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オミクロン対応ワクチン接種後の脳卒中リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナワクチンの脳卒中リスク.jpg
JAMA誌に2023年6月15付で掲載されたレターですが、
新型コロナワクチン接種後の脳卒中リスクについて検証したものです。

2023年の1月にアメリカのCDC(疾病予防管理センター)は、
65歳以上でファイザー・ビオンテック社の、
オミクロン対応2価ワクチン(BA.4/BA.5)を接種すると、
接種後22から42日と比較して、
接種後1から21日で虚血性脳梗塞の発症リスクが、
1.47倍(95%CI:1.11から1.95)有意に増加していた、
というデータを公表しました。

オミクロン対応ワクチン接種後の初期に、
脳卒中のリスクが高まるのではないか、
というちょっと気になる報告です。

季節性インフルエンザワクチンとの同時接種において、
よりリスクが高まることも示唆されました。

モデルナ社の同種のワクチンにおいては、
そうした結果は認められませんでした。

今回の検証は同種のワクチンを接種しているイギリスにおいて、
大規模疫学データで同様の検証を行ったものです。

イギリスにおいては2022年の秋に、
オミクロン株対応ワクチンの接種が、
50歳以上の年齢層を対象として施行されました。
トータルで1460万回の接種が施行されたという大規模なものですが、
使用されたワクチンはBA.4/BA.5対応のものではなく、
BA.1対応ワクチンが主体だという違いがあります。
接種者に接種後6882件の虚血性梗塞が発症していますが、
接種後21日以内における、有意な増加は確認されませんでした。

今回のデータはアメリカのものとは、
オミクロン株の違いがあることと、
インフルエンザワクチンとの同時接種が少ないと言う違いがあり、
同等に比較することは出来ませんが、
オミクロン対応ワクチンにおいて接種後の脳卒中リスク増加が起こる、
という現象については、
現時点で明確なものとは言えないようです。

今後同種のワクチンにおける再検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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2型糖尿病予防のための運動の有効性(3軸加速度計を用いた大規模調査) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
運動の量と糖尿病予防効果.jpg
Diabetes Care誌に2023年6月付で掲載された、
2型糖尿病の予防における運動の有効性についての論文です。

習慣的に運動をすることが、
健康に良いということは、
多くの疫学データにより実証されている事実です。

ただ、たとえば2型糖尿病の予防目的、
という観点で考えた時に、
どの程度の運動でどの程度の効果が期待出来るのか、
というような具体的な点についての、
信頼性のあるデータは限られています。

最近毎日の歩数が活動量の目安とされることが多く、
概ね1日5000歩から10000歩の範囲において、
歩数が多いほど心血管疾患などのリスクが低下することは、
国内外のデータにおいてほぼ一致している所見です。

ただ、これも糖尿病予防に限定して考えると、
それほど明確な結論が出ているという訳ではありません。

一番の問題は、
こうしたデータの殆どが、
対象者のアンケートの結果のみを、
その情報源としているということです。

そこで今回の研究では、
遺伝子情報を含む医療情報を収集している、
UKバイオバンクの医療データを活用して、
90096名の一般住民に、
3軸加速度計という、
3方向の加速度を測定する特殊な機器
(腕時計タイプ)を7日間装着して、
日々の運動量(エネルギー消費量)を正確に測定し、
その運動量と糖尿病の発症リスクとの関連を、
比較検証しています。

7年を超える健康観察の結果、
3軸加速度計のデータを元にして算出された、
エネルギー消費量が多いほど、
2型糖尿病の発症リスクは低下していました。
エネルギー消費量が5kj/kg/day高いと、
糖尿病のリスクは、
BMIで補正しない場合は19%、
BMIで補正した場合11%有意に低下していました。
これは早足で20分の歩行をする習慣と同等です。

このように、今回の厳密な運動量の計測から、
少しの運動を付加することにより、
糖尿病の予防に繋がるということと、
勿論無理はしないという条件付きですが、
運動はすればするほど糖尿病の予防に繋がることが示唆されました。

今後こうしたデータが蓄積されることにより、
科学的な糖尿病予防の手法が、
明確に規定されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ザ・フラッシュ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ザ・フラッシュ.jpg
DCコミックのヒーローで、
連続ドラマも製作されたフラッシュが、
今回映画版になって公開されています。

