SSブログ

男性のHPV感染が精子に与える影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
HPV感染と精子機能.jpg
Frontiers in Cellular and Infection Microbiology誌に、
2024年8月23日付で掲載された、
男性器へのウイルス感染が、
精子機能に与える影響についての論文です。

HPV(ヒトパピローマウイルス)は、
主に子宮頸癌の原因となるウイルスとして知られていますが、
男性においても性器周囲に感染し、
高リスク型と呼ばれるものは陰茎癌などの原因となり、
低リスク型と呼ばれるものは尖圭コンジローマと呼ばれる、
良性のいぼのような皮膚病炎の原因となることが分かっています。

そのため以前は女性のみに行われていた、
HPV予防ワクチンの接種が、
日本でも一部男性での公費接種が開始されています。

男性の精液などの分泌物には、
HPVのウイルスの遺伝子が検出されることがあります。
ただ、これが実際に精液へのウイルス感染を示すものなのか、
それとも性器に感染したウイルスが混入しただけのものなのか、
という点についてはまだ見解は一致していません。
仮に精子自体にHPVが感染すると考えると、
その感染が精子の機能に影響を与え、
男性不妊などの原因となることも想定されます。

実際にそうしたことがあるのでしょうか?

今回の研究ではアルゼンチンにおいて、
泌尿器科のクリニックを受診した205名の患者の精液のサンプルを解析し、
HPV感染の有無とその精子機能への影響を比較検証しています。

その結果、
HPVの遺伝子は検体の19%に当たる39例で陽性となり、
最も多かったのは高リスク型と呼ばれる16型でした。
HPV陽性の精子は陰性精子と比較して、
トータルではその機能に差はありませんでした。

しかし高リスク型HPVのみで解析すると、
感染のないコントロールと比較して、
精子機能に影響を与える因子である、
精子の壊死率とROS(活性酸素種)陽性率が、
有意に高くなっていました。

ただ、ウイルス遺伝子陽性の精子で、
炎症所見は認められず、
高リスク型と低リスク型を問わず、
ウイルス遺伝子陽性の精子は、
陰性の精子と比較して、
白血球数や炎症性サイトカインの数値は低下が認められました。

つまり、
「HPV感染によって精子機能が低下する!」
と言われると非常に衝撃的なのですが、
実際には高リスク型ウイルスの感染で、
若干の精子機能低下の疑いはあったものの、
それほど明確なものではなく、
炎症マーカーが増加していればその説明はし易いのですが、
実際にはマーカーは感染群で低下していた、
という相反する結果だったのです。

この問題はまだまだ今後の検証が必要ですが、
現時点でHPV感染によって精子機能が低下する、
という根拠はまだ明確なものはないと、
そう考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

「憐れみの3章」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
憐れみの3章.jpg
「哀れなるものたち」のヨルゴス・ランティモス監督の新作で、
前作とほぼ同じメインキャストが顔を揃え、
今回は1本50分ほどの3本のオムニバス映画の趣向です。

観る前はブニュエルやフェリーニの感じを想定していたのですが、
観てみると、
石井輝夫監督の「徳川女刑罰史」みたいな作品でした。

映画は米英の合作ですが、
監督はギリシャ系でヨーロッパの雰囲気が濃厚です。

それもかなり退廃的で病んでいる感じ。
最近のヨーロッパの映画はこうした感じのものが多いですね。
ヨーロッパの知識人たちが、
世界の滅亡と退廃とを強く意識している感じが、
現れているという気がします。

3話のオムニバスで、
1話目は大金持ちから自分の身を犠牲にして、
自動車事故を起こし、相手を殺せと命じられる話。
2話目は妻が偽者と思い込んだ警官が、
残酷な責め苦を与える話。
3話目はカルト宗教の信者の女が、
死者を蘇らせる能力を持つ救世主の女性を探す話。

