コレステロール降下剤スタチンの糖尿病リスクについて(2024年メタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2024年5月付で掲載された、
脂質異常症治療薬の有害事象についての論文です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
アトルバスタチンやロスバスタチン、シンバスタチンなどが、
その代表的な薬剤です。
このタイプの薬剤は、
強力なコレステロール降下作用と共に、
抗炎症作用なども併せ持ち、
今では動脈硬化の予防薬的な位置づけとして、
幅広く使用されています。
その有効性は特に狭心症や心筋梗塞などの、
心臓の血管の病気を持っている人の、
再発予防や予後の改善において最も認められています。
このように非常に優秀な薬であるスタチンですが、
幾つかの副作用や有害事象も報告され研究されています。
その中で問題となるものの1つが、
スタチンの使用による糖尿病発症リスクの増加です。
これは薬剤によりデータには差があるのですが、
基本的には全てのスタチンに認められるもので、
そのメカニズムである酵素阻害作用自体が、
リスク増加に関連していると考えられています。
ただ、そのリスク増加は概ね軽度で、
多くの場合生活指導や投薬の調整で対応可能なものなので、
スタチンの有効性を否定するものでない、
という見解が一般的です。
ただ、多くのこれまでの臨床データは、
新規糖尿病の発症リスクを見ているだけのものが多く、
実際に臨床で患者さんを診るに当たって、
どのような点に注意するべきかの、
参考にはあまりなっていない、という欠点がありました。
今回の研究は、
スタチンと偽薬とを比較した、
これまでの精度の高い19の無作為介入試験に含まれる、
トータルで123940名の患者データをまとめて解析する、
メタ解析の手法で、
この問題の検証を行っています。
スタチンはそのコレステロール降下作用の強さによって、
低強度、中強度、高強度に分類され、
たとえば最も一般的なスタチンの1つである、
アトルバスタチンでは、
1日10㎎から20㎎が中強度で、
40㎎から80㎎(日本では未採用)が高強度となっています。
検証の結果、
低強度から中等度スタチンの使用は未使用と比較して、
新規糖尿病の発症リスクが10%(95%CI:1.04から1.16)、
高強度のスタチンの使用では36%(95%CI:1.25から1.48)、
それぞれ有意に増加していました。
登録時に糖尿病のなかった人では、
低強度から中強度のスタチン使用により、
平均血糖は0.7mg/dL程度上昇し、
高強度スタチンでもほど同等の上昇が認められました。
平均のHbA1c値は、
低強度から中等度のスタチン使用により、
0.06%(95%CI:0.02から0.06)、
高強度スタチンの使用により、
0.08%(95%CI:0.07から0.09)、
それぞれ有意に増加していました。
どのような患者さんが糖尿病を発症しやすいのかを解析したところ、
新規糖尿病発症者の62%は、
4分割した血糖値が最も高めの群に属していました。
また登録時に糖尿病のあった患者さんで解析すると、
血糖の悪化が低強度から中強度スタチンの使用では、
10%(95%CI:1.06から1.14)、
高強度スタチンの使用では、
24%(95%CI:1.06から1.44)、
それぞれ有意に増加していました。
今回の結果で見る限り、
スタチンで糖尿病リスクが上昇することは、
間違いがないのですが、
スタチンによる血糖の上昇は比較的軽微なもので、
主に境界型糖尿病や予備群と呼ばれるような、
血糖値がやや高めの患者さんにおいて、
それが糖尿病の基準を満たして発病と判断される、
という事例が多いようです。
従って、たとえば心筋梗塞などの二次予防において、
スタチンが使用されるようなケースでは、
その効果は血糖が軽度上昇するリスクを、
大きく上回ると想定されますから、
スタチンに使用に問題はないと思います。
その一方でコレステロールがやや高いのみで、
動脈硬化性疾患のリスクもあまり高くないようなケースでは、
その使用時の血糖上昇のリスクは、
無視出来ないものとなる可能性もあります。
今回のような知見を基にして、
今後より科学的な、
スタチン使用時の血糖監視の基準が、
定められることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2024年5月付で掲載された、
脂質異常症治療薬の有害事象についての論文です。
スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
アトルバスタチンやロスバスタチン、シンバスタチンなどが、
