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心房細動の発症リスクと長期予後(デンマークの大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心房細動の長期予後.jpg
British Medical Journal誌に2024年4月17日付で掲載された、
心房細動の罹患率と予後についての論文です。

心房細動というのは、
心臓の心房という部分が不規則に興奮することにより、
通常ではほぼ定期的に起こる心拍が、
不規則に起こることが続き、
動悸などの症状を伴う不整脈で、
年齢と共に増加することが知られています。

生涯において心房細動を発症するリスクは、
地域や報告の年代によっても違いがありますが、
概ね20から30%程度と報告されています。

ただ、最近高血圧など心房細動のリスクを低減することにより、
一定の予防効果が確認されている、というような報告もあり、
実際に近年その罹患率が低下しているのかどうか、
という点はまだ明らかではありません。

心房細動が健康上の大きなリスクであるのは、
多くの合併症の原因となるためです。

最も広く知られているのは、
脳梗塞などの血栓症リスクの増加ですが、
それ以外にも心不全や心筋梗塞などのリスクとなり、
生命予後にも悪影響を与えることが報告されています。

この点についても、
近年血栓症のリスクを低下させる、
抗凝固剤の使用が積極的に行われ、
そのリスクは低下していることが想定はされますが、
以前のデータと比較して、
どの程度その予後が改善しているのか、
という点については、
精度の高いデータが存在していません。

そこで今回の研究では、
国民総背番号制を取っているデンマークにおいて、
2000年から2010年と、2011年から2022年という、
2つの時期の大規模な医療データを比較して、
心房細動の罹患率と、
血栓症や心不全などの合併症の発症リスクの、
経時的推移を検証しています。

対象は登録時で45から94歳の一般住民3574903名です。
観察期間中に、
そのうちの362721名が心房細動を発症しています。

検証の結果、
45歳の住民がその生涯の中で心房細動を発症するリスクは、
2000年から2010年の期間では24.2%、
2011年から2022年の期間では30.9%で、
最近10年で生涯の心房細動発症リスクは、
6.7%(95%CI:6.5から6.8)有意に増加していました。

心房細動と診断後に、
最も頻度が高く発症する合併症は心不全で、
2000年から2010年の期間では生涯リスクは42.9%、
2011年から2022年の期間では生涯リスクは42.1%で、
最近10年での有意な増減は認められませんでした。

一方で心房細動の合併症のうち、
脳卒中と心筋梗塞の生涯リスクは、
2000年から2010年の期間と比較して2011年から2022年の期間では、
脳卒中が22.4%から19.9%と2.5%(95%CI:-4.2から-0.7)、
心筋梗塞が13.7%から9.8%と3.9%(95%CI:-4.2から-0.7)、
それぞれ最近10年で有意に低下が認められました。

つまり、予防のための様々な取り組みや、
リスクとなる病気の治療の進歩にも関わらず、
心房細動の生涯リスクはこの10年でむしろ増加しており、
その比率は4人に1人から3人に1人となっていました。

その合併症として最も多かったのは心不全で、
これについてはその生涯罹患率にこの10年で変化はなく、
脳卒中と心筋梗塞の罹患率は低下していて、
これは抗凝固剤などによる治療の効果と考えられます。
ただ、その予防効果も想定されているほど大きなものとは言えません。

これはデンマークの疫学データで、
そのまま日本に適応可能なものではありませんが、
医療の進歩にも関わらず、
心房細動の生涯罹患率はむしろ増加しており、
その予後を左右する合併症の頻度も、
それほど大きくは低下していない、
という今回の検証は重く受け止めるべきで、
日本においても同様の検証が必要であることは間違いがありません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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