どれも一筋縄ではいかない、
異常で残酷でエログロ趣味全開の物語で、
それを同じキャストが別々の役柄で演じ分け、
最後には各話が結び付くオチが用意されています。

165分とかなり長尺ですが、
それを感じさせないジェットコースター的な面白さがあり、
何だこの悪趣味で酷い話は、と思いながらも、
あれよあれよと、
最後まで観てしまうという感じがあります。

絶対に今の日本では作れない感じの作品で、
「この映画が好きです」と言うこと自体、
かなり勇気のいる感じの映画です。

個人的にはこうしたものは嫌いではないのですが、
かと言って、褒めるという気分にはなりません。

従って、観るとしても密かに観るというタイプの映画で、
くれぐれも友人や恋人との鑑賞は、
慎重に考えて頂く必要があると思います。

怪作です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

「Cloud クラウド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
クラウド.jpg
菅田将暉さんを初めとして豪華キャストが共演した、
黒沢清監督の新作映画が、
今ロードショー公開されています。

黒沢監督は大好きなので、
これは見逃せないと初日に映画館に足を運びました。

これはキャストが豪華なので幻惑される感じがありますが、
基本的にはかなり短期間であまり準備なく撮られた、
「低予算映画」だと思うのですね。

黒沢監督は以前、
Vシネマを量産されていた時期があり、
今年フランス版リメイクが公開された「蛇の道」も、
その遺産のリクリエーションですが、
今回の映画も、
後半のチープな銃撃戦が象徴しているように、
Vシネテイストの作品です。

菅田さん演じる主人公の、
他人と距離を取り、コミュニケーションを最小限にする生活パターン、
そして独特の無為な感じと、
転売をしてそれが高値で売れた時に、
画面を見る視線に潜むある種の恍惚感のようなもの、
そこに現代の1つの生き方を反映させている点が、
今回の作品のポイントで、
暴力のような直接的な悪事には手を染めていないのに、
周囲の人間からの悪意や反感を買い、
それが後半の暴力の連鎖劇に繋がる、
という趣向はなかなか面白いと思います。

ただ、前半の重厚さと比較して、
後半の銃撃戦はリアリティのないチープさで展開されるので、
銃を後ろ手に持って抱き合う、
というような如何にもの演出と併せて、
後半には脱力を感じたのも事実です。

黒沢監督は銃撃戦への拘りを、
過去のインタビューなどでも話されていましたから、
今回はその拘りが結実した、
という感じであるのだと思うのですが、
銃を使用しないもっと生々しい暴力の肌触りの方が、
今回の作品には合っていたように感じました。

そんな訳で黒沢監督のファンであれば、
まずまず楽しめる作品である一方、
「普通のサスペンス」を期待されて鑑賞された方には、
戸惑いを感じさせる作品であることは確かで、
これから鑑賞予定の方は、
その点を確認の上選択されることをお勧めします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

体脂肪と慢性疼痛との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療と産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
慢性疼痛と内臓脂肪との関連.jpg
BMJ系列のRegional Anesthesia & Pain Medicine誌に、
2024年9月10日付で掲載された、
身体の脂肪が痛みに与える影響についての論文です。

腰痛や膝の痛みなどの慢性の身体の痛みは、
体脂肪の量と関連のあることが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30021590/
肥満があるとその体重の負荷で、
腰や膝に負担の掛かることは想定出来ますから、
これは体重増加の影響と考えることは出来ます。

ただ、体重にはあまり関連のなさそうな部位の痛みも、
体脂肪量と関連があるとする報告もあるので、
単純に体重の影響とは言い切れません。

また体脂肪には内臓脂肪と皮下脂肪とがあり、
たとえば動脈硬化や糖尿病などのリスクは、
皮下脂肪より内臓脂肪の影響をより受ける、
という報告もあります。

それでは、内臓脂肪と皮下脂肪が慢性疼痛に与える影響には、
何か違いがあるのでしょうか?

