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慢性咳嗽治療薬の長期の安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療とレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リフヌアの長期の効果.jpg
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に、
2023年6月掲載されたレターですが、
慢性の咳の治療薬として発売された、
ゲーファピキサントクエン酸塩(リフヌア)の、
1年(52週)の治療成績をまとめた内容です。

長引く咳の症状は、
風邪をひいた後などに、
非常に一般的に見られる症状ですが、
その原因は不明の場合も多く、
数か月以上という長期間持続することもあります。

その一部はアレルギー性の炎症や、
気道の過敏性が関与しているとされ、
喘息の治療薬やアレルギー疾患の治療薬が使用されています。
ただ、その根拠はそれほど明確ではないことがしばしばです。

最も問題と思われるのは、
脳の咳の中枢を抑制する、
強い作用を持つ咳止め薬が、
数か月以上という長期間、
使用されているようなケースがあることです。
こうした薬剤には便秘や吐き気、排尿障害などの副作用や有害事象があり、
麻薬系の咳止めには依存性も問題となります。

そこで中枢性の咳止めに代わり得る、
長期使用でも健康への悪影響が少ない治療薬として、
開発されたのがゲーファピキサントクエン酸塩なのです。

この薬は選択的P2X3受容体拮抗薬です。
咳が生じるメカニズムの1つとして、
炎症により気道の粘膜から放出されたATPが、
自律神経のP2X3という受容体に結合することにより、
咳の反射が誘発されるという機序があり、
それを抑えることによって、
咳を止めるという薬なのです。

これまでの12週と24週継続した臨床試験においては、
1年以上慢性の咳が持続する患者さんに対してこの薬を使用し、
24時間の咳頻度の有意な低下が認められています。
ただ、偽薬群でも実際には4週以降で、
かなりの咳頻度の低下が認められています。
多くの慢性の咳は、
矢張り経過とともに自然に改善することが多いのです。

また、患者の約40%に味覚障害の有害事象が認められました。

これは味覚に関わる神経に、
P2X3受容体が関連しているためと推測されています。

今回のデータは臨床試験のその後の観察期間を併せて、
52週の経過観察を施行したものです。
対象者は2044名ですが、52週の治療を終えているのは、
そのうちの1534名です。
その結果52週の治療継続においても、
偽薬と比較して咳頻度の改善効果は確認されました。
ただ、全体に咳症状は改善しているため、
その差はかなり小さなものにはなっています。

そして、味覚障害の有害事象は、
使用群の65.4%に認められました。
治療終了後の経過を観察すると、
その99%において、
薬の終了により味覚障害は改善していました。

この薬の評価をどう考えれば良いのでしょうか?

長期持続するような慢性の咳で、
通常の治療が奏功せず、
麻薬系の咳止めを使用継続せざるを得ないというケースでは、
この薬の使用は有効性が高いと考えられます。
ただ、味覚障害が高率に出現することはかなりの欠点で、
咳自体が命に関わるような症状ではありませんから、
「咳が治まるなら、味が分からなくなっても仕方がないのか?」
という問いは難しい設問だと思います。
ただ、中止によりほぼ確実に改善するものであれば、
試しに使ってみて、効果があって味覚障害がないのであれば、
その使用を継続し、
味覚障害が出現すれば、
その時点で中止を考慮する、
というのが、
現時点では妥当な判断であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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