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テストステロン補充療法の心血管疾患リスクについて(2023年介入試験結果) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
テストステロン補充療法と心血管疾患リスク.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月16日ウェブ掲載された、
男性ホルモン治療と心血管疾患リスクについての論文です。

男性ホルモンであるテストステロンは、
男性の性機能や筋肉などの体力の維持に必要なホルモンで、
その高度の欠乏による性腺機能低下症では、
性欲低下や筋萎縮、骨粗鬆症などが起こり、
生活の質の低下に至ります。

ただ、男性ホルモンと心血管疾患との関連については、
相反する知見があり一定した結論に至っていません。
男性ホルモンは内臓脂肪を減少させてインスリン抵抗性を改善しますから、
その意味では心血管疾患のリスクの低下に結び付きそうです。
その一方で男性ホルモンによる治療を行なうと、
血液の比重は増加し、
善玉コレステロールと呼ばれることのある、
HDLコレステロールは低下し、
心血管疾患のリスクも増加したとする、
臨床データも報告されています。

男性ホルモンの使用は、
男性更年期と呼ばれるような、
比較的軽度の男性ホルモンの低下においても、
最近は行なわれることが多く、
その有効性が指摘されることがある一方で、
心血管疾患のリスクが危惧されることもあります。

以前ご紹介したことがある2022年のLancet誌のメタ解析の論文では、
これまでの35の精度の高い臨床試験に含まれる、
5601名のデータをまとめて解析した結果として、
平均で9.5ヶ月の観察期間における心血管疾患のリスクには、
男性ホルモン治療群と偽薬群との間で、
有意な差は認められませんでした。

ただ、この問題の結論を出すには、
平均で1年未満という観察期間は、
あまりに短いと思われます。

今回の研究はアメリカの複数施設において、
年齢が45から80歳の男性で心血管疾患のリスクを持ち、
性腺機能低下症の症状があって、
血液中のテストステロンが300ng/dL未満である、
トータル5246名の患者を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はテストステロン含有のゲル製剤を使用し、
もう一方は偽のゲルを同じように使用して、
心血管疾患の予後を比較しているものです。

治療期間の平均は21.7±14.1か月で、
観察期間の平均は33.0±12.1か月。
対象者においても観察期間においても、
単独の臨床研究としては最も大規模なものだと思います。

その結果、
観察期間中の心血管疾患の発症リスクには、
両群で明確な差は認められませんでした。

今回の研究では、
テストステロン濃度が350から750ng/dLとなるように、
ゲルの量は調整されていて、
そうした適切な配慮のもとに治療を施行すれば、
心血管疾患のリスクの高い対象者に対しても、
テストステロンの外用治療は安全に継続可能という結果です。

今後こうした検証を元にして、
男性の性腺機能低下症に対する、
適切な治療指針が定められることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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