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「夜明けのすべて」(三宅唱監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夜明けのすべて.jpg
瀬尾まい子さんのベストセラーを、
「ケイコ 目を澄ませば」の斬新な映像表現が印象的だった、
気鋭の三宅唱監督が映画化しました。
原作のPMSとパニック障害の主人公2人を、
人気者で演技派でもある、
上白石萌音さんと松村北斗さんが演じています。

これは映画を観てとても感銘を受けたので、
原作を後から読んだのですが、
映画は原作をかなり大きく改変していて、
読後の印象は映画と別物と言って良いほど違っていたので、
映画の評価もちょっと悩ましいものになってしまいました。

原作を読んでお好きな方が、
この映画をご覧になると、
多分かなりショックを受けるのではないかと思います。
なので、ご覧になる時には、
別物と割り切って鑑賞するのが吉です。
逆に先に映画をご覧になって感動された方は、
是非原作をお読み下さい。
映画の方が良いな、と思われる方もいると思いますし、
その反対の方もいると思います。

映画単体として考えると、
三宅唱監督らしいドキュメンタリー的な映像表現が、
非常に完成度高く駆使されていて、
随所にハッとさせる場面もあり、
特に観客の生理を計算し尽くしたような、
編集が素晴らしいと思います。

ホリプロが主体の映画なので、
分かり易さを重視しながら、
監督の個性はしっかり出されている、
という点にも感心しました。

主役2人の演技がまた素晴らしく、
特に松村北斗さんは、
最初の如何にも関わると面倒そうな雰囲気から、
ラストの笑顔までの振幅の大きさが見事で、
これまでの代表作と言って良い仕上がりでした。

ただ、前述のように原作とはほぼ別物で、
それもかなり根幹の部分を変えてしまっているので、
その点について以下少し比較してみます。

ネタバレになりますので、
これから原作を読まれる予定の方や、
映画を鑑賞予定の方はご注意下さい。

よろしいでしょうか?

では続けます。

映画を観ると、
「ははあ、これは恋愛感情なしの男女の交流を描いた映画なのね」
というように思うのですね。
そうした台詞もありますし、
普通は最後は一緒になるか、
ならなくてもちょっといい雰囲気にはなるか、
一度別れても最後には再会するのか、
そのどれかになると思うでしょ。
でもそうならないんですね。
上白石さんのお母さんがパーキンソン病で介護が必要となり、
実家に戻ってしまう一方、
松村さんの方は最初は馬鹿にしていた中小工場に残ることになり、
特別な感慨もなく、2人は別々の道を歩んで、
それで終わってしまうのです。
ある意味斬新な終わり方で、
現実なんて多分そんなものでしょうし、
悪い気分にはならないんですね。

でも、原作を読むと全然違っていて、
そちらは最後、
2人は中小工場でそのまま働き続け、
何となくいい感じになって終わるんですね。
とても普通の終わり方です。
映画の上白石さんの役の母親も、
原作ではぴんぴんしていて、
別に介護が必要にもならないのですね。

そもそも2人の勤めている会社も、
ネジなどを作って売っている中小企業で、
プラネタリウムなどとは何の関係もないんですね。
クライマックスは上白石さんの役の女性が盲腸で入院して、
一念発起した松村さん役の男性が、
初めて頑張って病院まで遠出する、
というエピソードになっています。
まあ、ベタな感じではあるのですが、
それを映画はバッサリ切って、
プラネタリウムの話を創出しているのです。
そこで朗読される題名に結び付く感動的なメッセージも、
勿論原作にはありません。

他にも改変箇所は山のようにあって、
パニック障害の男性が、
薬を飲みながら軽トラを運転している、
という原作の設定などは、
怒られてしまうのが必定ですから、
変えて仕方がないのですが、
ほぼほぼ全ての設定を変えまくっていて、
残っているのは、
松村さんの髪を上白石さんが切る場面と、
上白石さんのイライラを、
行動療法的なアプローチで、
松村さんが解消して上げるという場面ですね。
この2つは映画でも非常に印象的ですが、
この場面の鮮烈さは、
原作の良さなのです。
端的に言えば、この2つの場面を残して、
他の全ては総とっかえしたのが、
映画版の「夜明けのすべて」です。

これは原作もいいし、映画もいいんですね。
でもその良さはかなり異なるフェーズのものなので、
これは是非両者を味わうのが吉だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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