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心筋梗塞の予後に与えるLDLコレステロールの影響(LDLパラドックスについて) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
LDLコレステロールと心筋梗塞の予後.jpg
Journal of Internal Medicine誌に、
2023年5月31日ウェブ掲載された、
「LDL-Cパラドックス」についての論文です。

悪玉コレステロールと通称されている、
LDLコレステロールが血液中で高値であると、
動脈硬化が進行し、
心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患のリスクが高まることは、
多くの精度の高い疫学研究で確認されている事実で、
心筋梗塞を起こした患者さんに対して、
コレステロール降下療法を適切に施行すると、
その再発リスクが低下することも、
また多くの精度の高い臨床試験で確認されています。

ここまでは問題ありません。

しかし、これまでの複数の観察研究のデータでは、
急性心筋梗塞などの急性冠症候群を発症した患者さんにおいて、
LDLコレステロールが低いほど、
その後の死亡リスクが高く合併症も多いという知見が得られています。

つまり、
LDLコレステロールが低いことは良いことの筈なのに、
むしろ予後が悪いというデータになっているのです。

これを「LDL-C(LDLコレステロール)パラドックス」
と呼ぶことがあります。

今回の研究はスウェーデンにおいて、
初発の心筋梗塞で入院した18歳以上の患者のうち、
コレステロール降下療法を施行していなかった、
トータル63168名の予後を、
血液中のLDLコレステロール値毎に比較検証しています。

患者の年齢の中央値は66歳で、
LDLコレステロール濃度の中央値は116mg/dLでした
LDLが低いほど患者の年齢は高く、合併疾患も多い傾向が見られました。
中間値で4.5年の観察期間中に、
10236名が死亡し、4973名は心筋梗塞を再発していました。

ここでLDLが約140mg/dL以上と最も高い群は、
約93mg/dL以下と最も低い群と比較して、
死亡リスクが25%(95%CI:0.71から0.80)有意に低下していました。

また、肺炎や大腿骨頸部骨折、COPD、新規の癌で入院するリスクも、
LDLが高いほど低くなっていました。

一方で心筋梗塞の再発のリスクは、
LDLが高い群は低い群と比較して、
1.16倍(95%CI:1.07から1.26)と有意に増加していました。

このように、今回の大規模な疫学データにおいても、
急性心筋梗塞後のコレステロール降下療法未施行の患者では、
LDLコレステロールが低いほど、
その予後が悪いという結果が得られました。

ただ、実際にはLDLコレステロールの低い患者は、
栄養状態が悪い可能性が高く、
心臓以外の疾患を併発していえることで、
その生命予後が悪化しているという可能性が示唆されました。
つまり、LDLコレステロールが低い状態で心筋梗塞を発症した患者は、
コレステロール以外の原因で病気が発症した可能性が高く、
そのため原因とコレステロールとは無関係で、
その低値は全身状態の悪化を表現しているのではないか、
という仮説です。

従って、コレステロールが高値で心筋梗塞を発症したような患者においては、
コレステロールの管理が重要ですが、
コレステロールが低値で発症したような患者では、
別のアプローチが必要と考えられるのです。

LDL-Cパラドックスは、
どうやらパラドックスと捉える必要はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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