これまで、あまりそうした事項を検証したデータはありませんでした。

そこで今回の研究では、
大規模な遺伝情報を含む医療データとして有名な、
イギリスのUKバイオバンクのデータを活用して、
腹部MRI検査で計測した、
腹部の皮下脂肪量と内臓脂肪量と、
慢性疼痛との関連を比較検証しています。

その結果、
男女とも内臓脂肪、皮下脂肪、
皮下脂肪に対する内臓脂肪の比率と、
身体での疼痛部位との間には、
有意な関連が認められました。

女性においては、
内臓脂肪量が1標準偏差増える毎に、
2.04倍(95%CI:1.85から2.26)、
皮下脂肪量が1標準偏差増える毎に、
1.60倍(95%CI:1.50から1.70)、
皮下脂肪に対する内臓脂肪の比率が1標準偏差増える毎に、
1.60倍(95%CI:1.37から1.87)、
疼痛部位の数がそれぞれ有意に増加していました。

同様に男性においては、
内臓脂肪量が1標準偏差増える毎に、
1.34倍(95%CI:1.26から1.42)、
皮下脂肪量が1標準偏差増える毎に、
1.39倍(95%CI:1.29から1.49)、
皮下脂肪に対する内臓脂肪の比率が1標準偏差増える毎に、
1.13倍(95%CI:1.07から1.20)、
疼痛部位の数が有意に増加していました。

つまり、内臓脂肪量も皮下脂肪量も、
いずれも多いほど慢性疼痛が悪化していて、
特に女性でその傾向が強かった、
という結果です。

それでは、
何故体脂肪と慢性疼痛との間に、
こうした関連があるのでしょうか?

上記文献の記載では、
脂肪細胞由来のサイトカインなどの炎症性物質が、
慢性疼痛の誘因となっており、
それが女性ホルモンの影響を受けることなどが、
仮説として提唱されています。

ただ、それはまだ仮説に過ぎませんし、
今回のデータは痛みの重症度ではなく、
痛みの場所の数が指標となっている点には注意が必要ですが、
痛みと脂肪が関連しているという知見は非常に興味深く、
今後より実証的な検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

インフルエンザワクチンの急性腎障害予防効果(2024年韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
インフルエンザワクチンの急性腎障害予防効果.jpg
Pharmacoepidemiology and Drug Safety誌に、
2024年9月付で掲載された、
季節性インフルエンザワクチンの接種が、
その後の高齢者の腎臓病に与える影響についての論文です。

脱水や感染、心疾患などに起因して起こる、
急性の腎機能の低下は、
特に高齢者においてその頻度が高く、
予後にも大きな影響を与える病態です。

これからインフルエンザの流行期に入り、
ワクチン接種も開始されますが、
インフルエンザ感染も、
急性腎障害のリスクの1つです。

インフルエンザ感染の予防のためには、
インフルエンザワクチンの接種が推奨されていますが、
その一方でインフルエンザワクチン接種後に、
急性腎障害が発症したという報告も散見されます。

実際に65歳以上の高齢者にインフルエンザワクチンを接種することで、
急性腎障害のリスクは増加するのでしょうか、
それとも減少するのでしょうか?

今回の研究は65歳以上の高齢者に対して、
無料のインフルエンザワクチン接種が継続され、
毎年80%を超える接種率が報告されている韓国において、
この問題の検証を行ったものです。

2018年から2019年のシーズンにおいて16713件、
2019年から2020年のシーズンにおいて16272件の、
急性腎障害の事例を解析したところ、
インフルエンザワクチン接種後1から28日の間に、
急性腎障害が発症するリスクは、
それ以外の観察期間と比較して、
2018年から2019年において17%(95%CI:0.79から0.87)、
2019年から2020年において14%(95%CI:0.82から0.90)、
それぞれ有意に低下していました。

