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更年期のホットフラッシュに対するニトログリセリン貼付薬の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニトロテープと更年期障害.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年6月5日ウェブ掲載された、
ニトログリセリンの貼付薬を、
更年期の症状に活用するという試みについての論文です。

更年期症候群に伴って見られる症状のうち、
ほてりやのぼせなどの、
所謂ホットフラッシュと呼ばれる症状は、
非常にありふれたものですが、
本人にとっては非常につらいものでもあります。

ホットフラッシュのメカニズムは、
まだ不明の部分もあるのですが、
女性ホルモンであるエストロゲンが低下することが、
そのそもそもの原因であることは間違いがなく、
そのため女性ホルモンの補充療法が施行され、
その軽減に効果のあることは間違いがありません。

ただ、ホルモン補充療法を継続することは、
ホルモン感受性の癌のリスクや、
血栓症のリスク、脳梗塞や認知症のリスクを高める、
というような報告もあり、
決して無害な治療ではありません。

それでは、
ホルモン補充療法以外に、
ホットフラッシュの安全で有効な治療はないのでしょうか?

その点で最近注目されている治療法の1つが、
ニトログリセリンの貼付薬の使用です。

ホットフラッシュは交感神経のバランスの乱れによる、
静脈の拡張によると考えられています。
その血管拡張に関わっているのが一酸化窒素(NO)です。
ニトログリセリンは狭心症などの治療薬で、
それ自体は強力な血管拡張作用があり、
静脈も拡張に働くのですが、
持続的に投与された場合には、
一種の耐性が成立して、
NOの分解が促進され、
静脈の拡張も抑制されると考えられています。

そこで狭心症などの治療に使用される、
ニトログリセリンの貼付剤(皮膚の貼り薬)を使用することで、
ホットフラッシュの症状が改善するかどうかを検証する、
臨床研究が施行されました。

その結果が今回公表されています。

ホットフラッシュの症状を訴えている、
閉経後の女性141名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はニトログリセリンの貼付薬を継続的に使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
12週間の経過観察を施行しています。

その結果、
使用5週間の時点では、
ホットフラッシュの回数や重症度は、
ニトログリセリン使用群で偽薬群と比較して改善が見られましたが、
12週間の治療での評価では、
両者の差は有意ではありませんでした。
ホットフラッシュの回数や重症度は、
偽薬群でも12週の治療後には40%を超えて低下していて、
一定のプラセボ効果が確認されました。

このように、
ニトログリセリンの貼り薬により、
短期的には症状に一定の改善が認められますが、
こうした症状はかなり心理的な影響も大きなもので、
長期的な明確な治療効果は確認されませんでした。

従って、現状はニトログリセリンの貼り薬は、
ホットフラッシュの治療に推奨されるものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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