SSブログ

PSAとMRIを併用した前立腺癌検診の有用性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
PSAとMRIの前立腺癌検診.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年12月8日掲載された、
前立腺癌の検診にMRI検査を組み合わせた場合の、
有効性を検証した論文です。

前立腺癌の検診は、
通常血液のPSAという腫瘍マーカーを測定することで行います。

概ね50歳以上の男性にPSAの計測を施行し、
4.0ng/mL以上であれば二次検査の対象とするのが一般的ですが、
検査値がそれより低くても、
二次検査の対象とする場合もあります。

通常精密検査として施行されるのは、
前立腺針生検と呼ばれる検査です。
これは肛門から器具を挿入して超音波でガイドした上で、
前立腺の組織に針を刺し、
通常12か所以上の組織を採取して、
悪性を疑う細胞がないかどうかを検査するものです。

ただ、この検査は短期入院が必要で、
痛みや検査後の出血を伴い、
患者さんに負担のある検査です。

また、この検査で検出される癌の多くは、
実際には放置しても命に関わるようなことはない、
悪性度の低いものであるとの指摘があります。

それではもっと効率的に、
前立腺癌を診断する方法はないのでしょうか?

現状試みられている方法の1つが、
生検の前にMRI検査を施行して、
癌の疑いのある部位を形態的に同定し、
その部位に限定して生検を施行するというものです。

実際にこうした試みは、
日本でも多くの医療機関で行われていますが、
MRI検査で振り分けをする方法が、
PSAのみで生検をする方法と比較して、
有効性や安全性において優れている、
という根拠のあるデータはあまり存在していません。

そこで今回の研究ではスウェーデンにおいて、
50から60歳の37887名にPSAの検診を推奨し、
そのうちの17980名をくじ引きで3つの群に分けると、
第1群はPSAが3ng/mL以上の男性にMRI検査を施行し、
癌を疑う所見のあった全例に通常の系統的生検を施行。
第2群は同様にMRI検査を施行して、
その異常部位に特化した生検を施行。
一方でPSAが10ng/mL以上の時には、
通常の系統的生検も施行します。
第3群は基本的には第2群と同じですが、
PSAが1.8ng/mL以上で二次検査を施行しています。
ただ、今回の検証ではPSAが3ng/mL以上の事例のみ、
解析を行っています。
その方法を図示したものがこちらになります。
PSAとMRIを使用した検診の図.jpg

その結果、結果として生命予後に関わらない前立腺癌が診断されたのは、
系統的生検施行群では1.2%であったのに対して、
MRIで所見のあった部位に特化して生検を施行した群では0.6%で、
MRI所見による振り分けを実施すると、
系統的生検の施行と比較して、
生命予後に関わらない前立腺癌の過剰診断を、
54%(95%CI:0.33から0.64)有意に低下させていました。
その一方で生命予後に関わる可能性の高い前立腺癌は、
通常の系統的生検使用群では1.1%であったのに対して、
MRI所見に特化した生検を施行した群では0.9%となっていて、
これは有意ではないものの、
MRI所見に依拠した検診を施行すると、
少数の生命予後に関わる可能性のある前立腺癌を、
見落とす可能性のあることも示唆されました。

このように、
MRI検査で疑いのある部位に絞って、
生検を行うという方針で検診を行うと、
PSAが高値であれば系統的な生検を施行する、
という方針と比較して、
過剰診断をかなり抑えることが可能ですが、
その一方で少数ながら治療の必要な前立腺癌を、
見逃す可能性のあることも、
推測されるという結果が得られました。

今後はこうしたデータを元にして、
どのような方針で前立腺癌の検診を行うことが、
最も効率的で有益であるのかが、
検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

新型コロナウイルス感染症死亡率の国別比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の超過死亡リスクの国別比較.jpg
JAMA誌に2022年11月18日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の時期毎の死亡率を、
国別に比較した短報です。

新型コロナウイルス感染症の流行が続いていますが、
以前の行動制限のような厳しい規制は、
地域により温度差はあるものの、
世界的に行われない流れになっています。

その根拠の1つとなっているのが、
オミクロン株の流行に伴い感染は軽症化していて、
通常の風邪とそれほど違いがない状態となっている、
という知見です。

実際にはどうなのでしょうか?