主人公が過去を良かれと思って改変してしまったところから、
予期せぬトラブルが次々と起きて、
並行世界を巻き込んで大混乱が起こるという物語で、
マーベルコミックでは最近はそればっかりという感じがありますが、
今回の作品はマーベルほど複雑怪奇な世界ではなくて、
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に近い、
シンプルでノスタルジックな雰囲気もある映画です。

主人公は高速で移動出来るヒーローなのですが、
気合を入れて走って光速を超えてしまい、
時間を移動出来るような能力を持ってしまうのですね。
彼は幼い頃に母親を殺されていて、
父親が妻殺しの罪で逮捕されてしまうのですが、
主人公は当然父は冤罪と思っていて、
その再審が行われています。
それで、主人公は過去に戻って、
母親の命を救おうとするのですが、
それにより並行世界が生まれてしまい、
そこに主人公は閉じ込められてしまいます。

その世界を救うためには、
母親を助けるという過去の改変を元に戻す必要があり、
母の命と世界のどちらを選ぶのかに苦悩する、
というのが主筋になり、
その結末も概ね納得がいくように仕組まれています。

この主筋の部分は、
作品中でも言及されている、
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に非常に近いのですね。
過去を少し変えることで、
よりベターな現在を得ようという、
ある意味かなりムシのいい話なのですが、
要するに過去を弄れば、
無限に並行世界は生まれてしまうけれど、
そのうち最もバランスの取れたものが、
おそらく「運命」であろう、という思想ですね。
その運命を受け入れるというところに、
物語の本質がある訳です。

ただ、この作品はそれだけではなくて、
主人公の母親が生きている世界では、
主人公自身はもっと自堕落なダメ人間になっていて、
その自分同士が交流するという脇筋がありますし、
何より主人公の師匠がバットマンで、
今の世界のバッドマンがベン・アフレック、
並行世界のバットマンはマイケル・キートンという仕掛けがあり、
並行世界では過去のスーパーマンまで登場して、
DCの映画の歴史が、
並行世界という言い訳の元に再集結するという、
ファン向けの趣向が用意されています。

この作品は主人公を演じたエズラ・ミラーの演技が、
説得力のあるもので、
そのキャラ設定も分かり易く出来ているので、
感情移入しやすくストレートに物語と対峙出来る、
という点が一番の特徴です。
ただ、基本は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」なので、
ヒーローが強大な悪と対決する、
というようなカタルシスとは無縁で、
ヒーロー映画では基本的にないのですね。
なので、ヒーロー映画を期待して鑑賞すると、
期待外れと感じるかも知れません。

アメコミの最近の映画の中では、
お話は予備知識がなくても補足可能ですし、
上映時間も134分と比較的手頃なので、
安心してお勧め出来る1本ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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岩松了「カモメよ、そこから銀座は見えるか?」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カモメよ、そこから銀座は見えるか?.jpg
岩松了さんの新作が、
今本多劇場で上演されています。
画像は富山公演のものですが、
東京公演に足を運びました。

これはちょっとレトロな雰囲気の、
おそらく昭和の時代の銀座を舞台にして、
井之脇海さん演じる兄と、黒島結菜さん演じる妹、
そして2人の父親の愛人であった、
松雪泰子さん演じる女性との関係を軸に、
汚職事件が絡んだ、
松本清張さんの小説のようなドラマが展開され、
青木柚さん演じる謎の青年の登場から、
最近の岩松さんが良く描いている、
誰が生きていて誰が死んでいるのか定かでない、
内田百閒のような幻想世界に帰着します。

最初に若い2人の「浮浪者」が登場し、
靴を巡る「ゴドーを待ちながら」的な会話を展開。
そこから青木柚さん演じる青年が、
架空の兄と妹の話をするのですが、
相手の青年はその妹が兄に渡す筈の弁当を、
既に持っているのです。
そこに架空の話と紹介された兄妹が実際に登場し、
今度は浮浪者2人の方が、
架空の存在であるかのようにも見えて来ます。

