口呼吸防止テープの効果とそのリスク [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。

JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery誌に、
2024年10月3日付で掲載された。
口呼吸防止テープの効果とリスクについての論文です。
夜寝ている時に。
口を開けて呼吸する所謂「口呼吸(mouse-breathing)」が、
夜間などの呼吸状態を悪化させ、
また口腔内を乾燥させて、
咽頭炎などの感染症の原因になり易いことは、
一般にも広く認識されている事項です。
そのため口呼吸を抑制するために、
一般に行われている方法が、
口に専用のテープを貼って、
口で呼吸が出来ないようにするという方法です。
このテープを、
口呼吸テープや逆に鼻呼吸テープ、
口呼吸防止テープなど、
様々な名称で呼ばれています。
その理屈を示したのがこちらです。

左の図は寝ている時に口呼吸をしている場合です。
舌の背中側の部分(舌根)が下に落ちることで、
空気の入る気道が狭くなり、
呼吸の状態が悪くなっていることが分かります。
右の図は口呼吸防止テープを使った場合で、
口呼吸が制限されることにより鼻呼吸となると、
舌根部が持ち上がって、
気流が増加して呼吸状態も改善するのです。
常にこのように上手くゆくのであれば問題はありません。
ただ、たとえば鼻閉などがあって、
鼻から呼吸し難いような状態であると、
結果として口と鼻の両方が塞がれて、
呼吸が出来なくなることはさすがにないとしても、
気流の状態がより悪化する、
という事態が起こる可能性が、
当然想定されるところです。
実際にはどうなのでしょうか?
今回の研究では、
口呼吸の弊害が特に呼吸状態に影響を与える可能性のある、
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さん54名を対象として、
その口呼吸のレベルを、
軽症(口からの気流が0.05L/分未満)、
中等症(口からの気流が0.05から2.2L/分)、
重症(口からの気流が2.2L/分を超える)、
の3種類に分けて、
口呼吸防止テープの効果を比較検証しています。
その結果、
軽症の患者さんでは口呼吸防止テープは、
気流の状態に殆ど影響を与えず、
中等症の口呼吸のある患者さんでは、
口呼吸防止テープは気流の状態を改善させた一方で
重症の口呼吸のある患者さんでは、
逆に気流を低下させ、
呼吸の状態を悪化させていました。
このように、
口呼吸にどれだけ頼っているかによって、
口呼吸防止テープの有効性は異なり、
有効な患者さんがいる一方で、
一部の重症な患者さんにおいては、
テープが逆効果となる事例もあることが確認されました。
口呼吸防止テープは、
一定の有効性があるのですが、
その使用は重症の患者さんではリスクもあることも、
周知される必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。

JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery誌に、
2024年10月3日付で掲載された。
口呼吸防止テープの効果とリスクについての論文です。
夜寝ている時に。
口を開けて呼吸する所謂「口呼吸(mouse-breathing)」が、
夜間などの呼吸状態を悪化させ、
また口腔内を乾燥させて、
咽頭炎などの感染症の原因になり易いことは、
一般にも広く認識されている事項です。
そのため口呼吸を抑制するために、
一般に行われている方法が、
口に専用のテープを貼って、
口で呼吸が出来ないようにするという方法です。
このテープを、
口呼吸テープや逆に鼻呼吸テープ、
口呼吸防止テープなど、
様々な名称で呼ばれています。
その理屈を示したのがこちらです。

左の図は寝ている時に口呼吸をしている場合です。
舌の背中側の部分(舌根)が下に落ちることで、
空気の入る気道が狭くなり、
呼吸の状態が悪くなっていることが分かります。
右の図は口呼吸防止テープを使った場合で、
口呼吸が制限されることにより鼻呼吸となると、
舌根部が持ち上がって、
気流が増加して呼吸状態も改善するのです。
常にこのように上手くゆくのであれば問題はありません。
ただ、たとえば鼻閉などがあって、
鼻から呼吸し難いような状態であると、
結果として口と鼻の両方が塞がれて、
呼吸が出来なくなることはさすがにないとしても、
気流の状態がより悪化する、
という事態が起こる可能性が、
当然想定されるところです。
実際にはどうなのでしょうか?
今回の研究では、
口呼吸の弊害が特に呼吸状態に影響を与える可能性のある、
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さん54名を対象として、
その口呼吸のレベルを、
軽症(口からの気流が0.05L/分未満)、
中等症(口からの気流が0.05から2.2L/分)、
重症(口からの気流が2.2L/分を超える)、
の3種類に分けて、
口呼吸防止テープの効果を比較検証しています。
その結果、
軽症の患者さんでは口呼吸防止テープは、
気流の状態に殆ど影響を与えず、
中等症の口呼吸のある患者さんでは、
口呼吸防止テープは気流の状態を改善させた一方で
重症の口呼吸のある患者さんでは、
逆に気流を低下させ、
呼吸の状態を悪化させていました。
このように、
口呼吸にどれだけ頼っているかによって、
口呼吸防止テープの有効性は異なり、
有効な患者さんがいる一方で、
一部の重症な患者さんにおいては、
テープが逆効果となる事例もあることが確認されました。
口呼吸防止テープは、
一定の有効性があるのですが、
その使用は重症の患者さんではリスクもあることも、
周知される必要がありそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ウコン抽出物による急性肝障害 [科学検証]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2023年のthe American Journal of Medicine誌に掲載された、
ウコン(ターメリック)抽出物の、
肝障害リスクについての論文です。
ウコン(ターメリック)はショウガの仲間の多年草で、
その根が香辛料として、
カレーなどに広く使用されています。
その黄色い色素の成分であるポリフェノールのクルクミンは、
抗炎症作用や抗酸化作用などが報告されています。
特にデータが多いのは抗炎症作用についてで、
膝の関節炎に効果があったとする報告が、
複数論文化されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32926799/
日本ではウコンは二日酔いに効果があるとして、
栄養ドリンクなどで広く使用されています。
これも抗炎症作用が背景にあると想定されますが、
あまり科学的な検証が行われている訳ではないようです。
ただ、ウコンが二日酔いに効くという宣伝から、
ウコン自体が肝臓に良い成分であるかのように、
一般に受け止められるようになっていることは事実で、
この点は問題が大きいように思います。
実際にはその点はむしろ逆で、
ウコンは健康食品やサプリメントの中では、
薬剤性肝障害を起こす可能性の高い成分なのです。
たとえば、2005年の「肝臓」誌に掲載された、
「民間薬および健康食品による薬物性肝障害の調査」によると、
医療機関から集められた、
健康食品などによる薬剤性肝障害の事例89例のうち、
最も多かったのはウコンで、
事例は29件、全体の24.9%という高率でした。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/46/3/46_3_142/_article/-char/ja/
ウコンの摂取は圧倒的にアジアで多いのですが、
アメリカにおいてもそうした事例は報告されており、
そのうちの10例をまとめているのが、
今回ご紹介した論文です。
アメリカの事例は、
関節炎の民間療法としてウコンが使用されて発症した事例が多く、
そのため患者の多くは中年以降の女性です。
肝細胞の好酸球主体の炎症が、
サプリメント内服後1から4か月程度の期間をおいて、
発症していることが多いようです。
その多くはウコンの摂取中止により回復していますが、
劇症化して死亡に至った事例も報告されています。
ウコンは非常に吸収が悪く、
そのため比較的大量に摂取しても、
身体に大きな影響は与えない、
と想定されていたのですが、
ブラックペッパーに含まれるピぺリンが、
ウコンの吸収を数十倍高めることが分かってから、
ブラックペッパーを添加した製品が流通し、
それがアメリカでの被害の拡大に結び付いているのではないかと、
上記文献では考察されています。
いずれにしても、
肝機能が悪いような人が、
お酒を飲んだ後でウコンを摂取する、
というようなケースは、
実際には急性肝障害のリスクを高める行為なので、
ウコンをサプリメントやドリンク剤で摂ることは、
肝障害のある人にとっては禁忌であると、
そのくらいに考えておいた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