今回の検証ではアメリカを主体として、
日本を含む20か国の新型コロナウイルス感染症による死亡率と、
平均的な死亡率を差し引きした超過総死亡率を、
国別に比較検証しています。

こちらをご覧ください。
COVID-19の超過死亡国比較の図.jpg
各国のデルタ株流行時期とオミクロン株流行時期における、
新型コロナウイルス感染症の人口10万人当たりの死亡率を、
一覧表にしたものです。

新型コロナウイルス感染症による死亡が、
多いことで知られているアメリカでは、
トータルで10万人当たり111.6人の死亡率が算出されていますが、
感染対策に成功したとされているニュージーランドでは、
3.7人という低率になっています。
日本は10.4人で欧米の多くの国と比較すれば、
新型コロナウイルス感染症の生命予後は、
非常に良いということが分かります。
ワクチンを2回以上接種している比率との比較では、
全て一致している訳ではありませんが、
概ねワクチン接種率の高さと、
死亡率の低さとが一致している傾向が認められます。

これは単純に死亡数での比較ですが、
総死亡のリスクが新型コロナウイルス感染症の流行により、
どれだけ上乗せされたかを示す超過死亡率を一覧にしたものがこちらです。
COVID-19の超過死亡率の国別比較の図.jpg
アメリカは新型コロナウイルス感染症による超過死亡率は、
10万人当たり145.5人となっていて、
これは新型コロナウイルス感染症単独の死亡率を上回っています。
つまり、アメリカにおいては、
新型コロナウイルス感染症の流行が、
それを超える大きな影響を、
総死亡に与えているという言い方が可能です。
一方でイギリスはデルタ株の流行期には、
総死亡にも大きな影響があったのですが、
オミクロン株の流行期には一転して、
総死亡のリスクはむしろ低下している、
という結果になっています。
一方でニュージーランドはデルタ株の時期には、
感染の総死亡に与える影響はなかったものの、
オミクロン株の時期には増加に転じている、
という違いがあります。

総じてワクチンの接種や感染対策により、
現行の新型コロナウイルス感染症の死亡リスクは、
通常の感冒と同等にコントロールすることが可能と考えられますが、
一旦その均衡が崩れれば、
総死亡のリスクを大きく引き上げるような、
深刻な影響を与える可能性もはらんでいるのです。

今後も新たな変異株が出現して、
流行を繰り返していくものと想定されますが、
その性質を的確に判断しつつ、
超過死亡の増加をもたらさないような、
過不足のない感染対策を柔軟に講じることが、
大切であるのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

「月の満ち欠け」(2022年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
月の満ち欠け.jpg
佐藤正午さんの直木賞受賞作「月の満ち欠け」が、
豪華キャストで映画化され、
今ロードショー公開されています。

佐藤正午さんの作品は結構読んでいて、
好きな作家の1人です。
「ジャンプ」が抜群に好きで、
「5」と「身の上話」も結構好みです。
「鳩の撃退法」はとても期待して読んだのですが、
作者の集大成という感はあるものの、
やや冗長で期待したほどではありませんでした。

「月の満ち欠け」も勿論読んでいます。
個人的には「ボチボチ」という感じ。
「5」や「Y」と同じように、
超自然現象をお話の接ぎ穂として、
得意の情緒や因縁が交錯する人間ドラマを紡いでゆきます。
ただ、ちょっと変梃りんなんですよね。
あまりに複雑に生まれ変わりが連続しますし、
生まれ変わった少女と中年男にどんな未来が待っているのだろう、
と考えると異様な感じがして、
それを描かないといけない筈なのに、
その一歩手前で終わってしまうでしょ。
何かモヤモヤしますよね。
最後のオチも何か、
「取り敢えず出してみました」という感じで、
中途半端な感じが否めません。
同じようなテーマ作では、
「5」の方がずっといいな、
というのが正直な印象でした。

