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ランセット論文取り下げ顛末(2020年ガーディアン誌のスクープ) [科学検証]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスランセット論文の取り下げ.jpg
Lancet誌は2020年5月22日にウェブ掲載された、
ヒドロキシクロロキンの患者レジストリ解析についての記事を、
6月4日に撤回しました。

この撤回された論文については、
本ブログでも5月26日に記事にしています。
こちらです。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2020-05-26

これは内容的には患者レジストリ解析という手法により、
患者データを後から解析する方法で、
新型コロナウイルス感染症に対するクロロキン製剤の、
有効性と安全性とを検証したものです。

ここでは世界6大陸の671の医療施設における、
トータルで96032名の患者データが、
その元になっています。

これだけ膨大な患者データがどうやって得られたのかと言うと、
アメリカのサージスフィア社という医療データ解析を専門とする会社が、
データを収集したとされています。

そして、この論文の著者の1人として、
サージスフィア社代表のサパン・デサイ(Sapan S.Desai)氏という人物が、
名前を出しています。
(発音は違うかも知れません)

この会社は新型コロナウイルス感染に伴って急成長したベンチャーで、
このLancet論文以外にも、
こちらはブログではご紹介していませんが、
New England…誌の新型コロナウイルス感染の死因などを解析した、
別の論文にもデータを提供し、その著者にも名を連ねています。

ところが、この大規模データの信頼性に、
疑義を呈する声が出たのです。

日本には文春砲というものがありますが、
これは英国のガーディアン誌のスクープでした。

ガーディアン誌の調査によると、
Lancet論文ではオーストラリアの5カ所の病院で、
600人の新型コロナウイルスの患者を登録し、
そのうち4月21日時点で73名が死亡している、
と記載されています。

ところが、
オーストラリアの正式な報告によると、
同時期の死亡事例は67名です。
つまり、5つの病院のみから集めた筈の患者の死亡数が、
オーストラリア全体より多い、
という珍妙なことになっています。

この時点でサパン・デサイ氏にこの疑問をぶつけると、返答は、
「それはオーストラリアの集計にアジアの別の病院が紛れた単純ミスだ」
というもので、
Lancet誌側もその意見を信じて、
論文の結果を修正するに留める方針になりました。

しかし、ガーディアン誌が、
オーストラリアで主に新型コロナウイルスの患者を受け入れていた、
5つの病院に取材したところ、
どの病院もサージスフィア社に患者データを提出したことはなく、
そんな会社も知らない、という返答でした。
主要な病院を外して、
オーストラリア全体の統計に近いような死亡患者数を、
集められる筈がありません。

ここにおいて、
サージスフィア社の患者データは、
ねつ造である可能性が高くなりました。

ガーディアン誌が更に調べたところ、
サージスフィア社の従業員は10名ほどで、
登記された住所もただの民家のような場所、
社員とされる人物の1人はSFなどの小説家で、
もう1人はアダルト雑誌のモデルなどをしている女性であることも、
また明らかになりました。
そんな会社が、
どうやって世界中の患者データを集めることが出来たのでしょうか?
会社にはほぼ実体も何もない可能性が浮上したのです。

こうなると同じような話がボロボロ出て来ます。

この会社はビッグデータとAIを駆使して、
新型コロナウイルス感染の死亡リスクなどを予測する、
画期的なソフトも開発したとされ、
それが世界的に使用されていました。
しかし、たとえば20歳の喫煙者の死亡リスクをこのAIで計算すると、
2.2%と算出されましたが、
実際には0.01%未満で、
これも全く役に立たない偽物でした。

Lancet誌は急遽第三者委員会を設置し、
サージスフィア社に元データの開示を求めましたが、
会社側(と言うか多分代表1人)は、
データの提供元の許可がないので開示出来ない、
とその要請を拒否したため、
6月4日にLancet誌は当該の論文を撤回、
歩調を合わせるようにNew England…誌も、
関連する論文の撤回を発表しました。

それを受けて、クロロキン製剤の臨床試験も再開されるようですが、
クロロキン製剤は他の臨床試験においても、
ほぼ無効であることは確定していると言って良いので、
再浮上する可能性は現状では低いのではないかと思います。

どうやら、ただのねつ造データ製造のインチキ男1人に、
他人のふんどしで相撲を取ろうとした錚々たる専門家が騙された、
という構図のようですが、
洋の東西を問わず、
科学論文の信憑性も、
眉につばを付けて読む必要がある、
嫌な時代ではあるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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