2023年のthe American Journal of Medicine誌に掲載された、
ウコン(ターメリック)抽出物の、
肝障害リスクについての論文です。
ウコン(ターメリック)はショウガの仲間の多年草で、
その根が香辛料として、
カレーなどに広く使用されています。
その黄色い色素の成分であるポリフェノールのクルクミンは、
抗炎症作用や抗酸化作用などが報告されています。
特にデータが多いのは抗炎症作用についてで、
膝の関節炎に効果があったとする報告が、
複数論文化されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32926799/
日本ではウコンは二日酔いに効果があるとして、
栄養ドリンクなどで広く使用されています。
これも抗炎症作用が背景にあると想定されますが、
あまり科学的な検証が行われている訳ではないようです。
ただ、ウコンが二日酔いに効くという宣伝から、
ウコン自体が肝臓に良い成分であるかのように、
一般に受け止められるようになっていることは事実で、
この点は問題が大きいように思います。
実際にはその点はむしろ逆で、
ウコンは健康食品やサプリメントの中では、
薬剤性肝障害を起こす可能性の高い成分なのです。
たとえば、2005年の「肝臓」誌に掲載された、
「民間薬および健康食品による薬物性肝障害の調査」によると、
医療機関から集められた、
健康食品などによる薬剤性肝障害の事例89例のうち、
最も多かったのはウコンで、
事例は29件、全体の24.9%という高率でした。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/46/3/46_3_142/_article/-char/ja/
ウコンの摂取は圧倒的にアジアで多いのですが、
アメリカにおいてもそうした事例は報告されており、
そのうちの10例をまとめているのが、
今回ご紹介した論文です。
アメリカの事例は、
関節炎の民間療法としてウコンが使用されて発症した事例が多く、
そのため患者の多くは中年以降の女性です。
肝細胞の好酸球主体の炎症が、
サプリメント内服後1から4か月程度の期間をおいて、
発症していることが多いようです。
その多くはウコンの摂取中止により回復していますが、
劇症化して死亡に至った事例も報告されています。
ウコンは非常に吸収が悪く、
そのため比較的大量に摂取しても、
身体に大きな影響は与えない、
と想定されていたのですが、
ブラックペッパーに含まれるピぺリンが、
ウコンの吸収を数十倍高めることが分かってから、
ブラックペッパーを添加した製品が流通し、
それがアメリカでの被害の拡大に結び付いているのではないかと、
上記文献では考察されています。
いずれにしても、
肝機能が悪いような人が、
お酒を飲んだ後でウコンを摂取する、
というようなケースは、
実際には急性肝障害のリスクを高める行為なので、
ウコンをサプリメントやドリンク剤で摂ることは、
肝障害のある人にとっては禁忌であると、
そのくらいに考えておいた方が良いようです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
Bunkamura Production 2024 「台風23号」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

赤堀雅秋さんの新作が、
Bunkamura Productionとして、
新宿歌舞伎町のTHEATER MILANO-Zaで上演されています。
作演出の赤堀さんは、
現代を代表する劇作家の1人で、
常に今の時代と無骨にやや不器用に、
それでいて途方もない熱量で、
闘い組み合うような作品を発表されています。
また、役者としても非常に評価が高く、
その癖のある個性的な演技は、
松尾スズキさんや唐先生のような、
所謂「座長芝居」とは、
一線を画するリアルな演技の名手でもあります。
赤堀さんの実際に観た作品の中では、
「鳥の名前」と「流山ブルーバード」が好きです。
ちょっとオールビーを彷彿とさせるような、
少しブラックで暴力的な家庭劇がなかなかの完成度で、
ちょっと頭のネジが少し外れているような、
異様なキャラクターが魅力です。
ただ、それとは別に、
かなり前衛的でシュールで、
時事ネタや社会性のあるような作品も描いていて、
そちらは正直苦手ジャンルです。
2024年の春に本多劇場で「ボイラーマン」というお芝居があり、
少し新傾向と言うのか、
リアルに顕微鏡的な視点で食い詰めたような街の風景を描きながら、
現代社会を俯瞰的に表現したような作品でした。
今回の「台風23号」も、
基本的には「ボイラーマン」の系譜に連なるもので、
田舎の寂れた田舎町の風景をリアルに描きながら、
そこに崩壊する日本社会の縮図のようなものを、
浮かび上がらせるという作風でした。
かつてない規模の台風23号が上陸するという情報が流れ、
町の人はそのために精一杯の準備をし、
楽しみにしていた花火大会も中止にするのですが、
実際には台風の被害は起こることはなく、
楽しみも失った、虚しい日常が戻るだけです。
鬱屈した人間達の点描的なスケッチが、
一見無雑作に並べられ、
それが1つの死の引き金を引こうとした瞬間、
「花火」のような何かの音が町に響き渡ります。
それは救いの音だったのでしょうか?
それとも破滅への狼煙であったのでしょうか?
説明されないままに物語は終わります。
意欲的な作品でしたが、
THEATER MILANO-Zaという劇場は、
この濃密な人間ドラマの上演には、
やや大き過ぎるような感じはありました。
また、「ボイラーマン」のでんでんさんのような、
強烈なキャラクターがこの作品には不在で、
自分で捌け口のない怒りのためにばらまいたゴミが、
善意の住民たちによって回収されるというような、
決定的な場面も欠いていたので、
「ボイラーマン」に比べると、
そのインパクトにおいても弱いものがありました。
そんな訳で少しガッカリではあったのですが、
キャストは皆好演で、
港町の緻密でリアルなセットも見ごたえがありました。
キャストのファンの方であれば、
そう失望はしない仕上がりであったと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