このように、今回の検証においては、
インフルエンザワクチン接種は、
その後の急性腎障害の発症に対して、
予防的に働いている可能性が高く、
今後そのメカニズムの検証を含めて、
更なるデータの蓄積に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

「侍タイムスリッパー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
侍タイムスリッパー.jpg
インディーズ映画の単館上映で人気が高まり、
今拡大公開中の話題の映画です。

幕末の会津藩の武士が、
タイムスリップして現代の京都の映画撮影所に入り、
そこで斬られ役として活躍するというお話です。

「カメラを止めるな」みたいな奇想を期待すると、
そうしたものではなくて、
オーソドックスな人情噺的な世界が展開されます。

ストーリーラインはハリウッド映画的で、
ちょっとスピルバーグみたいな感じです。
各場面のきちっとオチを付けるところとか、
現代に「侍」という異物を化学反応させ、
うねるように山場を作ってゆくところ。
クライマックスを明確にして、
そこに観客の意識を集中させる工夫など、
日本の娯楽映画の作りとは、
一線を画すという感じがします。

正直演出や登場する俳優の技量は、
かなり稚拙でプロの映画とは言い難いレベルなので、
普通の日本映画のように捉えてしまいがちなのですが、
どうしてどうして、
構成は非常に緻密でダイナミズムがあり、
堂々たるハリウッド大作のレベルなのです。

その点と主役を演じた山口馬木也さんの切実さ、
滅びゆく時代劇というものへの哀歌のようなものが、
この作品をヒットさせた要因であるように思います。

個人的にはあまりに長過ぎるという感じがしますし、
演技を含めた技術レベルの低さは、
ちょっと劇場用映画としては、
容認し難いという気持ちがあります。
ただ、ラストの殺陣は、
あまり前例のない迫力のある名場面で、
このシーンがあるだけで、
この映画の価値はあった、
という気分にはさせられました。

とてもハリウッド映画的、スピルバーグ映画的な作品なので、
意外にリメイクのオファーがあるかも知れませんね。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

「あの人が消えた 」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
あの人が消えた.jpg
テレビ畑の水野格監督による、
オリジナルのミステリー映画で、
「あなたの番です」風の設定でありながら、
二重三重に仕掛けのあるストーリーが展開します。

こういうものは大好物なので、
余計な情報が入る前にと、
公開初日に映画館に足を運びました。

感想は…

うーん、ちょっと微妙な感じでした。

以下明確なネタバレはありませんが、
内容に少し踏み込むところはありますので、
鑑賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読みください。

よろしいでしょうか?

それでは続けます。

これはそこそこ楽しんで観ることの出来る作品に、
仕上がっているのですが、
過去の有名などんでん返し映画の名作の趣向を、
かなり露骨にパクッているんですね。

それは主に2つの作品(映画)なのですが、
仕掛け自体と言うよりも、
その仕掛けが分かる瞬間の演出を、
ほぼそのままという感じで再現しているのです。

これはちょっとまずいですよね。

監督は「ブラッシュアップライフ」の演出で有名になった方ですが、
あの作品は脚本はバカリズムさんで、
過去作に影響されたような部分はあるものの、
基本的には作者のオリジナルな世界を紡いでいますよね。
タイムリープ的設定はありきたりのものですが、
それを活かす手法にオリジナリティがありますよね。

でも、今回の水野監督の脚本は、
ストーリーはオリジナルではあっても、
後半のポイントとなる部分の演出は、
ほぼその通りに過去作をなぞっているのです。

これがまずいと思うのは、
元になった過去作を観ていない人が、
この映画を観て衝撃を受けた場合に、
その後にオリジナルの作品を観ても、
もう初見の時の衝撃を受けることが出来ないでしょ。

