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高身長とがんリスク(2024年中国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高身長と癌リスク.jpg
Cancer Epidemiology誌に、
2024年8月13日付でウェブ掲載された、
身長とがんリスクとの関連についての論文です。

身長が高いほどがんのリスクが増加するというのは、
かなり昔から報告されている知見です。

以前ご紹介した2013年のCancer Epidemiol Biomarkers Prev誌の論文では、
アメリカの閉経後女性を調査したデータにより、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクは13%増加した、
という結果が報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23887996/

他にも多くの研究があり、メタ解析もありますが、
面白いことに概ね、身長が10センチ高くなる毎に、
10%程度のリスク増加が見られている、
という点では一致しています。

今回の論文は中国の研究者によるもので、
これまでの同様のデータは、
主に欧米人を対象として解析されたものなので、
今回はアジア人種で同様の検証を行った、
と記載されています。

ただ、最初に引用されている、
身長とがんリスクついての論文は、
その多くが韓国人の疫学データなので、
記載とはやや矛盾しているような気もします。

閑話休題…

今回の研究では中国のバイオバンクのデータを活用して、
年齢が30から79歳のトータル510145名の一般住民を、
中間値で10.1年観察した結果、
そのうちの22731名が何等かのがんを発症していました。

そこで他の関連する因子を補正した上で、
身長とがんリスクとの関連をみると、
身長が10センチ高くなる毎に、
トータルながんのリスクが16%(95%CI:1.14から1.19)、
肺癌のリスクが18%(95%CI:1.12から1.24)、
食道癌のリスクが21%(95%CI:1.12から1.30)、
乳癌のリスクが41%(95%CI:1.31から1.53)、
子宮頸癌のリスクが29%(95%CI:1.15から1.45)、
それぞれ有意に増加していました。

これとは別個に、
メンデル遺伝子解析という手法で、
中国人、韓国人、日本人のこれまでのデータを、
まとめて解析した結果でも、
ほぼ同等の結果が得られました。

このように、
人種に関わらずがん発症のリスクが、
身長が高いほど増加する、
というのは間違いのない事実であるようです。

それでは、何故身長が高いとがんになり易いのでしょうか?

上記文献には2つの仮説が提唱されている、と書かれています。

そのうちの1つは、身長の高い人は細胞数が多いので、
細胞分裂の回数も多く、
それだけ分裂時の変異も起こり易いのではないか、
というものですが、
これはあまり説得力のあるものではない気がします。

もう1つの仮説は、
高身長の要因となる、
成長ホルモンや成長因子のIGF1が、
細胞の増殖を刺激して、
それががんのリスク増加に繋がっているのではないか、
というものです。

こちらの見解の方がもっともらしいのですが、
まだ実証されている訳ではない、という点には注意が必要です。

いずれにしても、
がんのリスクが身長に影響されるのは間違いがないとしても、
その影響は軽微なものなので、
高身長の方は特にそれを不安に感じる必要はないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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経口抗菌薬と重症薬疹リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
重症薬疹と抗菌剤.jpg
JAMA誌に2024年8月8日付で掲載された、
重症の薬の副作用と、
飲み薬の抗菌薬との関連についての論文です。

薬の副作用として最も起こり易いものの1つが、
皮膚に起こる蕁麻疹などのアレルギー性の変化です。

こうした変化が出た場合には、
速やかに原因となる薬を中止することにより、
症状は改善することが多いのですが、
中には重症な皮膚の変化や内臓の障害を伴って、
緊急入院が必要となったり、
命に関わる深刻な事態となることもあります。

その代表的な病気が、
スティーブンス・ジョンソン症候群や、
中毒性表皮壊死融解症と呼ばれる重症薬疹で、
全身に水疱が生じて皮膚が壊死し、
致死率も高いという深刻な病態です。
特に高齢者では、そのリスクも高く、
重症化も多いことが知られています。

勿論原因となる薬が予め分かっていれば、
それを使わなければ良いだけの話ですが、
同じ薬を同じように使用していても、
起こる人と起こらない人がいますし、
その頻度は多くはないことは確かで、
大半の方には安全に使用可能な薬が殆どであるのが、
この問題の厄介なところです。

