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超音波腎デナベーション治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などで都内を廻ります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腎デナベーションの有効性.jpg
JAMA誌に2023年2月28日付で掲載された、
治療抵抗性高血圧に対するカテーテル治療の有効性についての論文です。

高血圧の治療と言うと、
一般に思い浮かべるのは、
降圧剤と呼ばれる薬を飲むことによる薬物治療です。

原発性アルドステロン症など、
ホルモンの病気によって起こるような高血圧があり、
手術治療によって治癒する、というケースもありますが、
多くの高血圧は「本態性高血圧」と言って、
明確な単独の原因は不明なので、
完全に治すという治療はなく、
血圧が高いことによる弊害を予防するために、
薬を飲み続けて血圧をコントロールする治療が、
多くの場合は選択されています。

しかし、
多くの患者さんにとって、
薬を飲み続けお医者さんに通い続けるというのは苦痛ですから、
仮に1回の治療によって高血圧が治癒し、
その後は薬を飲む必要もなく、
お医者さんに掛かる必要のなくなるとすれば、
それに越したことはありません。

2009年のNew England…誌に、
7種類の降圧剤を使用していても、
血圧が167/107と高いままであった患者さんに対して、
腎動脈デナベーションという治療を行なったところ、
血圧が127/81まで改善した、
とする報告が発表されました。

腎動脈デナベーションというのは、
本態性高血圧が生じるメカニズムの1つとして、
全身の交感神経の緊張状態があるとの考えに基づき、
その悪循環を断つために、
腎臓周囲の交感神経を遮断する、
という治療のことです。

具体的には、
血管造影などと同じ手技で、
太腿の動脈からカテーテルを挿入し、
その先端を腎臓を栄養する動脈に進め、
電極カテーテルで通電して、
両側の腎動脈の交感神経を焼却して遮断します。

メドトロニック社という医療メーカーが、
その専用の器具を開発し、
3種類以上の降圧剤を使用しても、
収縮期の血圧が160mmHg以上より下がらない、
高血圧の患者さん153名を対象として、
腎動脈デナベーションを行ない、
その1年後までの経過を観察した文献が、
2009年のLancet誌に掲載されました。
患者さんはアメリカとヨーロッパの専門施設でエントリーされています。
腎動脈デナベーション治療の実用化に向けて、
本格的な臨床試験が始まったのです。
これをSYPRLICITY試験と呼んでいます。

この文献においては、
腎動脈デナベーションは安全に施行され、
施行後1カ月から有意に血圧は低下し、
1年後にもその効果は持続していた、
とされています。
ただ、この試験はデナベーション治療を施行した患者さんの、
治療前後の状態を比較しているだけで、
施行しないコントロールの患者さんとの比較はされていません。

これがSYMPLICITY HTN-1試験です。

その後2014年になって術後3年間の経過観察の結果が、
同じLancet誌に掲載され、
ほぼ同じ血圧の低下が、
3年間持続することが確認されました。

それに前後する形で今度は、
100名ほどの患者さんを、
この治療を行なう群と行なわない群とに分けて、
その後の血圧の経過を見る試験が行なわれ、
その結果は2010年の同じLancet誌に掲載されました。

施行後半年の時点で、
デナベーション治療を受けた患者さんでは、
収縮期の血圧が平均で32低下し、
拡張期は平均で20低下しましたが、
未施行の患者さんでは血圧は低下しませんでした。

つまり、コントロールとの比較においても、
腎動脈デナベーション治療は半年の観察期間においては、
その有効性が確認されたのです。

これがSYMPLICITY HTN-2試験です。

ただ、デナベーション治療はカテーテル治療ですから、
それをやったかやらないかは、
当然患者さんには分かっています。

つまり、
本来は治療をしたかしないかは、
患者さんには分からないようにしないと、
本当の意味での治療の効果を検証することにならないのですが、
そのことは実際的には困難なので、
施行がされていなかったのです。

