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ダウ90000「また点滅に戻るだけ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
mata.jpg
今人気急上昇の8人組グループ、
ダウ90000の演劇公演に足を運びました。

コントと演劇の両方で活躍するグループと言うと、
昔の東京ヴォードビルショーがそうでしたし、
もう少し最近ではジョビジョバがそうでした。
ただ、どちらのグループも、
基本的には演劇色の方が強くて、
コントライブみたいなものもやってはいても、
小劇場的肉体演技が、
ベースにある感じでした。

でもダウ90000はそうした演劇色は非常に薄くて、
基本棒立ちでタラタラ喋るというスタイル。

その意味では小劇場よりお笑い芸人に近い感じのスタイルです。
主宰の蓮見翔さんの語りのスタイルが、
売れっ子の漫才師のツッコミのようで面白く、
蓮見さんの語りのリズムが、
全体を1つの作品にしている、という感じです。

内容は非常に技巧的で複雑な仕掛けが用意されています。
今回の作品は演劇公演ということで、
プリクラやゲームなどがある、
所沢の複合娯楽施設に舞台が設定され、
そこに、たまたま大学時代の友達が集まるのですが、
付き合った別れたの複雑な関係性が、
ジグソーパズルのように展開されます。

ただ、演劇好きの観点から見ると、
複雑な人間関係の絵解きが、
必ずしも舞台上のダイナミズムには繋がっていないので、
結局は常に蓮見さんの語り芸を楽しむと言う感じになり、
舞台に立体的な盛り上がりがないのがやや物足りなく感じました。

それでも、これまでにない魅力的な集団であることは間違いがなく、
今後も可能な範囲で足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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MMRワクチンの早期接種の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
MMRワクチン早期接種の有効性.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年6月7日ウェブ掲載された、
通常より早い時期に麻疹などのワクチンを接種した場合の、
乳児の感染予防効果を検証した論文です。

麻疹と風疹とおたふくかぜの3種類の予防ワクチンを、
新三種混合ワクチン(MMRワクチン)と呼んでいます。

これは3種類のウイルスの弱毒生ワクチンを混合したもので、
世界中で広く接種が行われています。

ただ、日本ではここからおたふくのみを抜いた、
MRワクチンが接種されています。
これは以前日本で開発されたMMRワクチンが、
おたふくワクチン由来と思われる無菌性髄膜炎の副反応のために、
接種が中止されたことが原因となっています。

このMMRワクチンもしくはMRワクチンは、
生後1歳くらいを目安に初回の接種が施行されることが、
通常となっています。
これは1歳未満ではまだ母親からの抗体の影響があり、
弱毒生ワクチンの効果が、
減弱する可能性があるからです。

ただ、生後6か月くらいのより早い時期に、
麻疹ワクチンを含むワクチンを接種することにより、
麻疹以外の幅広い感染症の重症化を抑制し、
乳児死亡が抑制されたとするデータが、
主に低所得の地域から報告されています。

このことから、
麻疹ウイルスには一種の免疫賦活作用があり、
麻疹以外の感染予防効果もあるのではないか、
という仮説が提唱されています。

今回の研究はデンマークにおいて、
生後5から7か月の乳児6540名をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はMMRワクチンをその時点で接種し、
もう一方は偽ワクチンを接種して、
その後12か月までの経過観察を行っています。

その結果、
MMRワクチンを早期に接種してもしなくても、
生後12か月までの感染症による入院のリスクには、
有意な差は認められませんでした。

つまり、少なくともデンマークのような、
地域的には高所得の地域においては、
MMRワクチンを通常より早期に接種することの、
明確なメリットは確認されなかったという結果です。

勿論周辺で感染が拡大したような際には、
6か月以降の早期におけるワクチン接種も認められていますが、
通常は1歳を基準としてMMRワクチンを接種する方針で、
大きな瑕疵はないと考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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慢性咳嗽治療薬の長期の安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は訪問診療とレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
リフヌアの長期の効果.jpg
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に、
2023年6月掲載されたレターですが、
慢性の咳の治療薬として発売された、
ゲーファピキサントクエン酸塩(リフヌア)の、
1年(52週)の治療成績をまとめた内容です。

