「蛇の道」(フランス版セルフリメイク) [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
黒沢清監督が1998年にビデオムービーとして作った作品を、
フランスを舞台とした、
セルフリメイクの新作映画としてリクリエーションし、
日本とフランスなどの合作として製作された映画が、
今ロードショー公開されています。
黒沢清監督は大ファンで、
関連するインタビュー本なども全て持っているので、
これは絶対観なければと思い公開早々に鑑賞しました。
監督の作品は、
一般受けはあまりしないことが多く、
あっと言う間に公開が終了してしまうことが多いからです。
殺された娘の復讐を誓う男に、
謎の人物が協力して、
犯人の疑いのある男を監禁して拷問するのですが、
監禁された男は、
別の人物を真犯人として告発するので、
その告発の連鎖の中で、
事件の真相は次第にあやふやになり、
復讐を誓う男と協力者との関係も、
変貌して迷宮のような世界に誘われます。
オリジナルは謎の協力者を、
数学者で塾教師の男に設定して、
哀川翔さんが演じたのですが、
今回のリメイク版ではフランスに舞台を移し、
復讐を誓う男をフランス人の男性が演じる一方、
協力者は柴咲コウさん演じる、
フランス在住の心療内科医に変更しています。
そのため全体の構成はほぼ同じであるものの、
ラストは全く新しいものになっています。
オリジナルは哀川翔さんが、
謎めいた、別世界から現れたような人物で、
その正体は最後まで明確に明かされることはなく、
最後は観客も別世界に誘われるような感じがあるのですが、
今回のリメイク版では、
柴咲さんの意図はもう少し明確になっていて、
「CURE」の催眠術師に近いニュアンスがあり、
ラストもより明確なものになっています。
これはオリジナル版も面白いし、
今回のリメイク版も、
黒沢清監督のファンにはたまらない、
傑作の1つになっていたと思います。
オリジナルはね、
北野武映画の影響が大きいと思うのですね。
哀川翔さんの役を、
北野武さんがやればピタリと来る、という感じなんですね。
暴力の連鎖の感じも、
ちょっと歪んだ間抜けなキャラの感じも、
北野映画の匂いがプンプンとする感じです。
ただ、脚本の高橋洋さんが、
「怪奇大作戦」や「悪魔くん」、「妖怪人間ベム」などで育った、
怪奇大好きな人なので、
仕込み杖の女殺し屋など、
怪奇に寄せたキャラが登場すると共に、
大和屋竺さんのトリッキーな脚本による、
ルパン3世ファーストシーズンや、
鈴木清順監督の「殺しの烙印」、
若松孝二監督の「処女ゲバゲバ」みたいな世界も、
同時に展開されるのが魅力です。
今回のリメイクは、
柴咲コウさんが患者を操る感じなどに、
「CURE」のテイストがありながら、
大和屋竺風の怪奇味のあるトリッキーな残酷劇の雰囲気、
1970年代モノクロ映画の感じも、
濃厚に漂っていて、
僕は最初から、いいな、いいな、という感じで観ていて、
最後のモニターの中で青木崇高さんが凍り付くカットまで、
これでなくちゃ、という感じで堪能することが出来ました。
大好きです。
ただ、一般の映画ファンの方が観て、
皆さんが面白いと感じるような作品ではなく、
ヒッチコック映画と同じく、
これはその1つ1つのカットの技巧を、
藝術品として楽しむようなタイプの映画なので、
是非その点は理解の上で鑑賞して頂きたいと思います。
たとえば、街中の廃墟みたいな場所で、
監禁することが不自然、というような意見があるのですね。
それは普通に考えれば勿論そうなのですが、
そういうリアルな表現を一旦排除したところに、
この映画のビジュアルは成立しているんですね。
それは「処女ゲバゲバ」で密室での拷問劇を、
敢えて荒野で表現する、というのと同じなんですね。
黒沢清監督は、
その書かれたものやインタビュー記事などを読めば、
物凄くロジカルに、
1つ1つのカットを考える人なんですね。
好い加減に撮られたカットは1つたりともないのです。
なので一見、いい加減で辻褄の合わないように思えるシーンでも、
映画としてのロジックは緻密で一貫しているものなのです。
観ながらそれを確認して読み解くことが、
黒沢清作品の一番の醍醐味なのです。
今回の作品もその1つの完成形と言える傑作で、
是非大スクリーンで鑑賞出来る機会を、
お見逃しにならないようにして下さい。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
黒沢清監督が1998年にビデオムービーとして作った作品を、
フランスを舞台とした、
セルフリメイクの新作映画としてリクリエーションし、
日本とフランスなどの合作として製作された映画が、
今ロードショー公開されています。
黒沢清監督は大ファンで、
関連するインタビュー本なども全て持っているので、
これは絶対観なければと思い公開早々に鑑賞しました。
監督の作品は、
一般受けはあまりしないことが多く、
あっと言う間に公開が終了してしまうことが多いからです。
殺された娘の復讐を誓う男に、
謎の人物が協力して、
犯人の疑いのある男を監禁して拷問するのですが、
監禁された男は、
別の人物を真犯人として告発するので、
その告発の連鎖の中で、
事件の真相は次第にあやふやになり、
復讐を誓う男と協力者との関係も、
変貌して迷宮のような世界に誘われます。
オリジナルは謎の協力者を、
数学者で塾教師の男に設定して、
哀川翔さんが演じたのですが、
今回のリメイク版ではフランスに舞台を移し、
復讐を誓う男をフランス人の男性が演じる一方、
協力者は柴咲コウさん演じる、
フランス在住の心療内科医に変更しています。
そのため全体の構成はほぼ同じであるものの、
ラストは全く新しいものになっています。
オリジナルは哀川翔さんが、
謎めいた、別世界から現れたような人物で、
その正体は最後まで明確に明かされることはなく、
最後は観客も別世界に誘われるような感じがあるのですが、
今回のリメイク版では、
柴咲さんの意図はもう少し明確になっていて、
「CURE」の催眠術師に近いニュアンスがあり、
ラストもより明確なものになっています。
これはオリジナル版も面白いし、
今回のリメイク版も、
黒沢清監督のファンにはたまらない、
傑作の1つになっていたと思います。
オリジナルはね、
北野武映画の影響が大きいと思うのですね。
哀川翔さんの役を、
北野武さんがやればピタリと来る、という感じなんですね。
暴力の連鎖の感じも、
ちょっと歪んだ間抜けなキャラの感じも、
北野映画の匂いがプンプンとする感じです。
ただ、脚本の高橋洋さんが、
「怪奇大作戦」や「悪魔くん」、「妖怪人間ベム」などで育った、
怪奇大好きな人なので、
仕込み杖の女殺し屋など、
怪奇に寄せたキャラが登場すると共に、
大和屋竺さんのトリッキーな脚本による、
ルパン3世ファーストシーズンや、
鈴木清順監督の「殺しの烙印」、
若松孝二監督の「処女ゲバゲバ」みたいな世界も、
同時に展開されるのが魅力です。
今回のリメイクは、
柴咲コウさんが患者を操る感じなどに、
「CURE」のテイストがありながら、
大和屋竺風の怪奇味のあるトリッキーな残酷劇の雰囲気、
1970年代モノクロ映画の感じも、
濃厚に漂っていて、
僕は最初から、いいな、いいな、という感じで観ていて、
最後のモニターの中で青木崇高さんが凍り付くカットまで、
これでなくちゃ、という感じで堪能することが出来ました。
大好きです。
ただ、一般の映画ファンの方が観て、
皆さんが面白いと感じるような作品ではなく、
ヒッチコック映画と同じく、
これはその1つ1つのカットの技巧を、