赤堀雅秋さんの新作が、
Bunkamura Productionとして、
新宿歌舞伎町のTHEATER MILANO-Zaで上演されています。
作演出の赤堀さんは、
現代を代表する劇作家の1人で、
常に今の時代と無骨にやや不器用に、
それでいて途方もない熱量で、
闘い組み合うような作品を発表されています。
また、役者としても非常に評価が高く、
その癖のある個性的な演技は、
松尾スズキさんや唐先生のような、
所謂「座長芝居」とは、
一線を画するリアルな演技の名手でもあります。
赤堀さんの実際に観た作品の中では、
「鳥の名前」と「流山ブルーバード」が好きです。
ちょっとオールビーを彷彿とさせるような、
少しブラックで暴力的な家庭劇がなかなかの完成度で、
ちょっと頭のネジが少し外れているような、
異様なキャラクターが魅力です。
ただ、それとは別に、
かなり前衛的でシュールで、
時事ネタや社会性のあるような作品も描いていて、
そちらは正直苦手ジャンルです。
2024年の春に本多劇場で「ボイラーマン」というお芝居があり、
少し新傾向と言うのか、
リアルに顕微鏡的な視点で食い詰めたような街の風景を描きながら、
現代社会を俯瞰的に表現したような作品でした。
今回の「台風23号」も、
基本的には「ボイラーマン」の系譜に連なるもので、
田舎の寂れた田舎町の風景をリアルに描きながら、
そこに崩壊する日本社会の縮図のようなものを、
浮かび上がらせるという作風でした。
かつてない規模の台風23号が上陸するという情報が流れ、
町の人はそのために精一杯の準備をし、
楽しみにしていた花火大会も中止にするのですが、
実際には台風の被害は起こることはなく、
楽しみも失った、虚しい日常が戻るだけです。
鬱屈した人間達の点描的なスケッチが、
一見無雑作に並べられ、
それが1つの死の引き金を引こうとした瞬間、
「花火」のような何かの音が町に響き渡ります。
それは救いの音だったのでしょうか?
それとも破滅への狼煙であったのでしょうか?
説明されないままに物語は終わります。
意欲的な作品でしたが、
THEATER MILANO-Zaという劇場は、
この濃密な人間ドラマの上演には、
やや大き過ぎるような感じはありました。
また、「ボイラーマン」のでんでんさんのような、
強烈なキャラクターがこの作品には不在で、
自分で捌け口のない怒りのためにばらまいたゴミが、
善意の住民たちによって回収されるというような、
決定的な場面も欠いていたので、
「ボイラーマン」に比べると、
そのインパクトにおいても弱いものがありました。
そんな訳で少しガッカリではあったのですが、
キャストは皆好演で、
港町の緻密でリアルなセットも見ごたえがありました。
キャストのファンの方であれば、
そう失望はしない仕上がりであったと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
帯状疱疹ワクチンの認知症予防効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2024年10月18日付で掲載された解説記事ですが、
帯状疱疹の予防ワクチンの認知症予防効果についての内容です。
帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。
この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こすのです。
帯状疱疹で問題となるのは、
帯状疱疹後神経痛ばかりではなく、
脳卒中などのリスクが、
その後に増加することが指摘されています。
2014年のClinical Infectious Diseases誌に掲載された論文では、
帯状疱疹発症後4週以内の脳卒中のリスクが、
通常より63%増加したと報告されていまる。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24700656/
また、認知症との関連を指摘する意見もあります。
ウイルス感染症に罹患することが、
その後の認知症のリスクになるという考え方は以前からあり、
帯状疱疹との関連を指摘する知見もあります。
特に三叉神経領域への感染では、
直接脳神経に炎症が及んでいることから、
そのリスクを指摘する意見があります。
ただ、帯状疱疹後に認知症のリスクが増加した、
という報告がある一方で、
明確な関連は認められなかった、という報告もあり、
その結果は一致していません。
近年帯状疱疹の発症予防のために、
シングリックスという名前の不活化ワクチンと、
海外ではゾスタバックス、日本では国産の水痘ワクチンの、
弱毒生ワクチンの使用が、
開始され一定の予防効果が確認されています。
それでは、こうしたワクチンの接種により、
その後の認知症のリスクには何か変化があるのでしょうか?
これについては、
まだまとまったデータはありまないのですが、
2024年にmedRxivという、
まだ査読前の論文を公開さいているサイトに発表された研究では、
ウェールズ地方での疫学データの解析により、
帯状疱疹予防の弱毒生ワクチンを接種すると、
しない場合と比較して、
その後9年間に新たに軽度認知機能障害(認知症の前段階)を来すリスクが、
3%有意に低下しており、
不活化ワクチンのシングリックスを接種した、
認知症と診断されている患者さんは、
していない患者さんと比較して、
認知症により死亡するリスクが29.5%有意に低下していました。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2024.08.23.24312457v1
つまり、
帯状疱疹予防ワクチンの接種により、
認知症の発症リスクは低下し、
認知症に生命予後も改善される可能性がある、
ということを示唆するデータです。
このように、
帯状疱疹予防ワクチンにより、
認知症の予防と予後の改善が、
期待される知見が最近複数報告されて注目されていて、
まだ信頼のおける制度の高いデータは乏しいので、
実証されているとは言えないのですが、
今後の研究の積み重ねを注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