原作がかなりの問題作で、
相当変梃りんなので、
それを考えると映画はかなり頑張っている、
という印象はあります。

原作を少し整理して、
生まれ変わりを1つ減らしているんですね。
これは普通に考えると悪くない変更なのですが、
田中圭さんの役柄に、
「事故の原因」としての意味を持たせてしまっているので、
原作の趣旨が変わってしまったのが、
痛恨のミス、という気がしました。

だって、誰の落ち度でもない、
神様の悪戯的な不運な事故、
であるからこその物語であるのに、
それを田中圭さんの悪意のせいにしてしまっているでしょ。
これでは駄目だと思います。

また、ラストのオチを強調しているのですが、
これは原作でも無理矢理感のみあって、
あまり成功していないんですよね。
それを殊更に強調しているので、
「なんだかなあ」という感じでちょっと脱力しました。

最後に柴咲コウさんのカットを入れているでしょ。
あれ、絶対にいらないよね。
こうした安手の編集で、
ラストは一気に嘘くさいものになった、
という感じがありました。

良かったのは1989年の高田馬場の再現で、
これは個人的にはとてもグッと来ました。

それほど高田馬場と早稲田界隈には縁はないのですが、
それでも「早稲田松竹」には結構通いましたし、
近くの古書店街にも一時通いました。
何を観たかな…
寺山修司の「田園に死す」は間違いなくここで観ました。
それからヴィスコンティの「ベニスに死す」を、
最初に映画館で観たのもここでした。
あれは圧倒的で、何か夢現という感じで、
高田馬場の駅に向かったことは覚えています。
後は、今になるとちょっと思い出せないですね。
近くにもっと小さい、畳敷きのミニシアターがあって、
そこで「恋愛地獄変」を観たことも思い出しました。

あの辺の雰囲気がね、結構上手く出ているんですよね。
とてもノスタルジックな気分になりました。

そんな訳であまり成功例のない、
佐藤正午さんの映像化の中では、
結構頑張っている映画で原作にも比較的忠実なのですが、
根本的な部分でちょっとミスをしている感があって、
それほど入り込める感じの作品ではありませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

サイアザイド系利尿薬の有効性比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
クロスタリドンとヒドロクロロチアジド.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年12月14日掲載された、
高血圧治療の第一選択薬でもある、
利尿薬の効果を比較した論文です。

現在世界のガイドラインのどのガイドラインにおいても、
降圧剤の第一選択薬が、
サイアザイド系利尿剤、カルシウム拮抗薬、
ACE阻害剤、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、
であることはほぼ一致しています。

このうちサイアザイド系利尿剤は、
この4種の薬剤のうちでは最も古くから使用されていた薬で、
元が利尿剤ですから脱水になったり、
血液の尿酸値が上昇する、
カルシウムが上昇するなど副作用が多く、
そのためカルシウム拮抗薬などの血管拡張剤が使用されるようになると、
一時期はあまり使用されなくなりました。

その流れが大きく変わったのは、
2002年のことです。

ALLHAT 試験と呼ばれる、
4万人以上を対象とした大規模な臨床試験が、
アメリカを中心に行なわれ、
その結果として、
サイアザイド系の利尿剤は、
他のより高価で新しい降圧剤と同等の、
心筋梗塞予防効果が得られたのです。
部分的な解析では、
他剤より更に優れた効果が得られたケースもありました。