長引く咳の症状は、
風邪をひいた後などに、
非常に一般的に見られる症状ですが、
その原因は不明の場合も多く、
数か月以上という長期間持続することもあります。

その一部はアレルギー性の炎症や、
気道の過敏性が関与しているとされ、
喘息の治療薬やアレルギー疾患の治療薬が使用されています。
ただ、その根拠はそれほど明確ではないことがしばしばです。

最も問題と思われるのは、
脳の咳の中枢を抑制する、
強い作用を持つ咳止め薬が、
数か月以上という長期間、
使用されているようなケースがあることです。
こうした薬剤には便秘や吐き気、排尿障害などの副作用や有害事象があり、
麻薬系の咳止めには依存性も問題となります。

そこで中枢性の咳止めに代わり得る、
長期使用でも健康への悪影響が少ない治療薬として、
開発されたのがゲーファピキサントクエン酸塩なのです。

この薬は選択的P2X3受容体拮抗薬です。
咳が生じるメカニズムの1つとして、
炎症により気道の粘膜から放出されたATPが、
自律神経のP2X3という受容体に結合することにより、
咳の反射が誘発されるという機序があり、
それを抑えることによって、
咳を止めるという薬なのです。

これまでの12週と24週継続した臨床試験においては、
1年以上慢性の咳が持続する患者さんに対してこの薬を使用し、
24時間の咳頻度の有意な低下が認められています。
ただ、偽薬群でも実際には4週以降で、
かなりの咳頻度の低下が認められています。
多くの慢性の咳は、
矢張り経過とともに自然に改善することが多いのです。

また、患者の約40%に味覚障害の有害事象が認められました。

これは味覚に関わる神経に、
P2X3受容体が関連しているためと推測されています。

今回のデータは臨床試験のその後の観察期間を併せて、
52週の経過観察を施行したものです。
対象者は2044名ですが、52週の治療を終えているのは、
そのうちの1534名です。
その結果52週の治療継続においても、
偽薬と比較して咳頻度の改善効果は確認されました。
ただ、全体に咳症状は改善しているため、
その差はかなり小さなものにはなっています。

そして、味覚障害の有害事象は、
使用群の65.4%に認められました。
治療終了後の経過を観察すると、
その99%において、
薬の終了により味覚障害は改善していました。

この薬の評価をどう考えれば良いのでしょうか?

長期持続するような慢性の咳で、
通常の治療が奏功せず、
麻薬系の咳止めを使用継続せざるを得ないというケースでは、
この薬の使用は有効性が高いと考えられます。
ただ、味覚障害が高率に出現することはかなりの欠点で、
咳自体が命に関わるような症状ではありませんから、
「咳が治まるなら、味が分からなくなっても仕方がないのか?」
という問いは難しい設問だと思います。
ただ、中止によりほぼ確実に改善するものであれば、
試しに使ってみて、効果があって味覚障害がないのであれば、
その使用を継続し、
味覚障害が出現すれば、
その時点で中止を考慮する、
というのが、
現時点では妥当な判断であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血小板減少症患者への予防的血小板輸血の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
IVH時の血小板輸血の効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年5月25日ウェブ掲載された、
出血のリスクのある手技の際に、
血小板輸血をすることの可否についての論文です。

中心静脈カテーテルというのは、
身体の内側にある太い静脈にカテーテルを挿入して、
点滴を施行したり、薬剤を血管内の直接注入するための手技です。

使用する血管は、
鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈など様々ですが、
いずれにしても身体の表面から針を刺して、
カテーテルを挿入するという方法は同じです。

それほど危険性の高い手技という訳ではありませんが、
基本的にブラインドで針を刺すので、
出血などの合併症のリスクは常に存在しています。

太い静脈の周囲には、
必ず動脈が走行しているので、
誤って動脈が針で傷ついてしまうと、
大きな血種が出来るようなこともあり得ます。

特に問題となるのは、
その患者さんに出血のリスクがあったり、
一度出血した際に、
止血に時間の掛かるような病気を持っている場合です。

その代表が血液を凝固させるために必要な、
血小板が高度に減少しているような患者さんです。

通常15万/μl以上はある血小板が、
10万を切ると明確に低値となり、
特に5万を下回ると出血のリスクが高まるとされています。

こうした血小板減少症の患者さんに、
中心静脈カテーテルを挿入する必要が生じた場合、
どのようにして出血のリスクを回避すれば良いのでしょうか?