JAMA誌に2024年10月18日付で掲載された解説記事ですが、
帯状疱疹の予防ワクチンの認知症予防効果についての内容です。
帯状疱疹は身体に帯状の湿疹が出来、
強い神経痛を伴う病気で、
症状自体は一時的ですが、
その後に帯状疱疹後神経痛という、
その名の通りの辛い神経痛が長く残ることがあります。
この病気は水ぼうそう(水痘)と同じウイルスの感染によって起こります。
初感染は水ぼうそうという形態を取り、
おそらくは神経節という部分に、
残存しているウイルスが、
身体の細胞性免疫が低下すると、
再燃して帯状疱疹を起こすのです。
帯状疱疹で問題となるのは、
帯状疱疹後神経痛ばかりではなく、
脳卒中などのリスクが、
その後に増加することが指摘されています。
2014年のClinical Infectious Diseases誌に掲載された論文では、
帯状疱疹発症後4週以内の脳卒中のリスクが、
通常より63%増加したと報告されていまる。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24700656/
また、認知症との関連を指摘する意見もあります。
ウイルス感染症に罹患することが、
その後の認知症のリスクになるという考え方は以前からあり、
帯状疱疹との関連を指摘する知見もあります。
特に三叉神経領域への感染では、
直接脳神経に炎症が及んでいることから、
そのリスクを指摘する意見があります。
ただ、帯状疱疹後に認知症のリスクが増加した、
という報告がある一方で、
明確な関連は認められなかった、という報告もあり、
その結果は一致していません。
近年帯状疱疹の発症予防のために、
シングリックスという名前の不活化ワクチンと、
海外ではゾスタバックス、日本では国産の水痘ワクチンの、
弱毒生ワクチンの使用が、
開始され一定の予防効果が確認されています。
それでは、こうしたワクチンの接種により、
その後の認知症のリスクには何か変化があるのでしょうか?
これについては、
まだまとまったデータはありまないのですが、
2024年にmedRxivという、
まだ査読前の論文を公開さいているサイトに発表された研究では、
ウェールズ地方での疫学データの解析により、
帯状疱疹予防の弱毒生ワクチンを接種すると、
しない場合と比較して、
その後9年間に新たに軽度認知機能障害(認知症の前段階)を来すリスクが、
3%有意に低下しており、
不活化ワクチンのシングリックスを接種した、
認知症と診断されている患者さんは、
していない患者さんと比較して、
認知症により死亡するリスクが29.5%有意に低下していました。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2024.08.23.24312457v1
つまり、
帯状疱疹予防ワクチンの接種により、
認知症の発症リスクは低下し、
認知症に生命予後も改善される可能性がある、
ということを示唆するデータです。
このように、
帯状疱疹予防ワクチンにより、
認知症の予防と予後の改善が、
期待される知見が最近複数報告されて注目されていて、
まだ信頼のおける制度の高いデータは乏しいので、
実証されているとは言えないのですが、
今後の研究の積み重ねを注視したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
キャッチアップ睡眠の認知症予防効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Sleep Breath誌に、
2024年6月15日付でウェブ掲載された、
キャッチアップ睡眠(週末の寝だめ)の認知機能への影響を、
検証した論文です。
睡眠というのは食事や運動と並んで、
健康に欠かせない生活習慣の1つです。
特に睡眠時間が短いことは、
心臓病や脳卒中などの心血管疾患、認知症、
うつ病など多くの病気のリスクになることが分かっていて、
健康寿命にも悪影響を与える因子です。
そのためアメリカの睡眠関連の専門学会では、
健康のために毎日の睡眠時間を、
7時間以上にすることを推奨しています。
https://academic.oup.com/sleep/article/38/6/843/2416939
しかし、実際には多くの日本人が、
もっと短い睡眠時間で生活をしています。
そしてそうした寝不足の日本人が、
睡眠不足の解消のために、
しばしば行っている習慣が、
週末や休日の「寝だめ」です。
「休みの日は昼までゆっくり寝ていた」という、
休みの日にありがちな習慣が「寝だめ」です。
医学用語としては、キャッチアップ睡眠(catch-up sleep)、
という言い方が一般的で、
上記論文ではウィークデイの睡眠時間の平均より、
週末の睡眠時間が1時間以上長いこと、
として定義されています。
「寝だめ」は体感的には、
睡眠不足の軽減に一定の効果があるように思えます。
それでは、
週末に寝だめをすることで、
睡眠不足のもたらす健康への悪影響を、
抑制するような効果があるのでしょうか?
2024年に2月に発表されたアメリカの健康データを解析した論文では、
週末のキャッチアップ睡眠により、
その後の心血管疾患のリスクが63%低下した、
という結果が発表されています。
ただ、高血圧などの関連因子を補正して解析すると、
統計的な有意差はなくなっていたので、
それほど信頼性の高い結果ではありません。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38000943/
睡眠の状態と認知機能低下との間にも、
強い関連のあることが指摘されています。
ただ、睡眠不足は認知症のリスクになることが知られている反面、
昼寝の習慣も認知症のリスクになる、
というような知見もあって、
その関係は単純ではありません。
それでは、週末の寝だめの習慣は、
認知機能にどのような影響を与えるのでしょうか?
今回の研究は台湾において、
65歳以上の自力歩行可能な高齢者215名を登録し、
睡眠の状態を睡眠日記とウェアラブル端末による測定で記録して、
キャッチアップ睡眠がその後の認知機能に与える影響を比較検証しています。
認知機能はMMSEという簡易検査で測定されています。
これは30点満点で低いほど認知機能低下が疑われるのですが、
台湾の基準では学歴により基準が異なり、
学歴のない人は16点以下、高学歴の人は23点以下が、
認知機能障害の基準となっています。
他の認知機能に関連する因子を補正した結果として、
睡眠日記による記録によるキャッチアップ睡眠は、
その後の認知機能障害のリスクを74%(95%CI:0.09から0.69)、
加速度計の記録によるキャッチアップ睡眠は、
その後の認知機能障害のリスクを73%(95%CI:0.10から0.70)、
それぞれ有意に低下させていました。
つまりキャッチアップ睡眠が認知症を予防することを、
示唆する所見です。
ただ、こうした研究としては例数は少なく、
対象者には病気のある人もない人も含まれているので、
キャッチアップ睡眠が認知症を予防すると言うためには、
より大規模で精度の高い研究を積み重ねる必要があると思います。
従って、
これはまだ事実とまでは言えない知見ですが、
日頃睡眠不足の人にとっては、
休日に少なくとも1から2時間程度の寝だめをすることが、
健康上の害になることはなく、
睡眠不足を補う1つの方法として有効であると、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

