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起立性低血圧を伴う高血圧症の治療はどうするべきか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談や老人ホームの診療で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
起立性低血圧と降圧剤.jpg
JAMA誌に2023年10月16日付で掲載された、
起立性低血圧と立位低血圧の患者さんにおける、
降圧治療の有効性についての論文です。

高血圧の患者さんを治療する際に問題となるのが、
起立性低血圧を伴う患者さんへの対応です。

起立性低血圧(Orthostatic Hypotension)というのは、
一般的に言う「立ちくらみ」や「貧血症状」というもので、
急に立ち上がった時に、
めまいやふらつきを感じたり、
一瞬目の前が暗くなる、
というような症状がある場合に疑われます。

その定義はそれほど定まったものがありませんが、
一般に座っている時の血圧と比較して、
立ち上がって3分以内に、
上の血圧が20mmHg以上、もしくは、
下の血圧が10mmHg以上下がることとされています。

無症状の場合の方が多いのですが、
有症状の場合には、
前述のように立ちくらみなどの症状が起こるのです。

立ち上がった時には、
重力によってそのままでは血液が下に下がってしまいますから、
身体は瞬時に反応して下半身の血管を収縮させ、
血圧を維持するのです。
その反応を媒介しているのは自律神経です。
立ち上がって、血圧が低下するのは、
その自律神経の調節が低下していることが、
一番大きな要因と考えられています。
自律神経に障害を来すような病気で起こることもありますが、
その多くは体質的なものです。
また加齢により自律神経機能は低下するので、
高齢であることも起立性低血圧のリスクを高めます。

起立性低血圧の患者さんはそうでない場合と比較して、
生命予後に悪影響があるとするデータがあります。
その多くは転倒や骨折によるものと思われます。

そして、高血圧の患者さんにおいても、
少なくない頻度で、
起立性低血圧の患者さんがいると考えられます。

それでは、
起立性低血圧を伴う高血圧の患者さんでは、
その治療をどのようにするべきなのでしょうか?

座っている時や寝ている時の血圧を指標として、
降圧剤による治療を行うことは、
立ちくらみなどのリスクを高める可能性があります。
血圧のコントロールは通常座位の血圧を基本としているのですが、
それが厳密なコントロールで120mmHgになったとすると、
起立性の低下により、
100未満になってしまうからです。

これを避けるためには、
通常の患者さんよりマイルドなコントロールとして、
目標の血圧を少し高めに設定するという考え方があります。
しかし、それでは降圧治療の有効性を、
低下させてしまうという可能性もあります。

そもそも起立性低血圧のある患者さんとそうでない患者さんとで、
座位では同じ高血圧があったとしても、
その予後には差があるのでしょうか?

そうした点を明確に示すような臨床データが、
これまであまり存在していませんでした。

今回の研究は、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析することで、
起立性低血圧のある高血圧の患者さんの、
治療効果を分析したものです。

今回の研究では通常の定義による、
起立性低血圧と共に、
起立性の急激な低下はないものの、
座位と立位との血圧に明確な差があり、
起立時の血圧が上が110mmHg以下、
もしくは下が60mmHg以下が持続しているケースを、
立位低血圧(Standing Hypotension)と定義して、
その両者を分析しています。

これまでの9つの臨床試験に含まれる、
トータルで29235名の臨床データをまとめて解析した結果、
対象となった高血圧の患者さんのうち、
試験登録時で起立性低血圧が9%、
立位低血圧が5%に認められました。

起立性低血圧の患者さんはそうでない場合と比較して、
心血管疾患のリスクが14%(95%CI:1.04から1.26)、
総死亡のリスクが24%(95%CI:1.09から1.41)、
それぞれ有意に増加していました。
立位低血圧の患者さんもそうでない場合と比較して、
心血管疾患のリスクが39%(95%CI:1.24から1.57)、
総死亡のリスクが38%(95%CI:1.14から1.66)、
こちらも有意に増加していました。

ここで降圧剤による治療効果をみてみると、
起立性低血圧のない高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
19%(95%CI:0.76から0.86)有意に低下していました。
起立性低血圧を伴う高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
17%(95%CI:0.70から1.00)有意に低下していました。
起立性低血圧のあるなしによって、
降圧治療の有効性には明確な差は見られませんでした。

立位低血圧での同様の比較では
立位低血圧のない高血圧の患者さんでは、
治療により心血管疾患と総死亡を併せたリスクが、
20%(95%CI:0.75から0.85)有意に低下したのに対して、
立位低血圧のある高血圧の患者さんでは、
同様の傾向はあるものの、
そのリスク低下は有意ではありませんでした。
(HR 0.94:95%CI:0.75から1.18)

このように、
起立性低血圧も立位低血圧も、
いずれもそれ自体で高血圧と同様の健康リスクがあり、
そうした低血圧を伴う高血圧症の患者では、
高血圧の治療を施行することにより、
低血圧のない場合と、
同様に近い予後改善効果があることが確認されました。

ただ、実際には降圧剤による低血圧の悪化により、
有害事象が生じるケースもと想定されるので、
今後起立性低血圧もしくは立位低血圧を伴う高血圧患者において、
どのような点に留意し、
どのような目標設定をして降圧治療を行うべきなのか、
より具体的な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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