1つの考え方は、
カテーテルの挿入時に超音波で血管の位置を確認したり、
充分な経験を有する医師が施行するなどして、
誤って動脈を損傷するような合併症を、
抑止するという方法です。

そして、もう1つの考え方は、
術前に血小板を輸血して、
一時的に血小板を増加させ、
出血した際の重症化のリスクを抑制しよう、
という方法です。

安全のためには血小板輸血が有効と考えられますが、
その一方で適切に手技を行えば、
血小板が高度に低下した患者でも、
出血のリスクは低く、
輸血の必要はない、というような臨床データも存在しています。
また血小板輸血も輸血ではあるので、
輸血に伴う有害事象や合併症も存在しています。

この問題は現時点で解決しているとは言えないのです。

そこで今回の研究では、
オランダの複数の専門施設において、
血小板数が1万から5万/μlという、
高度の血小板減少症のある患者が、
中心静脈カテーテルの留置が必要となった際に、
くじ引きで2つに振り分けると、
一方は1単位の血小板輸血を予防的に施行し、
もう一方は輸血は施行せずに、
カテーテルの挿入を行っています。
カテーテルの挿入に際しては、
超音波で血管の位置を確認するなど、
慎重な対応を行っています。

対象は338例の患者に施行された373件のカテーテル留置で、
結果としてカテーテル挿入に伴う出血系の合併症は、
血小板輸血群では4.8%に認められたのに対して、
輸血未施行群においては11.9%に認められ、
輸血をしないと輸血をする場合と比較して、
出血系合併症が2.45倍(95%CI:1.27から4.70)有意に増加した、
という結果でした。
この場合の出血系合併症というのは、
圧迫止血に20分以上を要したものや、
輸血や処置を要したものの合算ですが、
これをより重症度の高い出血である、
輸血や処置を要したり、血圧低下などを伴うものに限定すると、
輸血施行群では2.1%、輸血未施行群では4.9%に認められ、
輸血をしないと輸血をする場合と比較して、
重度の出血系合併症が2.43倍(95%CI:0.75から7.93)、
こちらは有意ではないものの増加する傾向を示していました。
重篤な有害事象は13件認められましたが、
いずれも出血系の合併症でした。

このように、
慎重に手技を施行していても、
ある程度の頻度で出血系の合併症は発症しており、
それを抑制する上で、
予防的な血小板輸血には一定の有効性が確認されました。

今後こうしたデータを元にして、
出血のリスクに応じた対応が、
ガイドラインとしても整理されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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肺癌と抗菌剤使用との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
肺癌と抗菌剤.jpg
Journal of Infection and Public Health誌に、
2023年掲載された、
抗菌剤の長期使用と肺癌リスクについての論文です。

肺癌は現在においても予後の悪い癌の1つとして知られています。

その原因としては、
喫煙が最も重要であることは間違いがありませんが、
非喫煙者にも肺癌が起こることもまた事実で、
その原因は、
遺伝的素因や大気汚染など検証はされているものの、
不明な点を多く残しています。

最近腸内菌叢と肺癌リスクとの関連を、
指摘するデータがあります。

腸内細菌叢の乱れが、
免疫細胞に影響を与え、
それが肺癌などの癌のリスクに繋がっているのではないか、
という仮説です。

腸内細菌叢を乱す要因として抗菌剤の不適切な長期使用が指摘されています。

仮に腸内細菌叢と肺癌リスクに関連があるとすれば、
抗菌剤の使用と肺癌リスクとの間にも、
何らかの関連があるのではないでしょうか?

