EPA製剤の心房細動リスクについて [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2024年11月13日付で、
厚労省はEPA製剤の添付文書の改訂指示を出しました。
重大な副作用の項に「心房細動、心房粗動」の病名が追加されたのです。
EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分が不足していると、
心血管疾患のリスクが高まる、
という点はほぼ間違いのない事実です。
ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。
日本にはエパデール(及びそのジェネリック)というEPA製剤と、
ロトリガというEPAとDHAの合剤があり、
海外の多くの国とは違って、
処方箋薬として流通しているのが大きな特徴です。
国外ではEPAもDHAもほぼ全てサプリメントの扱いだからです。
エパデールについては、
2007年のLancet誌に掲載されたJELISという臨床試験があり、
コレステロール降下剤のスタチンに上乗せでEPAを使用したところ、
心血管疾患のリスクが低下し、
特にサブ解析では脳卒中のリスクが20%低下した、
という結果が得られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17398308/
ただ、その後の多くの同様の臨床試験では、
こうしたEPAの効果は確認されませんでした。
しかし、2019年にNew England…誌に掲載された論文では、
心血管疾患のリスクが高くスタチンを使用している患者に対して、
1日4グラムという高用量のEPA製剤を用いて、
心血管疾患による死亡などのリスクが25%、
有意に低下したという結果が報告されました。
偽薬を使用した厳密な方法による臨床試験で、
こうした結果が得られたのはかなり画期的なことでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415628/
その一方で、2020年のJAMA誌に掲載された、
EPAなどのオメガ3系脂肪酸を、
コーン油と比較したスタチンへの上乗せ試験では、
オメガ3系脂肪酸にコーン油を上回る有効性は確認されませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33190147/
このようにスタチンの上乗せでEPA製剤に有効性があるかどうかも、
まだ一致した結論には到っていないのです。
国産のデータでは、
Circulation誌に2024年6月14日付で掲載された、
青身魚に多く含まれる脂肪酸の、
心血管疾患に対する有効性についての論文があり、
日本の複数施設において、
虚血性心疾患で治療中でスタチンを使用しており、
更に血液の脂肪酸組成で、
動脈硬化を進行させる可能性が高いアラキドン酸に対して、
EPAが比較的低値(EPA/AA比が0.4未満)の対象者に対して、
純度の高いEPA製剤を使用したところ、
心臓突然死と急性心筋梗塞、不安定狭心症、カテーテル治療を併せたリスクが、
EPA使用群で未使用群と比較して、
27%有意に低下したという結果が発表されています。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.123.065520?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
ただ、このNEJM誌とCirculation誌の論文において、
少し気になる点があるのは、
いずれの論文においても、
EPA製剤の使用群において、
心房細動の発症リスクが、
未使用と比較して高くなっていたことです。
具体的にはNEJM論文で3.1% vs 2.1%、
Circulation論文で3.1% vs 1.6%でした。
このデータに説得力があるのは、
完全に別個に施行された精度の高い臨床データにおいて、
ほぼほぼ同一の結果が得られているためです。
ただ、どちらの論文においても、
そのメカニズムについての記載はなく、
現時点では理由は不明ということであるようです。
いずれにしても、
純度の高いEPA製剤をスタチンと併用で、
高用量で使用する際には、
心房細動の発症リスクがやや増加する可能性のあることを、
織り込んで考える必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2024年11月13日付で、
厚労省はEPA製剤の添付文書の改訂指示を出しました。
重大な副作用の項に「心房細動、心房粗動」の病名が追加されたのです。
EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分が不足していると、
心血管疾患のリスクが高まる、
という点はほぼ間違いのない事実です。
ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。
日本にはエパデール(及びそのジェネリック)というEPA製剤と、
ロトリガというEPAとDHAの合剤があり、
海外の多くの国とは違って、
処方箋薬として流通しているのが大きな特徴です。
国外ではEPAもDHAもほぼ全てサプリメントの扱いだからです。
エパデールについては、
2007年のLancet誌に掲載されたJELISという臨床試験があり、
コレステロール降下剤のスタチンに上乗せでEPAを使用したところ、
心血管疾患のリスクが低下し、
特にサブ解析では脳卒中のリスクが20%低下した、
という結果が得られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17398308/
ただ、その後の多くの同様の臨床試験では、
こうしたEPAの効果は確認されませんでした。
しかし、2019年にNew England…誌に掲載された論文では、
心血管疾患のリスクが高くスタチンを使用している患者に対して、
1日4グラムという高用量のEPA製剤を用いて、
心血管疾患による死亡などのリスクが25%、
有意に低下したという結果が報告されました。
偽薬を使用した厳密な方法による臨床試験で、
こうした結果が得られたのはかなり画期的なことでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415628/
その一方で、2020年のJAMA誌に掲載された、
EPAなどのオメガ3系脂肪酸を、
コーン油と比較したスタチンへの上乗せ試験では、
オメガ3系脂肪酸にコーン油を上回る有効性は確認されませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33190147/
このようにスタチンの上乗せでEPA製剤に有効性があるかどうかも、
まだ一致した結論には到っていないのです。
国産のデータでは、
Circulation誌に2024年6月14日付で掲載された、
青身魚に多く含まれる脂肪酸の、
心血管疾患に対する有効性についての論文があり、
日本の複数施設において、
虚血性心疾患で治療中でスタチンを使用しており、
更に血液の脂肪酸組成で、
動脈硬化を進行させる可能性が高いアラキドン酸に対して、
EPAが比較的低値(EPA/AA比が0.4未満)の対象者に対して、
純度の高いEPA製剤を使用したところ、
心臓突然死と急性心筋梗塞、不安定狭心症、カテーテル治療を併せたリスクが、
EPA使用群で未使用群と比較して、
27%有意に低下したという結果が発表されています。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.123.065520?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
ただ、このNEJM誌とCirculation誌の論文において、
少し気になる点があるのは、
いずれの論文においても、
EPA製剤の使用群において、
心房細動の発症リスクが、
未使用と比較して高くなっていたことです。
具体的にはNEJM論文で3.1% vs 2.1%、
Circulation論文で3.1% vs 1.6%でした。
このデータに説得力があるのは、
完全に別個に施行された精度の高い臨床データにおいて、
ほぼほぼ同一の結果が得られているためです。
ただ、どちらの論文においても、
