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ワインの心血管疾患予防効果(2023年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワインの健康効果メタ解析.jpg
Nutrients誌に2023年6月17付で掲載された、
ワインの心血管疾患予防効果についての論文です。

健康のために適切な飲酒量はどのくらいか、
というのは未だ解決はされていない問題です。

大量のお酒を飲んでいれば、
肝臓も悪くなりますし、
心臓病や脳卒中、高血圧などにも、
悪影響を及ぼすことは間違いがありません。

ただ、アルコールを少量飲む習慣のある人の方が、
全く飲まない人よりも、
一部の病気のリスクは低くなり、
寿命にも良い影響がある、
というような知見も複数存在しています。

日本では厚労省のe-ヘルスケアネットに、
日本のデータを元にして、
がんと心血管疾患、総死亡において、
純アルコールで平均23グラム未満(日本酒1合未満)の飲酒習慣のある方が、
全く飲まない人よりリスクが低い、
という結果を紹介しています。

その一方で、
2016年のメタ解析の論文によると、
確かに飲酒量が1日アルコール23グラム未満であれば、
機会飲酒の人とその死亡リスクには左程の差はないのですが、
1日1.3グラムを超えるアルコールでは、
矢張り死亡リスクは増加する傾向を示していた、
というようなデータが紹介されています。

2017年に発表されたイギリスの大規模疫学データでは、
概ね多くの病気において、
全くお酒を飲まない人より、
1日20グラム程度のアルコールを摂取している人の方が、
その発症リスクは低く、
それが適正量を超えるとリスクの増加に繋がる、
というものになっていました。

ただ、喉頭癌、食道癌、乳癌など、
一部の癌はより少ないアルコール量でも、
そのリスクが増加した、
というデータもあります。

2023年のJAMA誌に報告されたメタ解析でも、
少量の飲酒では生命予後には明確な悪影響はなく、
1日23から24グラムを超えるような飲酒量において、
初めて総死亡の増加傾向は見られていました。

このように、
1日23グラム未満のアルコール量の健康影響は、
データによっても異なる点があり、
まだ結論が出ていません。

ただ、少量の飲酒にリスクがないとは言えませんが、
現状のデータの範囲においては、
生命予後への悪影響は概ね1日1合を超える飲酒により生じると、
そう考えて大きな間違いはないようです。

もう1つ飲酒に関して問題となるのは、
アルコールの種類によって、
その健康影響に差があるのではないか、という点です。

ワインには抗酸化作用のあるポリフェノールが多く、
そのためワインはそれ以外のアルコール飲料と比較して、
より心血管疾患予防効果が高いことを示唆する報告があります。

それは事実なのでしょうか?

今回の検証は、
ワインの摂取と心血管疾患についての、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析の手法で、
この問題の検証を行っています。

これまでに発表された22の臨床データをまとめて解析したところ、
ワインを飲む人は飲まない人と比較して、
冠動脈疾患の発症リスクが24%(95%CI:0.69から0.84)、
心血管疾患の発症リスクが17%(95%CI:0.70から0.98)、
心血血管疾患による死亡のリスクは27%(95%CI:0.59から0.90)、
それぞれ有意に低下していました。

これは摂取量はまちまちであるため、
ワインの摂取量と健康影響との関連を確認出来るデータではなく、
他のアルコール飲料との比較も困難です。
ただ、死亡リスクを明確に抑制している点は興味深く、
今後他のアルコール飲料との比較やワインの種別による違いなど、
より詳細な検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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エアロゾル粒子感染に与える年齢の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
エアロゾル感染と年齢.jpg
PNAS誌に2023年5月22日ウェブ掲載された、
飛沫による感染リスクに与える年齢の影響についての論文です。

飛沫感染やエアロゾル感染(飛沫核感染)という言葉が、
一般にも聞かれるようになったのは、
言うまでもなく新型コロナウイルス感染以降のことです。

新型コロナウイルス感染症の感染力は非常に強く、
正確には不明の点が多くありますが、
一部の変異株においては、
よりその感染力は増していると想定されています。

その感染の主体は飛沫感染です。
つまり、ウイルス粒子を含む水や粘液の塊が、
鼻や口の粘膜から侵入して感染を引き起こすのです。

その飛沫は大きさが100μmを超えるような大きな物から、
15μmより小さなものまで様々ですが、
空気中に浮遊した段階からその大きさは3分の1くらいに縮小します。
大きな飛沫は遠くまで飛ぶ一方で、
すぐに落下して下に落ちてしまいますが、
小さな飛沫はそのまま空気中を長期間漂うという性質があります。
これがエアロゾルです。