藝術品として楽しむようなタイプの映画なので、
是非その点は理解の上で鑑賞して頂きたいと思います。
たとえば、街中の廃墟みたいな場所で、
監禁することが不自然、というような意見があるのですね。
それは普通に考えれば勿論そうなのですが、
そういうリアルな表現を一旦排除したところに、
この映画のビジュアルは成立しているんですね。
それは「処女ゲバゲバ」で密室での拷問劇を、
敢えて荒野で表現する、というのと同じなんですね。
黒沢清監督は、
その書かれたものやインタビュー記事などを読めば、
物凄くロジカルに、
1つ1つのカットを考える人なんですね。
好い加減に撮られたカットは1つたりともないのです。
なので一見、いい加減で辻褄の合わないように思えるシーンでも、
映画としてのロジックは緻密で一貫しているものなのです。
観ながらそれを確認して読み解くことが、
黒沢清作品の一番の醍醐味なのです。
今回の作品もその1つの完成形と言える傑作で、
是非大スクリーンで鑑賞出来る機会を、
お見逃しにならないようにして下さい。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
コーヒーは座位時間のリスクを減らせるか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMC Public Health誌に、
2024年ウェブ掲載された、
コーヒーの健康効果についての論文です。
コーヒーが健康に良い飲み物で、
1日3から4杯程度のコーヒーを飲む習慣が、
心血管疾患や糖尿病、肝臓病などのリスクを低下させ、
総死亡のリスクも低下させるという知見は、
これまでの多くの疫学データにおいて実証されている事実です。
一方で最近心血管疾患のリスクを高めるとして、
注目されているのが座位時間、
つまり1日のうちで座っている時間の長さです。
1日の座位時間が長いと、
仮にそれ以外の時間で運動をしていても、
心血管疾患のリスクは増加すると報告されています。
そうは言っても、
仕事の性質上、
1日の多くの時間座らざるを得ない、
ということもあります。
それでは座っている時間にコーヒーを飲むことで、
座位時間のリスクは減少するのでしょうか?
今回の研究では、
アメリカでの健康栄養調査のデータを解析することで、
この問題の検証を行っています。
10639名の一般住民を、
13年に渡り観察したデータを解析したところ、
1日の座位時間が8時間を超えていると、
4時間未満の場合と比較して、
総死亡のリスクが1.46倍(95%CI:1.17から1.81)、
心血管疾患で死亡するリスクが1.79倍(95%CI:1.21から2.66)、
ぞれぞれ有意に増加していました。
一方でコーヒーを、
1日540グラム(コーヒーカップ4杯弱)以上飲む習慣のある人は、
殆ど飲まない人と比較して、
総死亡のリスクが33%(95%CI:0.54から0.84)、
心血管疾患による死亡のリスクが54%(95%CI:0.30から0.69)、
それぞれ有意に低下していました。
ここでコーヒーを飲む習慣のある、
座位時間が1日6時間未満の人と比較して、
座位時間が6時間以上でコーヒーを飲まない人は、
総死亡のリスクが1.58倍(95%CI:1.25から1.99)と、
有意に増加していました。
やや分かり難い比較ですが、
コーヒーを飲んでいる人では、
座位時間が6時間を超えても、
総死亡リスクの有意な増加はない一方で、
コーヒーを飲まない人では、
座位時間による明確なリスク増加が認められていて、
このことからは、
コーヒーを飲むことで、
座位時間のリスクがある程度相殺されている、
というように判断出来るという見解です。
この結論自体はやや強引な気がしますが、
座位時間の長いことには生命予後への明確なリスクがあり、
その一方でコーヒーを飲むことは、
同じリスクを低下させる可能性がある、
という知見が改めて示されたことは、
コーヒーの健康効果を改めて確認させるもので、
コーヒーの健康効果は、
より強固になったものと考えて良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
産業医活動などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
BMC Public Health誌に、
2024年ウェブ掲載された、
コーヒーの健康効果についての論文です。
コーヒーが健康に良い飲み物で、
1日3から4杯程度のコーヒーを飲む習慣が、
心血管疾患や糖尿病、肝臓病などのリスクを低下させ、
総死亡のリスクも低下させるという知見は、
これまでの多くの疫学データにおいて実証されている事実です。
一方で最近心血管疾患のリスクを高めるとして、
注目されているのが座位時間、
つまり1日のうちで座っている時間の長さです。
1日の座位時間が長いと、
仮にそれ以外の時間で運動をしていても、
心血管疾患のリスクは増加すると報告されています。
そうは言っても、
仕事の性質上、
1日の多くの時間座らざるを得ない、
ということもあります。
それでは座っている時間にコーヒーを飲むことで、
座位時間のリスクは減少するのでしょうか?
今回の研究では、
アメリカでの健康栄養調査のデータを解析することで、
この問題の検証を行っています。
10639名の一般住民を、
13年に渡り観察したデータを解析したところ、
1日の座位時間が8時間を超えていると、
4時間未満の場合と比較して、
総死亡のリスクが1.46倍(95%CI:1.17から1.81)、
心血管疾患で死亡するリスクが1.79倍(95%CI:1.21から2.66)、
ぞれぞれ有意に増加していました。
一方でコーヒーを、
1日540グラム(コーヒーカップ4杯弱)以上飲む習慣のある人は、
殆ど飲まない人と比較して、
総死亡のリスクが33%(95%CI:0.54から0.84)、
心血管疾患による死亡のリスクが54%(95%CI:0.30から0.69)、
それぞれ有意に低下していました。
ここでコーヒーを飲む習慣のある、
座位時間が1日6時間未満の人と比較して、
座位時間が6時間以上でコーヒーを飲まない人は、
総死亡のリスクが1.58倍(95%CI:1.25から1.99)と、
有意に増加していました。
やや分かり難い比較ですが、
コーヒーを飲んでいる人では、
座位時間が6時間を超えても、
総死亡リスクの有意な増加はない一方で、
コーヒーを飲まない人では、
座位時間による明確なリスク増加が認められていて、
このことからは、
コーヒーを飲むことで、
座位時間のリスクがある程度相殺されている、
というように判断出来るという見解です。
この結論自体はやや強引な気がしますが、
座位時間の長いことには生命予後への明確なリスクがあり、
その一方でコーヒーを飲むことは、
同じリスクを低下させる可能性がある、
という知見が改めて示されたことは、
コーヒーの健康効果を改めて確認させるもので、
コーヒーの健康効果は、
より強固になったものと考えて良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
アルコールと血圧との関係(2024年デンマークの疫学データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the American Journal of Medicine誌に、
2024年5月14日付でウェブ掲載された、
アルコールと血圧との関連についての論文です。
飲酒と血圧との間にはどのような関係があるのでしょうか?