兄妹の父親の愛人であった松雪さんが登場すると、
どうやら松雪さんが産む筈であったが、
実際には生まれなかった兄妹の腹違いの弟が、
その浮浪者であったという開示があります。
しかし、その後も物語は生と死の反転を繰り返し、
浮浪者はある世界では縊死していて、
別の世界では妹と恋人になっている、
という反転したビジョンのままに幕が下ります。

岩松さんらしい幻想怪異譚で、
比較的分かり易い部類とは思いますが、
ハンカチなどの小道具の複雑な移動や、
カモメの出現や銀座が海だったことのリフレインなど、
例によって謎めいたディテールと、
複雑で精緻な仕掛けが絡み合い、
矢張り途中で観客は置いてけぼりにされて、
最後は迷宮の中に彷徨うような気分にさせられます。

岩松作品としてはそれほど突出したもの、
という印象はありませんが
最後の詰め方はなかなか迫力があり、
役者も岩松世界を充分分かった手練れが揃っているので、
まずはその迷宮世界にゆったりと浸ることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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極私的感染症流行情報(2023年6月16日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日なのでクリニックは休診です。

今日はクリニック周辺の感染症情報です。

2023年5月8日から、
新型コロナはインフルエンザと同じ5類感染症の扱いとなり、
全例報告などはなくなりました。

ただ、診療自体は基本的にはこれまでと同じで、
発熱者や感染症の疑いのある患者さんの場合には、
原則はまず電話で相談をしてもらって受診の時間を決め、
入口でトリアージをして、
2階の別診察スペースにご案内し、
検査を含め診療を行う形を継続しています。

発熱者で多いのは、
大人では圧倒的に新型コロナで、
子供はインフルエンザという傾向が、
この1か月くらいは続いています。

たとえば昨日(6月15日)に検査をした有症状の大人10名のうち、
6名は新型コロナで1名がインフルエンザA型、
残り3名が不明でした。

症状はここ数日のみの傾向で言うと、
まず寒気を伴って発熱し、
翌日には自然に解熱するのですが、
再びその夜には発熱、という感じの経過です。
これが数日から場合によって1週間程度持続し、
その途中から咳などが出て、
熱が出なくなると徐々に回復に向かう、
という流れが典型的です。

よく「新型コロナはこうした症状」というように、
断定的に言われる「専門家」の方もいるのですが、
実際に継続して患者さんを診ている印象としては、
かなり症状経過は変化を続けていて、
そのため「今で言えばこの症状」ということは言えても、
それがこの感染症の特徴、
というような言い方は出来ないのではないかと思います。

殆どの事例が軽症で、
受診時は平熱ということも多いのですが、
それでも検査をして陽性、
ということが多いのが現状です。

ただ、中に少数高熱がと倦怠感、関節痛などが強い事例が散見し、
そうした方では、効率に味覚嗅覚障害も併発していました。

今の流行の新型コロナは感染力が強いことが特徴で、
以前もご紹介したように、
先日関わっているグループホームで感染があったのですが、
体調不良の職員から始まった感染が、
瞬く間にフロアにいる殆どの入居者と職員に感染しました。
勿論入所者は6回のワクチン接種を済ませていました。

最初の感染者が確認された時点で、
勿論個別の隔離や感染対策は講じていましたから、
それでここまで広がるというのは、
その感染力は従来のものを遥かに超えていると思いますし、
パンデミック以降、これまで、
ここまでの集団感染の経験はありませんでした。
今流行しているウイルスに対して、
現行のワクチンの効果は極めて限定的にしか存在しないと、
そう考えておいた方が良さそうです。

幸い殆どが軽症なので、
何とか対応が出来ていますが、
これが新たな変異により、
より重症化しやすい株になったらと考えると、
慄然とするような気分になります。

学校行事などでの集団感染の事例も増えていますので、
感染対策にはくれぐれも留意して頂ければと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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早期浸潤乳癌の生命予後(イギリスの経年データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳がんの生命予後の変遷.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年6月13日ウェブ掲載された、
限局性の乳癌の予後が、
この20年でどのように変化したかを検証した論文です。