この知見によりサイアザイド系利尿薬は、
降圧剤の第一選択薬の1つに復権することになったのです。

ただ、この時に使用されていた利尿剤は、
サイアザイド系利尿薬のうちでも、
半減期が40から60時間と際立って長い、
クロスタリドンという薬剤です。

しかし、その後ヒドロクロロチアジドという、
もっと半減期の短いサイアザイド系利尿薬が広く使用されるようになり、
クロスタリドンの使用頻度は低下しました。

日本ではメーカーの都合などにより、
クロスタリドンはジェネリック薬品を含め、
使用が中止され、
使用出来ない状態となっています。

現状のガイドラインの多くでは、
サイアザイド系利尿薬全般において、
心血管疾患の予防効果が見られるように記載されています。

しかし、実際にはデータの主だったものはクロスタリドンによるもので、
ヒドロクロロチアジドの有効性が、
クロスタリドンと同等であるとする直接比較したようなデータは、
あまり存在していないのが実際なのです。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
65歳以上の高齢者で高血圧のため、
ヒドロクロロチアジドを1日25から50㎎使用継続している13523名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はそのままヒドロクロロチアジドを継続し、
もう一方はそれを12.5から25㎎のクロスタリドンに変更して、
中間値で2.4年の経過観察を施行しています。

その結果、
ヒドロクロロチアジド継続群は、
クロスタリドン変更群と比較して、
その後の心筋梗塞と脳卒中、
心不全による入院、心臓のカテーテル治療、
癌以外による死亡を併せたリスクに、
有意な差は認められませんでした。
一方で副作用の低カリウム血症のリスクは、
クロスタリドン群で6.0%に対して、
ヒドロクロロチアジド群では4.4%で、
クロスタリドン群が有意に高くなっていました。
ただ、サブ解析の結果では、
心筋梗塞や脳卒中の既往のある患者さんにおいては、
同様のリスクはクロスタリドン群がヒドロクロロチアジド群に比べて、
27%(95%CI:0.57から0.94)有意に低下が認められました。

このように今回の大規模な検証においては、
クロスタリドンとヒドロクロロチアジドの使用は、
心血管疾患の予防においてトータルには同等の有効性を示していて、
両者をほぼ同一の有効性のある治療として考えることに、
現状で大きな問題はないようです。
ただクロスタリドンは低カリウム血症にはより注意が必要である一方、
心血管疾患の既往のある患者さんにおいては、
その再発予防効果が高い可能性があり、
患者さんの背景によりその使い分けをすることが、
意義のある可能性も示唆されています。

日本においては主にメーカーの都合により、
クロスタリドンの使用は出来ない状態となっていて、
治療の精度よりもメーカーの都合を優先するという医療の姿勢には、
疑問を感じざるを得ないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

新型コロナウイルス感染症と部屋の湿度との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
相対湿度とコロナ感染.jpg
Journal of the Royal Society Interface誌に、
2022年11月16日掲載された、
新型コロナウイルス感染症と室内の湿度との、
関係についての論文です。

空気が乾燥していると風邪をひきやすい、
というのは一般にも広く言われている考え方です。

確かに空気が乾燥していると、
喉は常に少し痛い感じになり、
風邪を引くことも多いようには思います。
厚生労働省のサイトのインフルエンザについての記述でも、
湿度を50%以上に保つことが、
インフルエンザの予防になると、
特にその出典は示されていないものの明記されています。

ただ実際には、
湿度や温度などの環境要因と、
インフルエンザなどのウイルス感染との間に、
関連のあることは事実ですが、
報告によっても違いがあり、
またその地域の気候によっても違いがあるため、
あまり確実と言えるような知見は少ないようです。

湿度は通常、
その温度の空気中に存在出来る、
水分の最大量を100%とした時の比率である、
相対湿度が通常「湿度」として述べられていますが、
それ以外に絶対湿度という指標があり、
これは1キログラムの空気中に、
絶対値としてどれだけの重さの水分が、
含まれているのかを数値化した指標です。

それでは新型コロナウイルス感染症と湿度との関連は、
どうなのでしょうか?