そのメカニズムについての記載はなく、
現時点では理由は不明ということであるようです。
いずれにしても、
純度の高いEPA製剤をスタチンと併用で、
高用量で使用する際には、
心房細動の発症リスクがやや増加する可能性のあることを、
織り込んで考える必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ウコン抽出物による急性肝障害 [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2023年のthe American Journal of Medicine誌に掲載された、
ウコン(ターメリック)抽出物の、
肝障害リスクについての論文です。
ウコン(ターメリック)はショウガの仲間の多年草で、
その根が香辛料として、
カレーなどに広く使用されています。
その黄色い色素の成分であるポリフェノールのクルクミンは、
抗炎症作用や抗酸化作用などが報告されています。
特にデータが多いのは抗炎症作用についてで、
膝の関節炎に効果があったとする報告が、
複数論文化されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32926799/
日本ではウコンは二日酔いに効果があるとして、
栄養ドリンクなどで広く使用されています。
これも抗炎症作用が背景にあると想定されますが、
あまり科学的な検証が行われている訳ではないようです。
ただ、ウコンが二日酔いに効くという宣伝から、
ウコン自体が肝臓に良い成分であるかのように、
一般に受け止められるようになっていることは事実で、
この点は問題が大きいように思います。
実際にはその点はむしろ逆で、
ウコンは健康食品やサプリメントの中では、
薬剤性肝障害を起こす可能性の高い成分なのです。
たとえば、2005年の「肝臓」誌に掲載された、
「民間薬および健康食品による薬物性肝障害の調査」によると、
医療機関から集められた、
健康食品などによる薬剤性肝障害の事例89例のうち、
最も多かったのはウコンで、
事例は29件、全体の24.9%という高率でした。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/46/3/46_3_142/_article/-char/ja/
ウコンの摂取は圧倒的にアジアで多いのですが、
アメリカにおいてもそうした事例は報告されており、
そのうちの10例をまとめているのが、
今回ご紹介した論文です。
アメリカの事例は、
関節炎の民間療法としてウコンが使用されて発症した事例が多く、
そのため患者の多くは中年以降の女性です。
肝細胞の好酸球主体の炎症が、
サプリメント内服後1から4か月程度の期間をおいて、
発症していることが多いようです。
その多くはウコンの摂取中止により回復していますが、
劇症化して死亡に至った事例も報告されています。
ウコンは非常に吸収が悪く、
そのため比較的大量に摂取しても、
身体に大きな影響は与えない、
と想定されていたのですが、
ブラックペッパーに含まれるピぺリンが、
ウコンの吸収を数十倍高めることが分かってから、
ブラックペッパーを添加した製品が流通し、
それがアメリカでの被害の拡大に結び付いているのではないかと、
上記文献では考察されています。
いずれにしても、
肝機能が悪いような人が、
お酒を飲んだ後でウコンを摂取する、
というようなケースは、
実際には急性肝障害のリスクを高める行為なので、
ウコンをサプリメントやドリンク剤で摂ることは、
肝障害のある人にとっては禁忌であると、
そのくらいに考えておいた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2023年のthe American Journal of Medicine誌に掲載された、
ウコン(ターメリック)抽出物の、
肝障害リスクについての論文です。
ウコン(ターメリック)はショウガの仲間の多年草で、
その根が香辛料として、
カレーなどに広く使用されています。
その黄色い色素の成分であるポリフェノールのクルクミンは、
抗炎症作用や抗酸化作用などが報告されています。
特にデータが多いのは抗炎症作用についてで、
膝の関節炎に効果があったとする報告が、
複数論文化されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32926799/
日本ではウコンは二日酔いに効果があるとして、
栄養ドリンクなどで広く使用されています。
これも抗炎症作用が背景にあると想定されますが、
あまり科学的な検証が行われている訳ではないようです。
ただ、ウコンが二日酔いに効くという宣伝から、
ウコン自体が肝臓に良い成分であるかのように、
一般に受け止められるようになっていることは事実で、
この点は問題が大きいように思います。
実際にはその点はむしろ逆で、
ウコンは健康食品やサプリメントの中では、
薬剤性肝障害を起こす可能性の高い成分なのです。
たとえば、2005年の「肝臓」誌に掲載された、
「民間薬および健康食品による薬物性肝障害の調査」によると、
医療機関から集められた、
健康食品などによる薬剤性肝障害の事例89例のうち、
最も多かったのはウコンで、
事例は29件、全体の24.9%という高率でした。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/46/3/46_3_142/_article/-char/ja/
ウコンの摂取は圧倒的にアジアで多いのですが、
アメリカにおいてもそうした事例は報告されており、
そのうちの10例をまとめているのが、
今回ご紹介した論文です。
アメリカの事例は、
関節炎の民間療法としてウコンが使用されて発症した事例が多く、
そのため患者の多くは中年以降の女性です。
肝細胞の好酸球主体の炎症が、
サプリメント内服後1から4か月程度の期間をおいて、
発症していることが多いようです。
その多くはウコンの摂取中止により回復していますが、
劇症化して死亡に至った事例も報告されています。
ウコンは非常に吸収が悪く、
そのため比較的大量に摂取しても、
身体に大きな影響は与えない、
と想定されていたのですが、
ブラックペッパーに含まれるピぺリンが、
ウコンの吸収を数十倍高めることが分かってから、
ブラックペッパーを添加した製品が流通し、
それがアメリカでの被害の拡大に結び付いているのではないかと、
上記文献では考察されています。
いずれにしても、
肝機能が悪いような人が、
お酒を飲んだ後でウコンを摂取する、
というようなケースは、
実際には急性肝障害のリスクを高める行為なので、
ウコンをサプリメントやドリンク剤で摂ることは、
肝障害のある人にとっては禁忌であると、
そのくらいに考えておいた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
GLP-1アナログ製剤の慢性腎臓病患者への有効性 [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2024年5月24日付でウェブ掲載された、
腎機能低下を合併する2型糖尿病患者に対する、
GLP-1アナログ製剤の有効性についての論文です。
2型糖尿病の治療に使用される薬剤として、
合併症である腎機能低下の進行予防効果が確認されているのは、
レニン・アンギオテンシン系の抑制剤以外には、
尿にブドウ糖を排泄する働きを持つ、
SGLT2阻害剤のみです。
GLP-1アナログも、
近年その評価が非常に高く、
心血管疾患の予後を改善し、
健康寿命を延長する効果も期待される薬剤です。
ただ、その腎機能低下を合併する患者さんへの有効性については、
まだ精度の高いデータは限られています。
そこで今回の研究では、
世界38か国の387の専門施設において、
2型糖尿病と慢性腎障害を合併している患者、
トータル3533名を患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はGLP-1アナログの注射薬であるセマグルチド
(日本の商品名オゼンピック)を、
週1回0.25㎎からスタートして、
問題なければ週1回1.0㎎まで増量。
もう一方は偽の注射を同じように使用して、
中央値で3.4年の経過観察を施行しています。
(試験期間は中間解析の結果により予定より早期に終了)