Sleep Breath誌に、
2024年6月15日付でウェブ掲載された、
キャッチアップ睡眠(週末の寝だめ)の認知機能への影響を、
検証した論文です。
睡眠というのは食事や運動と並んで、
健康に欠かせない生活習慣の1つです。
特に睡眠時間が短いことは、
心臓病や脳卒中などの心血管疾患、認知症、
うつ病など多くの病気のリスクになることが分かっていて、
健康寿命にも悪影響を与える因子です。
そのためアメリカの睡眠関連の専門学会では、
健康のために毎日の睡眠時間を、
7時間以上にすることを推奨しています。
https://academic.oup.com/sleep/article/38/6/843/2416939
しかし、実際には多くの日本人が、
もっと短い睡眠時間で生活をしています。
そしてそうした寝不足の日本人が、
睡眠不足の解消のために、
しばしば行っている習慣が、
週末や休日の「寝だめ」です。
「休みの日は昼までゆっくり寝ていた」という、
休みの日にありがちな習慣が「寝だめ」です。
医学用語としては、キャッチアップ睡眠(catch-up sleep)、
という言い方が一般的で、
上記論文ではウィークデイの睡眠時間の平均より、
週末の睡眠時間が1時間以上長いこと、
として定義されています。
「寝だめ」は体感的には、
睡眠不足の軽減に一定の効果があるように思えます。
それでは、
週末に寝だめをすることで、
睡眠不足のもたらす健康への悪影響を、
抑制するような効果があるのでしょうか?
2024年に2月に発表されたアメリカの健康データを解析した論文では、
週末のキャッチアップ睡眠により、
その後の心血管疾患のリスクが63%低下した、
という結果が発表されています。
ただ、高血圧などの関連因子を補正して解析すると、
統計的な有意差はなくなっていたので、
それほど信頼性の高い結果ではありません。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38000943/
睡眠の状態と認知機能低下との間にも、
強い関連のあることが指摘されています。
ただ、睡眠不足は認知症のリスクになることが知られている反面、
昼寝の習慣も認知症のリスクになる、
というような知見もあって、
その関係は単純ではありません。
それでは、週末の寝だめの習慣は、
認知機能にどのような影響を与えるのでしょうか?
今回の研究は台湾において、
65歳以上の自力歩行可能な高齢者215名を登録し、
睡眠の状態を睡眠日記とウェアラブル端末による測定で記録して、
キャッチアップ睡眠がその後の認知機能に与える影響を比較検証しています。
認知機能はMMSEという簡易検査で測定されています。
これは30点満点で低いほど認知機能低下が疑われるのですが、
台湾の基準では学歴により基準が異なり、
学歴のない人は16点以下、高学歴の人は23点以下が、
認知機能障害の基準となっています。
他の認知機能に関連する因子を補正した結果として、
睡眠日記による記録によるキャッチアップ睡眠は、
その後の認知機能障害のリスクを74%(95%CI:0.09から0.69)、
加速度計の記録によるキャッチアップ睡眠は、
その後の認知機能障害のリスクを73%(95%CI:0.10から0.70)、
それぞれ有意に低下させていました。
つまりキャッチアップ睡眠が認知症を予防することを、
示唆する所見です。
ただ、こうした研究としては例数は少なく、
対象者には病気のある人もない人も含まれているので、
キャッチアップ睡眠が認知症を予防すると言うためには、
より大規模で精度の高い研究を積み重ねる必要があると思います。
従って、
これはまだ事実とまでは言えない知見ですが、
日頃睡眠不足の人にとっては、
休日に少なくとも1から2時間程度の寝だめをすることが、
健康上の害になることはなく、
睡眠不足を補う1つの方法として有効であると、
そう考えて大きな間違いはなさそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
リスの水晶体変化のメカニズム [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the Journal of Clinical Investigation誌に、
2024年9月17日付で掲載された、
白内障の制御に結び付く可能性のある、
興味深い知見についての論文です。
白内障というのは、
カメラのレンズのような働きをしている、
目の水晶体という部分が、
白濁して視力が低下する病気です。
これは老化に伴う病態ですが、
その本態は水晶体の中で、
折り畳み異常を来した蛋白質が、
凝集することで起こると考えられています。
一度そうした凝集が生じてしまうと、
元に戻ることはありません。
ただ、冬眠するリス(ジリス)の仲間では、
冬眠時には目の水晶体が白内障に似た白濁状態となり、
実際に折り畳み異常を来した蛋白の凝集が起こるのですが、
春になって温度が上昇すると、
その白濁が改善して、
元の透明な状態に戻るという現象が確認されています。
これは一体どうしたことなのでしょうか?
今回の研究では、
ジリスの細胞から作成した人工水晶体モデルを活用して、
温度による水晶体白濁改善のメカニズムを検証しています。
その結果、
温度の低下により、
水晶体の中で異常蛋白の凝集が起こるのですが、
温度が上昇することで、
RNF114 と名付けられた、
今回初めて同定された蛋白質が増加し、
それが蛋白の凝集を阻止することで、
水晶体の白濁が改善することが確認されました。
ラットは人間と同じように、
温度による水晶体の白濁改善は見られないのですが、
そこに特殊な方法で大量のRNF114を水晶体に注入すると、
ジリスと同じ水晶体白濁の改善が、
認められることも確認されました。
人間で同様のことが起こるとは、
現時点では全く不明ですが、
仮にそうしたことがあるとすると、
従来は手術以外の方法はなかった白内障の治療において、
水晶体に直接RNF114もしくは、
それと同様の作用を持つ蛋白質を注入することで、
水晶体の白濁が改善する可能性があるのです。
まだ動物実験のみの知見で、
すぐに臨床応用可能な技術ではありませんが、
将来的には白内障の手術によらない抜本的な治療が、
可能な時代が訪れるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

the Journal of Clinical Investigation誌に、
2024年9月17日付で掲載された、
白内障の制御に結び付く可能性のある、
興味深い知見についての論文です。
白内障というのは、
カメラのレンズのような働きをしている、
目の水晶体という部分が、
白濁して視力が低下する病気です。
これは老化に伴う病態ですが、
その本態は水晶体の中で、
折り畳み異常を来した蛋白質が、
凝集することで起こると考えられています。
一度そうした凝集が生じてしまうと、
元に戻ることはありません。
ただ、冬眠するリス(ジリス)の仲間では、
冬眠時には目の水晶体が白内障に似た白濁状態となり、
実際に折り畳み異常を来した蛋白の凝集が起こるのですが、
春になって温度が上昇すると、
その白濁が改善して、
元の透明な状態に戻るという現象が確認されています。
これは一体どうしたことなのでしょうか?
今回の研究では、
ジリスの細胞から作成した人工水晶体モデルを活用して、
温度による水晶体白濁改善のメカニズムを検証しています。
その結果、
温度の低下により、
水晶体の中で異常蛋白の凝集が起こるのですが、
温度が上昇することで、
RNF114 と名付けられた、
今回初めて同定された蛋白質が増加し、
それが蛋白の凝集を阻止することで、
水晶体の白濁が改善することが確認されました。
ラットは人間と同じように、
温度による水晶体の白濁改善は見られないのですが、
そこに特殊な方法で大量のRNF114を水晶体に注入すると、
ジリスと同じ水晶体白濁の改善が、
認められることも確認されました。
人間で同様のことが起こるとは、
現時点では全く不明ですが、
仮にそうしたことがあるとすると、
従来は手術以外の方法はなかった白内障の治療において、
水晶体に直接RNF114もしくは、
それと同様の作用を持つ蛋白質を注入することで、
水晶体の白濁が改善する可能性があるのです。
まだ動物実験のみの知見で、
すぐに臨床応用可能な技術ではありませんが、
将来的には白内障の手術によらない抜本的な治療が、
可能な時代が訪れるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
「動物園が消える日」(唐組・第74回公演) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