屋外での感染は主に大きな飛沫によるもので、
口から弾丸のように放たれた飛沫が、
そのまま相手の口や鼻に飛び込むことにより感染が起こります。
「唾を飛ばしてまくし立てる」というような言い方がありますが、
お酒を飲みながら大声で喋っているような人では、
口から飛ぶ唾が見えますよね。
あれが大きな飛沫です。
一方で小さな飛沫は直接弾丸のように相手に当たるということではなく、
そのまま周囲に空気中にエアロゾルとして漂って、
それが相手の呼吸により鼻や喉から吸い込まれます。
室内ではこのエアロゾル感染が主体となり、
換気が不十分な状態であれば、
その空気中の濃度が高まるので、
感染のリスクが増加するのです。

このエアロゾルの排出量は、
運動により増加することが知られています。
屋内のエクササイズやジムなどで、
新型コロナの集団感染が発生したのはこのためで、
これまでの研究により激しい運動により、
最大でエアロゾルの排出量は安静時の100倍を超え、
感染リスクも10倍を超えると試算されています。

それでは、
エアロゾルの排出量と年齢や性別、体格との間には、
どのような関連があるのでしょうか?

今回の研究では、
年齢が20から39歳の40名と、
60から76歳の40名の被験者に、
安静時と運動(エルゴメーター)の個々の条件で、
呼気から喀出されるエアロゾル量を測定し、
その比較を施行しています。

その結果、
20から39歳と比較して60から76歳の高齢者では、
エアロゾルの排出量は安静時で2.7倍、
激しい運動時でも2.1倍増加していました。
一方で性別やBMIで評価された体格は、
こうした明確な違いを認めていませんでした。

つまり、年齢により当然換気量は低下しますが、
それを上回るエアロゾル粒子濃度の増加があって、
結果的にはより多くのエアロゾル粒子を放出している、
という結果になっているのです。

新型コロナに関わらず、
エアロゾル感染は高齢者からの感染リスクが大きい、
という知見は、
勿論それが不合理な差別に繋がってはいけませんが、
感染拡大抑止の面から、
今後科学的に考慮する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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N95マスクとサージカルマスクの有効性比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
N95マスクとサージカルマスクの有効性比較.png
Annals of Internal Medicine誌に、
2022年11月29日付でウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症予防に関して、
N95マスクとサージカルマスクを比較した論文です。

N95マスクは最も高性能の医療マスクですが、
これを正しく装着すると、
正直相当の息苦しさがあります。
それに準じるのがサージカルマスクで、
これは不織布を3枚重ねて作られています。

マスクの性能には色々な指標があります。
最も単純なものは、
マスクの構造がどのくらいの飛沫粒子を、
通過させるのか、
ということです。

医療関係者が通常装着しているサージカルマスクは、
5μm(5000nm)程度の大きさの粒子を、
濾過して捕捉する機能を持っています。

N95マスクと称されるより高性能のマスクは、
0.1から0.3μm(100から300nm)の粒子を、
95%以上濾過して捕捉する性能を持っています。

ただ、こうした違いは敢くまで理論上のもので、
実際に装着した際に、
新型コロナウイルス感染症の予防効果が、
どの程度あるのかを保証するものではありません。

今回の研究は実際の医療現場において、
日常的に使用継続しているマスクの性能が、
感染予防にどの程度の影響を与えるかを検証しているものです。

カナダ、イスラエル、パキスタン、エジプトの複数の医療機関において、
1009名の新型コロナの患者と直接接触している医療従事者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は医療用のサージカルマスクを装着し、
もう一方はN95マスクを装着して患者対応に当たり、
10週間の観察期間における新型コロナ感染の予防効果を、
比較検証しています。

その結果、
遺伝子検査で観察期間中に新型コロナの感染したのは、
サージカルマスク群の10.46%に当たる52名と、
N95マスク群の9.27%に当たる47名で、
N95マスクと比較した場合のサージカルマスクの感染リスクは、
1.14倍(95%CI:0.77から069)で、
両者に明確な差は認められませんでした。
ただ、国別の比較では、
カナダにおいてはサージカルマスク群の6.11%と、
N95マスク群の2.22%が感染していて、
N95マスクと比較した場合のサージカルマスクの感染リスクは、
2.83倍(95%CI:0.75から10.72)と、
有意ではないものの高い傾向は示していて、
国別にかなりの差があることが分かりました。