これは日本でも使用されている用量と同じです。
レニン・アンジオテンシン系の抑制薬とSGLT2阻害剤などは、
通常通りで使用継続されています。
対象となる慢性腎臓病は、
推計糸球体濾過量が50から75mL/min/1.73㎡で、
尿中のアルブミンが300mg/g・creatininより多いか、
推計糸球体濾過量が25から50mL/min/1.73㎡で、
尿中のアルブミンが100mg/g・creatininより多い患者とされ、
尿中アルブミンがクレアチニン換算で5グラムを超えるケースは除外されています。
その結果、
末期腎不全と腎機能の50%を超える低下、
心血管疾患や腎臓病による死亡を併せたリスクは、
偽注射群よりセマグルチド群で、
24%(95%CI:0.66から0.88)有意に低下していました。
また心血管疾患による死亡のリスクは18%(95%CI:0.68から0.98)、
総死亡のリスクも20%(95%CI:0.67から0.95)と、
いずれも有意にセマグルチド群で低下していました。
このように、
通常の治療にGLP-1アナログを上乗せすることにより、
腎障害を合併する患者さんの予後は、
トータルに改善しており、
SGLT2阻害剤と並んで、
GLP-1アナログの腎障害に対する有効性も、
今回のデータによりかなり明確に示された、
と言って良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2024年5月24日付でウェブ掲載された、
腎機能低下を合併する2型糖尿病患者に対する、
GLP-1アナログ製剤の有効性についての論文です。
2型糖尿病の治療に使用される薬剤として、
合併症である腎機能低下の進行予防効果が確認されているのは、
レニン・アンギオテンシン系の抑制剤以外には、
尿にブドウ糖を排泄する働きを持つ、
SGLT2阻害剤のみです。
GLP-1アナログも、
近年その評価が非常に高く、
心血管疾患の予後を改善し、
健康寿命を延長する効果も期待される薬剤です。
ただ、その腎機能低下を合併する患者さんへの有効性については、
まだ精度の高いデータは限られています。
そこで今回の研究では、
世界38か国の387の専門施設において、
2型糖尿病と慢性腎障害を合併している患者、
トータル3533名を患者にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はGLP-1アナログの注射薬であるセマグルチド
(日本の商品名オゼンピック)を、
週1回0.25㎎からスタートして、
問題なければ週1回1.0㎎まで増量。
もう一方は偽の注射を同じように使用して、
中央値で3.4年の経過観察を施行しています。
(試験期間は中間解析の結果により予定より早期に終了)
これは日本でも使用されている用量と同じです。
レニン・アンジオテンシン系の抑制薬とSGLT2阻害剤などは、
通常通りで使用継続されています。
対象となる慢性腎臓病は、
推計糸球体濾過量が50から75mL/min/1.73㎡で、
尿中のアルブミンが300mg/g・creatininより多いか、
推計糸球体濾過量が25から50mL/min/1.73㎡で、
尿中のアルブミンが100mg/g・creatininより多い患者とされ、
尿中アルブミンがクレアチニン換算で5グラムを超えるケースは除外されています。
その結果、
末期腎不全と腎機能の50%を超える低下、
心血管疾患や腎臓病による死亡を併せたリスクは、
偽注射群よりセマグルチド群で、
24%(95%CI:0.66から0.88)有意に低下していました。
また心血管疾患による死亡のリスクは18%(95%CI:0.68から0.98)、
総死亡のリスクも20%(95%CI:0.67から0.95)と、
いずれも有意にセマグルチド群で低下していました。
このように、
通常の治療にGLP-1アナログを上乗せすることにより、
腎障害を合併する患者さんの予後は、
トータルに改善しており、
SGLT2阻害剤と並んで、
GLP-1アナログの腎障害に対する有効性も、
今回のデータによりかなり明確に示された、
と言って良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)のメカニズム [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2024年2月19日付で掲載された解説記事ですが、
ゲリラ豪雨などの気象異常に伴って、
喘息発作が急激に増加する現象についての内容です。
これは最近時々一般の報道でも取り上げられていますね。
喘息発作は感染症やストレスなどをきっかけとして起こりますが、
特定の気象変化に伴って、
喘息発作が急増する現象が以前から報告されています。
それが非常に注目されたのは、
2016年の11月21日にオーストラリアのメルボルンで、
雷雨の後30時間以内に、
急性の呼吸困難で3365名の患者が救急受診した、
という事例が報告されたからです。
これを雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)と呼んでいます。
これは通常の救急受診率の672%という途方もない増加で、
このうちの476名はもともと喘息で治療中の患者の急性増悪で、
これも通常の救急受診率の992%という、
異常な増加でした。
35名の患者が集中治療室管理となり、
10名の患者が亡くなっています。
それでは、何故雷雨の後に喘息発作が急増したのでしょうか?
こうした現象のあること自体はそれ以前から知られていて、
それを2001年の段階で検証した論文がこちらです。
https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/56/6/468.full.pdf
主にブタクサなどのイネ科の花粉が、
飛散し易い状態になっている時期に、
ゲリラ豪雨のような雷雨が起こると、
その風雨によって飛散した花粉が空気中に巻き上げられ、
その急激な濃度上昇が、
喘息発作の原因になると想定されています。
花粉症がその日の飛散量によって症状が悪化し、
飛散量の多いシーズンでは、
普段は花粉症にならない人でも、
症状の出ることがしばしばありますが、
それと同様の現象と考えられるのです。
それ以外に雷の電荷の影響により、
花粉の粒子が破裂して発作を誘発する、
という仮説がそれ以前から提唱されていますが、
この2001年の論文ではその可能性には否定的です。
2023年には中国で同様の現象の報道があり、
日本ではまだ典型的な事例はないと思いますが、
天候変化にともなって、
喘息などの症状が悪化することは、
花粉症の時期には特に起こり易いことは事実と思われ、
今後その関連については、
臨床医の経験的印象のようなものではなく、
より科学的な検証が必要なように思います。
メルボルンの事例においては、
救急に多くの患者が押し寄せてパンク状態となり、
その対応が大きな課題として指摘されています。
ゲリラ豪雨のような現象の予測はなかなか困難で、
花粉の潜在的な飛散量との関連も、
現時点では推測の域を出ませんが、
新型コロナの流行期にも問題となったように、
救急患者が急増した時の短期的な対応をどうするべきかは、
より具体的な検証が必要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2024年2月19日付で掲載された解説記事ですが、
ゲリラ豪雨などの気象異常に伴って、
喘息発作が急激に増加する現象についての内容です。
これは最近時々一般の報道でも取り上げられていますね。
喘息発作は感染症やストレスなどをきっかけとして起こりますが、
特定の気象変化に伴って、
喘息発作が急増する現象が以前から報告されています。
それが非常に注目されたのは、
2016年の11月21日にオーストラリアのメルボルンで、
雷雨の後30時間以内に、
急性の呼吸困難で3365名の患者が救急受診した、
という事例が報告されたからです。
これを雷雨喘息(Thunderstorm Asthma)と呼んでいます。
これは通常の救急受診率の672%という途方もない増加で、
このうちの476名はもともと喘息で治療中の患者の急性増悪で、
これも通常の救急受診率の992%という、
異常な増加でした。
35名の患者が集中治療室管理となり、
10名の患者が亡くなっています。
それでは、何故雷雨の後に喘息発作が急増したのでしょうか?