これまでの疫学データにおいて、
お酒の量が多いと、血圧も上昇する、
という関連が報告されています。
ただ、これはトータルな飲酒量のみで解析していることが多く、
個別のお酒の種類と血圧との関連については、
それほど明確なことが分かっていません。
たとえば、適量の赤ワインは健康に良い、
という見解は根強くあり、
血圧も低下したとするデータも発表されています。
実際のところはどうなのでしょうか?
今回の研究は、
デンマークの大規模な疫学研究のデータを活用したもので、
20から100歳の104467名の一般住民を対象として、
アルコールの種類と血圧との関連を検証しています。
アルコールの種類は、
赤ワイン、白ワイン、ビール、蒸留酒、デザートワインの5種に、
分類されています。
その結果、
週当たりに飲んだアルコールの単位数が多いほど、
収縮期血圧、拡張期血圧は共に上昇していました。
この場合の1単位はアルコール量12グラムに相当しています。
概ね日本酒半合くらいです。
週1から2単位しか飲まない場合と比較して、
週に35単位を超えて飲酒していると、
収縮期血圧は11mmHg、拡張期血圧は7mHgの増加が認められました。
このアルコールによる血圧の上昇は、
5種類のお酒の種類毎に、
明確な差はなく認められました。
つまり、飲酒量が多いほど血圧は上昇し、
アルコール量として同じであれば、
アルコールの種類は血圧の上昇に影響を与えない、
という結果です。
高血圧の患者さんでは、
その種類によらず節酒が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
the American Journal of Medicine誌に、
2024年5月14日付でウェブ掲載された、
アルコールと血圧との関連についての論文です。
飲酒と血圧との間にはどのような関係があるのでしょうか?
これまでの疫学データにおいて、
お酒の量が多いと、血圧も上昇する、
という関連が報告されています。
ただ、これはトータルな飲酒量のみで解析していることが多く、
個別のお酒の種類と血圧との関連については、
それほど明確なことが分かっていません。
たとえば、適量の赤ワインは健康に良い、
という見解は根強くあり、
血圧も低下したとするデータも発表されています。
実際のところはどうなのでしょうか?
今回の研究は、
デンマークの大規模な疫学研究のデータを活用したもので、
20から100歳の104467名の一般住民を対象として、
アルコールの種類と血圧との関連を検証しています。
アルコールの種類は、
赤ワイン、白ワイン、ビール、蒸留酒、デザートワインの5種に、
分類されています。
その結果、
週当たりに飲んだアルコールの単位数が多いほど、
収縮期血圧、拡張期血圧は共に上昇していました。
この場合の1単位はアルコール量12グラムに相当しています。
概ね日本酒半合くらいです。
週1から2単位しか飲まない場合と比較して、
週に35単位を超えて飲酒していると、
収縮期血圧は11mmHg、拡張期血圧は7mHgの増加が認められました。
このアルコールによる血圧の上昇は、
5種類のお酒の種類毎に、
明確な差はなく認められました。
つまり、飲酒量が多いほど血圧は上昇し、
アルコール量として同じであれば、
アルコールの種類は血圧の上昇に影響を与えない、
という結果です。
高血圧の患者さんでは、
その種類によらず節酒が必要であるようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
EPA製剤のスタチンへの上乗せ効果(2024年日本の臨床データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Circulation誌に2024年6月14日付で掲載された、
青身魚に多く含まれる脂肪酸の、
心血管疾患に対する有効性についての論文です。
EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分が不足していると、
心血管疾患のリスクが高まる、
という点はほぼ間違いのない事実です。
ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。
日本にはエパデール(及びそのジェネリック)というEPA製剤と、
ロトリガというEPAとDHAの合剤があり、
海外の多くの国とは違って、
処方箋薬として流通しているのが大きな特徴です。
国外ではEPAもDHAもほぼ全てサプリメントの扱いだからです。
エパデールについては、
2007年のLancet誌に掲載されたJELISという臨床試験があり、
コレステロール降下剤のスタチンに上乗せでEPAを使用したところ、
心血管疾患のリスクが低下し、
特にサブ解析では脳卒中のリスクが20%低下した、
という結果が得られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17398308/
ただ、その後の多くの同様の臨床試験では、
こうしたEPAの効果は確認されませんでした。
しかし、2019年にNew England…誌に掲載された論文では、
心血管疾患のリスクが高くスタチンを使用している患者に対して、
1日4グラムという高用量のEPA製剤を用いて、
心血管疾患による死亡などのリスクが25%、
有意に低下したという結果が報告されました。
偽薬を使用した厳密な方法による臨床試験で、
こうした結果が得られたのはかなり画期的なことでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415628/
その一方で、2020年のJAMA誌に掲載された、
EPAなどのオメガ3系脂肪酸を、
コーン油と比較したスタチンへの上乗せ試験では、
オメガ3系脂肪酸にコーン油を上回る有効性は確認されませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33190147/
このようにスタチンの上乗せでEPA製剤に有効性があるかどうかも、
まだ一致した結論には到っていないのです。
今回の研究は日本の複数施設において、
虚血性心疾患で治療中でスタチンを使用しており、
更に血液の脂肪酸組成で、
動脈硬化を進行させる可能性が高いアラキドン酸に対して、
EPAが比較的低値(EPA/AA比が0.4未満)の、
トータル2506例の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はエパデールなどの純度の高いEPA製剤を1日1800㎎使用し、
もう一方は使用しないという条件で、
中央値で5年の経過観察を施行しています。
主要な判定項目である、
心血管疾患による死亡と、
心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、カテーテル治療を併せたリスクは、
EPA上乗せ群では9.1%、未使用群では12.6%に発症していて、
EPAの使用で低下する傾向は見られたものの、
統計的に有意ではありませんでした。
ただ、個別のリスクの解析では、
心臓突然死と急性心筋梗塞、不安定狭心症、カテーテル治療を併せたリスクが、
EPA使用群で未使用群と比較して、
27%(95%CI:0.55から0.97)有意に低下していました。
今回の検証は血液のEPAが相対的に低め目の、
心血管疾患のリスクの高い患者に対して、
スタチンに上乗せでEPA製剤を使用することで、
若干の冠動脈疾患の予防効果が認められる可能性がある、
というもので、
明確なEPA製剤の有効性としては、
少し弱い感じがしますが、
ポジティブなデータであることは間違いがなく、
今後もこのEPA製剤の有効性については、
議論が続くこととなりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Circulation誌に2024年6月14日付で掲載された、
青身魚に多く含まれる脂肪酸の、
心血管疾患に対する有効性についての論文です。
EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分が不足していると、
心血管疾患のリスクが高まる、
という点はほぼ間違いのない事実です。
ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。
