唐組「透明人間」(2023年春公演上演版) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
唐組の第71回公演として、
「透明人間」が上演されています。
今回は花園神社のテントに足を運びました。
この作品は1990年の初演後、
1997年には番外公演的に久保井研演出で上演。
その後「水中花」と題名を変えて、
内容にも少し手を入れて2001年に再演、
2006年には「透明人間」に題名を戻し、
更にラストなどに手を入れて再演。
更には初演版として2015年にも再演されています。
「秘密の花園」と共に、
唐組でも再演頻度の高い演目です。
初演は当時既にレトロな感じの唐芝居で、
戦時中の中国の荒野が出て来たり、
不服従の犬が登場したりと、
70年代のアングラ劇に回帰したようなイメージがありました。
ラストも主人公が水の中に引き込まれて終わるという、
「ふたりの女」のような趣向で、
確かテントも開かなかったと思います。
(唐先生の芝居では、
必ずテントの奥が開いて外が見えるように思われますが、
意外に一時期はテントを開けない、
密室劇として完結するラストが多くありました。)
それが再演時に外が開くラストに改訂され、
付け加わった台詞が、
元の物語と少し乖離しているようで、
違和感がありました。
2015年版からは初演に台詞を戻しての上演となり、
今回もその方針が踏襲されています。
初演が矢張り舞台空間の緻密さや、
辻役の長谷川公彦さんがどんぴしゃりだったので、
出来としては上になると思うのですが、
辻役の稲荷卓央さんももう3演目となり、
稲荷さんの代表作の1つと言って良い、
練り上げられた芝居になっていました。
紅テントのファンには、
心からお薦め出来る舞台です。
以下ネタバレを含む感想です。
田口という保健所に勤める若者が、
謎の男から一晩だけ、
自分の妹をあげる、と言われるのが発端で、
その妹が勤める焼き鳥屋には、
恐水病の犬とその飼い主が、
何故か軍服姿で蚊帳を身体に結び付けて、
押入れに寝起きしています。
しかし、犬はその場にはおらず、
飼い主の男は、
昔軍隊で犬の調教をしていて、
中国の荒野で死んだ筈の犬が、
その犬であるような話をします。
どうやら、その犬は、
「盲導犬」に登場するファキイルのような、
人間に従うことをよしとしない猛獣のようなのです。
そこに田口の上司の課長が現れ、
犬とそれを連れた謎の男が、
小学校のグラウンドで小学生の少年の腕を噛んで逃走した、
という話をします。
しかし、小学生を噛んだのは、
どうやら犬ではなく、
それを連れた謎の男の方なのです。
その男は犬の飼い主のかつての軍隊時代の上司の息子で、
その父親は犬の調教師であり、桃という現地の女性と、
大陸で情を交わしていました。
しかし、軍隊の医務官の陰謀で、
犬も女も非業の最期を遂げます。
小学生を噛んだのは、
その辻という犬の調教師の息子で、
おそらくは桃の息子でもあります。
彼は自分の父親の古いジャンパーを身にまとい、
父親に変身して戦地で失った桃を探しているのです。
1日だけ田口の妹になる筈だった女は、
辻の息子に囚われ、
その後もう1人の「桃」が登場すると、
無造作に片隅の水槽に捨てられます。
しかし、辻の息子は実は犬を見殺しにしていて、
それを見付けて怒った飼い主により、
射殺されて水槽に姿を消します。
ラストでは水槽に消えた桃を求めてさすらう田口の前に、
水底から桃が現れ、
田口を水に引き入れて終わります。
基本的なプロットは、
「盲導犬」と「ふたりの女」
そして「秘密の花園」をミックスしたような戯曲です。
2人の女が登場する意味合いが、
やや判然としないのですが、
犬にかつての軍用犬の名前が付けられたことにより、
時空を遡り、
辻という戦時中の調教師の妄執のようなものが、
その息子に受け継がれるという設定が、
如何にも唐先生で魅力的です。
舞台は焼き鳥屋の2階で固定されているのに、
それが一瞬にして大陸の荒野に変貌しますし、
スーパーの前に水道管の破裂で沼が出来たり、
小学校のグラウンドで小学生が噛まれたりといった情景も、
非常に巧みに描出されています。
この作品で特に面白いのは、
ダークヒーローとしての辻(息子)の造形で、
暴力的で女たらしのロマンチストという役柄は、
あまり唐先生の戯曲には、
登場しないキャラクターです。
こうした猛獣のような直情的な性格は、
唐先生の芝居では、
李礼仙で代表されるヒロインの役柄であったからです。
初演時にクールなビジュアルで人気があった、
長谷川公彦さんへのあて書きであることは間違いがありません。
その資質は長谷川さんとは違いますが、
稲荷さんはその役柄をまた別の個性で、
練り上げられた演技の代表作にしていると思います。
他のキャストも非常に質の高い、
正統的「アングラ芝居」を積み上げていて、
その演技の競演を見ているだけで、
至福の気分に浸ることが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