こうした現象のあること自体はそれ以前から知られていて、
それを2001年の段階で検証した論文がこちらです。
https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/56/6/468.full.pdf
主にブタクサなどのイネ科の花粉が、
飛散し易い状態になっている時期に、
ゲリラ豪雨のような雷雨が起こると、
その風雨によって飛散した花粉が空気中に巻き上げられ、
その急激な濃度上昇が、
喘息発作の原因になると想定されています。
花粉症がその日の飛散量によって症状が悪化し、
飛散量の多いシーズンでは、
普段は花粉症にならない人でも、
症状の出ることがしばしばありますが、
それと同様の現象と考えられるのです。
それ以外に雷の電荷の影響により、
花粉の粒子が破裂して発作を誘発する、
という仮説がそれ以前から提唱されていますが、
この2001年の論文ではその可能性には否定的です。
2023年には中国で同様の現象の報道があり、
日本ではまだ典型的な事例はないと思いますが、
天候変化にともなって、
喘息などの症状が悪化することは、
花粉症の時期には特に起こり易いことは事実と思われ、
今後その関連については、
臨床医の経験的印象のようなものではなく、
より科学的な検証が必要なように思います。
メルボルンの事例においては、
救急に多くの患者が押し寄せてパンク状態となり、
その対応が大きな課題として指摘されています。
ゲリラ豪雨のような現象の予測はなかなか困難で、
花粉の潜在的な飛散量との関連も、
現時点では推測の域を出ませんが、
新型コロナの流行期にも問題となったように、
救急患者が急増した時の短期的な対応をどうするべきかは、
より具体的な検証が必要であるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
GLP-1アナログの膵臓癌リスク(2023年イスラエルの疫学データ) [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年1月4日付で掲載された、
糖尿病治療薬の膵癌リスクについての論文です。
GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。
もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。
GLP-1アナログが2型糖尿病の治療薬として、
有用な薬であることは間違いがありませんが、
その一方で吐き気などの消化器系の有害事象は多く、
胆石症や膵炎、膵癌などのリスクを増加させることを、
示唆するようなデータが報告されています。
このうち最も問題となるのは膵癌ですが、
これについては初期の臨床データや症例報告において、
そのリスク増加を指摘する報告があったものの、
その後のより大規模な疫学データやメタ解析においては、
概ねそのリスク増加は否定されています。
ただ、これまでの臨床データは規模の小さなものが多く、
その観察期間も5年以下と癌のリスクを云々するには短期間の者が多いので、
より大規模で長期の実臨床のデータが求められていました。
今回の研究はイスラエルにおいて、
医療保険の臨床データを解析したもので、
2009年から2017年の期間において、
21歳から89歳の年齢で2型糖尿病に罹患して治療を受けた、
トータル543595名を対象として、
7年を超える長期の経過観察を行っています。
全体の6.1%に当たる33377名がGLP-1アナログを使用し、
19.7%に当たる106849名がインスリンを使用していました。
観察期間において1665名が膵癌と診断され、
他の膵癌のリスクを補正した結果として、
インスリン治療と比較してGLP-1アナログの使用は、
有意な膵癌リスクの増加を認めませんでした。
データはより長期の観察が必要と考えられますが、
現状7年程度の観察期間において、
GLP-1アナログの使用は、
2型糖尿病の患者さんにおける膵癌リスクを、
増加させるという根拠は乏しいと、
そう考えて良いように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Network Open誌に、
2024年1月4日付で掲載された、
糖尿病治療薬の膵癌リスクについての論文です。
GLP-1アナログは、
人間の消化管から分泌されるホルモンである、
GLP-1と同じ作用を持つ薬剤で、
その膵臓を刺激してインスリン分泌を促し、
血糖を降下させる作用から、
糖尿病の治療薬として開発されて使用され、
その臨床データで体重減少効果が認められたことより、
最近では肥満症の治療薬としても注目されている薬剤です。
もともとは注射の製剤しかなかったのですが、
最近になって内服薬も開発され、
その使用のハードルはグッと下がりました。
GLP-1アナログが2型糖尿病の治療薬として、
有用な薬であることは間違いがありませんが、
その一方で吐き気などの消化器系の有害事象は多く、
胆石症や膵炎、膵癌などのリスクを増加させることを、
示唆するようなデータが報告されています。
このうち最も問題となるのは膵癌ですが、
これについては初期の臨床データや症例報告において、
そのリスク増加を指摘する報告があったものの、
その後のより大規模な疫学データやメタ解析においては、
概ねそのリスク増加は否定されています。
ただ、これまでの臨床データは規模の小さなものが多く、
その観察期間も5年以下と癌のリスクを云々するには短期間の者が多いので、
より大規模で長期の実臨床のデータが求められていました。
今回の研究はイスラエルにおいて、
医療保険の臨床データを解析したもので、
2009年から2017年の期間において、
21歳から89歳の年齢で2型糖尿病に罹患して治療を受けた、
トータル543595名を対象として、
7年を超える長期の経過観察を行っています。
全体の6.1%に当たる33377名がGLP-1アナログを使用し、
19.7%に当たる106849名がインスリンを使用していました。
観察期間において1665名が膵癌と診断され、
他の膵癌のリスクを補正した結果として、
インスリン治療と比較してGLP-1アナログの使用は、
有意な膵癌リスクの増加を認めませんでした。
データはより長期の観察が必要と考えられますが、
現状7年程度の観察期間において、
GLP-1アナログの使用は、
2型糖尿病の患者さんにおける膵癌リスクを、
増加させるという根拠は乏しいと、
そう考えて良いように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナワクチンの教訓 [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は保育園の検診や産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2023年2月9日掲載された解説記事ですが、
「2価新型コロナワクチンの教訓」と題されていて、
オミクロン株対応2価ワクチンの有効性についての内容です。
新型コロナウイルス感染症の予防のために、
迅速に開発されたワクチンは、
特にファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、
2種類のmRNAワクチンに関しては、
少なくても短期的には高い有効性が確認されています。
ただ、それはデルタ株の流行までの話で、
オミクロン株の感染に対しては、
感染予防効果はそれ以前の変異株と比較すると低く、
重症化予防効果しか期待出来ないのが実際です。
これはそれまで使用されていたワクチンが、
最初に中国の武漢で同定されたウイルス抗原を元にして作られたもので、
オミクロン株のスパイク蛋白とは、
30を超える変異が見つかっていることが、
その原因と考えられています。
そこで、オミクロン株のBA.1に対するワクチンが作られ、
続いて、BA.4とBA.5に対するワクチンが作られました。
しかし…
2022年11月22日に公表されたCDCによる報告によると、
オミクロン株のBA.4とBA.5を含む新型コロナワクチンを、
通常ワクチン接種後2、3か月で追加接種した時の
2か月以内の有症状感染の上乗せの予防効果は、
28から31%と算出されています。
これが通常ワクチン接種後8か月を超えて接種された場合には、
上乗せの予防効果は43から56%となっていました。
これはオミクロン対応のワクチンではなく、
従来型のワクチンを追加接種した場合と、
あまり差のない結果です。
実際従来型のワクチン接種後に、
オミクロン対応の2価ワクチンを追加接種した場合と、
従来のワクチンを追加接種した場合とで、
オミクロン株に対する中和抗体の上昇には、
有意な差はなかった、
という報告もあるのです。
本来は流行株に一致した抗原を含むワクチンを接種すれば、
抗体上昇は数倍から数十倍以上に達すると想定されていました。
それが、結果としては、
従来型のワクチンを追加接種した場合と比較して、
上昇するにしても軽度に留まり、
しかもその持続は数か月以内と、
非常に短いものでした。
何故こうした現象が起こったのでしょうか?