今回の研究は新型コロナウイルス感染症の疫学データを、
世界121か国の気象学的データと合わせて解析し、
個々の条件における室内湿度の平均値と、
感染者数や死亡率のデータと比較して解析しているものです。

その結果、
部屋の中の相対湿度が40から60%である場合と比較して、
相対湿度が40%未満であっても60%を超えていても、
新型コロナウイルス感染症の罹患者数や死亡数は、
共に増加することが確認されました。

新型コロナウイルスの感染と重症化を予防するには、
室内の湿度を適切に維持することが、
重要と考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

「ザリガニの鳴くところ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ザリガニの鳴くところ.jpg
2018年に刊行されたアメリカのベストセラー小説で、
日本でも翻訳が好評だった「ザリガニの鳴くところ」が、
映画化されて今ロードショー公開されています。

これは原作を読んでから、映画を観ました。

1969年のアメリカの湿地帯を舞台として、
家族から捨てられて湿地帯で1人暮らす少女に、
殺人の疑いが掛けられるという物語で、
生物学者でもある作者による、
湿地帯の自然の描写が素晴らしく、
ミステリーの要素はあるものの、
主人公の心理描写と自然の描写を、
楽しむという色彩が強い小説になっています。

ディケンズなどの古典的小説に近いタッチで、
じっくり読むのにふさわしい、
なかなか面白い作品でした。

映画版はほぼ忠実に原作を映像化しています。
ラストに真相が明らかになるところも、
通常もっと仰々しくやりたいと思うところですが、
これだと分からない人もいるのではないかしら、
と心配になるくらいの抑制的な表現で、
原作よりさりげない感じです。
ただ、犯罪の再構成的なものは、
映像で見せてくれてもいいのに、
というようには思いました。

原作には黒人差別的な描写があるのですが、
映画版は年代的設定は変えていないものの、
そうした表現はほぼない感じになっていて、
今は中途半端にそうした描写は入れない、
という流れであるようです。

映像化された湿地の描写は美しく、
物語も丁寧に描写されていて過不足がありません。
ただ、その分あまり特徴がなく、
優等生的で詰まらないという印象もあります。

原作を愛するスタッフ達が作り上げた、
原作の世界を補完するという感じの映画で、
映画独自の興趣には乏しいのが、
少し残念な感じはありました。
意外な結末のミステリー、的なものを期待すると、
肩透かしに遭うかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

胆石治療薬による新型コロナウイルス感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ウルソとCOVID-19.png
Nature誌に2022年12月5日掲載された、
胆石や肝障害の治療薬と、
新型コロナウイルス感染症との関連を検証した、
非常に興味深い報告です。

新型コロナウイルスが、
人間の細胞表面になるACE2という受容体に結合して、
それを足掛かりにして細胞に感染するという知見は、
以前より知られています。

従って、効率的にACE2の活性を低下させることが出来れば、
新型コロナウイルスの感染を予防することが出来る、
という可能性があります。

ただ、ACE2の発現がどのように調節されているのかについては、
これまであまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究ではネズミなどの動物実験や、
摘出されたヒトの臓器を使用した実験によって、
FXRという胆汁酸の核内受容体が、
ACE2の発現を調節していて、
このFXRの発現を抑制することにより、
ACE2の発現も抑制することを確認しています。

ウルソという薬があります。
これは胆汁酸の一種ですが、
脂質代謝を改善し脂肪肝炎や胆石症の治療薬として、
広く使用されています。
ウルソのFXRに対する作用は複雑ですが、
結果としてFXRに拮抗し、
その発現を抑制する効果を持っています。

それではウルソを使用することにより、
ACE2が抑制されて、
新型コロナウイルスの感染も予防されるのでしょうか?

今回の動物実験とヒトの臓器を使用した実験では、
ウルソを使用することにより、
FXRの発現が低下し、
細胞のACE2の発現も低下することが確認されました。

最後に8人のボランティアに体重1キロ当たり15㎎のウルソを5日間使用し、
その前後で鼻粘膜のACE2の発現を測定した実験では、
ACE2のレベルはウルソの使用により有意に低下していました。
また慢性肝疾患の患者の疫学データからは、
ウルソ使用者で新型コロナの重症化が少ない、
という知見も得られました。

今回の論文は敢くまで基礎実験のデータが主体で、
臨床的なデータは極僅かに過ぎませんが、
一般に安全に使用されている安価な薬剤で、
新型コロナウイルスの感染が抑制される可能性がある、
という知見は非常に興味深く、
今後は臨床的な検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。


nice!(3)  コメント(0) 