治療の進歩や検診などの普及により、
遠隔転移を伴わないような比較的早期の乳癌の予後は、
改善していると言われています。

ただ、乳癌の死亡率がその間にどの程度低下したのかについての、
精度の高いデータはそれほど存在していません。

今回の研究ではイギリスにおいて、
国の登録システムを活用し、
1993年から2015年の個々の時期における、
早期の浸潤乳癌の死亡率を比較検証しています。
トータルな登録患者数は512447名です。

この場合の早期浸潤乳癌というのは、
癌が乳腺内に留まっているか、
癌が小さく腋下のリンパ節転移までに留まっているもので、
病期のⅠ期とⅡ期に相当しています。

診断された時期を、
1993から99年、2000から04年、2005から09年、2010から15年の、
4期に分けて検証したところ、
診断後5年の死亡率は、
1993から99年の時期では14.4%(95%CI:14.2から14.6)であったのに対して、
時期が進むにつれ徐々に低下し、
2010年から15年には4.9%(95%CI:4.8 から5.0)となっていました。

それを図示したものがこちらになります。
乳がんの死亡率の変遷の図.jpg

このように治療の進歩や早期発見の増加により、
乳癌の生命予後は大幅に改善していますが、
癌の性質や病期によってはまだ死亡率が高いケースもあり、
今後もこうした情報がアップデートされることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心臓死ドナーからの心臓移植の脳死ドナーとの比較 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心臓死ドナーからの心臓移植の比較.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月8日付で掲載された、
脳死ではなく心停止後の臓器移植についての論文です。

臓器移植に関わる死後の臓器提供には、
脳死下での臓器提供と、
それ以前の一般的な死である、
心臓死下での臓器提供があります。

脳死の場合には心臓や肺などの臓器が利用可能ですが、
心臓死での臓器提供は、
日本では腎臓、膵臓、眼球に限られています。

これは、心臓などの臓器は心停止で血流が停止すると、
急速にその機能が低下するので、
臓器を摘出して移植を行っても、
成功率が低くなることがその主な理由です。

特に心臓はそれ自体の停止を確認する訳ですから、
その心臓を取り出しても、
移植は困難であるように通常はそう考えます。

しかし、深刻なドナー不足などの理由もあり、
科学技術の進歩もあって、
最近海外では心停止後の心臓移植が試みられ、
一定の成果を挙げています。

実際急性疾患で入院し、
呼吸が停止したために人工呼吸器を装着したものの、
もう回復が見込めないと判断されたような患者さんの場合、
家族の同意のもとに人工呼吸器を外す、
というようなことは医療現場でしばしば行われています。
その場合、呼吸が停止して間もなく、心臓も停止し、
その時点で心臓死と診断されますが、
その瞬間に準備をしておいて心臓を摘出すれば、
その状態は脳死からの摘出と、
実際にはそれほど変わらない、という言い方は可能です。

心臓死ドナーからの心臓移植の場合、
その摘出した心臓を、
体外で再灌流して保存します。
その装置がこちらです。
心臓死ドナーの管理の図.jpg
こうした再灌流装置の進歩により、
その組織の劣化を防ぎつつ、
移植手術に繋げることが可能となったのです。

今回の臨床試験では、
心臓死のドナーからの心臓移植を受けた90名を、
従来の脳死ドナーからの移植を受けた90名と、
その短期予後を比較検証しています。
その結果、移植後半年の生命予後には、
両群で明確な差は認められませんでした。

現状日本ではまだ、
法的にもそうした移植は認められていませんが、
今後は間違いなく検討される流れにはなると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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更年期のホットフラッシュに対するニトログリセリン貼付薬の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニトロテープと更年期障害.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年6月5日ウェブ掲載された、
ニトログリセリンの貼付薬を、
更年期の症状に活用するという試みについての論文です。

更年期症候群に伴って見られる症状のうち、
ほてりやのぼせなどの、
所謂ホットフラッシュと呼ばれる症状は、
非常にありふれたものですが、
本人にとっては非常につらいものでもあります。

ホットフラッシュのメカニズムは、
まだ不明の部分もあるのですが、
女性ホルモンであるエストロゲンが低下することが、
そのそもそもの原因であることは間違いがなく、
そのため女性ホルモンの補充療法が施行され、
その軽減に効果のあることは間違いがありません。

ただ、ホルモン補充療法を継続することは、
ホルモン感受性の癌のリスクや、
血栓症のリスク、脳梗塞や認知症のリスクを高める、
というような報告もあり、
決して無害な治療ではありません。

それでは、
ホルモン補充療法以外に、
ホットフラッシュの安全で有効な治療はないのでしょうか?