日本にはエパデール(及びそのジェネリック)というEPA製剤と、
ロトリガというEPAとDHAの合剤があり、
海外の多くの国とは違って、
処方箋薬として流通しているのが大きな特徴です。
国外ではEPAもDHAもほぼ全てサプリメントの扱いだからです。
エパデールについては、
2007年のLancet誌に掲載されたJELISという臨床試験があり、
コレステロール降下剤のスタチンに上乗せでEPAを使用したところ、
心血管疾患のリスクが低下し、
特にサブ解析では脳卒中のリスクが20%低下した、
という結果が得られています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17398308/
ただ、その後の多くの同様の臨床試験では、
こうしたEPAの効果は確認されませんでした。
しかし、2019年にNew England…誌に掲載された論文では、
心血管疾患のリスクが高くスタチンを使用している患者に対して、
1日4グラムという高用量のEPA製剤を用いて、
心血管疾患による死亡などのリスクが25%、
有意に低下したという結果が報告されました。
偽薬を使用した厳密な方法による臨床試験で、
こうした結果が得られたのはかなり画期的なことでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415628/
その一方で、2020年のJAMA誌に掲載された、
EPAなどのオメガ3系脂肪酸を、
コーン油と比較したスタチンへの上乗せ試験では、
オメガ3系脂肪酸にコーン油を上回る有効性は確認されませんでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33190147/
このようにスタチンの上乗せでEPA製剤に有効性があるかどうかも、
まだ一致した結論には到っていないのです。
今回の研究は日本の複数施設において、
虚血性心疾患で治療中でスタチンを使用しており、
更に血液の脂肪酸組成で、
動脈硬化を進行させる可能性が高いアラキドン酸に対して、
EPAが比較的低値(EPA/AA比が0.4未満)の、
トータル2506例の患者をくじ引きで2つの群に分けると、
一方はエパデールなどの純度の高いEPA製剤を1日1800㎎使用し、
もう一方は使用しないという条件で、
中央値で5年の経過観察を施行しています。
主要な判定項目である、
心血管疾患による死亡と、
心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、カテーテル治療を併せたリスクは、
EPA上乗せ群では9.1%、未使用群では12.6%に発症していて、
EPAの使用で低下する傾向は見られたものの、
統計的に有意ではありませんでした。
ただ、個別のリスクの解析では、
心臓突然死と急性心筋梗塞、不安定狭心症、カテーテル治療を併せたリスクが、
EPA使用群で未使用群と比較して、
27%(95%CI:0.55から0.97)有意に低下していました。
今回の検証は血液のEPAが相対的に低め目の、
心血管疾患のリスクの高い患者に対して、
スタチンに上乗せでEPA製剤を使用することで、
若干の冠動脈疾患の予防効果が認められる可能性がある、
というもので、
明確なEPA製剤の有効性としては、
少し弱い感じがしますが、
ポジティブなデータであることは間違いがなく、
今後もこのEPA製剤の有効性については、
議論が続くこととなりそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「マッドマックス フュリオサ」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マッドマックスの新作が今公開されています。
大傑作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の前日談で、
前作でシャーリーズ・セロンが演じたヒロインのフュリオサの、
前作のオープニングに至るまでの人生を辿ります。
今回の作品のラストがそのまま前作に繋がり、
ラストクレジットでは前作の映像が流れるという趣向です。
これはそれなりに良かったのですね。
極彩色のオープニングから、
ただ事ではない感じでワクワクしますし、
ラストまでつるべ打ちのように、
壮絶なアクションが展開されます。
ヒロインの魅力もなかなかです。
ただ、観る前から想像の付くことですが、
「前日談」というのは弱いですよね。
観終わった瞬間の感想は
「やっぱりデス・ロードは良かったね」
という感じなんですね。
壮大な前振りではあるのですが、
所詮前振りは前振りであるからです。
あと、今回登場する悪役のディメンタス将軍が、
矢張りキャラとして弱いのですね。
スーパーヒーローを演じた役者さんが演じる、
というところに捻りがあるのですが、
正直悪さがあまり感じられないので、
どうしても弱いなあ、という感じが最後まで抜けませんでした。
それから、もっと前作からは想像の付かないようなキャラや兵器が、
バンバン出て欲しかったな、と思うのですが、
全て前作から想像出来る範囲のものしか出て来ないのですね。
それも弱いなあ、と感じてしまいました。
そんな訳で世界観はとても良かったのですが、
どうしても前作のおまけ的な感じが抜けず、
少し残念な思いはありました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マッドマックスの新作が今公開されています。
大傑作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の前日談で、
前作でシャーリーズ・セロンが演じたヒロインのフュリオサの、
前作のオープニングに至るまでの人生を辿ります。
今回の作品のラストがそのまま前作に繋がり、
ラストクレジットでは前作の映像が流れるという趣向です。
これはそれなりに良かったのですね。
極彩色のオープニングから、
ただ事ではない感じでワクワクしますし、
ラストまでつるべ打ちのように、
壮絶なアクションが展開されます。
ヒロインの魅力もなかなかです。
ただ、観る前から想像の付くことですが、
「前日談」というのは弱いですよね。
観終わった瞬間の感想は
「やっぱりデス・ロードは良かったね」
という感じなんですね。
壮大な前振りではあるのですが、
所詮前振りは前振りであるからです。
あと、今回登場する悪役のディメンタス将軍が、
矢張りキャラとして弱いのですね。
スーパーヒーローを演じた役者さんが演じる、
というところに捻りがあるのですが、
正直悪さがあまり感じられないので、
どうしても弱いなあ、という感じが最後まで抜けませんでした。
それから、もっと前作からは想像の付かないようなキャラや兵器が、
バンバン出て欲しかったな、と思うのですが、
全て前作から想像出来る範囲のものしか出て来ないのですね。
それも弱いなあ、と感じてしまいました。
そんな訳で世界観はとても良かったのですが、
どうしても前作のおまけ的な感じが抜けず、
少し残念な思いはありました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
動脈硬化における平滑筋細胞の腫瘍化 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Circulation誌に2024年6月11日付で掲載された、
動脈硬化進行の新しいメカニズムについての論文です。
動脈硬化というのは、
動脈の壁がその名の通り硬くなり、
動脈硬化巣(プラーク)という特異な構造が出現進行して、
血管は徐々に狭くなり、
不安定なプラークが出血すると、
血管は閉塞して脳卒中や心筋梗塞、
それ以外にも内臓や四肢の血管の閉塞の原因となる全身疾患です。
動脈硬化のプラークの中には、
変性したコレステロールが多く含まれているので、
当初はこのコレステロールこそが、
動脈硬化の原因と考えられました。
確かに高コレステロール血症の患者さんで、
心筋梗塞などの病気が発症した時、
その後コレステロールを強力に低下させると、
その再発が予防されることは事実です。
しかし、全ての動脈硬化の進行が、
コレスロールを下げるだけで改善する、
という訳ではありません。
それでは、他にどのような要因が、
動脈硬化を進行させているのでしょうか?
