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非アルコール性脂肪肝炎に対するFGF21製剤の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
FGF21の脂肪肝への有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月24日ウェブ掲載された、
肝臓病に対する新薬の有効性についての論文です。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
アルコール性の肝障害と非常に似通った病態が、
お酒を飲まない人にも生じるというもので、
従来の脂肪肝という概念とは異なり、
進行性で肝硬変に移行することも稀ではないのが特徴です。

その病態は内臓肥満やメタボと関連が深く、
高血圧や糖尿病、高脂血症などと高率に合併し、
インスリンの効きが悪くなってインスリンの濃度が高くなる、
インスリン抵抗性がその土台にあると考えられています。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
メタボの内臓に与える影響の1つの現れで、
単独でも肝硬変などの命に関わる病気に繋がる一方、
他の動脈硬化性疾患や糖尿病など、
メタボに関連する病気とも、
密接に結びついているのです。

さて、現時点で減量や運動療法などの生活改善以外に、
特効薬のような治療薬のない非アルコール性脂肪肝炎ですが、
ビタミンEやインスリン抵抗性改善剤であるピグリタゾンなどが、
一定の有効性があるという報告があります。
ただ、その効果は限定的で、
たとえばアメリカのFDAが、
現時点でその有効性を認めている治療薬はありません。

今回その臨床試験結果が報告されている新薬は、
有効性の高い可能性のある薬剤として、
非常に注目をされているものです。

それはどのような薬なのでしょうか?

今回使用されているペゴザフェルミン(Pegozafermin)は、
FGF21という身体から分泌されているホルモンと、
ほぼ同じ作用を持つ物質です。

FGF21というのは、
成長因子の一種で、
肝臓の細胞などから分泌され、
白色脂肪組織を褐色化したり、
肝臓における中性脂肪の蓄積を抑制したり、
筋肉のインスリン感受性を改善するなど、
所謂メタボの状態を改善する多彩な作用を持っています。
こうしたFGF21の性質からは、
この物質を薬として使用することで、
非アルコール性脂肪肝炎の患者さんの、
抜本的な治療に結び付く可能性があるのです。

ただ楽観視も出来ません。

以前ブログでも紹介していますが、
同じFGFのFGF19を元にした薬剤が、
同様に非アルコール性脂肪肝炎の治療薬として開発され、
第2相の初期試験では有効とされてLancet誌に論文も出たのですが、
その後第2相のⅡb試験で有効性が確認されず、
結果として発売には至らなかったという事例があるからです。

今回のⅡb臨床試験においては。
アメリカの複数の専門施設で、
21から75歳で生検で非アルコール性脂肪肝炎と診断された、
トータル222名の患者をくじ引きで複数の群に分けると、
本人にも主治医にも分からないように、
FGF-21製剤の複数の用量の使用群と、偽薬使用群と割り付け、
24週の時点での脂肪肝炎の改善を比較しています。

その結果、
24週の時点で肝臓の線維化を伴わない、
脂肪肝炎の所見の消失は、
偽薬では2%であったのに対して、
この薬剤を1週間に15㎎の皮下注射での使用により、
脂肪肝炎の消失率は37%に認められ、
1週間に30㎎の使用でも23%に認められました。
有害事象は吐き気や下痢が主で概ね軽症でした。

このように今回の検証では、
脂肪肝炎に対するFGF-21の一定の有効性が確認されました。
治療も1週間に一度の皮下注射で済むとすれば、
継続効果も高いと考えられます。
ただ、FGF-19の経過でも分かるように、
まだ不明の点が多いことも確かで、
あまり一喜一憂はせずに、
今後の進捗を冷静に見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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