その代表的な薬剤です。
このタイプの薬剤は、
強力なコレステロール降下作用と共に、
抗炎症作用なども併せ持ち、
今では動脈硬化の予防薬的な位置づけとして、
幅広く使用されています。
その有効性は特に狭心症や心筋梗塞などの、
心臓の血管の病気を持っている人の、
再発予防や予後の改善において最も認められています。
このように非常に優秀な薬であるスタチンですが、
幾つかの副作用や有害事象も報告され研究されています。
その中で問題となるものの1つが、
スタチンの使用による糖尿病発症リスクの増加です。
これは薬剤によりデータには差があるのですが、
基本的には全てのスタチンに認められるもので、
そのメカニズムである酵素阻害作用自体が、
リスク増加に関連していると考えられています。
ただ、そのリスク増加は概ね軽度で、
多くの場合生活指導や投薬の調整で対応可能なものなので、
スタチンの有効性を否定するものでない、
という見解が一般的です。
ただ、多くのこれまでの臨床データは、
新規糖尿病の発症リスクを見ているだけのものが多く、
実際に臨床で患者さんを診るに当たって、
どのような点に注意するべきかの、
参考にはあまりなっていない、という欠点がありました。
今回の研究は、
スタチンと偽薬とを比較した、
これまでの精度の高い19の無作為介入試験に含まれる、
トータルで123940名の患者データをまとめて解析する、
メタ解析の手法で、
この問題の検証を行っています。
スタチンはそのコレステロール降下作用の強さによって、
低強度、中強度、高強度に分類され、
たとえば最も一般的なスタチンの1つである、
アトルバスタチンでは、
1日10㎎から20㎎が中強度で、
40㎎から80㎎(日本では未採用)が高強度となっています。
検証の結果、
低強度から中等度スタチンの使用は未使用と比較して、
新規糖尿病の発症リスクが10%(95%CI:1.04から1.16)、
高強度のスタチンの使用では36%(95%CI:1.25から1.48)、
それぞれ有意に増加していました。
登録時に糖尿病のなかった人では、
低強度から中強度のスタチン使用により、
平均血糖は0.7mg/dL程度上昇し、
高強度スタチンでもほど同等の上昇が認められました。
平均のHbA1c値は、
低強度から中等度のスタチン使用により、
0.06%(95%CI:0.02から0.06)、
高強度スタチンの使用により、
0.08%(95%CI:0.07から0.09)、
それぞれ有意に増加していました。
どのような患者さんが糖尿病を発症しやすいのかを解析したところ、
新規糖尿病発症者の62%は、
4分割した血糖値が最も高めの群に属していました。
また登録時に糖尿病のあった患者さんで解析すると、
血糖の悪化が低強度から中強度スタチンの使用では、
10%(95%CI:1.06から1.14)、
高強度スタチンの使用では、
24%(95%CI:1.06から1.44)、
それぞれ有意に増加していました。
今回の結果で見る限り、
スタチンで糖尿病リスクが上昇することは、
間違いがないのですが、
スタチンによる血糖の上昇は比較的軽微なもので、
主に境界型糖尿病や予備群と呼ばれるような、
血糖値がやや高めの患者さんにおいて、
それが糖尿病の基準を満たして発病と判断される、
という事例が多いようです。
従って、たとえば心筋梗塞などの二次予防において、
スタチンが使用されるようなケースでは、
その効果は血糖が軽度上昇するリスクを、
大きく上回ると想定されますから、
スタチンに使用に問題はないと思います。
その一方でコレステロールがやや高いのみで、
動脈硬化性疾患のリスクもあまり高くないようなケースでは、
その使用時の血糖上昇のリスクは、
無視出来ないものとなる可能性もあります。
今回のような知見を基にして、
今後より科学的な、
スタチン使用時の血糖監視の基準が、
定められることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2024-05-13 06:52
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コメント(2)
興味深く拝見いたしました。以前自分で調べた範囲では、「ピタバスタチンでは血糖値を上げないことがわかった」という内容でした。今回の記事ではそれも否定される書き方なのでしょうか?
by 阿部 (2024-05-15 19:50)
興味深く拝見いたしました。以前自分で調べた範囲では、「ピタバスタチンでは血糖値を上げないことがわかった」という内容でした。今回の記事ではそれも否定される書き方なのでしょうか?
by 阿部 (2024-08-16 00:22)