このように、
トータルで見ると適切に使用したサージカルマスクの感染予防効果は、
N95マスクと比較しても大きな遜色のないものと考えられますが、
その使用環境によって、
かなり大きな地域差が存在している性質のものであるゆです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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NODA・MAP「兎、波を走る」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
兎、波を走る.jpg
NODA・MAPの本公演として、
野田秀樹さんの新作「兎、波を走る」が今上演されています。

2021年の「フェイクスピア」が非常に素晴らしい作品で、
とても感銘を受けたのですが、
その時と同じ髙橋一生さんの主演で、
今回もとても楽しみに出掛けました。

結果は、うーん、今回は失敗かな、
というように感じました。

「桜の園」ならぬ閉演間近の遊園地を舞台に、
不思議の国のアリスをモチーフにした、
おもちゃ箱をひっくり返したような物語の展開する前半は、
初期の遊眠社を彷彿とさせる楽しさで、
懐かしい思いで観ていたのですが、
後半ある社会的事件の話であったことが明らかになると、
かなり重いドラマが続き、
前半の軽快さは完全に吹き飛んでしまいました。
その後は同じ話を延々と繰り返すような感じになり、
そのままモヤモヤしたまま救いのないラストを迎えて終わりました。

もとよりこのテーマを扱って、
明るいラストにはなりようがないのですが、
良い時の野田秀樹さんの劇作では、
前半のお遊びに過ぎなかったようなディテールや言葉遊びが、
後半になって別個の意味を持って立ち上がり、
前半のディテールはそのままに、
全く別の風景が浮かび上がるのですが、
今回の作品では後半になるともう前半とは別の世界の話になって、
前半のディテールもむしろ邪魔な感じしかありませんでした。
この辺りのバランスに、
今回は問題があったような気がします。

それから決めの台詞の1つとして、
「もうそう」と「もうそうするしか」という言葉遊びがあるのですが、
これ「小指の思い出」と一緒ですよね。
ちょっと芸が無さすぎると感じましたし、
「不思議の国」が「かの国」になるのも、
あまりに捻りがなくてちょっと脱力する感がありました。

個人的には野田さんの劇作は、
その軽さや幼児性に特徴があるので、
勿論社会的な事件や重いテーマを扱って悪いということはないのですが、
今回のテーマは野田戯曲の作劇対象としては重すぎて、
対応が難しかったように感じました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「1秒先の彼」(「1秒先の彼女」の日本版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1 秒先の彼.jpg
日本でも2021年に公開された台湾映画「1秒先の彼女」が、
男女を入れ替えるという奇策のクドカンの台本により、
「1秒先の彼」としてリメイクされました。

オリジナルは映画館で観ています。
ノスタルジックで心に残る良い映画でした。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2021-08-07

あれを翻案するのか、芸がないな、
というのが企画を聞いた時の第一印象でした。
クドカンなら充分オリジナルに匹敵するラブストーリーを、
オリジナルで描ける筈だと思ったからです。

ただ、実際に観てみると、
これはこれでありかな、というように感じました。

原作のふんわりしてノスタルジックな雰囲気を、
結構上手く再現しているな、と感じましたし、
オリジナルを日本で鑑賞した場合の違和感を、
結構キレイに掬い取っているな、という感じがしたからです。

原作は女性に男性が運命的に執着する、
というお話なので、
ちょっとストーカー的なんですね。
それが原作の特徴でもあるので、
決して悪い訳ではないのですが、
日本公開時は拒否感を持った人も少なくなかったようです。

それが、男女を反転させることで、
ストーカー色がほぼなくなっているんですね。
なるほど巧みだと感心しました。
またオリジナルでは擬人化したヤモリとの対話があり、
このコメディ的な部分も違和感があったのですが、
今回それをラジオのDJとの対話にして、
日本ドラマ定番の趣向で違和感を消したのもさすがでした。

その一方でおかしくなってしまった部分もあって、
原作では男性がバス運転手なので、
彼だけに時間が止まるという奇跡が起こる、
ということで整合性があるのですが、
その設定を女性でカメラマンにしてしまったので、
バス運転手も止まった時間の外にいる、
ということになってしまい、
あまり意味もなく複数の人間が時間の外にいる、
というおかしなことになってしまいました。

これ、時間の外にいる、というのは、
要するに死んでいる、ということなんですね。
原作のニュアンスはそうしたことだと思うのです。
でも、クドカンの今回の台本では、
そうなってはおらず、
主人公の失踪した父親も、
生きている、という設定になっているので、
原作の生死の狭間を彷徨うような気分が、
消滅してしまったという残念さがありました。