今回の研究は韓国において、
医療保険のデータを活用することにより、
この問題の検証を行っています。

40歳以上で健康診断を施行した、
トータル6214926名の一般住民を対象として、
抗菌剤の処方データと肺癌の診断との関連を調べました。

その結果、
中央値で13年の経過観察期間中に、
合算で365日以上抗菌剤の処方がされている人は、
全く使用していない人と比較して、
肺癌と診断されるリスクが、
21%(95%CI:1.16から1.26)有意に増加していました。
また1から14日抗菌剤処方群と比較しても、
21%(95%CI:1.17から1.24)有意に増加していました。

つまり、抗菌剤の長期使用が、
肺癌リスクの増加に繋がっていることを、
示唆するような結果です。

ただ、抗菌剤の使用歴が多い人は、
それだけ呼吸器系を含む感染症に罹患していたという可能性はあり、
その感染自体が肺癌のリスクになった、
という可能性も当然考えられます。

従って、
肺癌を含む癌と抗菌剤の使用との関連は、
まだ今後の検証を待つ必要がありますが、
耐性菌などの問題もあるので、
抗菌剤の使用は必要最小限とすることが、
健康リスクを高めないためには望ましい、
ということ自体は、
心がけておく必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唐組「透明人間」(2023年春公演上演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
透明人間.jpg
唐組の第71回公演として、
「透明人間」が上演されています。

今回は花園神社のテントに足を運びました。

この作品は1990年の初演後、
1997年には番外公演的に久保井研演出で上演。
その後「水中花」と題名を変えて、
内容にも少し手を入れて2001年に再演、
2006年には「透明人間」に題名を戻し、
更にラストなどに手を入れて再演。
更には初演版として2015年にも再演されています。
「秘密の花園」と共に、
唐組でも再演頻度の高い演目です。

初演は当時既にレトロな感じの唐芝居で、
戦時中の中国の荒野が出て来たり、
不服従の犬が登場したりと、
70年代のアングラ劇に回帰したようなイメージがありました。

ラストも主人公が水の中に引き込まれて終わるという、
「ふたりの女」のような趣向で、
確かテントも開かなかったと思います。
(唐先生の芝居では、
必ずテントの奥が開いて外が見えるように思われますが、
意外に一時期はテントを開けない、
密室劇として完結するラストが多くありました。)

それが再演時に外が開くラストに改訂され、
付け加わった台詞が、
元の物語と少し乖離しているようで、
違和感がありました。
2015年版からは初演に台詞を戻しての上演となり、
今回もその方針が踏襲されています。

初演が矢張り舞台空間の緻密さや、
辻役の長谷川公彦さんがどんぴしゃりだったので、
出来としては上になると思うのですが、
辻役の稲荷卓央さんももう3演目となり、
稲荷さんの代表作の1つと言って良い、
練り上げられた芝居になっていました。
紅テントのファンには、
心からお薦め出来る舞台です。

以下ネタバレを含む感想です。

田口という保健所に勤める若者が、
謎の男から一晩だけ、
自分の妹をあげる、と言われるのが発端で、
その妹が勤める焼き鳥屋には、
恐水病の犬とその飼い主が、
何故か軍服姿で蚊帳を身体に結び付けて、
押入れに寝起きしています。

しかし、犬はその場にはおらず、
飼い主の男は、
昔軍隊で犬の調教をしていて、
中国の荒野で死んだ筈の犬が、
その犬であるような話をします。

どうやら、その犬は、
「盲導犬」に登場するファキイルのような、
人間に従うことをよしとしない猛獣のようなのです。

そこに田口の上司の課長が現れ、
犬とそれを連れた謎の男が、
小学校のグラウンドで小学生の少年の腕を噛んで逃走した、
という話をします。

しかし、小学生を噛んだのは、
どうやら犬ではなく、
それを連れた謎の男の方なのです。

その男は犬の飼い主のかつての軍隊時代の上司の息子で、
その父親は犬の調教師であり、桃という現地の女性と、
大陸で情を交わしていました。
しかし、軍隊の医務官の陰謀で、
犬も女も非業の最期を遂げます。