それでも、重症薬疹を来しやすい薬というものはあり、
その代表の1つが細菌感染などの治療薬である、
抗菌薬(抗生物質を含む)です。

ただ、多くの種類の抗菌剤がある中で、
重症薬疹のリスクを比較したようなデータは、
あまり存在していません。

そこで今回の研究では、
カナダのオンタリオ州の医療データを活用して、
少なくとも年1回経口抗菌薬の処方歴のある、
65歳以上の高齢者で、
処方後60日以内に重症の薬疹を来して、
救急医療機関を受診もしくは入院した、
トータル21758名の一般住民を、
年齢などをマッチングした67025名のコントロール群と比較して、
薬剤毎のリスクを検証しています。

抗菌剤の処方期間の中間値は7日間
(四分位範囲7から10日)で、
処方から受診までの期間の中間値は14日間
(四分位範囲7から35日)でした。

検証の結果、
クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬と比較して、
最も重症薬疹リスクが高かったのは、
スルホンアミド系抗菌薬
(日本での使用はゲーベンクリームとサラゾピリン、バクタなど)
でそのリスクは2.9倍(95%CI:2.7から3.1)と最も高く、
次に高かったのはセファロスポリン系抗菌薬
(ケフレックス、バナン、トミロンなど多数)
でそのリスクは2.6倍(95%CI:2.5から2.8)でした。

特に日本の処方では、
セファロスポリン系抗菌薬は使用頻度の高い薬剤なので、
その使用時には患者さんの背景から、
薬疹のリスクを想定し、
必要性の高い事例のみに使用を留めるなど、
より慎重な対応が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)コメントでご指摘を受け、スルホンアミド系抗菌剤に、
バクタを追加しました。(2024年8月31日午前6時24分修正)
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アスピリンの中止とその影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの中止とそのリスク.jpg
BMC Medicine誌に、
2024年7月29日付で掲載された、
高齢者でのアスピリンの服用中止の影響についての論文です。

1日80から100mg程度のアスピリンを継続的に飲むことに、
心血管疾患や腺癌というタイプの癌の、
予防効果のあることは、
多くの疫学データや精度の高い臨床試験においても、
実証されている事実です。

ただ、その一方でアスピリンには出血系の合併症があり、
使用を継続することで、
消化管出血や脳出血などのリスクは増加します。

従って、アスピリンを服用することが、
その人にとって有益であるかどうかは、
その作用と有害事象とのバランスに掛かっています。

その有効性は一度そうした病気になった人の、
再発予防効果としては確立されていますが、
まだ病気にはなっていない場合の、
一次予防効果については、
どのような対象者を選ぶかによっても、
その結果は様々で統一した見解とはなっていません。

心血管疾患の中でも虚血性心疾患については、
比較的アスピリンの予防効果が実証されていますが、
脳卒中についてはそれほど明確なことが分かっていません。
特に脳卒中のリスクの高い70歳以上の高齢者については、
臨床試験の対象からは外されていることが多く、
信頼のおけるデータは限られています。

そこで70歳以上の心血管疾患のない高齢者を対象として、
低用量アスピリンの一次予防効果を検証した、
ASPREEという臨床試験が施行されました。

その結果は2018年に論文化されましたが、
高齢者に一次予防目的でアスピリンを使用しても、
心血管疾患のリスクは低下せず、
出血系の合併症は増加し、
結果として生命予後も悪化が認められた、
という衝撃的なものでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1805819
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1803955

つまり、
心血管疾患のない70歳以上の人においては、
アスピリン継続使用の健康効果は、
ほぼ完全に否定されたのです。

ただ、そこで問題となるのは、
アスピリンを継続して使用している高齢者において、
それを中止することのリスクはないのだろうか、
という点です。

アスピリンを開始することにメリットがない、
ということと、
それまで特に問題なくアスピリンを使用していた人が、
それを中止することの弊害がない、
ということとはまた別の問題であるからです。

今回の研究は、
今ご紹介したASPREE試験の二次解析ですが、
対象事例のうち、
途中でアスピリンを中止した事例と、
継続した事例とを比較することで、
アスピリン中止の影響を検証しているものです。

