「MEN 同じ顔の男たち」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日からクリニックは年末年始の休診に入ります。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イギリスのアレックス・ガーランド監督による、
オリジナルのサスペンス・ホラー映画で、
如何にもイギリスという、
かなりひねくれた尋常ならざる世界が展開されます。
女性を暴力的に蹂躙する男性たちが、
そっくりホラー映画の「モンスター」である、
という趣向になっていて、
基本的には変態的でグロテスクなサイコ・ホラーなのですが、
今の社会的風潮を巧みに設定に盛り込んで、
男性の支配からの抵抗と解放の物語、
というように見えなくもない、
という作品に落とし込んでいるところが、
如何にも今の映画、という感じがします。
ただ、おそらくですが、
作り手としては別にテーマ性はどうでも良くて、
トラウマを受けた傷心の女性が、
1人で田舎町を訪れて奇怪な体験をする、
という古典的なホラー映画のプロットを利用して、
前半は不気味なムードのみを醸成して何も起こらない、
というジャパニーズホラー的な雰囲気ホラーをやり、
後半は一転して怪物たちが次々と襲い掛かるという、
派手なモンスター映画の趣向を、
ロリー・キニアという希代の怪優を使って、
まずはかつてのユニバーサル・ホラーのボリス・カーロフのように、
役者のメイクや演技のみで怪物性を見せ、それから一転して、
リック・ベイカーやスクリーミングマッドジョージ的な、
作り物のSFXを繰り出すという2段構えでやりたかった、
ということなのではないかと思います。
クライマックスは悪趣味の極致ですが、
最近はこうしたビジュアル重視のホラーは、
あまりありませんでしたから、
その出来栄えの良さも含めて感心しました。
申し訳ありません。
こうしたものが嫌いではないのです。
多分この悪趣味をギリギリ成立させるために、
男性優越主義を怪物に見立てる、
というテーマ性が必要であったのだと思います。
主人公を演じたジェシー・バックリーという俳優さんが、
なかなかいいですよね。
この役は弱弱しいと作品から外れてしまうのですが、
かと言って、強気で力強い感じだと、
最初からそうした物語として観客に見られてしまうので、
それはそれでまずいのです。
その微妙な匙加減を、
バックリーさんは良く心得ていて、
説得力のある演技で最初の傷ついた繊細な感じから、
その所々に強い意志を見せ、
それが後半のある種の開き直り以降に、
説得力を与えているのです。
そして勿論、
複数の怪物を1人で演じたロリー・キニアの怪演は素晴らしく、
これは趣向としては、
間違いなくロン・チャニィやボリス・カーロフ、
ベラ・ルゴシ、ヴィンセント・プライスといった、
かつての怪奇映画役者へのトリビュートなんですね。
批評で「何故中途半端に全員を1人で演じるのか分からない」
というような意見がありましたが、
それはね、そうじゃないのです。
理屈じゃなくて、そのこと自体がやりたかったんですよ。
怪奇映画役者の百面相という、
かつての怪奇映画のモチーフを再現したかったのです。
そんな訳で、色々と含みはある作品ですが、
基本的にはかつての怪奇映画の古典的プロットを、
歴史的な様々な趣向で映像化した、
「ホラー映画早分かり百科事典」的作品で、
その意味ではとても楽しく鑑賞することが出来たのです。
ただ、相当悪趣味なので、
向かない方も多いことをお断りしておきます。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日からクリニックは年末年始の休診に入ります。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イギリスのアレックス・ガーランド監督による、
オリジナルのサスペンス・ホラー映画で、
如何にもイギリスという、
かなりひねくれた尋常ならざる世界が展開されます。
女性を暴力的に蹂躙する男性たちが、
そっくりホラー映画の「モンスター」である、
という趣向になっていて、
基本的には変態的でグロテスクなサイコ・ホラーなのですが、
今の社会的風潮を巧みに設定に盛り込んで、
男性の支配からの抵抗と解放の物語、
というように見えなくもない、
という作品に落とし込んでいるところが、
如何にも今の映画、という感じがします。
ただ、おそらくですが、
作り手としては別にテーマ性はどうでも良くて、
トラウマを受けた傷心の女性が、
1人で田舎町を訪れて奇怪な体験をする、
という古典的なホラー映画のプロットを利用して、
前半は不気味なムードのみを醸成して何も起こらない、
というジャパニーズホラー的な雰囲気ホラーをやり、
後半は一転して怪物たちが次々と襲い掛かるという、
派手なモンスター映画の趣向を、
ロリー・キニアという希代の怪優を使って、
まずはかつてのユニバーサル・ホラーのボリス・カーロフのように、
役者のメイクや演技のみで怪物性を見せ、それから一転して、
リック・ベイカーやスクリーミングマッドジョージ的な、
作り物のSFXを繰り出すという2段構えでやりたかった、
ということなのではないかと思います。
クライマックスは悪趣味の極致ですが、
最近はこうしたビジュアル重視のホラーは、
あまりありませんでしたから、
その出来栄えの良さも含めて感心しました。
申し訳ありません。
こうしたものが嫌いではないのです。
多分この悪趣味をギリギリ成立させるために、
男性優越主義を怪物に見立てる、
というテーマ性が必要であったのだと思います。
主人公を演じたジェシー・バックリーという俳優さんが、
なかなかいいですよね。
この役は弱弱しいと作品から外れてしまうのですが、
かと言って、強気で力強い感じだと、
最初からそうした物語として観客に見られてしまうので、
それはそれでまずいのです。
その微妙な匙加減を、
バックリーさんは良く心得ていて、
説得力のある演技で最初の傷ついた繊細な感じから、
その所々に強い意志を見せ、
それが後半のある種の開き直り以降に、
説得力を与えているのです。
そして勿論、
複数の怪物を1人で演じたロリー・キニアの怪演は素晴らしく、
これは趣向としては、
間違いなくロン・チャニィやボリス・カーロフ、
ベラ・ルゴシ、ヴィンセント・プライスといった、
かつての怪奇映画役者へのトリビュートなんですね。
批評で「何故中途半端に全員を1人で演じるのか分からない」
というような意見がありましたが、
それはね、そうじゃないのです。
理屈じゃなくて、そのこと自体がやりたかったんですよ。
怪奇映画役者の百面相という、
かつての怪奇映画のモチーフを再現したかったのです。
そんな訳で、色々と含みはある作品ですが、
基本的にはかつての怪奇映画の古典的プロットを、
歴史的な様々な趣向で映像化した、
「ホラー映画早分かり百科事典」的作品で、
その意味ではとても楽しく鑑賞することが出来たのです。
ただ、相当悪趣味なので、
向かない方も多いことをお断りしておきます。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2022-12-29 07:59
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コメント(1)
エンタメ記事を中心にいつも楽しく拝読しております。
MENは前半のリンゴやピエタを想起させる死に体などから、思わせ振りな展開を危惧しましたが、後半しっかりとグロテスクな描写となり満足いたしました。
また殊に音楽がとても素晴らしく、リゲティやチルコットのような現代アカペラ曲が映像美を盛り立てていましたし、
廃線トンネルで響き遊びをするシーンも、反響音のハモりが美しく印象的でした。
by 山本 (2023-01-02 16:02)