小学生を噛んだのは、
その辻という犬の調教師の息子で、
おそらくは桃の息子でもあります。

彼は自分の父親の古いジャンパーを身にまとい、
父親に変身して戦地で失った桃を探しているのです。

1日だけ田口の妹になる筈だった女は、
辻の息子に囚われ、
その後もう1人の「桃」が登場すると、
無造作に片隅の水槽に捨てられます。

しかし、辻の息子は実は犬を見殺しにしていて、
それを見付けて怒った飼い主により、
射殺されて水槽に姿を消します。

ラストでは水槽に消えた桃を求めてさすらう田口の前に、
水底から桃が現れ、
田口を水に引き入れて終わります。

基本的なプロットは、
「盲導犬」と「ふたりの女」
そして「秘密の花園」をミックスしたような戯曲です。

2人の女が登場する意味合いが、
やや判然としないのですが、
犬にかつての軍用犬の名前が付けられたことにより、
時空を遡り、
辻という戦時中の調教師の妄執のようなものが、
その息子に受け継がれるという設定が、
如何にも唐先生で魅力的です。

舞台は焼き鳥屋の2階で固定されているのに、
それが一瞬にして大陸の荒野に変貌しますし、
スーパーの前に水道管の破裂で沼が出来たり、
小学校のグラウンドで小学生が噛まれたりといった情景も、
非常に巧みに描出されています。

この作品で特に面白いのは、
ダークヒーローとしての辻(息子)の造形で、
暴力的で女たらしのロマンチストという役柄は、
あまり唐先生の戯曲には、
登場しないキャラクターです。
こうした猛獣のような直情的な性格は、
唐先生の芝居では、
李礼仙で代表されるヒロインの役柄であったからです。

初演時にクールなビジュアルで人気があった、
長谷川公彦さんへのあて書きであることは間違いがありません。
その資質は長谷川さんとは違いますが、
稲荷さんはその役柄をまた別の個性で、
練り上げられた演技の代表作にしていると思います。

他のキャストも非常に質の高い、
正統的「アングラ芝居」を積み上げていて、
その演技の競演を見ているだけで、
至福の気分に浸ることが出来ました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「怪物」(是枝裕和監督新作 ネタバレ注意) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
怪物.jpg
坂元裕二さんが脚本を執筆した、
是枝裕和監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

これはかなり良かったですよ。

如何にも坂元さんという捻った台本に、
是枝さんはいつもよりやや個人技を抑えた演出で、
寄り添うように1本の作品を仕上げています。
特に前半から中段の迫力と緊張感には痺れました。
いつもながら子役の演技が抜群で、
安藤サクラさん、田中裕子さん、永山瑛太の演技も秀逸です。
ただ、トータルには後半がちょっとくどいな、と感じて、
ラストもいつもの是枝さんの、
時空をなで斬りにして終わるような感じではなかったので、
やや物足りなく感じる部分もありました。

それでも是枝監督のミステリータッチの作品としては、
最も優れた1本だと思うので、
どうか予備知識なく鑑賞されるのが吉と思います。

以下内容に少し触れた感想となりますので、
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読み下さい。

よろしいでしょうか?

それでは続けます。

この作品は2人の小学5年生の男子に起こった出来事を、
1人の子供の母親、担任の教師、2人の少年(必ずしも単一視点ではない)の、
3つの視点から描いた作品です。
こう書くと、
すぐ「羅生門」がイメージされますし、
是枝監督自身そうした言い方もしていますが、
「羅生門」のように多視点で、
事実と思っていたものが変容する、
というような作劇ではなく、
事実は3つのパートにおいて、
それぞれ変わりなく描写されるのですが、
その視点によって見えない部分があって、
そのために別々の解釈を事実に加えてしまう、
という趣向になっています。

解釈するのは各パートの主人公であると同時に、
映画を観ている観客でもある訳で、
観客が「誰が怪物なのか?」という命題の解釈を、
何度も試されるという作品になっています。

時系列は非常に複雑で、
各パートにはクレジットも出ないのですが、
各パートの初めが全て舞台の町の駅前で起こった、
同じビルの火災に設定されているので、
火事が映ることによって時間が巻き戻されたことが分かる、
という技巧が非常にクレヴァーです。