解析の結果、
アスピリンを中途で中止しても、
その後48か月までの期間において、
心血管疾患のリスクや生命予後に悪影響は生じることはなく、
重症の出血系合併症は、
明確に低下することが確認されました。

これは臨床試験のデータを後から解析したものなので、
これをもってアスピリン中止の安全性が、
実証されたとまでは言えませんが、
70歳以上の心血管疾患のない高齢者において、
一次予防目的で使用されているアスピリンについては、
中止を検討することで、
患者さんに特に弊害は生じないと、
現時点では考えて良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「逃奔政走-嘘つきは政治家のはじまり?-」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
とうほんさいそう.jpg
この作品は上演されてから、
少し時間が経っているのですが、
覚書的にご紹介させて頂きます。

シチュエーションコメディを一貫して小劇場で上演し続けている、
アガリスクエンターテイメントの富阪友さんが、
作・演出を勤め、
鈴木保奈美さんが主演したコメディで、
鈴木さんは女性の県知事役、
配下の副知事に相島一之さん、
若手政治家役に寺西拓人さん、
悪徳政治家役に佐藤B作さんというのがメインキャストで、
それ以外のキャストは、
ほぼほぼアガリスクのメンバーが勤めているという布陣です。

アガリスクエンターテイメントは、
最近はあまり観ていませんが、
2015年の「紅白旗合戦」の初演で感銘を受けて、
それからしばらく新作が上演される度に足を運んでいました。
特に印象的だったのは、
三谷幸喜さんの「笑いの大学」を、
尊敬はしつつ笑いのめした「笑いの太字」という怪作で、
これはちょっと仰天しました。
その後もシチュエーションコメディに拘りながら、
ナチスドイツや大本営など、
本来笑うべきではない素材を、
かなりの力業でコメディにするという作品を発表し、
「こんなことをして大丈夫なのかしら」と少し不安には感じつつ、
新作を楽しみに出かけていました。

良いコメディ作家は必ず世に出るもので、
今回鈴木保奈美さん主演の舞台を、
新作で任されるというニュースを見た時には、
これは行かなくてはと思い、
富阪さんがどのような進歩を遂げたのか、
大きな期待を持って劇場に足を運びました。

内容は鈴木保奈美さん演じる、
市民運動出身の政治家が、
政治の刷新を訴えて、県知事選に立候補し、
見事に当選するところから始まるのですが、
自分の実現したい政策とのバーターで、
悪徳政治家と公共事業を巡る取引をしてしまう、
というところから、
次々と不正に手を染めてしまい、
それを若手議員から追求されて、
その火消しに躍起になる様を、
シチュエーションコメディの手法で描いているものです。

これね、通常の作劇であれば、
主人公は本当に止むを得ず不正に加担してしまった、
ということが、
観客に納得できるような内容にしますよね。
でも、富阪さんはそうではなくて、
主人公はかなり軽い気持ちで、
「まあいいか」みたいな感じで不正に手を染めるのですね。
確かに現実はそうだと思うのですが、
簡単に不正に手を染めるような人格を、
主役に据えて観客に共感させようというのは、
かなり難しい作業で、
正直なところ今回の作品で、
それに成功していたとは思えませんでした。

誰でも心の中に持っている小市民的なせこい「悪」を、
そのまま受け入れて、
それ自体を笑ってしまおう、というのが、
富阪さんのコメディのコンセプトで、
それはそれで面白いと思うのですが、
今の世の中はそうしたせこい「悪」を、
全て抉り出して糾弾し集団リンチにしよう、
という風潮ですから、
皆自分の心の中の悪を隠すことに必死で、
それを受け入れて笑おう、
というような気持ちにはなれないのですね。

結果としてこの作品のラストは、
悪事を告白して辞職した主人公が、
観客に向かって、
心の中の悪に向き合え、みたいな、
演説をするという趣向になるのですが、
これは小市民的「悪」を受け入れて笑うという当初のテーマとは、
かなり真逆に近い展開で、
おそらくこうせざるを得なかったのだろうな、
という推測は付くのですが、
富坂さんが最初に想定していたような展開とは、
かなり違ってしまったのではないかと、
個人的には思って観ていました。