プラークにはマクロファージなどの炎症細胞が豊富に含まれていて、
このことからは、
血管の壁の周辺に起こる炎症が、
動脈硬化を進行させている1つの要因と考えられます。
そのため、特定のウイルスなどの感染と、
動脈硬化の進行とが関連しているとするデータも、
複数報告されています。
ただ、それではその感染症の予防や治療によって、
動脈硬化の進行が阻止されるのかと言うと、
その点についてはあまり明確な有効性は得られていません。
動脈硬化の病変には、
炎症細胞に以外にも複数の細胞の変化が確認されています。
そのうちの1つが、
血管壁の平滑筋細胞の変化と増殖です。
今回の研究では、
ネズミと人間の動脈硬化病変由来の平滑筋細胞を用いて、
その性質の検証を行っています。
その結果、
動脈硬化を来した動脈壁の平滑筋細胞では、
癌細胞の特徴的な遺伝子変異の1つである、
Kras G12D(12番目のグリシンがアスパラギン酸に変化する変異)
という遺伝子変異が高率に発現していて、
その変異があることが、
動脈硬化の進行に結び付いていることが確認されました。
変異して増殖した平滑筋細胞は、
不死化して調節不能の増殖をするなど、
腫瘍細胞としての性質を持っています。
つまり、動脈壁の平滑筋細胞が、
何らかの原因により腫瘍化して、
癌に近いような増殖をすることが、
動脈硬化の病変の1つの側面であるという、
かなりショッキングな知見です。
また癌細胞のDNA修復をターゲットとした、
ニラパリブという抗癌剤を使用したネズミの実験において、
抗癌剤の使用により動脈硬化の進行が予防されることも確認されました。
この現象が実際に、
臨床的な動脈硬化の進行にどの程度関与しているのかは、
まだ明確ではありませんが、
こうした現象があること自体はほぼ事実と考えて良いようで、
今後のより臨床的な検証に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Circulation誌に2024年6月11日付で掲載された、
動脈硬化進行の新しいメカニズムについての論文です。
動脈硬化というのは、
動脈の壁がその名の通り硬くなり、
動脈硬化巣(プラーク)という特異な構造が出現進行して、
血管は徐々に狭くなり、
不安定なプラークが出血すると、
血管は閉塞して脳卒中や心筋梗塞、
それ以外にも内臓や四肢の血管の閉塞の原因となる全身疾患です。
動脈硬化のプラークの中には、
変性したコレステロールが多く含まれているので、
当初はこのコレステロールこそが、
動脈硬化の原因と考えられました。
確かに高コレステロール血症の患者さんで、
心筋梗塞などの病気が発症した時、
その後コレステロールを強力に低下させると、
その再発が予防されることは事実です。
しかし、全ての動脈硬化の進行が、
コレスロールを下げるだけで改善する、
という訳ではありません。
それでは、他にどのような要因が、
動脈硬化を進行させているのでしょうか?
プラークにはマクロファージなどの炎症細胞が豊富に含まれていて、
このことからは、
血管の壁の周辺に起こる炎症が、
動脈硬化を進行させている1つの要因と考えられます。
そのため、特定のウイルスなどの感染と、
動脈硬化の進行とが関連しているとするデータも、
複数報告されています。
ただ、それではその感染症の予防や治療によって、
動脈硬化の進行が阻止されるのかと言うと、
その点についてはあまり明確な有効性は得られていません。
動脈硬化の病変には、
炎症細胞に以外にも複数の細胞の変化が確認されています。
そのうちの1つが、
血管壁の平滑筋細胞の変化と増殖です。
今回の研究では、
ネズミと人間の動脈硬化病変由来の平滑筋細胞を用いて、
その性質の検証を行っています。
その結果、
動脈硬化を来した動脈壁の平滑筋細胞では、
癌細胞の特徴的な遺伝子変異の1つである、
Kras G12D(12番目のグリシンがアスパラギン酸に変化する変異)
という遺伝子変異が高率に発現していて、
その変異があることが、
動脈硬化の進行に結び付いていることが確認されました。
変異して増殖した平滑筋細胞は、
不死化して調節不能の増殖をするなど、
腫瘍細胞としての性質を持っています。
つまり、動脈壁の平滑筋細胞が、
何らかの原因により腫瘍化して、
癌に近いような増殖をすることが、
動脈硬化の病変の1つの側面であるという、
かなりショッキングな知見です。
また癌細胞のDNA修復をターゲットとした、
ニラパリブという抗癌剤を使用したネズミの実験において、
抗癌剤の使用により動脈硬化の進行が予防されることも確認されました。
この現象が実際に、
臨床的な動脈硬化の進行にどの程度関与しているのかは、
まだ明確ではありませんが、
こうした現象があること自体はほぼ事実と考えて良いようで、
今後のより臨床的な検証に期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
くも膜下出血に対する薬剤の影響について [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Neurology誌に2024年6月25日付で掲載された、
クモ膜下出血のリスクと薬剤の使用との関連についての論文です。
くも膜下出血は脳出血の1つで、
その多くは脳の血管に出来た瘤(脳動脈瘤)の破裂により起こります。
従って、検診などで未破裂の脳動脈瘤が発見された場合、
それを血管内治療や手術によって、
治療するべきかどうかが問題となります。
治療には麻痺などの合併症のリスクがあり、
脳動脈瘤は未破裂のまま経過することも多いので、
治療の可否はなかなか判断が難しく、
破裂のリスクが低いことが想定される動脈瘤は、
外科的治療はせずに経過観察されることも多いのが実際です。
現行血圧のコントロール以外に、
明確にその有効性の確認された、
脳動脈瘤の破裂を予防する薬剤はありませんが、
仮にある薬の使用でそのリスクを減らせるとすれば、
それに越したことはありません。
今回の研究では、
イギリスのウェールズ地方における、
大規模な医療データを活用して、
脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の事例と、
その時に使用されていた薬剤との関連を、
比較検証しています。
脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の事例、
トータル4879例を、
43911例のコントロールと比較して解析したところ、
降圧剤のリシノプリルとアムロジピンを、
3か月以内に使用していた場合、
リシノプリルで37%(95%CI:0.44から0.90)、
アムロジピンで18%(95%CI:0.65から1.04)と、
くも膜下出血のリスクが低下する傾向を示しましたが、
3か月から12か月前に使用していた場合には、
リシノプリルで30%(95%CI:0.61から2.78)、
アムロジピンで61%(95%CI:1.04から2.48)、
と今度は逆に出血のリスクは増加する傾向を示しました。
これ以外に3か月以内の使用により、
コレステロール降下剤のシンバスタチンでは、
22%(95%CI:0.64から0.96)、
糖尿病治療薬のメトホルミンでは、
42%(95%CI:0.43から0.78)、
前立腺肥大症の治療薬タムスロシンでは、
45%(95%CI:0.32から0.93)、
くも膜下出血のリスクが、
それぞれ有意に低下していました。
反対に3か月以内の使用により、
抗凝固剤のワルファリンで35%(95%CI:1.02から1.79)、
抗うつ剤のヴェンラファキシンで67%(95%CI:1.01から2.75)、
抗精神病薬のプロクロルペラジンで2.15倍(95%CI:1.45から3.18)、
アセトアミノフェンとリン酸コデインの合剤で31%(95%CI:1.10から1.56)、
くも膜下出血のリスクが、
それぞれ有意に増加していました。
