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脳梗塞発症早期の抗凝固剤使用のタイミングについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脳梗塞後の抗凝固療法開始のタイミング.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年6月29日付で掲載された、
脳梗塞発症早期における抗凝固剤開始のタイミングについての論文です。

心房細動という不整脈においては、
心臓内に血栓が形成されて、
それが脳の血管を詰まらせる、
脳梗塞(脳塞栓症)のリスクが高いことが知られています。

そのため、
ワルファリンもしくは、
直接作用型経口抗凝固剤と呼ばれる、
ワルファリンに替わって近年使用されることの多い抗凝固剤が、
脳梗塞予防のために使用されます。

一旦脳梗塞を起こした患者さんの再発予防のケースでは、
脳梗塞の急性期に再発のリスクが高いことが知られているので、
その意味では出来る限り早期に、
抗凝固剤を使用開始することが効果的です。

ただ、脳梗塞を起こして間もない時期というのは、
脳や血管の状態も不安定で、
血管周囲の出血も起こり易い時期でもあります。
仮に抗凝固剤を使用中に出血が起これば、
凝固が抑制されて出血が広がり、
深刻な事態になることも想定されます。

このため、脳梗塞発症後、
直ちに抗凝固剤を使用開始することはせず、
少し病状が安定化してから使用するべきではないか、
という考え方もあります。
そのため欧米のガイドラインの一部では、
症状が一時的で改善する一過性脳虚血発作の場合は発症1日後、
軽症の脳梗塞では発症3日後、
中等症の脳梗塞では発症6日後、
優勝の脳梗塞では発症12日後、
を目安にして抗凝固剤を開始する、
「1‐3‐6‐12日ルール」が推奨されています。

一方で2022年のStroke誌に発表された、
日本の研究グループによる臨床試験では、
一過性脳虚血発作では発症1日以内、
軽症脳梗塞では発症2日以内、
中等症脳梗塞では発症3日以内、
重症脳梗塞でも発症4日以内、
を目安に抗凝固剤開始するという、
「1‐2‐3‐4日ルール」を適応して臨床試験を施行、
より遅れて抗凝固剤を開始した場合との比較で、
有効性、安全性とも明確な差を認めなかった、
という結果が報告されています。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.121.036695

今回の臨床試験は世界15か国の103の専門施設において、
心房細動があって虚血性梗塞を起こした2013名の患者を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は軽症から中等症の梗塞では発症48時間以内、
重症の梗塞では発症6もしくは7日以降に抗凝固剤を開始する早期使用群と、
もう一方は軽症の梗塞では発症3もしくは4日、
中等症の梗塞では発症6もしくは7日、
重症の梗塞では発症13もしくは14日に、
抗凝固剤の投与を開始する後期使用群に分けて、
その30日以内の予後、及び90日以内の予後の比較を施行しています。

その結果早期使用群と後期使用群との間で、
今回も有意な有効性や安全性の差を認めませんでした。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

早期の使用でも出血などの合併症が、
遅らせて開始した場合と変わらないとすれば、
遅らせる必要性は低い、
という言い方は出来ます。
しかし、一方で今回の結果では、
早期に抗凝固剤を使用した方が、
明確に再発などの予防に繋がった、
という結果も得られていません。
どちらかと言えば同等の予後改善効果、
という結果です。
予後に変わりがないのだとすれば、
わざわざ早期に始める意味は何処にあるのか、
という疑問も生じることになるのです。

従って、問題はより抗凝固剤の使用に、
合併症のリスクが高いと想定される対象には、
どのような対応をしたら良いのか、
そうした事例では使用を遅らせた方が、
予後の改善に繋がるのではないか、
というような疑問の解明にあり、
今後はそうした検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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