これは絶対にやってはいけない掟破りのように、
個人的には思いました。

「あなたの番です」的に田中圭さんを出したり、
007シリーズ風の世界が挿入されたりするのは、
これはもうパロディとして成立しているので、
悪くないと思いますし、
他の映画の小ネタ的なものも、
悪くないと思うのですが、
どんでん返しの演出自体をそのまま再現するというのは、
小説であれば密室トリックをそのままパクる、
というのとほぼ同じことではないでしょうか?
監督はセンスと才能のある方だと思うので、
今後は是非再考して頂きたいな、と思いました。

そんな訳でちょっとモヤモヤする映画だったのですが、
こうしたオリジナルのどんでん返し映画は、
大好きであることは間違いがないので、
真の意味でオリジナルのどんでん返し映画を、
監督には是非期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

上部消化管病変とパーキンソン病との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
パーキンソン病と胃粘膜.jpg
JAMA Network Open誌に、
2024年9月5日付で掲載された、
パーキンソン病と上部消化管病変との関連についての論文です。

パーキンソン病は、
筋肉の硬直や手の震え、歩行困難などを症状とする難病で、
その原因は脳の黒質という部分における、
ドーパミンという神経伝達物質の欠乏によることが分かっています。

このドーパミンの欠乏は、
αシヌクレインという異常タンパク質が、
神経細胞に蓄積することにより起こります。
このαシヌクレインの異常構造物がレビー小体と呼ばれるもので、
認知症の1つであるレビー小体型認知症は、
同一の原因による病気なのです。

このαシヌクレインは、
胃や腸の粘膜に分布する神経叢にも出現しています。

近年胃や腸の神経叢に出現するαシヌクレインが、
自律神経の迷走神経を介して脳に伝わり、
それが沈着することでパーキンソン病を起こすのではないか、
という仮説が提唱されて注目を集めています。

勿論以前から、
パーキンソン病では便秘や胃腸の運動の低下など、
胃腸症状が伴うことが知られていました。

それは脳の病気に付随する症状と考えられていたのですが、
実は脳神経症状が出現する前から、
胃腸粘膜に分布する神経細胞へのαシヌクレインの沈着は認められていて、
それこそがパーキンソン病の大元で、
脳の症状は胃腸から自律神経を介して広がったものではないか、
という逆転の発想です。

ただ、たとえばパーキンソン病ではピロリ菌の感染が多い、
というような知見はあるものの、
実際に胃粘膜などの病変が、
その後のパーキンソン病の発症と関連しているのか、
というような点については、
まだ臨床的なデータは限られています。

そこで今回の研究ではアメリカにおいて、
検査の時点でパーキンソン病の既往のない、
9350例の胃内視鏡検査の受診者のデータを後から解析する手法で、
内視鏡検査で確認された胃炎などの粘膜障害と、
その後のパーキンソン病の発症との関連を比較検証しています。

その結果、
平均で14.9年の観察期間において、
上部消化管の粘膜障害が認められた人は、
そうでない人と比較して、
その後にパーキンソン病を発症するリスクが、
関連する他の因子を補正した上で、
1.76倍(95%CI:1.11から2.51)
有意に増加していました。

つまり、胃や十二指腸の粘膜病変が、
何らかの機序で粘膜に分布する神経細胞に、
異常タンパクの蓄積を招き、
それが迷走神経などの自律神経を介して、
パーキンソン病の原因となったのではないか、
という仮説を補強するデータです。

この結果はまだ推測的なものに過ぎませんが、
胃や腸の粘膜の状態とパーキンソン病が関連している、
という臨床データは非常に興味深く、
今後のより実証的な検証に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0) 

高齢者の疼痛への抗うつ剤の有効性(2024年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高齢者の痛みに対する抗うつ剤の効果.jpg
British Journal of Clinical Pharmacology誌に、
2024年9月12日付で掲載された、
高齢者の痛みに対する抗うつ剤の有効性を検証した論文です。