政治をテーマにしたコメディを作ることは、
現代では至難の作業であるようです。

そんな訳で富坂さんの資質が、
十全に活きた作品にはなっていなかったことは、
残念ではあったのですが、
今後も富阪さんの日の当たる舞台での活躍は、
間違いなく続くことになると思うので、
今後の作品を楽しみに待ちたいと思います。

いつの日か、
従順に飼いならされた観客が、
度肝を抜かれるような怪作が、
一般の劇場で堂々と上演されることを期待します。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「正三角関係」(NODA・MAP第27回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
正三角関係.jpg
NODA・MAPの第27回公演として、
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を元にした、
野田さんの新作が今上演されています。

メインとなる3人兄弟に、
松本潤さん、永山瑛太さん、長澤まさみさんが扮する、
という豪華キャストです。

野田秀樹さんの作品は、
青年座に書き下ろした「大脱走」を観たのが最初で、
その次に駒場小劇場の「野獣降臨」の初演を観て、
その後は遊眠社時代に数作見逃したものがありますが、
ほぼほぼ全作品の初演に足を運んでいます。

一番感銘を受けたのは、
紀伊国屋ホールで再演した「走れメルス」で、
次の遊眠社版「大脱走」も良かったですね。
あの頃のスピード感と躍動感、
そしてラストの奇妙な抒情と余韻のようなもの、
今でも懐かしく思い出します。

それから日生劇場と組んで、
シェイクスピアなどの古典の、
野田版の読み替えを幾つかしたのですが、
あれが抜群に冴えていたんですね。
隠れた野田戯曲の傑作群ですが、
残念なことにキャストが野田さんのスピード感に不慣れで、
演劇的成果としては今一つに終わったのが残念でした。
それを復活させたのが、
SPACの「真夏の夜の夢」で、
ここに目を付けた宮城さんはさすがだと思います。

NODA・MAP以降だと、
「赤鬼」の初演、
若手を使った「ローリングストーン」辺りが、
個人的には印象に残っています。
それからかなり社会性のあるお芝居にシフトして、
どうかなあ、という感じであったのですが、
最近だと「フェイクスピア」は抜群に良くて、
あれは間違いなく野田さんを代表するお芝居の1本だと思います。
「MIWA」も意外に良かったですね。

ドストエフスキーはNODA・MAPの初期に、
「罪と罰」を江戸時代に置き換えて、
大竹しのぶさん主演でやりましたね。
結構原典に忠実で、
それがラストは将軍登場で神殺しみたいな感じになります。
まあその後の天皇制批判をテーマにしたお芝居に繋がるのですが、
当時はそうした感じは明確ではありませんでした。

「カラマーゾフの兄弟」は、
高校生の時の夏休みに読みました。

今回のお芝居は原作の舞台を終戦間近の長崎に移して、
花火師の3兄弟の話として描いています。
人間関係などは原作を踏襲していますが、
後半には原作と別個のテーマが浮上して、
スケールの大きなクライマックスに至る展開は、
最近の野田さんのお芝居の定番の流れです。

ただ、今回は「うーん」という感じ。
後半に浮上するテーマというのが、
これまでに野田さんが何度も扱ってきたものなので、
正直「またですか?」という感じが否めません。
また2時間20分休憩なしという上演時間が如何にも長くて、
集中力が切れがちになるような展開がありました。

勿論舞台面の美しさやキャストの熱演など、
優れた点も多いお芝居ではあったのですが、
数年前に「フェイクスピア」という大傑作を観ているので、
どうしても比較すると点が辛くなります。

今回キャストは皆頑張っていたと思うのですが、
主役の3人がいずれも、
舞台で安心して見ていられる、
というレベルではないので、
どうしても演出で調整する要素が大きくなります。
スピード感重視の舞台では、
その辺りがどうしても弱いな、
という感じが今回はありました。

総じてかなり強引に、
ドストエフスキーと、
社会的なテーマを繋ぎ合わせたという作品なので、
今回はそのつなぎ目に、
かなり無理があったという印象でした。
むしろロシアと日本との関わりなどを中心に据えた方が、
より興味深い作品になっていたような気もします。

