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5α還元酵素阻害剤の認知症、うつ病リスク増加について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
5α還元酵素阻害剤と認知症、うつ病リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年12月22日ウェブ掲載された、
前立腺肥大や脱毛症に使用されている一般的な薬で、
認知症やうつ病のリスクが増加するのでは、
というちょっとショッキングな報告です。

フィナステリド(商品名プロペシアなど)と、
デュタステリド(商品名アボルブ、ザガーロなど)は、
男性ホルモンのテストステロンを、
活性型のジヒドロテストステロンに代謝する、
5α還元酵素を阻害する作用を持つ薬剤で、
前立腺や毛嚢などの局所の男性ホルモン活性を抑制することにより、
前立腺肥大症や男性型脱毛の治療薬として、
広く使用されている薬です。

こうした薬の有効性と安全性は、
基本的には確立されていると考えらえていますが、
最近その関連が危惧されている有害事象が、
認知機能の低下や抑うつ状態などの精神系の症状です。

フィナステリドやデュタステリドを使用継続することにより、
認知症のリスクやうつ病のリスクが増加する、
という疫学データが報告されています。
ただ、一方でそうしたリスク増加はないとする報告もあり、
この問題はまだ解決が付いているとは言えません。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
50から90歳(平均55歳)の2236786名を登録し、
フィナステリドやデュタステリドの使用と、
その後の認知症やうつ病のリスクとの関連を比較検証しています。

観察期間中に70645名がフィナステリドを使用し、
8774名がデュタステリドを使用開始しています。
開始時の平均年齢は73歳です。

観察期間中のトータルの認知症リスクは、
フィナステリドの使用により22%(95%CI:1.17から1.28)、
デュタステリドの使用により10%(95%CI:1.01から1.20)と、
いずれも有意に増加していました。
個別の解析においても、
アルツハイマー病のリスクは、
フィナステリドの使用により20%(95%CI:1.10から1.31)、
デュタステリドの使用により28%(95%CI:1.09から1.50)、
血管型認知症のリスクは、
フィナステリドの使用により44%(95%CI:1.30から1.58)、
デュタステリドの使用により31%(95%CI:1.08から1.59)と、
いずれも有意に増加していました。

またうつ病のリスクについては、
フィナステリドの使用により61%(95%CI:1.30から1.58)、
デュタステリドの使用により31%(95%CI:1.08から1.59)と、
いずれも有意に増加していました。

この認知症のリスクの増加は、
投与期間が長くなるほど減少し、
4年以上の使用継続者のみの解析では、
有意な増加は認められなくなりました。
一方でうつ病のリスク増加については、
長期の使用者でも認められました。

自殺のリスクについては、
以前には関連があるとするデータもありましたが、
今回の検証では薬剤の使用者で、
有意な増加は認められませんでした。

このように5α還元酵素阻害剤の高齢での使用は、
認知症やうつ病のリスク増加に繋がる可能性があります。
長期の使用によりリスクが減少する理由は明らかではありませんが、
潜在的に軽度の認知機能低下を持つ高齢者において、
使用することによりその症状が顕在化すると考えると、
筋が通るという気もします。
つまり使用により徐々に認知症になる、ということではなく、
その使用が認知症発症の後押しになるのでは、
という仮説です。

こうした薬剤が精神症状に結び付くメカニズムも、
現状では明らかになっていませんが、
脳に移行した薬剤が、
脳内のステロイド系のホルモン合成を阻害する、
という可能性を指摘する専門家もいるようです。

いずれにしても、
高齢者における5α還元酵素阻害剤の使用継続時には、
その後の認知機能低下やうつ症状に留意し、
そうした症状が認められた場合には、
その使用を中止や他剤への変更を考慮するなど、
適切な対応を取る必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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