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心房性心臓病患者に対する抗凝固剤の脳卒中予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
心房性疾患に対する抗凝固療法の有効性.jpg
JAMA誌に2024年2月4日付で掲載された、
心房細動のない心房性心臓病に対する、
抗凝固剤使用の有効性についての論文です。

心房細動という不整脈は、
心臓の心房という部分が不規則に収縮する病気で、
通常は一時的に出現してまた元に戻ることを繰り返し、
それから不整脈のみが継続する、
慢性心房細動と呼ばれる状態に移行します。

そしてこの不整脈は、
時々発作を起こす状態であっても、
心房に血栓が出来て、
それが脳の血管に詰まる、
脳卒中(脳塞栓症)を起こすリスクが高まることが知られています。
たとえば動脈硬化が進行していることの想定される高齢者では、
たった一度の発作性心房細動を起こしただけで、
その後の脳卒中のリスクが約2倍増加した、
という報告もあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/

そのため、
この不整脈が確認された場合には、
不整脈自体を治療する試みと共に、
抗凝固剤と呼ばれる、
血栓が出来難くなる薬剤を、
継続的に使用することで、
脳卒中のリスクを抑制する治療が行われます。

ただ、実際には心房細動が確認されなくても、
左心房に負荷が掛かっているだけで、
脳卒中のリスクが増加するという報告があります。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4766055/

そのため心電図などの所見から、
左心房に負荷が掛かっている状態のことを、
心房性心臓病(Atrial Caidiopathy)と呼んで、
それ自体を治療しようという考え方があります。

もしこれが事実であるとすれば、
まだ心房細動を発症しない状態であっても、
左心房への負荷がある状態であれば、
脳卒中の予防のための治療が必要だ、
ということになります。

しかし、実際には心房細動のない心房性心臓病の患者さんに、
抗凝固療法を施行した場合の有効性は、
明らかではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカとカナダの複数施設において、
年齢は45歳以上で潜在性の虚血性梗塞の既往があり、
心房細動は確認されないものの、
左心房に負荷の所見のある、
トータル1015名の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は1日81㎎の低用量アスピリンを使用し、
もう一方は抗凝固剤であるアピキサバンを使用して、
その後の脳卒中予防効果を、
平均で1.8年の観察期間で検証しています。

左房負荷の指標は、
心電図における左房負荷の指標である、
左房の機能を反映するP波の後半部分の所見
(PTFV1>5000μV)と、
心負荷の所見であるNT-proBNPの軽度上昇(>250pg/mL)、
エコーで計測した心房の大きさ(ADI3.0 cm/㎡以上)との3つの指標から、
少なくとも1つ以上を満たす状態、
として定義されています。

その結果、
アスピリンと比較してアピキサバンの使用は、
明確な脳卒中予防効果を示せませんでした。
また、重篤な出血系の合併症のリスクにおいても、
両群では有意な差はありませんでした。

このように心房細動以外の、
左房負荷に関わる脳卒中リスクの増加を予防する目的で、
アスピリンの代わりにアピキサバンを使用しても、
現状で明確な予防効果を示すことは出来ませんでした。

心房細動に至っていない左房負荷の脳卒中リスクに対して、
どのような対策を高じるべきかについては、
まだ明確な結論は得られていないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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