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老人ホームにおける集団除菌の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナーシングホームの除菌治療の効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年10月10日付で掲載された、
老人ホームにおける除菌介入の有効性についての論文です。

感染症の流行時に必ず問題となるのは、
老人ホームなどの高齢者施設における集団感染です。

高齢者施設の高齢者の多くは慢性の病気を持ち、
免疫力も低下しているので、
感染のリスクは非常に高く、
一旦感染すると重症化のリスクも高く、
予後の悪いことで知られています。

特に認知症の高齢者では、
マスクや手洗い、咳エチケットなどの感染対策も、
大半は施行困難なので、
一旦感染者が出現すると、
瞬く間に施設の殆どの入所者が感染、
という事態が想定されるのです。

それでは、この集団感染を予防する、
有効な方策はあるのでしょうか?

感染は最初職員から持ち込まれることが多いので、
職員がしっかり感染対策をすることが何より大切です。
また、インフルエンザや新型コロナのように、
ワクチンで予防可能な疾患であれば、
ワクチン接種を適切に行うことも有効な方法です。

しかし、実際にはそうした感染対策に留意していても、
それだけで高齢者施設の集団感染を防ぐことは出来ません。

それでは、何か有効な対策はないのでしょうか?

病気を持っている高齢者は、
MRSAなどの耐性菌を、
鼻腔は皮膚などに保持していることが多く、
それが感染の悪化に繋がっているという指摘があります。

それでは、定期的に鼻腔や肌の除菌を行うことで、
高齢者の感染を防ぐことが可能なのではないでしょうか?

今回の研究では、
日本の特別養護老人ホームに近い施設である、
アメリカのナーシングホームにおいて、
ポビドンヨード(イソジン)による鼻腔の除菌と、
クロルヘキシジンという消毒剤による皮膚の除菌を、
継続的に入所者に施行することによって、
感染症の発症と重症化を、
予防出来るかどうかを検証しています。

アメリカの28か所のナーシングホームの入所者、
トータル28956名が対象です。
28か所のホームをくじ引きで14か所ずつに分けると、
一方は通常の感染対策のみを行い、
もう一方はポビドンヨード(イソジン)による鼻腔の除菌と、
クロルヘキシジンによる全身の清拭による除菌を行い、
それを18か月継続した効果を比較検証しています。

ヨードのよる鼻腔の除菌は、
施設入所時には1日2回5日連続で施行し、
その後は週に1回の施行を繰り返します。

クロルヘキシジンによる全身清拭(もしくはシャワー)は、
施設の入浴のタイミングに合わせて施行し、
クロルヘキシジンを含むクロスで全身を隈なく拭き、
自然乾燥させます。

その結果、
観察期間中の感染症による入院は、
除菌施行施設においては、
除菌開始後に17%(95%CI:0.79から0.88)有意に低下し、
未施行施設と比較して、
16.6%(95%CI:11.0から21.8)のリスク低下を示しました。
また、除菌施行施設における感染症を含む全ての入院のリスクは、
除菌未施行施設と比較して
14.6%(95%CI:9.7から19.2)こちらも有意に低下していました。

このように、
継続的に皮膚と鼻腔の除菌を施行することにより、
感染症の重症化が一定レベル予防可能であることが、
今回の検証において確認されました。

こうした介入は施設職員にかなりの労力を強いるもので、
効果がその労力に見合っているのかと考えると、
少し微妙な点はあるように思います。
またクロルヘキシジンは有害性の低い消毒剤ですが、
それでも皮膚の常在菌を含めた除菌を継続的に長期間行うことが、
本当に悪影響はないのか、
という点についても、
より詳細な検証は必要であると思います。

ただ、こうした対応を常に行うということではなく、
感染症の流行時などに一時的に行うことは、
感染防御の面で検討に値する対応ではあり、
今後そうした適応の問題を含めて、
様々な議論の成されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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