唐組の第74回公演として、
1993年に初演され、2017年に再演された、
「動物園が消える日」が再再演されました。
この作品は初演も再演も観ています。
再演時の感想はブログ記事にしていますが、
改めて読み返してみると、
今回鑑賞後と全く同じ感想だったので驚きました。
記事はこちらです。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2017-11-05-1
この作品は唐組の初期、
最初の頃のメンバーが退団した後、
過渡期に上演された作品で、
その前の「桃太郎の母」とこの作品が、
それ以降の唐先生の作品のスタイルを、
決定付けたと言って良いと思います。
この時期の唐先生を代表する傑作の1つで、
群像劇としての面白さは卓越していますし、
唐イズムは濃厚に漂いながらも、
他の唐先生の作品にはない、
唯一無二の魅力のある作品です。
過去記事にも書いたように、
テネシー・ウィリアムスなどの、
アメリカ戯曲に近い味わいのある作品で、
場末のホテルのロビーという場所の設定も、
女性のサム・スペードが西陽を浴びて登場する、
というオープニングも、
勿論舞台は日本ですが、
如何にもアメリカという気分を醸しています。
経済的な理由で金沢の動物園が閉園して、
処分に困った一頭の河馬が、
密かに殺されてしまうのですが、
動物園を愛するかつての従業員達は、
それをなかったことにすることが出来ず、
妄想の中でホテルのバスタブに、
その河馬を隠します。
その妄想を先導するのが、
初演では唐先生本人が演じた灰牙という男ですが、
水に溶けて透明になった河馬が、
ホテルの天井を突き破って飛散し、
妄想は砕けて、
「動物園が消える日」が訪れるのです。
唐先生のお芝居の本質を一言で言うなら、
「見えないものを見せる」ということだと思うのですが、
この芝居はその1つの頂点として、
失いたくない夢を象徴する巨大な河馬が、
灰牙という男に降り注ぐ水の煌きの中に可視化される、
という奇跡的な光景に結実しているのです。
素晴らしいと思います。
今回の上演は2017年の再演を超えて素晴らしいもので、
久保井さんの精緻な演出と、
小規模ながら見事な舞台効果、
メインキャストの多くは2017年版と同じキャスト陣は、
円熟した見事な芝居で唐イズムを継承し、
若手の熱演も心躍らせるものがありました。
この弾丸のように放たれる台詞のリズムこそ、
小劇場の大いなる遺産なのです。
そんな傑作であった「動物園が消える日」ですが、
実は1993年初演を観た感想はあまり良いものではなく、
「唐先生はもう終わったか」というネガティブなものでした。
当時はまだ、
「状況劇場病」から、
多くの唐ファンは抜けていなかったのです。
要するにスペクタクルなものや大仕掛け、
善悪のはっきりしたダイナミックな設定と、
迫力のある人間離れした悪役の大暴れ、
みたいなものを渇望していたので、
そこで上演されたこの作品は、
そうしたものが全くなかったので、
僕には失望しか感じさせなかったのです。
ただ、今にして思えば、
それは新生唐芝居が、
誕生した瞬間でもあったのです。
テントはあまりホスピタリティの良い場所ではありませんが、
アングラ演劇、小劇場演劇の、
精髄を示すような傑作ですので、
ご興味のある方は、
是非是非テントに足をお運びください。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

唐組の第74回公演として、
1993年に初演され、2017年に再演された、
「動物園が消える日」が再再演されました。
この作品は初演も再演も観ています。
再演時の感想はブログ記事にしていますが、
改めて読み返してみると、
今回鑑賞後と全く同じ感想だったので驚きました。
記事はこちらです。
https://rokushin.blog.ss-blog.jp/2017-11-05-1
この作品は唐組の初期、
最初の頃のメンバーが退団した後、
過渡期に上演された作品で、
その前の「桃太郎の母」とこの作品が、
それ以降の唐先生の作品のスタイルを、
決定付けたと言って良いと思います。
この時期の唐先生を代表する傑作の1つで、
群像劇としての面白さは卓越していますし、
唐イズムは濃厚に漂いながらも、
他の唐先生の作品にはない、
唯一無二の魅力のある作品です。
過去記事にも書いたように、
テネシー・ウィリアムスなどの、
アメリカ戯曲に近い味わいのある作品で、
場末のホテルのロビーという場所の設定も、
女性のサム・スペードが西陽を浴びて登場する、
というオープニングも、
勿論舞台は日本ですが、
如何にもアメリカという気分を醸しています。
経済的な理由で金沢の動物園が閉園して、
処分に困った一頭の河馬が、
密かに殺されてしまうのですが、
動物園を愛するかつての従業員達は、
それをなかったことにすることが出来ず、
妄想の中でホテルのバスタブに、
その河馬を隠します。
その妄想を先導するのが、
初演では唐先生本人が演じた灰牙という男ですが、
水に溶けて透明になった河馬が、
ホテルの天井を突き破って飛散し、
妄想は砕けて、
「動物園が消える日」が訪れるのです。
唐先生のお芝居の本質を一言で言うなら、
「見えないものを見せる」ということだと思うのですが、
この芝居はその1つの頂点として、
失いたくない夢を象徴する巨大な河馬が、
灰牙という男に降り注ぐ水の煌きの中に可視化される、
という奇跡的な光景に結実しているのです。
素晴らしいと思います。
今回の上演は2017年の再演を超えて素晴らしいもので、
久保井さんの精緻な演出と、
小規模ながら見事な舞台効果、
メインキャストの多くは2017年版と同じキャスト陣は、
円熟した見事な芝居で唐イズムを継承し、
若手の熱演も心躍らせるものがありました。
この弾丸のように放たれる台詞のリズムこそ、
小劇場の大いなる遺産なのです。
そんな傑作であった「動物園が消える日」ですが、
実は1993年初演を観た感想はあまり良いものではなく、
「唐先生はもう終わったか」というネガティブなものでした。
当時はまだ、
「状況劇場病」から、
多くの唐ファンは抜けていなかったのです。
要するにスペクタクルなものや大仕掛け、
善悪のはっきりしたダイナミックな設定と、
迫力のある人間離れした悪役の大暴れ、
みたいなものを渇望していたので、
そこで上演されたこの作品は、
そうしたものが全くなかったので、
僕には失望しか感じさせなかったのです。
ただ、今にして思えば、
それは新生唐芝居が、
誕生した瞬間でもあったのです。
テントはあまりホスピタリティの良い場所ではありませんが、
アングラ演劇、小劇場演劇の、
精髄を示すような傑作ですので、
ご興味のある方は、
是非是非テントに足をお運びください。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
抗菌剤の使用と自然気胸との関連性 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は保育園の健診などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

BMJグループのThorax誌に、
2024年10月11日付で掲載された、
現在広く使用されている抗菌剤と、
自然気胸という肺の病気との関連についての論文です。
ニューキノロン(フルオロキノロン)系の抗菌剤というのは、
レボフロキサシン(クラビット)、シプロフロキサシン(シプロキサン)、
オフロキサシン(タリビット)、ガレノキサシン(ジェニナック)、
シタフロキサシン(ジェニナック)などがそれに当たります。
このタイプの抗菌剤は経口剤が主体で使用が簡便で、
その効果は強力なので、
国内外を問わず広く使用されています。
ただ、このタイプの抗菌剤は、
ペニシリン系の抗生物質と比較すると、
人間の細胞に対する毒性が強く、
神経細胞に対する毒性から痙攣を誘発するなど、
他の抗菌剤にはあまり見られない、
有害事象や副作用の原因となります。
そうしたニューキノロンに特徴的な副作用の1つが、
アキレス腱の炎症やその断裂です。
これは、ニューキノロンの抗菌作用以外の作用に、
その原因があると考えられています。
報告によると、
マトリックス・メタロプロテアーゼという、
コラーゲンなどの膠原繊維を分解する酵素があり、
その酵素を刺激することにより、
腱組織などの炎症に結び付きやすいと想定されています。
つまり、ニューキノロン系抗菌薬の使用により、
コラーゲン繊維が脆弱となり、
コラーゲン関連の有害事象に結び付く可能性があります。
実際アキレス腱断裂以外にも、
大動脈の解離や網膜剥離など、
コラーゲン繊維の障害によると想定される、
ニューキノロン系抗菌薬使用後の、
有害事象の増加が報告されています。
自然気胸は肺に何らかの原因で穴が開き、
そこから空気が漏れ出て、肺を圧迫してしまう病気です。
「自然」というのは、
外傷などによらない、という意味です。
その多くは肺に嚢胞など、
破れやすい場所があるために起こりますが、
コラーゲン組織に異常があると発症しやすいため、
ニューキノロン系抗菌剤の使用との関連を、
指摘する意見があります。
ただ、現状その関連を実証するような、
信頼のおけるデータの報告はありません。
ニューキノロン系の抗菌剤の使用は、
本当に自然気胸のリスクになるのでしょうか?
今回の研究はフランスにおいて、
自然気胸を発症して入院し、
発症の前後にニューキノロン系抗菌薬を使用した246例と、
比較対照として、
一般的な抗生物質であるペニシリン系のアモキシシリンを、
同様に発症の前後に使用した3316例とを、
比較検証しています。
その結果、
ニューキノロン系抗菌薬を発症前30日以内に使用すると、
それ以外の期間に使用した場合と比較して、
自然気胸のリスクは1.59倍(95%CI:1.14 から2.22)、
有意に増加していました。
一方でペニシリン系のアモキシシリンを発症前30日以内に使用すると、
それ以外の期間に使用した場合と比較して、
自然気胸のリスクはより高く、
2.25倍(95%CI:2.07から2.45)有意に増加していました。
要するに、
確かにニューキノロン系抗菌薬の使用後には、
自然気胸のリスクは増加していたのですが、
コラーゲン繊維に悪影響は与えない筈のペニシリンの使用の方が、
より自然気胸のリスク増加に繋がっていた、
という結果です。
おそらく抗菌剤使用後の自然気胸の増加は、
抗菌剤使用そのものが原因なのではなく、
その使用の理由である感染症の存在自体が、
リスク増加に繋がっていると考えた方が良さそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は保育園の健診などで都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

