものです。

以下内容に踏み込んだ記載になりますので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読み下さい。

よろしいでしょうか?

それでは進めます。

俳優座劇場で5人くらいの男が出て来るお芝居というのは、
概ね学生運動のお話なんですね。
別役さんは本当に幅の広い作品を書かれているのですが、
そのうちの1つの山が、
閉鎖空間で学生運動の闘争している同士達が、
不条理な対立から自滅するようなドラマで、
それを執拗に変奏曲のように書き続けています。

それを今回の作品では、
5人の男が最初から棺桶を1つ持って登場して、
そこに誰かを入れなきゃいけないのだけれど、
それは誰でどう死ねば良いのだろう、
という不毛な議論を始めるという設定で描いているのです。

こういうお話も別役さんには沢山あるのですが、
今回の作品の特徴は途中で2人のパラソルの女性が現れて、
そそくさと先に死んでしまうのですね。
それも踏切で勇敢に列車と対決する、
という活動家の鑑のような死に方をするのですが、
それでも残された五人の男達は、
「分別」のために死にきれず、
正々堂々と死を待っているのだ、
という言い訳をしながら、
その場から動くことが出来ないのです。

まあ、今の時代ではあまりピンと来ない感じのお話なんですね。

何故わざわざこんな戯曲を、
加藤さんが発掘したのかな、と思うのですが、
カラカラ天気で水が1滴もなく、
皆死んでしまうことが明らかな状況であるのに、
それでも「誰が先にどう死ぬべきか」みたいな無駄なやり取りをしながら、
本質的な危機には向き合おうとしない、
という登場人物達の姿に、
おそらく現代の日本を投影させているからなんですね。

これ、舞台セットが斬新なんですね。
地下鉄の構内のホームの部分が、
架空の駅なのですが実にリアルかつ緻密に造り込まれていて、
客席が線路になっているんですね。
つまり、客席にダイブすることがすなわち「死」になっているのです。

上手く考えていますよね。
原作の電信柱を、
地下駅にありそうな金属の柱にしている点も、
なるほどと思う改変です。

ただ、こんな風に現代化することが、
果たしてどうなのか、という点はちょっと疑問です。

もともと現代日本の終末論を描いた作品ではない訳ですし、
踏切も電信柱もよれよれのフロックコートを着た紳士というのも、
その表象こそが別役実さんの戯曲そのものでもある訳で、
それをこのように変えてしまうことは、
少なくとも別役戯曲の上演では、
なかったような気もするのです。

加藤さんの演出は、
安部公房さんの「友達」の時も思いましたが、
最初の異化効果は斬新で強烈であるものの、
それが作品の中では、
あまり活かされているという気がしないので、
戯曲の本質を伝える、
という性質のものではないような気がしました。

キャストは豪華過ぎるほど豪華で、
何もここまで豪華にする必要があったのか、
という気はするのですが、
決して無駄に豪華ではなくて、
豪華なキャストならではのクオリティに、
仕上がっていたという気がします。
中心的役割を果たしていたのは小手伸也さんで、
彼が口にする別役台詞には、
何かこれまでにない新鮮さがありました。
堤真一さんは座組の中では役柄も小さく、
さすがに勿体ないとは感じました。

別役さんの舞台は、
アマチュアの役者さんがやっても、
新劇の円熟した役者さんのアンサンブルで上演されても、
今回のような変則的な企画公演で、
通常はないような豪華キャストで上演されても、
その上演の核の部分の印象には差がない、
という点でかなり特殊なお芝居である、
と言う言い方は出来そうです。

総じて今回の作品は別役さんの膨大な戯曲の中では、
それほど傑出したものではなく、
アドリブ的に書きなぐった小品、
という印象のものなので、
もっと上演に値する作品があったのではないかしら、
という気はするのですが、
僕はともかく別役戯曲が上演されるのを観るのが大好きなので、
今回も楽しく鑑賞することが出来ました。

ただ、上演時間は1時間10分程度
(これは俳優座劇場上演の作品では標準的です)で、
盛り上がるような要素もあまりないので、
座組の魅力だけで楽しみに来た、
という観客の方は、
落胆されたかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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