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血友病A遺伝子治療の有効性(治療2年後の評価データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血友病Aの遺伝子治療.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年2月23日付で掲載された、
血友病の遺伝子治療の予後についての論文です。

血友病というのは、
単独の遺伝子の変異による先天性の病気で、
血液を凝固させる際に必要な蛋白質の産生や機能が低下するため、
関節や筋肉など全身の出血を起こすという特徴があります。
このうち血友病Aは凝固系の第8因子の異常により、
血友病Bは第9因子の異常により起こります。

この病気の治療は、
長く血液製剤の補充療法しかありませんでした。
機能の低下する凝固因子を、
定期的な注射により補充するのです。
しかし、これは在宅での静脈注射となり、
週に数回の注射が必要というかなり負担の大きな治療です。
しかもこの治療を一生涯行わないといけないのです。
更には注射した凝固因子に対する抗体が産生されることがあり、
そのために治療の有効性が低下するという問題もありました。

そこに日本では2018年に登場した新薬が、
中外製薬が創薬したエミシズマブ(商品名ヘムライブラ)です。
この薬は二重特異性抗体と呼ばれる薬で、
イメージ的には橋渡し的に2本の腕で凝固因子に結合することにより、
血友病Aで不足している第8因子をスキップして、
凝固を進める働きを持つという、
それまでにない画期的な作用を持つ注射薬です。

注射を一生継続しないといけない、
という点はそれまでの補充療法とは差はないのですが、
静脈注射ではなく皮下注射であるという点と、
週に1回の注射で済むという点が、
患者さんの負担を大きく軽減する効果があります。

しかし、この方法でも注射を一生続けなくてはならない、
という点は解消していません。

そこで注目されているのが遺伝子治療です。

これは遺伝子を運ぶ特殊なベクターを使用して、
凝固因子を産生している肝臓の細胞に、
血友病Aで不足する第8因子を作る遺伝子を運び、
肝臓の細胞に持続的に第8因子を作らせる、
という治療です。

理論的には1回の治療で、
継続的に治療効果が得られるということになります。

その治療の1つとして実用化されたのが、
バクトロコジーン ロクサパルボベク(valoctocogene roxapavovec)で、
これはBドメインという部分を除いた第8因子をコードする遺伝子を、
アデノ随伴ウイルス(AAV)というウイルスの遺伝子に挿入して、
それを注射により身体に送り込むという方法です。

今回の論文ではこの治療を施行して、
2年間の経過を観察しています。

重症の血友病Aで、
定期的な血液製剤の補充療法を施行されていた134名の男性に、
6×1013ベクターゲノム/Kgの、
バクトロコジーン ロクサパルボベクを1回のみ注入し、
その後2年の出血リスクと導入遺伝子由来の第8因子活性の推移を検証しています。

その結果、
データの解析が可能であった112例のうち、
2年後(104週)までの治療を要した出血の発生率は、
治療前より84.5%低下していました。
導入された遺伝子由来の第8因子活性は、
経過とともに低下していて、
その半減期(活性が半分に低下するまでの時間)は、
123週間(95%CI:84から232)と算出されました。
つまり、この遺伝子治療の効果は永久に続くというものではなく、
概ね2から5年の間には治療前のレベル近くまで低下する、
と推測されています。
今回の対象者のうち13.6%に当たる18名では、
2年の時点で第8因子活性は測定不能となっていました。

このように、
遺伝子治療にも現時点では限界もあるのですが、
1回の注入により、
その後数年に渡り出血が抑制され、
定期的な注射が必要なくなるとすれば、
血友病の患者さんにとって意義のあることは間違いがなく、
場合により億を超えると言われる医療費の問題はあるものの、
今後のより安定的で安全な治療の開発にも期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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