最初のパートは安藤サクラさんがメインで、
シングルマザーの彼女が、
1人息子の異変に気付き、
それが瑛太さん演じる担任教師のいじめによるものだと考え、
学校を追求するという話になっていて、
2番目のパートになると、
今度は教師の瑛太さんの視点から、
同じ2人の少年に起こったことが語られます。

この辺りの反転の仕方は、
さすが坂元マジックと言って良い巧みさで、
もっと仰々しく善悪を反転したくなるところを、
そうはしていないのですね。
母親もちょっと自分勝手で直情的な人物ですし、
教師も本の誤植を見つけて投稿することが趣味という、
風変りで非社交的で、
あまり教師には向いていなそうな人物なんですね。
キャラクターの魅力が善悪を規定していないので、
価値観の反転がより深みをもって、
よりリアルに感じられるのです。
同じ場面をそのままに再現しながら、
違うものとして見せてゆく、
是枝監督の演出技巧がまた鮮やかです。

そして、3番目のパートで事実が明らかになるのですが、
そこに仲介役のように登場するのが、
田中裕子さん演じる校長先生で、
彼女の存在の粘着的な不気味さは、
この映画の白眉であるように思います。
坂元さんが偏執狂的に描いた、この複雑な人物を、
リアルに寄せ過ぎずに、
それでいて絵空事ではなく演じた、
田中さんの演技も秀逸でした。

ただ、事実が明らかになった後で、
結構長い尺を使って、
2人の少年の交流が描かれるのですね。
もう「スタンド・バイ・ミー」みたいに描かれるのですね。
そこが正直少しくどく感じてしまいました。

2人の少年の交流と、
それが周囲の大人に理解されず、
2人での逃避行に至る、というお話ですから、
これはもうそのまま1本のドラマですよね。
それはそれで良いと思うのですが、
この映画はその前に多視点のミステリーが乗っかっているので、
それでまたドラマ1本分同じことをするというのは、
ちょっとやり過ぎじゃないか、という気がするのですね。
このしつこさは、
坂元ドラマの1つの特質でもあると思いますが、
是枝演出をもってしても、
そのバランスの悪さは払拭できなかった、
という気がします。

総じて意欲作ですし、
是枝監督も随所に今までにないような絵を入れるなど、
演出も意欲的で見ごたえがありました。
坂元さんとのコラボにより、
是枝作品の新しい魅力が垣間見えたことも新鮮でした。
ただ、他の是枝作品と比較して、
ややまとまりを欠いていた点は否めませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナ感染後2年の症状経過(スイスの住民データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などに廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナの罹患後2年経過.jpg
British Medical Journal誌に、
2023年5月31日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の罹患後長期経過についての論文です。

新型コロナ感染症罹患後の、
1か月を超える長期の体調不良(所謂新型コロナ後遺症)は、
罹患後3から6か月の時点で、
ワクチン未接種者の20から30%に生じると報告されています。
感染者の22から75%(報告によりかなりの幅あり)では、
何らかの症状は1年以上継続している、
というような報告もあります。

ただ、こうしたデータは対象者がまちまちで、
あるものは入院患者のみを対象としていますし、
あるものは医療従事者のみのデータであったりと、
その違いが結果に影響を与えている可能性があります。
また、繰り返す感染の影響やワクチン接種などの影響が、
強くなっている時期のデータでは、
そうした影響とデータとの関連にも注意が必要です。

今回のデータはスイスにおいて、
特定地域の全人口を対象としたもので、
2020年9月から2021年1月に掛けて、
ワクチン未接種の住民の感染後の自然経過を観察したものです。

つまり、デルタ株以前の時期において、
比較的純粋に新型コロナ初感染の影響を、
みているデータということになる訳です。

1106名の新型コロナ初感染者の、
罹患後2年までの経過を観察したところ、
そのうちの22.9%は罹患後半年の時点においても、
何らかの体調不良を抱えていました。
その残存する体調不良の頻度は、
罹患後1年では18.5%に、
罹患後2年では17.2%と低下しています。
時間と共に後遺症は改善するものの、
時間が経つにつれその低下は緩やかになっている、
ということが分かります。