そんな訳でやや落胆を感じた今回ですが、
野田さんらしい見どころは多いお芝居で、
今後海外公演もあるようですから、
日々ブラッシュアップされて、
作品が進化することに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーとお茶の脳卒中への影響(2024 年発表の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーとお茶の脳卒中への影響.jpg
International Journal of Stroke誌に、
2024年6月18日付で掲載された、
コーヒーとお茶の脳卒中への影響についての論文です。

コーヒーの健康効果については多くの報告があり、
生命予後の改善作用や、
糖尿病、肝臓病、心臓病などの予防効果については、
その有効性はほぼ確立されていると言って良いと思います。

ただ、脳卒中に対するコーヒーの有効性については、
一定の有効性が確認されたというデータはあるものの、
無効であったというデータもあって、
必ずしも一致した結論に至っていません。

むしろお茶については紅茶でも緑茶でも、
脳卒中の予防効果が見られたという報告があります。
その辺りについては以前のブログ記事にまとめたありますので、
こちらをご覧ください。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2018-04-18-1

今回の研究は脳卒中のリスクを解析した、
INTERSTROKE研究という、
世界32か国142施設で行われた国際的な疫学研究のデータを、
二次的に解析したもので、
トータル13462名の初発脳卒中患者を、
年齢などをマッチングした、
13488名と比較して、
コーヒーやお茶(紅茶、緑茶など全て含む)の習慣的摂取と、
脳卒中の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
コーヒーについては、
1日4杯までの摂取習慣では、
脳卒中リスクとの間に有意な関連はありませんでしたが、
1日5杯以上飲む人は、
飲まない人と比較して、
脳梗塞や脳出血など全てを含む脳卒中のリスクを、
37%(95%CI:1.06から1.77)有意に増加させていました。
脳卒中の内訳では、
虚血性梗塞のリスクが、
32%(95%CI:1.00から1.74)と増加していましたが、
脳内出血のリスクの有意な増加は認められませんでした。

一方でお茶については、
1日1から2杯で18%(95%CI:0.73から0.92)、
3から4杯で20%(95%CI:0.70から0.91)、
5杯以上で19%(95%CI:0.69から0.94)と、
いずれの量でもトータルな脳卒中のリスクを低下させていました。
このリスク低下は緑茶でより強く認められ、
紅茶単独ではそれほど明確ではありませんでした。

このように今回の検証では、
コーヒーは1日5杯を超えると、
脳卒中のリスク増加に結び付いていて、
お茶、特に緑茶については、
その量に関わらず一定のリスク低下が認められました。

これは過去のデータともほぼ一致しているもので、
現状で脳卒中予防の飲み物としては、
緑茶が最も優れていて、
コーヒーは1日3から4杯に留めておくのが、
安全な選択であるように思われます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アルツハイマー型認知症に対するコリンエステラーゼ阻害剤の治療効果の差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
認知症の治療効果の差.jpg
Aging Medicine誌に、
2024年6月18日付で掲載された、
現行の治療薬による認知症の治療効果の差についての論文です。

新薬の使用などが徐々に始まってはいますが、
現在の認知症治療の主体は、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、
というタイプの薬剤です。

ドネペジル(アリセプト)はその代表で、
他に少しずつ性質や作用の異なる薬がありますが、
その基本的な性質は同じです。

アセチルコリンは脳の神経伝達物質の1つで、
認知症においてその働きが低下するため、
アセチルコリンの分解を抑える薬を使用して、
認知症の進行を抑止しよう、というのが、
その主なメカニズムです。

このタイプの薬は認知症そのものを改善する効果はありませんが、
認知症に伴う症状を軽減し、
その進行を緩やかにする効果のあることは、
多くの精度の高い臨床試験において確認されています。

ただ、同じようにこうした薬を使用していても、
その効果は患者さんによって様々で、
薬の効果で病状の進行があまり見られない、
という患者さんがいる一方で、
薬を使用していても、
急速に病状が進行するというケースもあります。

それでは、
どのような患者さんでこうした薬は有効で、
どのような患者さんで無効なのでしょうか?