小児への新型コロナウイルスワクチンの有効性(アルゼンチンの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナワクチンの小児への有効性アルゼンチン.jpg
British Medical Journal誌に2022年11月30日掲載された、
小児への新型コロナウイルスワクチンの有効性についての論文です。

新型コロナウイルスワクチンについては、
モデルナ社とファイザー・ビオンテック社の、
2種類のmRNAワクチンの短期間の感染予防効果と、
比較的長期に渡る重症化予防効果が確認されています。
また、数種類のウイルスベクターワクチンや、
不活化ワクチンについても、
一定の感染予防効果が確認されています。

ただ、小児への使用について、
短期間の感染予防効果は確認されているものの、
重症化予防や生命予後への有効性については、
まだ実際の臨床データがそれほど蓄積されていないのが実際です。

今回の研究は3歳から17歳の小児に対して、
3歳から11歳には中国製の不活化ワクチン(BBIBP-CorV)が、
12歳から17歳には、それに加えて、
2種類のmRNAワクチンが使用されているアルゼンチンにおいて、
その感染予防効果や重症化予防効果を検証しているものです。

その結果、
デルタ株の流行時期においては、
3から11歳の小児に対する新型コロナワクチンの、
検査で確認された感染に対する予防効果は、
61.2%(95%CI:56.4から65.5)で、
12から17歳では66.8%(95%CI:63.9から69.5)でした。
これがオミクロン株の流行時期においては、
その予防効果はグッと下がり、
3から11歳において15.9%(95%CI:13.2から18.6)で、
12から17歳では26.0%(95%CI:23.2から28.8)と算出されています。
これは観察期間全体で算出されたものですが、
オミクロン株の流行期に限ってみると、
ワクチン接種後短期間でその予防効果は減弱し、
接種後60日以上経過後には、
3から11歳での予防効果は2.0%(95%CI:1.8から5.6)で、
12から17歳の予防効果は12.4%(95%CI:8.6から16.19という低率でした。

一方で新型コロナウイルス感染による死亡の予防効果についてみると、
オミクロン株の流行期においても、
3から11歳で66.9%(95%CI:6.4から89.8)、
12から17歳で97.6%(95%CI:81.0 から99.7)に維持されていました。

このように、
現行のワクチン(オミクロン対応ではない)は、
特にオミクロン株に対しては、
小児への感染予防効果はあまり期待出来ないのですが、
重症化予防効果については、
維持されるものであるようです。

現行接種されているオミクロン株対応の2価ワクチンの有効性については、
まだ長期のデータはあまりないのが実際ですが、
今後の検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

nice!(4)  コメント(0) 

KERA・MAP「しびれ雲」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
しびれ雲.jpg
ケラさんが緒川たまきさんと企画しているユニット、
KERA・MAPの新作公演が、
今下北沢の本多劇場で上演されています。

ケラさんがアレンの名作「カイロの紫のバラ」を、
翻案して大成功だった「キネマと恋人」の舞台である、
架空の昭和初期の「梟島(ふくろうじま)」を舞台にした物語で、
今度は小津安二郎や岸田國士を彷彿とさせる物語が、
架空の方言台詞も楽しく再現されます。

ケラさんは本当に多彩な作品を上演されていますが、
KERA・MAPではシュールなギャクや不条理劇、
ブラックで残酷な要素などはほぼ封印されていて、
ウェルメイドなコメディや翻訳劇的なもの、
また過去の日本文学の再構成的なものが主体となっています。
そこに緒川たまきさん演じるヒロインが、
どのように嵌るかがポイントになっています。

このシリーズの一番のヒット作で成功作と言えば、
再演もされた「キネマと恋人」だと思いますが、
今回の作品は同じ舞台で同じヒロインが登場する、
という設定として説明されていましたが、
その後少し方向転換があったようで、
同じキャストが数人登場し、
「キネマと恋人」に似通ったところのある役柄を演じていますが、
基本的には別の設定の独立した物語となっています。
「キネマと恋人」に登場する映画館のことも、
台詞の中には少し登場しますが、
舞台上に登場することはありません。