BMJグループのThorax誌に、
2024年10月11日付で掲載された、
現在広く使用されている抗菌剤と、
自然気胸という肺の病気との関連についての論文です。
ニューキノロン(フルオロキノロン)系の抗菌剤というのは、
レボフロキサシン(クラビット)、シプロフロキサシン(シプロキサン)、
オフロキサシン(タリビット)、ガレノキサシン(ジェニナック)、
シタフロキサシン(ジェニナック)などがそれに当たります。
このタイプの抗菌剤は経口剤が主体で使用が簡便で、
その効果は強力なので、
国内外を問わず広く使用されています。
ただ、このタイプの抗菌剤は、
ペニシリン系の抗生物質と比較すると、
人間の細胞に対する毒性が強く、
神経細胞に対する毒性から痙攣を誘発するなど、
他の抗菌剤にはあまり見られない、
有害事象や副作用の原因となります。
そうしたニューキノロンに特徴的な副作用の1つが、
アキレス腱の炎症やその断裂です。
これは、ニューキノロンの抗菌作用以外の作用に、
その原因があると考えられています。
報告によると、
マトリックス・メタロプロテアーゼという、
コラーゲンなどの膠原繊維を分解する酵素があり、
その酵素を刺激することにより、
腱組織などの炎症に結び付きやすいと想定されています。
つまり、ニューキノロン系抗菌薬の使用により、
コラーゲン繊維が脆弱となり、
コラーゲン関連の有害事象に結び付く可能性があります。
実際アキレス腱断裂以外にも、
大動脈の解離や網膜剥離など、
コラーゲン繊維の障害によると想定される、
ニューキノロン系抗菌薬使用後の、
有害事象の増加が報告されています。
自然気胸は肺に何らかの原因で穴が開き、
そこから空気が漏れ出て、肺を圧迫してしまう病気です。
「自然」というのは、
外傷などによらない、という意味です。
その多くは肺に嚢胞など、
破れやすい場所があるために起こりますが、
コラーゲン組織に異常があると発症しやすいため、
ニューキノロン系抗菌剤の使用との関連を、
指摘する意見があります。
ただ、現状その関連を実証するような、
信頼のおけるデータの報告はありません。
ニューキノロン系の抗菌剤の使用は、
本当に自然気胸のリスクになるのでしょうか?
今回の研究はフランスにおいて、
自然気胸を発症して入院し、
発症の前後にニューキノロン系抗菌薬を使用した246例と、
比較対照として、
一般的な抗生物質であるペニシリン系のアモキシシリンを、
同様に発症の前後に使用した3316例とを、
比較検証しています。
その結果、
ニューキノロン系抗菌薬を発症前30日以内に使用すると、
それ以外の期間に使用した場合と比較して、
自然気胸のリスクは1.59倍(95%CI:1.14 から2.22)、
有意に増加していました。
一方でペニシリン系のアモキシシリンを発症前30日以内に使用すると、
それ以外の期間に使用した場合と比較して、
自然気胸のリスクはより高く、
2.25倍(95%CI:2.07から2.45)有意に増加していました。
要するに、
確かにニューキノロン系抗菌薬の使用後には、
自然気胸のリスクは増加していたのですが、
コラーゲン繊維に悪影響は与えない筈のペニシリンの使用の方が、
より自然気胸のリスク増加に繋がっていた、
という結果です。
おそらく抗菌剤使用後の自然気胸の増加は、
抗菌剤使用そのものが原因なのではなく、
その使用の理由である感染症の存在自体が、
リスク増加に繋がっていると考えた方が良さそうです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ナッツの摂取と認知症リスク(2024年UKバイオバンク解析データ) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

GeroScience誌に2024年9月30日付で掲載された、
ナッツの摂取量と認知症リスクとの関係についての論文です。
認知症の予防効果のある食事として、
複数のデータのある地中海ダイエットは、
ギリシャなど地中海周辺地域の伝統的な食事で、
その特徴の1つはナッツの摂取です。
ただ、ナッツを強化した食事の認知症予防効果については、
効果のあったとするデータもある一方で、
明確な有効性は見られなかったとするデータもあって、
その評価は一致していません。
そこで今回の研究では、
遺伝情報を含む大規模な健康関連のデータを蓄積している、
イギリスのUKバイオバンクの住民データを活用して、
この問題の検証を行っています。
対象となっているのは、
登録の時点で認知症のない、
平均年齢56.5歳のトータル50386名の男女です。
観察期間において、
そのうちの2.8%に当たる1422例で認知症が診断されています。
ナッツを殆ど食べない場合と比較して、
毎日ナッツを食べる習慣のある人では、
平均で7.1年の観察期間におけるトータルな認知症のリスクが、
他のリスク因子を調整した結果として、
12%(95%CI:0.77から0.99)有意に低下していました。
このリスク低下は、
1日30グラムまでの塩分を含まないナッツで、
最も高い傾向が認められました。
このように、
今回の大規模な疫学データにおいては、
毎日少量の塩分を含まないナッツを食べる習慣が、
認知症リスク低下に、
一定の有効性が確認されました。
勿論ナッツだけで認知症が防げる、
ということはありませんが、
凡百のサプリメントを購入するより、
毎日少量の無塩ナッツを食べる習慣は、
多くの病気の予防効果が確認されていると言って、
間違いはないと思います。
ただ、くれぐれも食べ過ぎにはお気をつけ下さい。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。