腰痛や関節痛、頭痛などの身体の痛みは、
誰でも体験する非常にありふれたものですが、
日常生活に直結する深刻な症状でもあります。

特に慢性の原因不明の痛みに対しては、
痛み止めを使用する以外にあまり有効な手立てがありません。

こうした難治性の痛みに対して、
現行使用される薬の1つが抗うつ剤です。

抗うつ剤はうつ病の治療薬で、
疼痛治療薬ではありませんが、
慢性の原因不明の疼痛は、
脳内ホルモンなどが関連しているという仮説があり、
通常の消炎鎮痛剤よりも、
抗うつ剤がその緩和に有効であった、
という症例報告などがあります。

そうした知見を基にして、
抗うつ剤の処方が施行されているのですが、
大規模な臨床試験などのデータは乏しく、
その精度もそれほど高いものではない、
という問題点があります。

特に高齢者においては、
慢性疼痛の患者さんは多い一方で、
抗うつ剤の副作用や有害事象も多く発症することが予想され、
抗うつ剤の有効性を検証した臨床データの中に、
高齢者のものはより少ない、
という指摘があります。

そこで今回の研究では、
これまでの主だった臨床データをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析という手法を用いて、
この問題の現時点での検証を行っています。

これまでの15の臨床研究に含まれる、
トータルで1369名の65歳以上の患者データをまとめて解析したところ、
最も多く検討されていた抗うつ剤は、
デュロキセチンとアミトリプチリンで、
対象となった痛みで多かったのは変形性膝関節症による膝の痛みでした。
臨床データの多くは対象者が100人未満という小規模なものでした
0から2週間という短期の投与では、
抗うつ薬の使用は痛みに対して有意な改善を示さず、
6週間から1年未満という中期間の使用において、
デュロキセチンのみが僅かながら有意な改善効果を示しました、
15件の研究中7件において、
対照群と比較して抗うつ剤使用群では、
有害事象などによって薬が継続困難な事例が多くなっていました。

このように、
65歳以上の高齢者においては、
抗うつ剤による慢性疼痛の改善効果は、
明確に実証されているとは言い難く、
今後より実証的な検証が必要と考えられました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

肺線維症と肺癌との関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
肺線維症と肺癌との関係性.jpg
Thorax誌に2024年9月10日付で掲載された、
肺線維症と肺癌との関係性についての論文です。

特発性間質性肺炎(特発性肺線維症)は、
肺の間質と呼ばれる部分が肥厚し、
次第に線維に置き換わって、
肺炎などの急性増悪を繰り返しながら、
悪化してゆく原因不明の病気で、
ある種の体質を持つ人が、
加齢や感染症、喫煙などの誘発因子の影響で、
発症すると考えられていますが、
その原因の詳細はまだ不明です。

特発性肺線維症の患者さんで肺癌のリスクが高い、
という知見はこれまでにも報告があります。

ただ、実際に肺線維症と合併した肺癌には、
どのようなタイプのものが多く、
その予後にはどのような特徴があるのか、
というような具体的な事項については、
まだあまり明確なことが分かっていません。

そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
肺癌スクリーニングのデータを活用。
25136名の肺癌患者と250583名のコントロール群を対象として、
肺線維症と肺癌との関連を検証しています。

その結果、
肺線維症のない場合の肺癌診断率は0.8%であったのに対して、
肺線維症の患者さんでの肺癌診断率は1.5%と高く、
肺線維症は肺癌と診断されるリスクを、
1.97倍(95%CI:1.77から2.21)有意に増加させていました。

肺線維症と併発した肺癌では、
そうでない場合と比較して扁平上皮癌が多く(22.9%対19.1%)、
肺腺癌は少なく(18.0%対21.3%)なっていました。

肺線維症に合併した肺癌は、
進行したステージ4で発見される頻度は低い一方で、
その生命予後は悪いという傾向が認められました。

このように、
肺線維症では肺癌が合併し易いのですが、
その組織型や予後は通常とは異なる場合もあり、
今後その原因を含めて、
更なる検証が必要であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0)