その点で最近注目されている治療法の1つが、
ニトログリセリンの貼付薬の使用です。

ホットフラッシュは交感神経のバランスの乱れによる、
静脈の拡張によると考えられています。
その血管拡張に関わっているのが一酸化窒素(NO)です。
ニトログリセリンは狭心症などの治療薬で、
それ自体は強力な血管拡張作用があり、
静脈も拡張に働くのですが、
持続的に投与された場合には、
一種の耐性が成立して、
NOの分解が促進され、
静脈の拡張も抑制されると考えられています。

そこで狭心症などの治療に使用される、
ニトログリセリンの貼付剤(皮膚の貼り薬)を使用することで、
ホットフラッシュの症状が改善するかどうかを検証する、
臨床研究が施行されました。

その結果が今回公表されています。

ホットフラッシュの症状を訴えている、
閉経後の女性141名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はニトログリセリンの貼付薬を継続的に使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
12週間の経過観察を施行しています。

その結果、
使用5週間の時点では、
ホットフラッシュの回数や重症度は、
ニトログリセリン使用群で偽薬群と比較して改善が見られましたが、
12週間の治療での評価では、
両者の差は有意ではありませんでした。
ホットフラッシュの回数や重症度は、
偽薬群でも12週の治療後には40%を超えて低下していて、
一定のプラセボ効果が確認されました。

このように、
ニトログリセリンの貼り薬により、
短期的には症状に一定の改善が認められますが、
こうした症状はかなり心理的な影響も大きなもので、
長期的な明確な治療効果は確認されませんでした。

従って、現状はニトログリセリンの貼り薬は、
ホットフラッシュの治療に推奨されるものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーの大腸癌予防効果(2023年アンブレラレビュー) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーの大腸癌予防リスク.jpg
Techniques in Coloproctology誌に、
2023年5月2日ウェブ掲載された、
コーヒーと大腸癌リスクとの関連についての論文です。

コーヒーを1日3から4杯くらい飲むことが、
心血管疾患や糖尿病、脂質異常症などのリスクを下げ、
生命予後にも良い影響を与えることは、
これまでの多くの精度の高い疫学データにより、
ほぼ確立された事実です。

ただ、それではどんな病気にも、
コーヒーは予防的に働くのかと言うと、
勿論そうしたことが証明されているという訳ではありません。

癌の発症リスクについては、
まだコーヒーの健康効果が認められる前に、
コーヒーを多く飲む人では膀胱癌が多い、
という複数のデータが報告されています。
その一方でトータルな癌のリスクはコーヒーを飲む人の方が低い、
という報告も複数あり、
また肝臓癌については、
コーヒーの予防効果を期待させるような結果が、
これも複数報告されています。

コーヒーと癌リスクについての関連は、
まだクリアになっているとは言えないのです。

2020年のBMC Cancer誌に掲載されたアンブレラレビューの論文では、
肝臓癌と子宮体癌では発症リスクの低下が認められた一方、
膀胱癌と小児の急性リンパ性白血病では、
若干のリスク増加が指摘されています。

大腸癌とコーヒーとの関連についても、
複数の報告があり、
概ねコーヒーの予防効果が報告されています。
ただ、その低下効果は様々で、
一定の結論が得られていません。

そこで今回の研究では、
これまでの臨床データや疫学データを、
まとめて解析したメタ解析の複数の論文を、
更にまとめて解析する、
アンブレラレビューと呼ばれる手法により、
これまでの「集合知」として、
コーヒーと大腸癌との関連を検証しています。

これまでの14のシステマティックレビューを、
まとめて解析した結果として、
そのうちの5件のレビューで、
コーヒー摂取により大腸癌のリスクは11から24%低下し、
2件のレビューで結腸癌リスクが9から21%、
1件のレビューで直腸癌リスクが25%低下していました。