上記解説記事によると、
一番可能性の高い想定は、
従来型ワクチンを複数回接種することにより、
抗体産生の方向性が従来型抗原を主体としたものに規定され、
オミクロン株の抗原刺激が加わっても、
一部がそれにより変化しただけで、
免疫の主体は従来型に対するものから変わらなかったのではないか、
という推測がされています。
これはimprintingと呼ばれる現象です。
今回使用されたオミクロン対応のワクチンは、
トータルな抗原量は従来型のワクチンと同じで、
オミクロン由来の抗原と従来型の抗原に、
半分ずつ分けていたのですが、
オミクロン株由来の抗原のみのワクチンに、
した方が良かったのではないかとも指摘されています。
抗原変異のスピードは速く、
BA4.もBA5.も流行の主体から退場し、
今ではオミクロン株から派生して、
別の変異株が世界的に感染の主体となっています。
現行日本ではインフルエンザの感染の方が、
「感冒症状」の主体となり、
クリニック周辺では、
新型コロナは時々見かけるくらい、
という現状です。
今後のワクチンの開発や修正の方向性は、
今回の知見を教訓として、
感染症毎に別個の対応がなされる必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は保育園の検診や産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the New England Journal of Medicine誌に、
2023年2月9日掲載された解説記事ですが、
「2価新型コロナワクチンの教訓」と題されていて、
オミクロン株対応2価ワクチンの有効性についての内容です。
新型コロナウイルス感染症の予防のために、
迅速に開発されたワクチンは、
特にファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、
2種類のmRNAワクチンに関しては、
少なくても短期的には高い有効性が確認されています。
ただ、それはデルタ株の流行までの話で、
オミクロン株の感染に対しては、
感染予防効果はそれ以前の変異株と比較すると低く、
重症化予防効果しか期待出来ないのが実際です。
これはそれまで使用されていたワクチンが、
最初に中国の武漢で同定されたウイルス抗原を元にして作られたもので、
オミクロン株のスパイク蛋白とは、
30を超える変異が見つかっていることが、
その原因と考えられています。
そこで、オミクロン株のBA.1に対するワクチンが作られ、
続いて、BA.4とBA.5に対するワクチンが作られました。
しかし…
2022年11月22日に公表されたCDCによる報告によると、
オミクロン株のBA.4とBA.5を含む新型コロナワクチンを、
通常ワクチン接種後2、3か月で追加接種した時の
2か月以内の有症状感染の上乗せの予防効果は、
28から31%と算出されています。
これが通常ワクチン接種後8か月を超えて接種された場合には、
上乗せの予防効果は43から56%となっていました。
これはオミクロン対応のワクチンではなく、
従来型のワクチンを追加接種した場合と、
あまり差のない結果です。
実際従来型のワクチン接種後に、
オミクロン対応の2価ワクチンを追加接種した場合と、
従来のワクチンを追加接種した場合とで、
オミクロン株に対する中和抗体の上昇には、
有意な差はなかった、
という報告もあるのです。
本来は流行株に一致した抗原を含むワクチンを接種すれば、
抗体上昇は数倍から数十倍以上に達すると想定されていました。
それが、結果としては、
従来型のワクチンを追加接種した場合と比較して、
上昇するにしても軽度に留まり、
しかもその持続は数か月以内と、
非常に短いものでした。
何故こうした現象が起こったのでしょうか?
上記解説記事によると、
一番可能性の高い想定は、
従来型ワクチンを複数回接種することにより、
抗体産生の方向性が従来型抗原を主体としたものに規定され、
オミクロン株の抗原刺激が加わっても、
一部がそれにより変化しただけで、
免疫の主体は従来型に対するものから変わらなかったのではないか、
という推測がされています。
これはimprintingと呼ばれる現象です。
今回使用されたオミクロン対応のワクチンは、
トータルな抗原量は従来型のワクチンと同じで、
オミクロン由来の抗原と従来型の抗原に、
半分ずつ分けていたのですが、
オミクロン株由来の抗原のみのワクチンに、
した方が良かったのではないかとも指摘されています。
抗原変異のスピードは速く、
BA4.もBA5.も流行の主体から退場し、
今ではオミクロン株から派生して、
別の変異株が世界的に感染の主体となっています。
現行日本ではインフルエンザの感染の方が、
「感冒症状」の主体となり、
クリニック周辺では、
新型コロナは時々見かけるくらい、
という現状です。
今後のワクチンの開発や修正の方向性は、
今回の知見を教訓として、
感染症毎に別個の対応がなされる必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナとインフルエンザの同時感染の重症化リスク [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
今日は休みですが医学の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌に2022年4月16日掲載された解説記事ですが、
新型コロナウイルス感染症と他の風邪ウイルスとの、
同時感染のリスクについての論文です。
新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時感染が、
単独感染よりリスク増加に繋がるのでは、という意見があります。
それは事実でしょうか?
クリニックでは、
新型コロナとインフルエンザの同時検出のキットを活用していますが、
両方の陽性反応が同時に見られたケースは、
これまで1例のみで、
症状的には発熱など通常のインフルエンザや新型コロナの単独感染と、
特に変わりはありませんでした。
先日テレビをチラ見していたら、
新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時感染では、
重症化のリスクが高まるというデータが説明されていて、
その出典がランセットと書かれていました。
そんな論文あったかしらと、
あまり読んだ覚えがなかったので、
改めて検索してみたところ、
どうやら上記の解説記事にあるデータが、
その出典であるようです。
これはイギリスで入院治療をした新型コロナウイルス感染症患者、
トータル212466名で他の感冒ウイルスとの同時感染の有無を検証したもので、
そのうちの6965例で他の呼吸器感染症の原因ウイルスが検査されており、
8.4%に当たる583例で同時感染が認められました。
内訳は227例が季節性インフルエンザウイルス、
220例が咳を伴う症状のRSウイルス、
136例が下痢や扁桃炎などを起こすアデノウイルスでした。
そこで影響する因子を補正して検証したところ、
アデノウイルスやRSウイルスの同時感染では、
新型コロナのみの単独感染と比較して、
重症化のリスクには有意な差はありませんでしたが、
インフルエンザウイルスとの同時感染では、
人工呼吸器を装着するリスクが4.34倍(95%CI:2.00から8.49)、
入院中に死亡するリスクが2.35倍(95%CI:1.07から5.12)、
それぞれ有意に増加していました。
その結果を表にしたものがこちらになります。

これは敢くまで入院治療を要した、
比較的重症の事例に限ったデータである点には、
注意が必要ですが、
新型コロナとインフルエンザの同時感染では、
重症化や死亡のリスクが増加する可能性があることを留意して、
慎重な対応が必要であると考えた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
今日は休みですが医学の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌に2022年4月16日掲載された解説記事ですが、
新型コロナウイルス感染症と他の風邪ウイルスとの、
同時感染のリスクについての論文です。
新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時感染が、
単独感染よりリスク増加に繋がるのでは、という意見があります。
それは事実でしょうか?
