アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」 [ミステリー]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前中は中村医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2017年に原書が発売され、
2018年9月に翻訳版が出版されて、
本格翻訳ミステリーとして、
その年随一の評価を得た作品です。
翻訳物の長いミステリというのは、
一気に読まないと面白くないので、
なかなか時間が取れなかったのですが、
この連休に合わせて読了しました。
まあまあかな。
これは入れ子構造になった作品で、
主人公の女性編集者が、
1955年を舞台にした偽古典のようなミステリー小説の発表前の原稿を、
読み始める前からスタートして、
その後にその架空のミステリー小説が丸ごとあり、
その更に後に編集者とミステリー作家を巡る物語に移行して、
リアルと虚構の謎が交錯するという物語になっています。
こうした作品は日本人作家が比較的得意で、
メタミステリなどとも呼ばれ、
「ドグラマグラ」や「虚無への供物」から、
最近の三津田信三さんの諸作まで、
多くの作例があります。
ただ、幻想的で面白い反面、
結局現実と虚構両方の謎がすべて解き明かされる、
ということは稀で、
何処かに常に齟齬はあり、
謎の一部はそのままにされることが通常です。
一方でこの作品は、
それほどお話しとしてとんでもなくなることはなく、
奇想天外でも幻想的でもないので、
その点はやや物足りないのですが、
現実と虚構の2つの謎が完全に解決され、
その両者ともまずまず納得のゆく出来栄えで、
読後にもやもやした感じがないのが一番の特徴です。
虚構のミステリー小説として提示される作品は、
クリスティーとの類似が指摘され、
作者自身もモチーフにしているようなのですが、
どちらかと言えばパトリシア・モイーズや、
ルース・レンデルの本格趣味の傾向の作品に似ています。
まあまあ良くできていますが、
それほどビックリするようなものではないし、
描写もまどろっこしくて繰り返しが多いですよね。
それはリアルの部分の事件にも言えて、
長い手紙や小説の一部を、
長々と引用する部分があるのですが、
結果としてあまり必要性がない感じなので、
結構読んでいてストレスは感じました。
クリスティーを超えた、というような誉め言葉もあるのですが、
果たして何処がどう超えているのでしょうか?
クリスティーはもっと簡潔で凝縮力があり、
幻想味も外連味もありますよね。
この劇中作がクリスティーを超えているとは、
僕にはとても思えませんでした。
総じてとても面白く読みましたが、
正直多くの方が絶賛するほどではないかな、
というのが個人的な印象で、
少なくとも「今世紀最高」とか、
「50年後に残る」というのは、
大袈裟な意見のようにしか感じませんでした。
ミステリー好きにはそこそこお薦めですが、
これなら古典をそのまま読んだ方がいいかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で、
午前中は中村医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2017年に原書が発売され、
2018年9月に翻訳版が出版されて、
本格翻訳ミステリーとして、
その年随一の評価を得た作品です。
翻訳物の長いミステリというのは、
一気に読まないと面白くないので、
なかなか時間が取れなかったのですが、
この連休に合わせて読了しました。
まあまあかな。
これは入れ子構造になった作品で、
主人公の女性編集者が、
1955年を舞台にした偽古典のようなミステリー小説の発表前の原稿を、
読み始める前からスタートして、
その後にその架空のミステリー小説が丸ごとあり、
その更に後に編集者とミステリー作家を巡る物語に移行して、
リアルと虚構の謎が交錯するという物語になっています。
こうした作品は日本人作家が比較的得意で、
メタミステリなどとも呼ばれ、
「ドグラマグラ」や「虚無への供物」から、
最近の三津田信三さんの諸作まで、
多くの作例があります。
ただ、幻想的で面白い反面、
結局現実と虚構両方の謎がすべて解き明かされる、
ということは稀で、
何処かに常に齟齬はあり、
謎の一部はそのままにされることが通常です。
一方でこの作品は、
それほどお話しとしてとんでもなくなることはなく、
奇想天外でも幻想的でもないので、
その点はやや物足りないのですが、
現実と虚構の2つの謎が完全に解決され、
その両者ともまずまず納得のゆく出来栄えで、
読後にもやもやした感じがないのが一番の特徴です。
虚構のミステリー小説として提示される作品は、
クリスティーとの類似が指摘され、
作者自身もモチーフにしているようなのですが、
どちらかと言えばパトリシア・モイーズや、
ルース・レンデルの本格趣味の傾向の作品に似ています。
まあまあ良くできていますが、
それほどビックリするようなものではないし、
描写もまどろっこしくて繰り返しが多いですよね。
それはリアルの部分の事件にも言えて、
長い手紙や小説の一部を、
長々と引用する部分があるのですが、
結果としてあまり必要性がない感じなので、
結構読んでいてストレスは感じました。
クリスティーを超えた、というような誉め言葉もあるのですが、
果たして何処がどう超えているのでしょうか?
クリスティーはもっと簡潔で凝縮力があり、
幻想味も外連味もありますよね。
この劇中作がクリスティーを超えているとは、
僕にはとても思えませんでした。
総じてとても面白く読みましたが、
正直多くの方が絶賛するほどではないかな、
というのが個人的な印象で、
少なくとも「今世紀最高」とか、
「50年後に残る」というのは、
大袈裟な意見のようにしか感じませんでした。
ミステリー好きにはそこそこお薦めですが、
これなら古典をそのまま読んだ方がいいかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-05-11 11:05
nice!(6)
コメント(0)
コメント 0