あるレビューでは、
1日6杯以上のコーヒーで大腸癌のリスクは7%、
別のレビューでは、
1日5杯で8%、6杯で12%の低下が認められていました。

デカフェのコーヒーについては、
3件のレビューにおいてコーヒーを飲む習慣による、
大腸癌リスクの低下が認められました。

このように、
主にカフェインを含むコーヒーを飲む習慣と、
大腸癌リスクの低下との間には一定の関連が認めれました。
そのリスク低下は、
たとえば心血管疾患などの予防効果と比較すると、
より多い1日5杯以上で認められていて、
デカフェのコーヒーでも有効な可能性はあるものの、
カフェイン入りのコーヒーほど明確とは言えませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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タニノクロウ「虹む街の果て」 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
虹む街の果て.jpg
2021年に上演されたタニノクロウさんの「虹む街」の続編が、
神奈川芸術劇場(KAAT)で先月上演されました。
その上演に足を運びました。

タニノクロウさんは演劇界に君臨する怪人の1人で、
主に庭劇団ぺ二ノとして公演されるその作品は、
常人の理解を超えることが殆どで、
それでも繰り出される奇怪なイメージの見事さや、
奔流のような幻想的なビジョン、
タニノクロウさんの脳内を、
覗き込んでいるような不思議な感覚が、
その作品の出来不出来を超えて、
他の芝居にはない、
唯一無二の観劇体験を成立させています。

2021年に上演された「虹む街」は、
KAATの中スタジオにリアルな横浜の飲み屋街をセットで再現し、
そこにある古いコインランドリーの閉店の1日を描いた、
タニノさんが時折上演する、
市井の人間スケッチのようなスタイルの作品で、
プロの役者さんも多く登場しているのに、
そうした役者さんにはまともな芝居を殆どさせず、
洗濯機のような機械や、
素人の役者さんの方に、
より人間的な役割が振られているという、
タニノさんらしい意地悪な作品でした。

正直少し物足りない感じがあったのですが、
今回はほぼ同じセットを使用しながら、
前作から100年後の未来の話として設定されていて、
全てが緑に変色して朽ちたセットの中で、
全員素人で国籍も人種の種々雑多なキャストが、
前作より徹底してシュールな世界を、
ほぼ無言劇に近い形式で演じています。

これは間違いなく前作より面白い作品となっていて、
タニノさんらしい新たなディストピアが、
また誕生したという感がありました。

最初にキャストがずらりと並んで自己紹介をして、
中国語を話す女性が司会進行をし、
内容はモニターに表示されます。
演出の意図が不明で当惑しながら稽古した、
というような台詞があり、
それが最後のカーテンコールでも繰り返されます。

要するにキャストは操り人形であって、
タニノさんに意味不明のことをやらされているのだ、
ということを明確にしているのですね。

これはおそらく自虐ということではなくて、
タニノさんの脳内のことなど誰も分からず、
その不条理な世界を、
キャストと観客は同一目線で、
それぞれ違う役割を振られながら旅をしている、
という意味なのですね。

観客と役者が一体であって、
タニノさんの脳内幻想だけが他者であるという、
これはそうした新しい演劇の形なのです。

人間としてのキャストも人種を含め多種多様で、
前作と同じように感情を持つ自販機などの機械、
人間が扮したロボット、
モニター内に登場するゴキブリ、
そして意志を持つ隕石のようなスマイリー親子なども、
人間と同じ重みで加わります。

相変わらず観客の生理は無視したような独特のテンポ感で、
作品は展開されますが、
今回はモニターを使用して、
ある程度の解説が表示されるので、
いつもよりは親切で、
ノイズやパーカッション、歌など、
音効にも配慮があって、
タニノ作品としてはかなり観客に優しく、
見やすい作品となっていたと思います。

以前は性的なイメージや残酷なイメージが、
かなり全面に登場したタニノ作品ですが、
そうした要素は今回は殆ど皆無と言って良いほど切り詰められていて、
言語や人種などの多様性が意識されている点は、
さすが時代を読む目も確かだと思いますし、
そうしたイメージの手足を縛られた状態であっても、
不気味で戦慄的なスマイリー親子など、
新たなイメージが展開されている点はさすがです。

正直タニノ作品の本領という感じではないのですが、
それでも随所にタニノ作品ならではの魅力はあり、
その唯一無二の世界を堪能することが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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