総じて、かなり良い気分で観ることの出来た映画で、
こうした翻案もありだな、というように感じたのですが、
原作の独特の死生観のようなものが失われてしまったことは、
ちょっと残念でもあり、
その意味でオリジナルとは別物として、
楽しむ必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督新作) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
君たちはどう生きるか.jpg
宮崎駿監督の新作が7月14日公開されました。
余分な情報がないうちに観たかったので、
その初日に足を運びました。

徹底した秘密主義で製作され、
奇妙な鳥の絵と題名以外、
公開まで全ての情報が公開されない、
という稀有の公開方法で、
こうした映画は滅多にないので、
ご興味のある方は、
是非是非予備知識なく映画館に足を運んで頂くのが吉です。

ただ、多くの方が内容には失望されたと思いますし、
なかなか褒めることが難しいタイプの作品であることは確かです。

一番似ていると思ったのは、
最近の村上春樹さんの小説で、
次に似ていると思ったのは、
黒澤明監督の晩年の映画です。

要するに高齢者の特質が強く出ているタイプの創作です。

この幻想と現実と過去の記憶とが不分明に混ざり合う感じ、
そこに統一感を持たせられない感じ、
これが多分の老人の頭の中なのですね。
僕もほぼ老人なので大きなことは言えませんし、
僕の頭の中もそうなりつつあるのは実感しているのですが、
自分が自分であることの実感のようなものは、
徐々に後退していって、
感情の繊細な動きのようなものも、
枯渇してゆくのですね。

老人の感情というのは平淡で、
高齢者は怒りっぽく、
激高するようなところがしばしばあるのですが、
あれはおそらく「感情」ではないのですね。
意味もなく感情の連鎖とも関連のない「怒り」が、
急にマグマのように沸いて出るだけのものなのです。

この作品を観る人は、
主人公の心理の平淡さのようなものに、
当惑とイライラを覚えると思うのですが、
多分監督自身は主人公の心と一体化して、
その熱情のようなものを情熱的に描いているつもりなのですね。
でもそれがそうはならず、
何かボンヤリして単調なものになってしまうのが、
老人の哀しさというものなのだと思うのです。

ただ、そうした退屈さは承知の上で、
技巧的には青鷺の動きの1つ1つにしても、
油彩画のような背景の表現にしても、
まさに天才の筆致が息づいていることは強く感じます。
その意味で監督の集大成という表現は、
映像表現に限って見れば嘘ではありません。

それでいて残念ながら、
致命的に面白くない、というのは、
黒澤監督の晩年の映画や、
村上春樹さんの最近の小説と同じように、
それはもう仕方のないことなのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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N95マスクの心肺機能に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
N95マスクの心肺機能に与える影響.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年6月9日付で掲載された、
医療用マスク長期装着の健康影響についての論文です。

新型コロナの流行以降、
他人と接触する時にはマスクを着用する、
という習慣が社会的に定着しました。

2023年5月8日の5類感染症への移行後は、
マスクを着けることは個人の自由とされ、
医療機関や満員電車などを除けば、
特に推奨もされない、という世の中になりましたが、
それでも外出時などはマスクをされている人が、
まだ結構多いのが実際です。

性能の高いマスクを適切に装着することは、
感染の拡大を抑制する効果があり、
感染予防効果も一定レベルはあると報告されています。

ただ、その一方で高性能のマスクを装着することで、
息苦しさや動悸などを感じる人も多く、
気温や湿度の高い時期には、
熱中症のリスクを増加させる可能性も指摘されています。

ただ、実際にマスクを装着した際の心肺機能への影響を、
正確に検証したようなデータはあまり存在していません。

今回の研究は中国において、
30人の健康なボランティアを、
エネルギー摂取や代謝量を測定可能な検査室で、
14時間連続でN95マスクを装着した場合と、
装着しない場合とにくじ引きで分け、
その経過を比較検証しているものです。

その結果、
マスクの装着により、
1時間以内に血液の酸素飽和度は低下し、
2時間後には心拍数が増加して、
その状態はマスクを外すまで持続しました。

マスク装着中に軽い強度の運動を行うと、
心拍数や血圧の上昇はより顕著なものとなりました。

交感神経系のホルモンであるエピネフリンやノルエピネフリンは、
マスク群で増加していました。

このように、
数時間の超える高性能のマスクの装着により、
心肺には負荷が掛かり、
交感神経系の緊張から、
血圧や脈拍の上昇を来すことが確認されました。

これは健康成人であれば問題にならないレベルのものですが、
小さなお子さんや高齢者、
また心肺系の病気のある方では、
基礎疾患の悪化など、
健康リスクが高まる可能性も示唆されます。