それがある程度推測可能であれば、
治療方針の選択や、
病状経過や予後を予測する意味で、
有益な情報が得られることは間違いがありません。

今回の研究は台湾において、
単独の医療施設のカルテデータを解析して、
コリンエステラーゼ阻害剤の治療効果に与える、
個別の患者背景を検証しています。

対象は新たにアルツハイマー型認知症と診断されて、
コリンエステラーゼ阻害剤による治療を新たに開始した、
トータル1370名の患者で、
1年の治療の経過後に、
認知機能が明確に低下した事例と、
それに影響を与えた因子を解析しています。

認知機能の低下は、
MMSEという認知症の臨床指標がが3点以上、
もしくはCDRという指標が1点以上、
それぞれ低下したことで判定しています。

その結果、
対象者のうち854名は認知機能の明確な低下はなく、
516名は治療後1年で認知機能が明確に低下していました。

そして、
関連する他の因子を補正した結果、
認知機能低下群では体格の指標であるBMIが有意に低く、
抗精神病薬の使用は認知機能低下群で有意に高くなっていました。
またベンゾジアゼピンの使用も、
有意ではないものの認知機能低下群で高い傾向がありました。

今回のデータはまだ確定的なものではありませんが、
認知症で治療を施行している場合には、
抗精神病薬やベンゾジアゼピン系の薬剤の使用は、
より慎重な対応が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「Chime」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
chime.jpg
黒沢清監督が、
配信買取という特殊なフォーマットで製作した新作中編映画が、
今映画館で公開されています。

黒沢清監督は勿論大好きで、
この間のフランス版「蛇の道」も、
とても良かったのですが、
今回の映画は個人的には微妙でした。

「CURE」から、
催眠術というファンタジー的な趣向や、
事件の捜査という物語的な部分、
主人公の刑事の夫婦のドラマ要素などを、
全部削ぎ取って、
単純に不条理に人が殺される場面のみを、
繋ぎ合わせたような作品で、
技巧的にはさすが黒沢監督というカットの連続なので、
見応えはあるのですが、
あまりに殺伐として救いのない場面が連続するので、
息が抜けずにしんどい映画ではありました。

「CURE」のことも考えると、
多分主人公は妻と子供を既に殺しているんですよね。
それを隠して普段通りの生活を続けているのですが、
それが次第に破綻してゆく、
というストーリーのように理解しました。
主人公は最初から怪物で、
あの家は「悪魔のいけにえ」の一軒家と同じなのです。
ただ、そうではないと言われれば、
そうでもないようにも思えるので、
無理押しするつもりはありません。

個人的には、
職業柄なのかも知れませんが、
こういう怖さを娯楽として楽しむ、
という気分にはなれないのですね。
精神的にお辛い立場にある人の話は、
良く聞く機会があるので、
それがいきなり即物的に殺人に結び付くような感じの流れは、
あまり良くないもののように感じました。

実際に宇宙人がチャイムを鳴らしていたり、
催眠術で人に殺人をさせる能力のある怪人がいる、
というような虚構を持ってきた方が、
こういうお話では無理がないのではないかしら。
そうした逃げ道をなくしてしまうと、
「精神疾患=怖い」という図式が成立しかねないので、
「ちょっとまずいなあ」と思いながら観ていました。

黒沢監督の「怖い映画」への拘りは、
とても好きですし尊敬もしているので、
こういう方向にはあまり行って欲しくないな、
というのが鑑賞後の正直な気持ちでした。

次回作にまた期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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アルコール性肝障害に与える食事の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコール性肝障害と食事の影響.jpg
Nature Cmmunications誌に、
2024年8月1日付で掲載された、
アルコール関連肝疾患と食事との関連についての論文です。

飲酒の習慣による肝臓の病気を、
総称してアルコール関連肝疾患と呼んでいます。

多量の飲酒を続けることにより、
アルコール性脂肪肝やアルコール性肝炎が生じ、
それが進行することで肝硬変になったり、
肝臓癌の原因となり、
命に関わることがあります。

概ね1日60グラム(日本酒3合目安)以上のアルコールを、
5年以上常用することで,
そうした肝障害のリスクが高まると想定されています。

しかし、同じように多量の飲酒を続けていても、
そのうち重症のアルコール性肝炎や肝硬変になる人は、
全体の10から20%と報告されています。

つまり、アルコール性肝障害が重症化するかどうかは、
必ずしも飲酒量のみで決まっている訳ではないのです。

それでは、他にどのような因子が、
そのリスクに影響をしているのでしょうか?