これを未感染のコントロール群628名と比較してみると、
罹患後6か月の時点で、
感染による体調不良は、
コントロール群の上乗せとして17.0%と算出され、
コントロールと比較した場合に多かった症状は、
味覚嗅覚障害が9.8%、労作時倦怠感が9.4%、呼吸困難7.8%、
集中力低下が8.3%、記憶障害が5.7%となっていました。
これが実際の後遺症の症状比率を反映していると思われます。

このように、
新型コロナ後遺症は確実にあり、
その頻度は無視出来ないものですが、
これまでのデータはかなりバイアスが掛かっていることも事実で、
今後感染の時期による違いなどを含め、
より詳細な検証が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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習慣性扁桃炎に対する扁桃摘出術の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
扁桃摘出術の有効性.jpg
Lancet誌に2023年5月17日ウェブ掲載された、
習慣性扁桃炎に対する口蓋扁桃摘出術の有効性についての論文です。

咽喉の奥にある扁桃腺が腫れて、
強い痛みと高熱が出るのが扁桃炎です。

ウイルスが原因であれば、
1週間以内くらいの経過で自然に、
溶連菌などの細菌が原因であれば、
有効な抗菌剤を使用することにより数日で、
急性の症状は改善することが殆どですが、
厄介なのは繰り返す場合があることで、
1か月に1回のような高頻度で、
高熱が出るような状態が繰り返されると、
学校や仕事にも行けなくなりますし、
日常生活にも大きな制限が生じます。

そうした場合に検討されるのが、
扁桃腺(口蓋扁桃)を切除する、
口蓋扁桃摘出術という手術をすることです。

扁桃腺を取ってしまえば、
少なくともその部分が腫れて痛むことはなくなります。
ただ、それでは咽喉が腫れて熱を出すことが、
一切なくなるのかと言えば、
そうではなく、
扁桃腺は口蓋扁桃だけではないので、
他の部分が腫れて熱を出すことはあり得ます。

また、扁桃腺は身体にウイルスなど、
外敵が侵入した際にそれを防御する働きを持っているので、
その働きが低下するという可能性も、
完全に否定は出来ません。

これまでの臨床の経験的な蓄積から、
3歳以上の年齢においては、
多くの場合口蓋扁桃を切除しても、
その後の健康状態には大きな問題は生じることはなく、
扁桃腺が腫れて熱を出すようなことの起こる頻度も、
減少することがほぼ分かっているので、
通常日本においては、
年に3から4回以上扁桃炎で熱を出すような場合には、
扁桃摘出術が勧められることが多いと思います。

しかし、
実際には精度の高い臨床試験において、
習慣性扁桃炎に対する扁桃摘出術の有効性が、
明確に示されているということはなく、
海外においても経験的に手術が決められているのが現状です。

そこで今回の臨床研究ではイギリスの複数施設において、
年齢が16歳以上で習慣性扁桃炎と診断された453名の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は直ちに口蓋扁桃摘出術を施行し、
もう一方は急性扁桃炎時には抗菌剤を使用するなどして保存的に対応し、
その経過を2年間観察しています。

この試験における習慣性扁桃炎は、
1年間に7回以上の扁桃炎由来と思われる症状、
もしくは2年間に年間5回以上、
もしくは3年間に年間3回以上、
となっています。
これは通常の国内の基準より厳しいものだと思います。

検証の結果、
振り分け後2年間の咽頭痛出現日数は、
観察群では中央値で30日であったのに対して、
扁桃摘出術群では23日で、
関連する因子を補正した結果として、
扁桃摘出術により、
2年間の咽頭痛出現日数は、
47%(95%CI:0.43から0.65)有意に低下していました。

扁桃摘出術を施行した事例の39%で、
何らかの合併症が発症していて、
最も多かったのは患部などからの出血でした。
死亡事例は認められていません。

このように、
習慣性扁桃炎に対する口蓋扁桃摘出術には、
一定の症状改善効果が期待出来ます。
ただ、完全に症状がなくなるという訳ではなく、
頻度が半分程度に減るだけだという点については、
現状周知されていない側面もあると思います。

今後こうしたデータの蓄積により、
現状より科学的な扁桃析出術の適応が、
定められることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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