クリニックでは、
新型コロナとインフルエンザの同時検出のキットを活用していますが、
両方の陽性反応が同時に見られたケースは、
これまで1例のみで、
症状的には発熱など通常のインフルエンザや新型コロナの単独感染と、
特に変わりはありませんでした。
先日テレビをチラ見していたら、
新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時感染では、
重症化のリスクが高まるというデータが説明されていて、
その出典がランセットと書かれていました。
そんな論文あったかしらと、
あまり読んだ覚えがなかったので、
改めて検索してみたところ、
どうやら上記の解説記事にあるデータが、
その出典であるようです。
これはイギリスで入院治療をした新型コロナウイルス感染症患者、
トータル212466名で他の感冒ウイルスとの同時感染の有無を検証したもので、
そのうちの6965例で他の呼吸器感染症の原因ウイルスが検査されており、
8.4%に当たる583例で同時感染が認められました。
内訳は227例が季節性インフルエンザウイルス、
220例が咳を伴う症状のRSウイルス、
136例が下痢や扁桃炎などを起こすアデノウイルスでした。
そこで影響する因子を補正して検証したところ、
アデノウイルスやRSウイルスの同時感染では、
新型コロナのみの単独感染と比較して、
重症化のリスクには有意な差はありませんでしたが、
インフルエンザウイルスとの同時感染では、
人工呼吸器を装着するリスクが4.34倍(95%CI:2.00から8.49)、
入院中に死亡するリスクが2.35倍(95%CI:1.07から5.12)、
それぞれ有意に増加していました。
その結果を表にしたものがこちらになります。

これは敢くまで入院治療を要した、
比較的重症の事例に限ったデータである点には、
注意が必要ですが、
新型コロナとインフルエンザの同時感染では、
重症化や死亡のリスクが増加する可能性があることを留意して、
慎重な対応が必要であると考えた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
新型コロナウイルスの死者はインフルエンザと同じくらい、は本当か? [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診です。
何もなければ積み残した仕事などして過ごす予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2020年5月14日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症による死亡数と、
季節性インフルエンザによる死亡数との差についての解説記事です。
アメリカでは2020年5月初めまでに、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のために、
65000人の死者が報告されています。
しかし、実はアメリカのCDCが発表している統計によると、
毎年の季節性インフルエンザによる死亡数も、
年による変動はありますが、
ほぼ同数の年もあるとされています。
それでは、
毎年同じように流行している季節性インフルエンザと、
新型コロナウイルスは、
同程度の重さの病気なのでしょうか?
確かにメディアなどでそうした発言をされている著明な方もいます。
「新型コロナウイルスと言っても、
季節性インフルエンザと同じくらいの患者しか死んでいない。
みんな怖がり過ぎているんだ」
というのです。
これは本当でしょうか?
新型コロナウイルスのパンデミックにおいては、
特に流行が爆発したニューヨーク州で、
深刻な医療崩壊が起こり、
公園の仮設の病院において、
人工呼吸器を並べて重傷者の診療を行っている、
というような報道がありました。
仮に季節性インフルエンザにおいても、
同じくらいの重傷者が出ているのだとすれば、
毎年医療崩壊が起こっていないとおかしい、
ということになります。
そんなことはないですよね。
一体何が間違っているのでしょうか?
新型コロナウイルスの死亡数というのは、
実際に報告された患者数を集計したものです。
その一方で季節性インフルエンザの死亡数というのは、
報告された死亡数のみではなく、
そこから全国の死亡数を推計して計算して出している数値なのです。
2013年から2019年のインフルエンザ流行期において、
年間の季節性インフルエンザによるアメリカ全土の死亡数は、
23000名から61000名の間の数字が年毎に報告されています。
しかし、実際に個別に報告された死亡数は3448名から15620名です。
要するに23000名から61000名という数値は、
3448名から15620名をサンプルとして考えた時に、
全国ではそのくらいの人数が死亡している筈だ、
という推測の数値にしか過ぎないのです。
これが2017年から2018年のシーズンでは、
推計された死亡数が61000名となっていて、
このシーズンのインフルエンザの流行はかなり深刻であった訳ですが、
それでも新型コロナウイルスに匹敵する、
というような数字ではないのです。
2020年の4月21日までの1週間で、
新型コロナウイルス感染症で死亡した人は、
15455名と報告されています。
同様の週毎の季節性インフルエンザによる死亡数は、
2013年から2020年の間では、
351名から1626名と報告されています。
つまり、季節性インフルエンザの死亡数の、
同じ期間で9.5から44.1倍、
平均で20.5倍の死亡が、
新型コロナウイルス感染症では起こっている、
というのが実数であることが分かります。
厳密に言えば、
インフルエンザによる死亡数も、
新型コロナウイルスの死亡数も、
いずれも少なからず漏れているケースが想定されますが、
いずれにしてもアメリカにおいて、
新型コロナウイルスのパンデミックの深刻さは、
季節性インフルエンザの10倍以上ではある、
というのが実際と考えて良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
(付記)
数字の記載に一部誤りがあり修正しました。
(2020年6月22日午後10時修正)
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診です。
何もなければ積み残した仕事などして過ごす予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA Internal Medicine誌に、
2020年5月14日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症による死亡数と、
季節性インフルエンザによる死亡数との差についての解説記事です。
アメリカでは2020年5月初めまでに、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のために、
65000人の死者が報告されています。
しかし、実はアメリカのCDCが発表している統計によると、
毎年の季節性インフルエンザによる死亡数も、
年による変動はありますが、
ほぼ同数の年もあるとされています。
それでは、
毎年同じように流行している季節性インフルエンザと、
新型コロナウイルスは、
同程度の重さの病気なのでしょうか?
確かにメディアなどでそうした発言をされている著明な方もいます。
「新型コロナウイルスと言っても、
季節性インフルエンザと同じくらいの患者しか死んでいない。
みんな怖がり過ぎているんだ」
というのです。
これは本当でしょうか?
新型コロナウイルスのパンデミックにおいては、
特に流行が爆発したニューヨーク州で、
深刻な医療崩壊が起こり、
公園の仮設の病院において、
人工呼吸器を並べて重傷者の診療を行っている、
というような報道がありました。
仮に季節性インフルエンザにおいても、
同じくらいの重傷者が出ているのだとすれば、
毎年医療崩壊が起こっていないとおかしい、
ということになります。
そんなことはないですよね。
一体何が間違っているのでしょうか?