上記論文の著者らが注目したのは食事の影響です。

食事が肝障害と関連していることは、
多くの研究により確認されています。

個々の病気との関連も調べられており、
特に重症のアルコール関連肝疾患と、
関連の深いものを一覧としたものがこちらです。
アルコール性肝障害のリスクを高める食品.jpg
これによると、
塩分が多いことや加工肉(ソーセージなど)や牛肉を多く摂ることが、
特にアルコール性肝疾患のリスクとなっていることが分かります。

そこで今回の研究では、
遺伝情報を含めた大規模な医療情報を収集している、
UKバイオバンクのデータを活用して、
特別な肝臓病などを持たない、
トータル303269名の医療データを解析し。
食事のパターンと飲酒量が、
中間値で10.7年の観察期間において、
入院や死亡に至るような、
重症のアルコール関連肝疾患に、
進行するリスクを検証しています。

その結果、
アルコール量の多いことや食事パターンは、
それぞれ重症のアルコール関連肝疾患のリスクを高めましたが、
アルコール量が多くて食事パターンが悪い人は、
両者のリスクを足し合わせたよりも、
2.44倍(95%CI:1.06から3.83)
有意にそのリスクが高くなっていました。

つまり、飲酒量が多く塩辛いものや加工肉を沢山食べる人は、
アルコール関連肝疾患が重症化するリスクが、
アルコール単独よりも高くなるので、
より注意が必要である、という結果です。

これでアルコール性肝障害の悪化の、
全てが説明可能という訳ではありませんが、
飲酒はその量ばかりでなく、
一緒に何を食べているのか、
という点も重要であるという指摘は興味深く、
今後の検証の積み重ねに期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ドライフルーツと2型糖尿病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ドライフルーツと糖尿病リスク.jpg
Nutrition & Metabolism誌に、
2024年7月10日付で掲載された、
ドライフルーツの健康効果についての論文です。

ドライフルーツは果物を乾燥させたもので、
繊維質やミネラルなどの栄養素が濃縮され、
効率的に栄養を摂ることが出来ると共に、
一部の栄養素は生の果物より強化されている、
という報告も見られます。

果物自体の健康効果も確認されていますから、
ドライフルーツはより簡単に果物の健康効果を享受出来る食品、
という言い方も可能です。

ただ、果糖などの甘味成分も濃縮されているため、
糖尿病のリスクを高めるのではないか、
という見解も一部に根強くあります。

果物自体も適度に摂ることでは問題ないものの、
食べ過ぎは糖尿病や肥満のリスクを高める、
という意見もあります。

しかし、たとえば2020年のBMC Medicine誌の論文では、
果物を沢山摂るほど、
腸内細菌叢の多様性が増し、
結果として糖尿病の予防効果が認められた、
というデータが報告されています。
https://bmcmedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12916-020-01842-0

つまり、糖質やカロリーは決して少なくなくても、
果物を多く摂ることで代謝の悪化には結びつかない、
という意見もあるのです。

それではドライフルーツの摂取と糖尿病との関連はどうなのでしょうか?

今回の研究ではドライフルーツの摂取と関連する、
遺伝子多型の解析を利用して、
メンデル遺伝子解析という手法を用いて、
ドライフルーツの摂取と糖尿病リスクとの関連を検証しています。

逆分散加重法という手法を用いて解析したところ、
ドライフルーツの摂取が1日1.275単位増加する毎に、
2型糖尿病の発症リスクが60.8%(95%CI:0.241から0.636)、
有意に低下していることが確認されました。

これは生活習慣を遺伝子多型で推測するという、
ちょっと特殊な解析法なので、
これだけでドライフルーツに糖尿病予防効果がある、
とは言い切れませんが、
これまでのデータの蓄積から考えて、
果物やドライフルーツの摂取は、
糖尿病のリスク低下に結び付く可能性が高いと、
そう考えても大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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