そのため、SYMPLICITY HTN-3と命名された試験では、
より厳密にコントロールを設定するため、
「模擬手術」を行なうという手法を取り入れて、
腎動脈デナベーション治療の効果を検証し、
その結果が2014年のNew England…誌に掲載されました。

患者さんはアメリカの複数の施設で登録された、
トータル535名の治療抵抗性高血圧の患者さんで、
くじ引きで2つのグループに分け、
364名は実際にデナベーション治療を行ない、
171名は「模擬治療」を行なって、
その後の血圧の変化を、
診察室での測定及び24時間血圧計を用いた測定の両方で、
術後半年の経過観察を行なっています。

「模擬治療」というのは一体どのようにしたのかと言うと、
カテーテルの検査自体は同じように行ない、
腎動脈の走行や狭窄の有無を確認、
患者さんには鎮静を掛けて、
治療群ではカテーテルに通電し、
未治療群はただ20分間カテーテルを入れたまま寝かして置くのです。

患者さんにもご家族にも、
治療が行なわれたかどうかは伏せておきます。

その結果は全く予想外のものになりました。

半年後の診察室収縮期血圧は、
デナベーション治療群で平均14.13の低下、
未治療群で平均11.74の低下で、
両者に有意な差は認められませんでした。
24時間血圧の平均値も、
治療群で6.75の低下、
未治療群で4.79の低下と、
これも有意な差は認められませんでした。

つまり、
「模擬治療」と比較して検討すると、
腎動脈デナベーション治療の効果と称するものは、
煙のように消失してしまったのです。

この結果を受けて今年の1月に、
メドトロニック社は現在も継続中の臨床試験の、
新たな登録を中止する決定を下しました。

治療をしても効果が確認出来ないのですから、
この決定は当然のものと考えられます。

腎動脈デナベーション治療の有効性は一旦否定されたのです。

その後デナベーション治療の新しい器具が登場しました。

それが今回ご紹介する超音波腎デナベーションです。

これは以前の器具がラジオ波による焼却だったのに対して、
特殊な超音波による焼却を行う、というものです。
この方法の方が安全に施行出来、
ラジオ波で生じがちな「焼きムラ」がないので、
より安定した効果が期待されるのです。

今回の臨床試験では、
欧米の複数の専門施設において、
2種類の降圧剤を使用しても血圧が140/90mmHg未満に低下せず、
薬を中止して4週間後の血圧が、
130/85 以上で170/105未満の224名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
150名は超音波腎デナベーション治療を施行し、
74名は模擬手術を施行して、
その後2か月の経過を観察しています。

その結果デノベーション治療群では収縮期血圧が平均7.9mmHg低下したのに対して、
模擬手術群では1.8mmHgの低下に留まり、
その差は有意なものと確認されました。

今回のデータでは模擬手術と比較して、
超音波腎デナベーション治療の一定の有効性が確認されています。

ただ、以前のデータと比較すると、
降圧剤を中止してもそれほど大きな全身的な問題は生じない、
比較的軽症の患者さんが対象となっています。

以前の考え方では、
内服薬ではコントロールが困難な患者さんに対してのみ、
こうした治療が適応されたのですが、
今回はそうではなく、
降圧剤でも一定のコントロールが可能な患者さんに、
カテーテル治療が施行されている訳です。

確かに治療によりその後半永久的に降圧剤が必要なくなるのであれば、
患者さんによってはカテーテル治療を選択する、
という選択肢はあっても良いようには思います。
ただ、侵襲的治療でリスクもあるため、
あまり闇雲にこうした治療が推奨されることも疑問には感じます。
実際には治療後2か月で血圧が135/85未満に低下していたのは、
18.8%の患者さんに過ぎませんから、
この程度の低下作用であれば、
結局は降圧剤も追加する結果になるような気もします。

つまり、この治療の対象をどのような患者さんにするべきかは、
より多角的な検証が必要であると考えられるのです。

いずれにしても、
今後より長期の有効性と安全性とが検証されることにより、
高血圧症の治療のガイドラインは、
今後大きく変化することになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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