新型コロナウイルスの死亡数というのは、
実際に報告された患者数を集計したものです。
その一方で季節性インフルエンザの死亡数というのは、
報告された死亡数のみではなく、
そこから全国の死亡数を推計して計算して出している数値なのです。
2013年から2019年のインフルエンザ流行期において、
年間の季節性インフルエンザによるアメリカ全土の死亡数は、
23000名から61000名の間の数字が年毎に報告されています。
しかし、実際に個別に報告された死亡数は3448名から15620名です。
要するに23000名から61000名という数値は、
3448名から15620名をサンプルとして考えた時に、
全国ではそのくらいの人数が死亡している筈だ、
という推測の数値にしか過ぎないのです。
これが2017年から2018年のシーズンでは、
推計された死亡数が61000名となっていて、
このシーズンのインフルエンザの流行はかなり深刻であった訳ですが、
それでも新型コロナウイルスに匹敵する、
というような数字ではないのです。
2020年の4月21日までの1週間で、
新型コロナウイルス感染症で死亡した人は、
15455名と報告されています。
同様の週毎の季節性インフルエンザによる死亡数は、
2013年から2020年の間では、
351名から1626名と報告されています。
つまり、季節性インフルエンザの死亡数の、
同じ期間で9.5から44.1倍、
平均で20.5倍の死亡が、
新型コロナウイルス感染症では起こっている、
というのが実数であることが分かります。
厳密に言えば、
インフルエンザによる死亡数も、
新型コロナウイルスの死亡数も、
いずれも少なからず漏れているケースが想定されますが、
いずれにしてもアメリカにおいて、
新型コロナウイルスのパンデミックの深刻さは、
季節性インフルエンザの10倍以上ではある、
というのが実際と考えて良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
(付記)
数字の記載に一部誤りがあり修正しました。
(2020年6月22日午後10時修正)
ランセット論文取り下げ顛末(2020年ガーディアン誌のスクープ) [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌は2020年5月22日にウェブ掲載された、
ヒドロキシクロロキンの患者レジストリ解析についての記事を、
6月4日に撤回しました。
この撤回された論文については、
本ブログでも5月26日に記事にしています。
こちらです。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2020-05-26
これは内容的には患者レジストリ解析という手法により、
患者データを後から解析する方法で、
新型コロナウイルス感染症に対するクロロキン製剤の、
有効性と安全性とを検証したものです。
ここでは世界6大陸の671の医療施設における、
トータルで96032名の患者データが、
その元になっています。
これだけ膨大な患者データがどうやって得られたのかと言うと、
アメリカのサージスフィア社という医療データ解析を専門とする会社が、
データを収集したとされています。
そして、この論文の著者の1人として、
サージスフィア社代表のサパン・デサイ(Sapan S.Desai)氏という人物が、
名前を出しています。
(発音は違うかも知れません)
この会社は新型コロナウイルス感染に伴って急成長したベンチャーで、
このLancet論文以外にも、
こちらはブログではご紹介していませんが、
New England…誌の新型コロナウイルス感染の死因などを解析した、
別の論文にもデータを提供し、その著者にも名を連ねています。
ところが、この大規模データの信頼性に、
疑義を呈する声が出たのです。
日本には文春砲というものがありますが、
これは英国のガーディアン誌のスクープでした。
ガーディアン誌の調査によると、
Lancet論文ではオーストラリアの5カ所の病院で、
600人の新型コロナウイルスの患者を登録し、
そのうち4月21日時点で73名が死亡している、
と記載されています。
ところが、
オーストラリアの正式な報告によると、
同時期の死亡事例は67名です。
つまり、5つの病院のみから集めた筈の患者の死亡数が、
オーストラリア全体より多い、
という珍妙なことになっています。
この時点でサパン・デサイ氏にこの疑問をぶつけると、返答は、
「それはオーストラリアの集計にアジアの別の病院が紛れた単純ミスだ」
というもので、
Lancet誌側もその意見を信じて、
論文の結果を修正するに留める方針になりました。
しかし、ガーディアン誌が、
オーストラリアで主に新型コロナウイルスの患者を受け入れていた、
5つの病院に取材したところ、
どの病院もサージスフィア社に患者データを提出したことはなく、
そんな会社も知らない、という返答でした。
主要な病院を外して、
オーストラリア全体の統計に近いような死亡患者数を、
集められる筈がありません。
ここにおいて、
サージスフィア社の患者データは、
ねつ造である可能性が高くなりました。
ガーディアン誌が更に調べたところ、
サージスフィア社の従業員は10名ほどで、
登記された住所もただの民家のような場所、
社員とされる人物の1人はSFなどの小説家で、
もう1人はアダルト雑誌のモデルなどをしている女性であることも、
また明らかになりました。
そんな会社が、
どうやって世界中の患者データを集めることが出来たのでしょうか?
会社にはほぼ実体も何もない可能性が浮上したのです。
こうなると同じような話がボロボロ出て来ます。
この会社はビッグデータとAIを駆使して、
新型コロナウイルス感染の死亡リスクなどを予測する、
画期的なソフトも開発したとされ、
それが世界的に使用されていました。
しかし、たとえば20歳の喫煙者の死亡リスクをこのAIで計算すると、
2.2%と算出されましたが、
実際には0.01%未満で、
これも全く役に立たない偽物でした。
Lancet誌は急遽第三者委員会を設置し、
サージスフィア社に元データの開示を求めましたが、
会社側(と言うか多分代表1人)は、
データの提供元の許可がないので開示出来ない、
とその要請を拒否したため、
6月4日にLancet誌は当該の論文を撤回、
歩調を合わせるようにNew England…誌も、
関連する論文の撤回を発表しました。
それを受けて、クロロキン製剤の臨床試験も再開されるようですが、
クロロキン製剤は他の臨床試験においても、
ほぼ無効であることは確定していると言って良いので、
再浮上する可能性は現状では低いのではないかと思います。
どうやら、ただのねつ造データ製造のインチキ男1人に、
他人のふんどしで相撲を取ろうとした錚々たる専門家が騙された、
という構図のようですが、
洋の東西を問わず、
科学論文の信憑性も、
眉につばを付けて読む必要がある、
嫌な時代ではあるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Lancet誌は2020年5月22日にウェブ掲載された、
ヒドロキシクロロキンの患者レジストリ解析についての記事を、
6月4日に撤回しました。
この撤回された論文については、
本ブログでも5月26日に記事にしています。
こちらです。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2020-05-26
これは内容的には患者レジストリ解析という手法により、
患者データを後から解析する方法で、
新型コロナウイルス感染症に対するクロロキン製剤の、
有効性と安全性とを検証したものです。
ここでは世界6大陸の671の医療施設における、
トータルで96032名の患者データが、
その元になっています。
これだけ膨大な患者データがどうやって得られたのかと言うと、
アメリカのサージスフィア社という医療データ解析を専門とする会社が、
データを収集したとされています。
そして、この論文の著者の1人として、
サージスフィア社代表のサパン・デサイ(Sapan S.Desai)氏という人物が、
名前を出しています。
(発音は違うかも知れません)
この会社は新型コロナウイルス感染に伴って急成長したベンチャーで、
このLancet論文以外にも、
こちらはブログではご紹介していませんが、
New England…誌の新型コロナウイルス感染の死因などを解析した、
別の論文にもデータを提供し、その著者にも名を連ねています。
ところが、この大規模データの信頼性に、
疑義を呈する声が出たのです。
日本には文春砲というものがありますが、
これは英国のガーディアン誌のスクープでした。
ガーディアン誌の調査によると、
Lancet論文ではオーストラリアの5カ所の病院で、
600人の新型コロナウイルスの患者を登録し、
そのうち4月21日時点で73名が死亡している、
と記載されています。
ところが、
オーストラリアの正式な報告によると、
同時期の死亡事例は67名です。
つまり、5つの病院のみから集めた筈の患者の死亡数が、
オーストラリア全体より多い、
という珍妙なことになっています。
この時点でサパン・デサイ氏にこの疑問をぶつけると、返答は、
「それはオーストラリアの集計にアジアの別の病院が紛れた単純ミスだ」
というもので、
Lancet誌側もその意見を信じて、
論文の結果を修正するに留める方針になりました。
しかし、ガーディアン誌が、
オーストラリアで主に新型コロナウイルスの患者を受け入れていた、
5つの病院に取材したところ、
どの病院もサージスフィア社に患者データを提出したことはなく、
そんな会社も知らない、という返答でした。
主要な病院を外して、
オーストラリア全体の統計に近いような死亡患者数を、
集められる筈がありません。
ここにおいて、
サージスフィア社の患者データは、
ねつ造である可能性が高くなりました。
ガーディアン誌が更に調べたところ、
サージスフィア社の従業員は10名ほどで、
登記された住所もただの民家のような場所、
社員とされる人物の1人はSFなどの小説家で、
もう1人はアダルト雑誌のモデルなどをしている女性であることも、
また明らかになりました。
そんな会社が、
どうやって世界中の患者データを集めることが出来たのでしょうか?
