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「1秒先の彼女」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
1秒先の彼女.jpg
2020年製作の台湾映画です。
時間テーマのファンタジーと恋愛ドラマの融合という触れ込みで、
こうしたものは昔から大好物なので、
楽しみにしていたのですが、
アッと言う間にロードショーが終わりそうだったので、
慌てて劇場に足を運びました。

これなかなかいいですよ。

2020年製作と書かれているのですが、
70年代から80年代くらいのテイストなんですね。
多分意図的なものだと思うのですが、
とてもノスタルジックで、
日本で言えば昭和の気分です。
庶民の生活に幻想が同居していて、
そう「鎌倉ものがたり」みたいな感じですね。

タイムリープものとか、
時間テーマSFのように予告を観た時は思っていたのですが、
そうではないんですね。
両親を失った孤独な青年が、
1日だけ異世界に紛れ込む話です。
1人の女性に対する思いだけが、
その青年の生を支えているのですが、
現実ではほぼ成就することのない切ないその思いが、
幻想の1日のみ成就しかける、
という切ないお話しです。

時間の帳尻合わせで止まる1日がある、
という説明になっているのですが、
それだと色々と説明の付かないことが多すぎるのですね。
結局異常な現象を体験したのは、
その青年だけなのですから、
1日のみ死の世界に踏み込んで、
そこから本当に生還したのかしなかったのかは、
観客の判断に任せるというのが、
この作品の後半の意味合いなのではないかと個人的には思いました。

だって、女性の父親が出て来るのですが、
明らかに死んでいるでしょ。
その父親が生の世界と死の世界の狭間で娘に会って、
それからお坊さんのスクーターで死の世界に帰ってゆく、
それが出会う筈のない2人が出会う、
七夕の日の奇跡ということなのではないでしょうか?

この映画は2部構成で、
前半は本当に70年代くらいの、
香港コメディ映画みたいな感じなんですね。
正直ちょっと引いてしまうような感じもあるのですが、
後半の青年のパートでは抒情的な部分が持ち上がって来て、
水没しかけた夕暮れの道(おそらく生の世界と死の世界の狭間)を、
延々とバスが走ってゆくカットなど、
意味もなく涙がこみ上げるような、
心に残るものを持っています。

死の世界に入るとヒロインは人形のように動かなくなるのですが、
青年はそこで自分の妄執を実現させようとするのですね。
でも最後の最後になって、
唇にキスをすることも出来ず、額にキスをしただけで、
その場を去って行きます。
悲しいですよね。
でも、ネットの感想などを読むと、
青年の行為がストーカーのようで気分が悪くなった、
というようなものが多いんですね。
もうそういう、倫理的に正しい内容でないと受け付けない、
という方が多いのですね。
確かにそうなんですよ。
この青年はまともではないのです。
だって、家族を全て失って、
1人の女性への妄執以外に、
生きる意味を見失っているのですから、
そんな人がまともである訳はありません。
本人もまともでないことが分かっているから、
個人的な交流に踏み込むこともせず、
見守るだけの人生を続けているんですね。
それでも最後に勇気を振り絞って彼女を助けようと奮闘して、
そのご褒美として、
密かな行為に及んだのだと思います。

いずれにしても、
今欧米の映画からも、
韓国映画や中国映画、日本映画からも失われてしまった、
かつての庶民派映画の牧歌的なムードが懐かしい、
とても愛すべき映画で、
勿論、主人公が倫理的に正しい行動をしないと認められない、
というような方にはお勧めは出来ませんが、
こっそり1人でノスタルジックな気分に浸るにはお勧めの映画です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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サダナリ

この映画のことを語る機会がなく困っておりました。まさに「その通り!」というご感想で喜んでおります。また、まだ公開中なもので「ネタバレ」しないように書くのも難しく(苦笑)。
25年間で日本公開僅か4本という幻の監督ですが、デビュー作からの熱狂的なファンで、待ちに待った新作でした。本当に面白かったです。

父親は明らかに過去で死んでいるか、あの前後でまさに死ぬタイミングだったか。あの特異な状態でコンビニ袋を下げてこともなげに歩いている段階で「あれ?」と思いましたが、スクーターに乗った僧侶(この人も通常の時間経過)というあまりにも台湾的な演出に感服しました。しかも二人乗りで消える。あのシーンは凄いです(ヤモリが見せる不明瞭なスライドも良かった)。

過去のバスの事故にしても、終盤のトラックにしても、絶えず死の影(しかも交通事故)がつきまとっているように思いました。満潮で水没する海辺の村など、まさに黄泉の国の入口です。しかしそれが震えるほどに美しく、またそこを走る台北の路線バスという日常、非日常の対比に痺れました。

賞も取った『バードマン』も、話題になった『パッション』も「ある時点から実は主人公は死んでいるのではないか?」と言われていましたが(明らかにそのタイミングがあった)、この作品もバス運転手の生死、特異な現実か(全てが)妄想かは観る者に委ねられているように思いました。ラストはギリギリで辻褄を合わせて、しかもハッピーエンドに見せる演出だったと思います(松葉杖のところ)。

女性からすれば気持ち悪いかも知れませんし、ファンタジーを許容しない人は途中で退出するかも知れませんね。まさにそれが平気な人、好きな人が、ひとりでこっそり楽しむ映画なのかも知れません。私はたっぷりと堪能しました。映画なんてそんなものです。
by サダナリ (2021-08-14 08:13) 

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