このように多くの一般的に使用されている薬剤で、
クモ膜下出血のリスクの増加と低下が認められました。
抗うつ剤や抗精神病薬のリスク増加は、
原疾患との関連も想定されるため、
必ずしも薬の影響と断定は出来ないと思います。
抗凝固剤や消炎鎮痛剤については、
凝固系に影響を与える薬剤なので、
リスク増加は想定範囲内である、と言って良いかも知れません。
降圧剤の影響が使用期間で分かれたことは意外な結果ですが、
血圧の安定性が重要ということかも知れません。
この点は検証が必要であるように思います。
シンバスタチンやメトホルミンは、
抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されていて、
今回の検証でもリスク低下が認められたことは、
こうした薬剤がトータルに身体のバランスを改善する、
というこれまでの知見を補強するものだと思います。
いずれにしても多くの薬剤で、
くも膜下出血のリスクに影響が見られた、
という結果は非常に興味深く、
今後予防のための薬物治療の可能性について、
更なる検証を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
Neurology誌に2024年6月25日付で掲載された、
クモ膜下出血のリスクと薬剤の使用との関連についての論文です。
くも膜下出血は脳出血の1つで、
その多くは脳の血管に出来た瘤(脳動脈瘤)の破裂により起こります。
従って、検診などで未破裂の脳動脈瘤が発見された場合、
それを血管内治療や手術によって、
治療するべきかどうかが問題となります。
治療には麻痺などの合併症のリスクがあり、
脳動脈瘤は未破裂のまま経過することも多いので、
治療の可否はなかなか判断が難しく、
破裂のリスクが低いことが想定される動脈瘤は、
外科的治療はせずに経過観察されることも多いのが実際です。
現行血圧のコントロール以外に、
明確にその有効性の確認された、
脳動脈瘤の破裂を予防する薬剤はありませんが、
仮にある薬の使用でそのリスクを減らせるとすれば、
それに越したことはありません。
今回の研究では、
イギリスのウェールズ地方における、
大規模な医療データを活用して、
脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の事例と、
その時に使用されていた薬剤との関連を、
比較検証しています。
脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の事例、
トータル4879例を、
43911例のコントロールと比較して解析したところ、
降圧剤のリシノプリルとアムロジピンを、
3か月以内に使用していた場合、
リシノプリルで37%(95%CI:0.44から0.90)、
アムロジピンで18%(95%CI:0.65から1.04)と、
くも膜下出血のリスクが低下する傾向を示しましたが、
3か月から12か月前に使用していた場合には、
リシノプリルで30%(95%CI:0.61から2.78)、
アムロジピンで61%(95%CI:1.04から2.48)、
と今度は逆に出血のリスクは増加する傾向を示しました。
これ以外に3か月以内の使用により、
コレステロール降下剤のシンバスタチンでは、
22%(95%CI:0.64から0.96)、
糖尿病治療薬のメトホルミンでは、
42%(95%CI:0.43から0.78)、
前立腺肥大症の治療薬タムスロシンでは、
45%(95%CI:0.32から0.93)、
くも膜下出血のリスクが、
それぞれ有意に低下していました。
反対に3か月以内の使用により、
抗凝固剤のワルファリンで35%(95%CI:1.02から1.79)、
抗うつ剤のヴェンラファキシンで67%(95%CI:1.01から2.75)、
抗精神病薬のプロクロルペラジンで2.15倍(95%CI:1.45から3.18)、
アセトアミノフェンとリン酸コデインの合剤で31%(95%CI:1.10から1.56)、
くも膜下出血のリスクが、
それぞれ有意に増加していました。
このように多くの一般的に使用されている薬剤で、
クモ膜下出血のリスクの増加と低下が認められました。
抗うつ剤や抗精神病薬のリスク増加は、
原疾患との関連も想定されるため、
必ずしも薬の影響と断定は出来ないと思います。
抗凝固剤や消炎鎮痛剤については、
凝固系に影響を与える薬剤なので、
リスク増加は想定範囲内である、と言って良いかも知れません。
降圧剤の影響が使用期間で分かれたことは意外な結果ですが、
血圧の安定性が重要ということかも知れません。
この点は検証が必要であるように思います。
シンバスタチンやメトホルミンは、
抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されていて、
今回の検証でもリスク低下が認められたことは、
こうした薬剤がトータルに身体のバランスを改善する、
というこれまでの知見を補強するものだと思います。
いずれにしても多くの薬剤で、
くも膜下出血のリスクに影響が見られた、
という結果は非常に興味深く、
今後予防のための薬物治療の可能性について、
更なる検証を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「空気感染」の新しい定義(2024年WHOの提言) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2024年に発表されたWHOの報告書ですが、
従来の空気感染について新しい定義を提唱した内容です。
飛沫感染やエアロゾル感染(飛沫核感染)、空気感染という言葉が、
一般にも聞かれるようになったのは、
言うまでもなく新型コロナウイルス感染以降のことです。
新型コロナウイルス感染症の感染力は非常に強く、
正確には不明の点が多くありますが、
一部の変異株においては、
よりその感染力は増していると想定されています。
その感染の主体は飛沫感染です。
つまり、ウイルス粒子を含む水や粘液の塊が、
鼻や口の粘膜から侵入して感染を引き起こすのです。
その飛沫は大きさが100μmを超えるような大きな物から、
15μmより小さなものまで様々ですが、
空気中に浮遊した段階からその大きさは3分の1くらいに縮小します。
大きな飛沫は遠くまで飛ぶ一方で、
すぐに落下して下に落ちてしまいますが、
小さな飛沫はそのまま空気中を長期間漂うという性質があります。
これがエアロゾルです。
屋外での感染は主に大きな飛沫によるもので、
口から弾丸のように放たれた飛沫が、
そのまま相手の口や鼻に飛び込むことにより感染が起こります。
「唾を飛ばしてまくし立てる」というような言い方がありますが、
お酒を飲みながら大声で喋っているような人では、
口から飛ぶ唾が見えますよね。
あれが大きな飛沫です。
一方で小さな飛沫は直接弾丸のように相手に当たるということではなく、
そのまま周囲に空気中にエアロゾルとして漂って、
それが相手の呼吸により鼻や喉から吸い込まれます。
室内ではこのエアロゾル感染が主体となり、
換気が不十分な状態であれば、
その空気中の濃度が高まるので、
感染のリスクが増加するのです。
それ以外に「空気感染(airborne transmission)」という言葉があります。
これは主にエアロゾル感染(飛沫核感染)を示している、
というように思われますが、
一般には空気を介しての感染であれば、
全て空気感染と誤解されている側面があり、
専門家でもそうした混同をしていると思われる意見が散見されています。
つまり、飛沫感染と飛沫核感染を含めて、
空気感染と考える、という見解です。
これは誤りではありますが、
そもそも大きな飛沫と小さな飛沫を分けるという考え方が、
かなり曖昧で誤解を生みやすいものであることがその背景にあります。
飛沫に大きさの明確な線引きをすることは、
そもそも出来ないからです。