今後またマスクの装着が、
不特定多数で必要となるような場合には、
こうしたデータも参考にしつつ、
対象の絞り込みを行う必要があるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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慢性硬膜下血腫に対するステロイド治療の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
慢性硬膜下血腫のステロイド治療.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月15日付で掲載された、
慢性硬膜下血腫のステロイド治療についての論文です。

「慢性硬膜下血腫」は、
高齢者に多い病気です。
60歳以上では、
人口10万人当たり、5人程度の発症率との、
報告がありますが、
実際には診断されない例もかなりあると思われ、
潜在的な患者さんの数は、
多分その統計の数倍はあると考えられます。
典型的な経過は軽い転倒などの後、
しばらくしてから歩行時のふらつきなどの症状が出現し、
脳に血種が確認されるというものです。

脳の表面には、クモ膜という膜があり、
その更に外側には硬膜という膜があります。
その2つの膜の間には、
何かどろどろとした物質で満たされた空間があります。

年齢と共に、脳が萎縮すると、
クモ膜は下方に引っ張られるような形となり、
2つの膜の間にずれが生じやすくなります。
脳から出てくる静脈は、
その2つの膜の間を貫通する訳ですが、
それが引っ張られることで、
負荷が掛かると、
ちょっとした衝撃でも、
切れやすい状態になるのです。

ここで、激しくはなくとも頭をぶつけるような衝撃があると、
細い静脈が切れて、
小さな出血が起こります。

これが「慢性硬膜下血腫」のきっかけとなります。
小さい出血は止まりますが、
そこに傷を残します。

すると、血を固める働きと、その血を再び溶かす働きとが、
互いに強い状態が、
慢性に繰り返されます。
それが新しい出血を誘発し、
徐々に血の塊は大きくなって、
脳を圧迫して症状を出すのです。

これが現時点での、
「慢性硬膜下血腫」のメカニズムの仮説です。

MRIを撮れば、
ほぼ診断は確定しますが、
CTのみだと診断を誤ることがあります。
急性の出血は、
CTでは白く映るので、
間違いようがないのですが、
この場合はじわじわと出血が進行するので、
脳と同じくらいの濃度に映ることがあり、
また髄液と同じように見えることもあって、
ただの脳萎縮と、
間違えられることがあるのです。

特に認知症の進行した方では、
検査中に動いてしまったりされて、
条件の良い画像が撮れず、
診断の付かないケースもあります。

治療は手術が原則で、
通常局所麻酔でも可能な、
「穿頭血腫洗浄術」が広く行なわれています。
要するに穴を開け、
血を吸い出してしまうのです。
ガソリンのような色の血液が、
出て来ると言われています。

血を吸い出すだけなので、
当然再発するケースもあり、
その率は10パーセント程度と報告されています。
再発した場合には、
開頭手術が必要となるケースもあります。

軽症で神経症状などを伴わない慢性硬膜下血腫や、
穿頭術で再発したようなケースでは、
保存的な治療が選択されることもあります。
保存的な治療としては、
何もしないで様子をみる場合と、
血種の再発予防や進行予防に有効と考えられる、
薬物治療を行う場合があります。

薬物治療として使用されているのが、
今回検証されているステロイドと、
アドナやトラネキサム酸などの止血作用のある薬剤、
利尿剤、利水作用のある五苓散などの漢方薬などです。
安定剤のエチゾラムが有効との報告もありました。

漢方の使用はもっぱら日本のみで、
欧米ではステロイド使用の報告が多いのですが、
日本では検索した限り、あまり推奨はされていないようです。

これまでのメタ解析などでは、
ステロイドの一定の有効性があるとする報告が多かったのですが、
2020年のNew England…誌に掲載された介入試験の論文では、
ステロイド使用群でむしろ有害事象が多く、
予後も悪いという結果になっていました。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2020473

ただ、対象となった患者さんは、
穿頭術が施行されているケースが多く、
外科治療を施行されていないケースでの有効性は、
明確ではありませんでした。
そこで今回の研究では。
18歳以上でCTで診断された慢性硬膜下血腫の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は登録後1週間以内に穿頭術を施行し、
もう一方はステロイド剤のデキサメサゾンを、
1日8㎎から開始して19日間で減量し、
3か月後の予後を比較検証しています。