会社にはほぼ実体も何もない可能性が浮上したのです。
こうなると同じような話がボロボロ出て来ます。
この会社はビッグデータとAIを駆使して、
新型コロナウイルス感染の死亡リスクなどを予測する、
画期的なソフトも開発したとされ、
それが世界的に使用されていました。
しかし、たとえば20歳の喫煙者の死亡リスクをこのAIで計算すると、
2.2%と算出されましたが、
実際には0.01%未満で、
これも全く役に立たない偽物でした。
Lancet誌は急遽第三者委員会を設置し、
サージスフィア社に元データの開示を求めましたが、
会社側(と言うか多分代表1人)は、
データの提供元の許可がないので開示出来ない、
とその要請を拒否したため、
6月4日にLancet誌は当該の論文を撤回、
歩調を合わせるようにNew England…誌も、
関連する論文の撤回を発表しました。
それを受けて、クロロキン製剤の臨床試験も再開されるようですが、
クロロキン製剤は他の臨床試験においても、
ほぼ無効であることは確定していると言って良いので、
再浮上する可能性は現状では低いのではないかと思います。
どうやら、ただのねつ造データ製造のインチキ男1人に、
他人のふんどしで相撲を取ろうとした錚々たる専門家が騙された、
という構図のようですが、
洋の東西を問わず、
科学論文の信憑性も、
眉につばを付けて読む必要がある、
嫌な時代ではあるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
マスクは感染予防にどの程度有効なのか? [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療に廻り、
その後産業医の訪問に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2011年のInfluenza and Other Respiratory Viruses 誌に掲載された、
マスクの感染予防効果についてのレビューです。
新型コロナウイルス肺炎の流行で、
医療機関でも医療用のマスクが手に入りにくい状態となっていることは、
先日のブログ記事でもご紹介しました。
マスクの有効性は、
実際に飛沫感染するような病気に感染していて、
咳などの症状が有る場合に、
その患者さんが着けることにおいては、
明確に実証されています。
無防備にしていれば、
周辺のかなりの範囲に、
咳の度にウイルスを含む飛沫が飛び散ることになりますが、
その患者さんがマスクをしていれば、
その飛沫の多くは飛び散らないで済むからです。
ただ、病気に感染していない人が、
マスクをすることによって、
感染している人と接近しても、
その感染を予防出来るかどうかについては、
そこまで明確な有効性が実証されている訳ではありません。
欧米では病気になっていない人が、
感染症の患者さんに対応する医療やケアのスタッフでもないのに、
予防のためにマスクを着ける、
というような習慣はあまりなく、
むしろ病気のサインのように思われて忌避される傾向がある、
とされています。
従って、
マスクの感染予防効果を検証したような研究は、
欧米ではあまりなく、
上記のレビューには、
これまでの8つの介入試験が紹介されていますが、
そのうちの3つは中国のもので、
1つは日本のもの、
アメリカが2つで、
オーストラリアとカナダのものが1つずつです。
そのうち5つの臨床試験においては、
マスクのインフルエンザ感染に対する予防効果は、
明確には確認をされていません。
残りの3つの臨床試験においては、
一定のマスクの有効性が認められていますが、
例数が少なかったり、グループ分けが適切でないなど、
その結果の信頼性はあまり高いものではありません。
以上は全てインフルエンザ感染についての検証です。
SARSの感染に対しては介入試験はなく、
観察研究が殆どですが、
マスク装着に一定の感染予防効果が認められています。
ただ、研究デザインにおける信頼性は、
それほど高いものではなく、
サージカルマスクとより感染防御効果の高いN95マスクとの比較では、
あまり明確な差は見られていません。
このように、
マスク装着により一定の感染予防効果が、
想定はされるのですが、
その有効性は臨床研究のレベルでは、
それほど明確に証明はされておらず、
こうした場合のマスクの機能による効果の差も、
明確ではありません。
従って、
マスクの必要性は個別に判断することが大切で、
マスクをしているから安心、
という考えにも、
マスクは無駄だ、
という考えにも、
あまり科学的根拠はない、
と言う点は確認しておく必要があると思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療に廻り、
その後産業医の訪問に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2011年のInfluenza and Other Respiratory Viruses 誌に掲載された、
マスクの感染予防効果についてのレビューです。
新型コロナウイルス肺炎の流行で、
医療機関でも医療用のマスクが手に入りにくい状態となっていることは、
先日のブログ記事でもご紹介しました。
マスクの有効性は、
実際に飛沫感染するような病気に感染していて、
咳などの症状が有る場合に、
その患者さんが着けることにおいては、
明確に実証されています。
無防備にしていれば、
周辺のかなりの範囲に、
咳の度にウイルスを含む飛沫が飛び散ることになりますが、
その患者さんがマスクをしていれば、
その飛沫の多くは飛び散らないで済むからです。
ただ、病気に感染していない人が、
マスクをすることによって、
感染している人と接近しても、
その感染を予防出来るかどうかについては、
そこまで明確な有効性が実証されている訳ではありません。
欧米では病気になっていない人が、
感染症の患者さんに対応する医療やケアのスタッフでもないのに、
予防のためにマスクを着ける、
というような習慣はあまりなく、
むしろ病気のサインのように思われて忌避される傾向がある、
とされています。
従って、
マスクの感染予防効果を検証したような研究は、
欧米ではあまりなく、
上記のレビューには、
これまでの8つの介入試験が紹介されていますが、
そのうちの3つは中国のもので、
1つは日本のもの、
アメリカが2つで、
オーストラリアとカナダのものが1つずつです。
そのうち5つの臨床試験においては、
マスクのインフルエンザ感染に対する予防効果は、
明確には確認をされていません。
残りの3つの臨床試験においては、
一定のマスクの有効性が認められていますが、
例数が少なかったり、グループ分けが適切でないなど、
その結果の信頼性はあまり高いものではありません。
以上は全てインフルエンザ感染についての検証です。
SARSの感染に対しては介入試験はなく、
観察研究が殆どですが、
マスク装着に一定の感染予防効果が認められています。
ただ、研究デザインにおける信頼性は、
それほど高いものではなく、
サージカルマスクとより感染防御効果の高いN95マスクとの比較では、
あまり明確な差は見られていません。
このように、
マスク装着により一定の感染予防効果が、
想定はされるのですが、
その有効性は臨床研究のレベルでは、
それほど明確に証明はされておらず、
こうした場合のマスクの機能による効果の差も、
明確ではありません。
従って、
マスクの必要性は個別に判断することが大切で、
マスクをしているから安心、
という考えにも、
マスクは無駄だ、
という考えにも、
あまり科学的根拠はない、
と言う点は確認しておく必要があると思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。