それは人間のかなり恣意的な区分に過ぎないのです。
そこで今回提唱されたWHOの分類がこちらです。
図が小さくで分かり難いと思いますが、
上段の記載が空気を介した感染になります。
それを2つに分けていて、
そのうちの1つは直接沈着(direct deposition)です。
これははっきりと咳などで唾液の粒などが飛び、
それが相手に付着して感染することです。
それ以外の空気を介した感染は、
全て空気感染(airborne transmission)と定義されています。
つまり、従来の飛沫感染の一部とエアロゾル感染をまとめて、
空気感染として定義しているのです。
図の下の段は手などを介した接触感染で、
これは直接と間接に分かれています。
これは従来と同じ定義ですね。
つまり、これまで飛沫の大きさとその飛行距離で、
飛沫感染とエアロゾル感染を分けていたのを、
目で見て分かるような近接の飛沫感染以外は、
全て空気感染としているのです。
一般に誤解されていた「空気感染」に近い概念で、
空気感染を再定義したと言って良いかも知れません。
これがそのまま確定的なものとなるかかどうはまだ分かりませんが、
一般に誤解を招きやすいような医学用語は、
分かり易いものに改変されて行くのが、
今の世の中の流れであることは間違いがないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2024年に発表されたWHOの報告書ですが、
従来の空気感染について新しい定義を提唱した内容です。
飛沫感染やエアロゾル感染(飛沫核感染)、空気感染という言葉が、
一般にも聞かれるようになったのは、
言うまでもなく新型コロナウイルス感染以降のことです。
新型コロナウイルス感染症の感染力は非常に強く、
正確には不明の点が多くありますが、
一部の変異株においては、
よりその感染力は増していると想定されています。
その感染の主体は飛沫感染です。
つまり、ウイルス粒子を含む水や粘液の塊が、
鼻や口の粘膜から侵入して感染を引き起こすのです。
その飛沫は大きさが100μmを超えるような大きな物から、
15μmより小さなものまで様々ですが、
空気中に浮遊した段階からその大きさは3分の1くらいに縮小します。
大きな飛沫は遠くまで飛ぶ一方で、
すぐに落下して下に落ちてしまいますが、
小さな飛沫はそのまま空気中を長期間漂うという性質があります。
これがエアロゾルです。
屋外での感染は主に大きな飛沫によるもので、
口から弾丸のように放たれた飛沫が、
そのまま相手の口や鼻に飛び込むことにより感染が起こります。
「唾を飛ばしてまくし立てる」というような言い方がありますが、
お酒を飲みながら大声で喋っているような人では、
口から飛ぶ唾が見えますよね。
あれが大きな飛沫です。
一方で小さな飛沫は直接弾丸のように相手に当たるということではなく、
そのまま周囲に空気中にエアロゾルとして漂って、
それが相手の呼吸により鼻や喉から吸い込まれます。
室内ではこのエアロゾル感染が主体となり、
換気が不十分な状態であれば、
その空気中の濃度が高まるので、
感染のリスクが増加するのです。
それ以外に「空気感染(airborne transmission)」という言葉があります。
これは主にエアロゾル感染(飛沫核感染)を示している、
というように思われますが、
一般には空気を介しての感染であれば、
全て空気感染と誤解されている側面があり、
専門家でもそうした混同をしていると思われる意見が散見されています。
つまり、飛沫感染と飛沫核感染を含めて、
空気感染と考える、という見解です。
これは誤りではありますが、
そもそも大きな飛沫と小さな飛沫を分けるという考え方が、
かなり曖昧で誤解を生みやすいものであることがその背景にあります。
飛沫に大きさの明確な線引きをすることは、
そもそも出来ないからです。
それは人間のかなり恣意的な区分に過ぎないのです。
そこで今回提唱されたWHOの分類がこちらです。
図が小さくで分かり難いと思いますが、
上段の記載が空気を介した感染になります。
それを2つに分けていて、
そのうちの1つは直接沈着(direct deposition)です。
これははっきりと咳などで唾液の粒などが飛び、
それが相手に付着して感染することです。
それ以外の空気を介した感染は、
全て空気感染(airborne transmission)と定義されています。
つまり、従来の飛沫感染の一部とエアロゾル感染をまとめて、
空気感染として定義しているのです。
図の下の段は手などを介した接触感染で、
これは直接と間接に分かれています。
これは従来と同じ定義ですね。
つまり、これまで飛沫の大きさとその飛行距離で、
飛沫感染とエアロゾル感染を分けていたのを、
目で見て分かるような近接の飛沫感染以外は、
全て空気感染としているのです。
一般に誤解されていた「空気感染」に近い概念で、
空気感染を再定義したと言って良いかも知れません。
これがそのまま確定的なものとなるかかどうはまだ分かりませんが、
一般に誤解を招きやすいような医学用語は、
分かり易いものに改変されて行くのが、
今の世の中の流れであることは間違いがないようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「関心領域」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ポーランドなどの合作で、
2023年のカンヌのグランプリを獲得した「関心領域」が、
今ロードショー公開されています。
これは内容というよりも、
その様式がかなり特異な映画で、
オープニングから映像のない黒い画面に、
気持ちを逆なでするような音楽のみが、
延々と流れますし、
ラストも再び音効のみで締め括られます。
観ていない方も多くがご存じのように、
アウシュビッツ収容所の所長を長く務めた、
ルドルフ・ヘスの一家のドラマが、
その隣にある収容所での虐殺を、
ないものであるかのように展開され、
その家族劇的な凡庸なドラマのみが、
ほぼ作品の全てとなっています。
確かに面白い発想だと思います。
ただ、鑑賞前のイメージとしては、
本当に牧歌的な美しい家族のドラマのみが展開され、
そのまま終わるようなものを想定していたのですが、
実際にはそれほど徹底している訳ではなくて、
ヘスの妻の母親は、
その異様な雰囲気に怖れをなして逃亡してしまいますし、
途中で暗視カメラのような映像が流れ、
ポーランドの地元の少女が、
密かにユダヤ人を助ける、
というようなパートが童話的に差し挟まれます。
わざわざ暗視カメラにしたのは、
それが「見えない」ということを徹底しているのだと思いますが、
何か中途半端な印象になるので、
却って入れない方が良かったように感じました。
ラストにヘスが意味ありげに嘔吐するのも、
拮抗を欠くような気がしますし、
現在の博物館となったアウシュビッツで、
職員が掃除をする風景を唐突に入れるのも、
とても意地悪でひねくれた発想だなあ、
とは思うものの、
これもない方が良かったように感じました。
全体に描写がしつこいのも個人的には趣味ではなくて、
たとえば焼却されたユダヤ人の灰を肥料にして、
ヘスの家の庭に極彩色の花が咲くのを、
延々と映すのも、やり過ぎ感がありました。
そんな訳であまり良いとは思えなかったのですが、
僕は前から新しいタイプの作品を受け入れるのが苦手で、
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」も、
「ワイルド・アット・ハート」も、
「バービー」も、
初見ではとても良いとは思えなかったので、
今回の作品もその斬新な素晴らしさを、
おそらく見落としている可能性が高いのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ポーランドなどの合作で、
2023年のカンヌのグランプリを獲得した「関心領域」が、
今ロードショー公開されています。