唐組の第71回公演として、
「透明人間」が上演されています。
今回は花園神社のテントに足を運びました。
この作品は1990年の初演後、
1997年には番外公演的に久保井研演出で上演。
その後「水中花」と題名を変えて、
内容にも少し手を入れて2001年に再演、
2006年には「透明人間」に題名を戻し、
更にラストなどに手を入れて再演。
更には初演版として2015年にも再演されています。
「秘密の花園」と共に、
唐組でも再演頻度の高い演目です。
初演は当時既にレトロな感じの唐芝居で、
戦時中の中国の荒野が出て来たり、
不服従の犬が登場したりと、
70年代のアングラ劇に回帰したようなイメージがありました。
ラストも主人公が水の中に引き込まれて終わるという、
「ふたりの女」のような趣向で、
確かテントも開かなかったと思います。
(唐先生の芝居では、
必ずテントの奥が開いて外が見えるように思われますが、
意外に一時期はテントを開けない、
密室劇として完結するラストが多くありました。)
それが再演時に外が開くラストに改訂され、
付け加わった台詞が、
元の物語と少し乖離しているようで、
違和感がありました。
2015年版からは初演に台詞を戻しての上演となり、
今回もその方針が踏襲されています。
初演が矢張り舞台空間の緻密さや、
辻役の長谷川公彦さんがどんぴしゃりだったので、
出来としては上になると思うのですが、
辻役の稲荷卓央さんももう3演目となり、
稲荷さんの代表作の1つと言って良い、
練り上げられた芝居になっていました。
紅テントのファンには、
心からお薦め出来る舞台です。
以下ネタバレを含む感想です。
田口という保健所に勤める若者が、
謎の男から一晩だけ、
自分の妹をあげる、と言われるのが発端で、
その妹が勤める焼き鳥屋には、
恐水病の犬とその飼い主が、
何故か軍服姿で蚊帳を身体に結び付けて、
押入れに寝起きしています。
しかし、犬はその場にはおらず、
飼い主の男は、
昔軍隊で犬の調教をしていて、
中国の荒野で死んだ筈の犬が、
その犬であるような話をします。
どうやら、その犬は、
「盲導犬」に登場するファキイルのような、
人間に従うことをよしとしない猛獣のようなのです。
そこに田口の上司の課長が現れ、
犬とそれを連れた謎の男が、
小学校のグラウンドで小学生の少年の腕を噛んで逃走した、
という話をします。
しかし、小学生を噛んだのは、
どうやら犬ではなく、
それを連れた謎の男の方なのです。
その男は犬の飼い主のかつての軍隊時代の上司の息子で、
その父親は犬の調教師であり、桃という現地の女性と、
大陸で情を交わしていました。
しかし、軍隊の医務官の陰謀で、
犬も女も非業の最期を遂げます。
小学生を噛んだのは、
その辻という犬の調教師の息子で、
おそらくは桃の息子でもあります。
彼は自分の父親の古いジャンパーを身にまとい、
父親に変身して戦地で失った桃を探しているのです。
1日だけ田口の妹になる筈だった女は、
辻の息子に囚われ、
その後もう1人の「桃」が登場すると、
無造作に片隅の水槽に捨てられます。
しかし、辻の息子は実は犬を見殺しにしていて、
それを見付けて怒った飼い主により、
射殺されて水槽に姿を消します。
ラストでは水槽に消えた桃を求めてさすらう田口の前に、
水底から桃が現れ、
田口を水に引き入れて終わります。
基本的なプロットは、
「盲導犬」と「ふたりの女」
そして「秘密の花園」をミックスしたような戯曲です。
2人の女が登場する意味合いが、
やや判然としないのですが、
犬にかつての軍用犬の名前が付けられたことにより、
時空を遡り、
辻という戦時中の調教師の妄執のようなものが、
その息子に受け継がれるという設定が、
如何にも唐先生で魅力的です。
舞台は焼き鳥屋の2階で固定されているのに、
それが一瞬にして大陸の荒野に変貌しますし、
スーパーの前に水道管の破裂で沼が出来たり、
小学校のグラウンドで小学生が噛まれたりといった情景も、
非常に巧みに描出されています。
この作品で特に面白いのは、
ダークヒーローとしての辻(息子)の造形で、
暴力的で女たらしのロマンチストという役柄は、
あまり唐先生の戯曲には、
登場しないキャラクターです。
こうした猛獣のような直情的な性格は、
唐先生の芝居では、
李礼仙で代表されるヒロインの役柄であったからです。
初演時にクールなビジュアルで人気があった、
長谷川公彦さんへのあて書きであることは間違いがありません。
その資質は長谷川さんとは違いますが、
稲荷さんはその役柄をまた別の個性で、
練り上げられた演技の代表作にしていると思います。
他のキャストも非常に質の高い、
正統的「アングラ芝居」を積み上げていて、
その演技の競演を見ているだけで、
至福の気分に浸ることが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2023-06-04 07:43
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