420例を目標として試験は開始されましたが、
252例の患者の中間解析の結果、
デキサメサゾン群の予後が手術と比較して明確に悪かったため、
早期に試験は中止されています。

今回の検証においても、
ステロイド治療の有効性は明確に示されず、
今後保存的治療におけるステロイド治療は、
あまり推奨されない流れになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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卵アレルギーに与える母体の卵摂取の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
卵アレルギーの早期介入.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年7月10日付でウェブ掲載された、
卵アレルギーに与える母体の卵摂取の影響についての論文です。

日本のアレルギー診療で有名な相模原病院などによる臨床研究です。

食物アレルギーは近年急増しているアレルギー疾患です。
欧米では牛乳、卵、小麦、ピーナツが食物アレルギーの主要なアレルゲンで、
上記論文の記載では、
小児のおよそ10%は食物アレルギーを持っていると推計されています。

一度食物アレルギーを発症しても、
そのアレルゲンを極少量ずつ投与すると、
徐々に耐性が獲得されて、
そのアレルゲンを含む食品を、
食べられるようになることがあります。

乳児期の早期、
たとえば生後3から4か月くらいの時期に、
そうしたアレルゲンに慣れることにより、
将来の食物アレルギーを予防できるのでは、
という考え方があり、
実際に複数の臨床試験で、
一定の有効性が報告されています。

今回の対象疾患である卵アレルギーについても、
生後3から6か月の早期で卵を少量から摂取することにより、
卵アレルギーが一定レベル予防された、
という報告があります。

ただ、こうした臨床試験のデータから明らかになった知見として、
生後3か月でまだ卵を食べていないのに、
既に卵アレルギーを発症している、
というケースが少なからずあることが分かりました。

これは母親が摂取した卵が、
母乳を介して新生児に影響を与えた可能性を示唆しています。

それでは、
出生後すぐの時点で母親が卵を食べることが、
新生児にどのような影響を与えるのでしょうか?

今回の臨床研究では、
日本の複数の専門施設において、
アレルギー素因のある両親から生まれた、
380名の新生児をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は出産後5日間毎日1個の卵を母親が摂取して母乳を与え、
もう一方は卵を5日間制限して母乳を与え、
生後12か月の時点での卵アレルギーの発症頻度を比較検証しています。

その結果、
生後12か月の時点での卵アレルギーは、
卵接種群の9.3%、卵制限群の7.6%に認められ、
卵摂取で多いという傾向は認められましたが、
有意な差は認められませんでした。

生後すぐから、場合によっては生まれる前の環境すら、
議論の対象となっている食物アレルギーですが、
この問題はまだ多くの検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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シュトラウス「サロメ」(2023年新国立劇場上演版) [オペラ]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
サロメ.jpg
新国立劇場がレパートリー上演した、
シュトラウスの「サロメ」に足を運びました。

シュトラウスはプッチーニと共に、
古典的なオペラの最後の大家で、
プッチーニが良くも悪くも通俗的な魅力に満ちているのに対して、
シュトラウスはオペラの歴史の中でも、
最も複雑で高度な作品が並んでいます。
ただ、ハードルは高いのですが、
それを乗り越えた時の愉楽も大きく、
シュトラウスはオペラファンが、
最後に行きつくところ、という感もあるのです。

その作品は現代音楽への橋渡しとなる前衛的なものから、
古典の解体、再構築のような作品まで多岐に渡っています。

その中ではこの「サロメ」は、
前衛的なオペラの試みの最初に位置する作品ですが、
1時間半ほどの1幕で比較的ハードルは低く、
その旋律は意外にロマンチックで、
聴き慣れると結構耳に残ります。

最近では割とお気に入りの1作です。

今回の上演は新国立劇場では定番演出ですが安定感はあり、
サロメ役はアレックス・ペンダというドラマティックソプラノで、
通常の上演よりワーグナーに寄せているような、
スケール感のある演奏になっていました。
多少違和感はありましたが、
「トリスタンとイゾルデ」の抜粋を聴いているようで、
これはこれでありかな、というようには感じました。
ただ、その一方でビジュアル的にはサロメのようには見えず、
母親より年かさに見えるサロメとなっていました。

ここまで歌手や音楽によって印象の変わるオペラも面白く、
これが最高、というような上演にはまだ立ち会っていませんが、
それだけに楽しみの残る作品でもあるのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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