これは内容というよりも、
その様式がかなり特異な映画で、
オープニングから映像のない黒い画面に、
気持ちを逆なでするような音楽のみが、
延々と流れますし、
ラストも再び音効のみで締め括られます。
観ていない方も多くがご存じのように、
アウシュビッツ収容所の所長を長く務めた、
ルドルフ・ヘスの一家のドラマが、
その隣にある収容所での虐殺を、
ないものであるかのように展開され、
その家族劇的な凡庸なドラマのみが、
ほぼ作品の全てとなっています。
確かに面白い発想だと思います。
ただ、鑑賞前のイメージとしては、
本当に牧歌的な美しい家族のドラマのみが展開され、
そのまま終わるようなものを想定していたのですが、
実際にはそれほど徹底している訳ではなくて、
ヘスの妻の母親は、
その異様な雰囲気に怖れをなして逃亡してしまいますし、
途中で暗視カメラのような映像が流れ、
ポーランドの地元の少女が、
密かにユダヤ人を助ける、
というようなパートが童話的に差し挟まれます。
わざわざ暗視カメラにしたのは、
それが「見えない」ということを徹底しているのだと思いますが、
何か中途半端な印象になるので、
却って入れない方が良かったように感じました。
ラストにヘスが意味ありげに嘔吐するのも、
拮抗を欠くような気がしますし、
現在の博物館となったアウシュビッツで、
職員が掃除をする風景を唐突に入れるのも、
とても意地悪でひねくれた発想だなあ、
とは思うものの、
これもない方が良かったように感じました。
全体に描写がしつこいのも個人的には趣味ではなくて、
たとえば焼却されたユダヤ人の灰を肥料にして、
ヘスの家の庭に極彩色の花が咲くのを、
延々と映すのも、やり過ぎ感がありました。
そんな訳であまり良いとは思えなかったのですが、
僕は前から新しいタイプの作品を受け入れるのが苦手で、
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」も、
「ワイルド・アット・ハート」も、
「バービー」も、
初見ではとても良いとは思えなかったので、
今回の作品もその斬新な素晴らしさを、
おそらく見落としている可能性が高いのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
「あんのこと」 [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日でいつも通りの外来になります。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
入江悠監督がかなり深刻な実話を元に脚本演出を勤め、
今注目の河合優実さんが体当たりの熱演を見せた映画が、
ロードショー公開されています。
入江監督は「22年目の告白」と「AI崩壊」が、
新たな日本の娯楽映画の可能性を感じさせて好印象でしたが、
その後はあまり企画に恵まれていないな、
というような印象がありました。
幅広い作品を手掛けていますが、
かなり出来にはムラがあります。
これはゴミだらけの狭い公団住宅の部屋で、
家族が罵り合い取っ組み合いを続ける様子を、
延々と撮り続けるようなヘビーな作品で、
大森立嗣監督や是枝裕和監督、白石和彌監督などにも、
同じような素材を扱った映画がありましたが、
そのどれよりも画面は暗く構図も歪み、
ある意味ノンフィクションよりも荒れた映像が連続します。
情緒的な泣かせのような水分もほぼなく、
観ていると、
こちらの心も砂漠と化してしまうような気分になります。
これは今の社会の空気感でないと望まれない作品、
良くも悪くも、
この映画をこのように観ることが出来るのは、
今生きている観客のみだろう、
という感じがする作品です。
僕自身もかなりのダメージを受けましたが、
精神的にダウンしているような時には、
とてもお勧め出来ないタイプの映画です。
皆さんもご注意下さい。
主演の河合優実さんが抜群で、
この役をこのように演じられる役者さんが、
今他にいるとは思えません。
彼女の纏う空気感が、
おそらく今の社会の閉塞感と、
絶妙にリンクしているのだと思います。
評価が分かれるだろうと思うのは、
複雑なキャラの警察官を演じた佐藤二朗さんで、
僕も大好きな俳優さんですが、
今回の役柄に関しては、
ややミスキャストのように感じました。
この役は表面的には、がさつだけれど良い人、
というように見えないといけないと思うのですが、
佐藤さんが演じると、
「得体の知れなさ」が出てしまうのですね。
それではいけないように感じました。
作劇としては、
ラストが少し中途半端に感じました。
ちょっと泣かせと希望を入れようとしているのですが、
この映画はハノケみたいに、
身もふたもないくらいに、
無雑作に絶望的に終わらないといけないですよね。
多分作り手はそうしたかったのだけれど、
それが許されなかったのではないかな、
というように感じました。
いずれにしても鑑賞には非常に精神的体力の必要な、
かなりヘビーな力作で、
こうした作品が国内外問わず多い気がするのは、
それはもう今の時代の反映なのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日でいつも通りの外来になります。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
入江悠監督がかなり深刻な実話を元に脚本演出を勤め、
今注目の河合優実さんが体当たりの熱演を見せた映画が、
ロードショー公開されています。
入江監督は「22年目の告白」と「AI崩壊」が、
新たな日本の娯楽映画の可能性を感じさせて好印象でしたが、
その後はあまり企画に恵まれていないな、
というような印象がありました。
幅広い作品を手掛けていますが、
かなり出来にはムラがあります。
これはゴミだらけの狭い公団住宅の部屋で、
家族が罵り合い取っ組み合いを続ける様子を、
延々と撮り続けるようなヘビーな作品で、
大森立嗣監督や是枝裕和監督、白石和彌監督などにも、
同じような素材を扱った映画がありましたが、
そのどれよりも画面は暗く構図も歪み、
ある意味ノンフィクションよりも荒れた映像が連続します。
情緒的な泣かせのような水分もほぼなく、
観ていると、
こちらの心も砂漠と化してしまうような気分になります。
これは今の社会の空気感でないと望まれない作品、
良くも悪くも、
この映画をこのように観ることが出来るのは、
今生きている観客のみだろう、
という感じがする作品です。
僕自身もかなりのダメージを受けましたが、
精神的にダウンしているような時には、
とてもお勧め出来ないタイプの映画です。
皆さんもご注意下さい。
主演の河合優実さんが抜群で、
この役をこのように演じられる役者さんが、
今他にいるとは思えません。
彼女の纏う空気感が、
おそらく今の社会の閉塞感と、
絶妙にリンクしているのだと思います。
評価が分かれるだろうと思うのは、
複雑なキャラの警察官を演じた佐藤二朗さんで、
僕も大好きな俳優さんですが、
今回の役柄に関しては、
ややミスキャストのように感じました。
この役は表面的には、がさつだけれど良い人、
というように見えないといけないと思うのですが、
佐藤さんが演じると、
「得体の知れなさ」が出てしまうのですね。
それではいけないように感じました。
作劇としては、
ラストが少し中途半端に感じました。
ちょっと泣かせと希望を入れようとしているのですが、
この映画はハノケみたいに、
身もふたもないくらいに、
無雑作に絶望的に終わらないといけないですよね。
多分作り手はそうしたかったのだけれど、
それが許されなかったのではないかな、
というように感じました。
いずれにしても鑑賞には非常に精神的体力の必要な、
かなりヘビーな力作で、
こうした作品が国内外問わず多い気がするのは、
それはもう今の時代の反映なのだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。