これは北村想さんが最近上演している、
日本の古典文学に想を得た作品群に、
とても近い感じの作品でした。

動きそうで動かない、
ふんわりと漂うような感じのストーリーで、
謎の男の正体は誰なのかしら、
というところや、
夏なのに蝉が鳴くのは何故なのか、
というような全体を貫く串のような部分は、
結局は説明されないままに終わります。
素材が串で繋がっていたように最初は見えたのに、
最後になると串はいつの間にか消えてしまう、
というような風情があります。

そうした点を呑み込めるかどうかが、
こうした作品を楽しめるかどうかのポイントで、
僕は正直微妙なところではありました。

ただ、ケラさんが創造したこの世界の、
作り込みは非常に精緻で素晴らしくて、
おそらく岸田國士さんの作品がかつて理想的に同時代的に上演された時も、
こうした感じであったのではないかしら、
と想像されるような思いがしました。

緒川たまきさん、ともさかりえさん、
抜群に良かったですよね。
三宅弘城さん、萩原聖人さんの円熟した味わいも、
最近この人がいないと多くの舞台が成立しない感のある、
菅原永二さんも怪演もさすがでした。
こうした役者さんの作り込みの見事さを見るだけで、
この作品の価値は充分にある、
という感がありました。

これからもこのシリーズは、
趣向を変えて続けて頂きたいと思いますし、
また来年のケラさんの作品も、
心待ちにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

nice!(4)  コメント(0) 

SGLT2阻害剤の慢性腎障害への有効性(2022年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降が石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤の腎障害への効果.jpg
Lancet誌に2022年11月19日掲載された、
糖尿病の治療薬の腎障害への有効性についての論文です。

SGLT2阻害剤は、
尿へのブドウ糖の排泄を増加させることにより、
糖尿病のコントロールを改善する作用を持つ薬剤ですが、
心血管疾患のリスクを低下させる作用のあることが確認され、
慢性心不全の患者さんへの治療薬としても、
糖尿病の有無に関わらず使用されるなど、
その使用適応が拡大されて注目を集めています。

糖尿病と合併した慢性腎臓病の患者さんにおいても、
その進行予防や予後の改善において、
SGLT2阻害剤が有効であることが確認されています。

ただ、糖尿病のない慢性腎臓病の患者さんにおいても、
同様の有効性があるかどうかについては、
まだデータが限られているのが実際です。

これまでにも、
SGLT2阻害剤の慢性腎臓病に対しての有効性を検証した、
メタ解析の論文は発表されていますが、
2022年に2つ大規模な介入試験の結果が報告されているため、
今回の研究ではその新しいデータを含めて、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析することにより、
この問題の再検証を行っています。

これまでの13の精度の高い臨床試験に含まれる、
90409名の患者データをまとめて解析したところ、
SGLT2阻害剤は慢性腎臓病の進行のリスクを、
偽薬と比較して37%(95%CI:0.58から0.69)有意に低下させていました。
この進行予防効果は糖尿病の有無に関わらず、同等に認められました。
同様にSGLT2阻害剤は、
急性腎障害のリスクを23%(95%CI:0.70から0.84)、
心血管疾患による死亡のリスクを14%(95%CI:0.81から0.92)、
それぞれ有意に低下させていて、
このリスク低下も糖尿病の有無に関わりなく同等に認められました。

このように、
今回の最新のデータを含めた検証において、
SGLT2阻害剤は糖尿病の有無に関わらず、
慢性腎臓病の進行予防効果を有することが確認されました。

この薬については、
脱水や尿路感染症の有害事象が想定されるため、
当初腎障害には不向きなのではないかと考えられていましたが、
その後の研究により、
他剤に勝る腎保護効果が確認されており、
今後糖尿病のない患者さんにおいても、
積極的に慢性腎臓病の治療薬として、
使用される流れになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0)