GeroScience誌に2024年9月30日付で掲載された、
ナッツの摂取量と認知症リスクとの関係についての論文です。
認知症の予防効果のある食事として、
複数のデータのある地中海ダイエットは、
ギリシャなど地中海周辺地域の伝統的な食事で、
その特徴の1つはナッツの摂取です。
ただ、ナッツを強化した食事の認知症予防効果については、
効果のあったとするデータもある一方で、
明確な有効性は見られなかったとするデータもあって、
その評価は一致していません。
そこで今回の研究では、
遺伝情報を含む大規模な健康関連のデータを蓄積している、
イギリスのUKバイオバンクの住民データを活用して、
この問題の検証を行っています。
対象となっているのは、
登録の時点で認知症のない、
平均年齢56.5歳のトータル50386名の男女です。
観察期間において、
そのうちの2.8%に当たる1422例で認知症が診断されています。
ナッツを殆ど食べない場合と比較して、
毎日ナッツを食べる習慣のある人では、
平均で7.1年の観察期間におけるトータルな認知症のリスクが、
他のリスク因子を調整した結果として、
12%(95%CI:0.77から0.99)有意に低下していました。
このリスク低下は、
1日30グラムまでの塩分を含まないナッツで、
最も高い傾向が認められました。
このように、
今回の大規模な疫学データにおいては、
毎日少量の塩分を含まないナッツを食べる習慣が、
認知症リスク低下に、
一定の有効性が確認されました。
勿論ナッツだけで認知症が防げる、
ということはありませんが、
凡百のサプリメントを購入するより、
毎日少量の無塩ナッツを食べる習慣は、
多くの病気の予防効果が確認されていると言って、
間違いはないと思います。
ただ、くれぐれも食べ過ぎにはお気をつけ下さい。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
マクドナー「ピローマン」(2024年新国立劇場 小川絵梨子演出版) [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

マクドナーが2003年に発表した傑作「ピローマン」が、
新国立劇場のレパートリーとして、
芸術監督の小川絵梨子さんの台本・演出で、
今上演されています。
この作品は長塚圭史さんがパルコ劇場で、
2004年にいち早く上演しています。
長塚さんはその前に、
「ウィートーマス」という怪作を上演していて、
その印象が強烈だったので、
今回もそんな感じかしらと思って観に行くと、
後藤ひろひとさんや、中島らもさんがパルコ劇場でやっていた、
童話タッチのホラー芝居みたいなタッチのもので、
延々と童話の語りの芝居が続くので、
「なんじゃこりゃ」という感じで、
ほぼほぼ後半は睡魔と闘った、
という恥ずかしい鑑賞でした。
ただ、その後マクドナーの作品が次々と上演され、
それがまた抜群に面白いので、
これは絶対「ピローマン」も面白かった筈だ、
僕の理解が足りなかったのだと反省。
再演の機会を窺っていたのですが、
2022年に演劇集団円の上演があって、
そこで初めてこの作品の真価を知った、
というような流れがあります。
ただ、その時の上演もややモヤモヤする部分はあり、
寺十吾さんの演出は僕は大好きなのですが、
「ピローマン」の演出としては、
もう一工夫あるべきではないか、
この作品はもっと衝撃的で、
もっと感動的なものなのではないか、
という感じが抜けませんでした。
それで今回、翻訳もされ、
マクドナー演劇を知り尽くしている小川さんの演出で、
この作品が再演されることを知って、
「これは絶対行かなければ」と思い、
劇場に駆け付けた、という感じで足を運びました。
戯曲も買いました。
鑑賞後の感想としては、
これまで僕が観た上演の中では、
今回が抜群だったと思います。
ただ、これが完成形かと言うと、
そうではないという気持ちもあります。
この作品はある全体主義的国家が舞台となっていて、
時も処もあまり明確ではない設定になっています。
明確でないのはそればかりではなくて、
メインのキャストは4人の男性ですが、
その年齢も明らかではありません。
カトゥリアンとミカエルという兄弟がいて、
幼少期に両親による悪夢的な実験を受けた結果、
兄のミカエルは知的障害が残り、
弟のカトゥリアンは、
動物処理場の仕事をしながら、
その多くで子供が酷い目に遭う、
残酷な童話を書いています。
その残酷な童話そっくりに、
2人の子供が連続して殺されるという事件が起き、
更に少女が行方不明となったため、
警察は童話と殺人との関連を疑い、
作者のカトゥリアンを捕らえて尋問します。
残りの2人のメインキャストは、
トゥポルスキとアリエルという刑事で、
この2人の刑事が、
拘留されたカトゥリアンを尋問するところから、
この舞台は始まります。
こうした設定から、
サイコスリラーみたいなものを期待して、
多くの観客は観始めるのですが、
最初から本筋にはなかなか入らない、
かなりまわりくどい対話が続き、
事件の元になったらしい童話を、
ほぼ全文語りで説明する、という描写が続くので、
何だか予想とは違うぞ、
という空気が漂います。
その後で、今度は兄弟の悲惨な生い立ちが語られるのですが、
それもカトゥリアンが書いた、
事実を改変した童話という形で語られ、
後半では今度は刑事の1人が、
自分の小説を1人語りするパートまであります。
事件の真相は明らかにはなるものの、
別に捻りがあるという訳ではなく、
それは無雑作に途中で提示されるだけです。
お分かりのように、
これはサイコスリラーではなくて、
悲惨で残酷な世界の中で、
「物語」はどういう価値を持つのか、
というテーマの作品なのです。
猟奇的な事件が起こると、
そのヒントとなったと思われる小説やドラマが、
やり玉に挙げられることがありますよね。
残酷な世界には、残酷な物語も満ちている訳ですが、
その物語は現実世界に、
どのような影響を与え、
それがあることは、
どのような意味を持つのでしょうか?
暴力の連鎖というものが言われることがあります。
親の暴力が子供に影響を与え、
その子供の暴力に繋がるというような概念ですが、
悲惨な出来事を物語化することで、
物語の影響も連鎖するのでしょうか?
それが現実を改変する可能性はあるのでしょうか?
その創作するものにとって根源的な問いかけを作品化したのが、
この「ピローマン」なのです。
虐待され閉じ込められた兄弟とか、
残酷な物語が現実化する恐怖とか、
この作品は松尾スズキさんの劇作に、
非常に近い部分があるんですね。
ほぼ同じじゃないか、と思えるような部分もあります。
ただ、僕は松尾さんの作品も大好きなのですが、
今松尾さんの過去作を上演しても、
この作品のような感銘を与えることは難しいと思います。
それは松尾さんの作品が、
それが書かれた時代にかなり強く結びついていて、
今ではどうしても古く見えてしまうんですね。
許容される表現の範囲が、
発表当時と今とではかなり違っているため、
そのままの上演は難しかったり、
観客の拒否反応を招く、
という点もハードルとなっています。
その点この「ピローマン」は、
敢えて設定に多くの余白を作ることで、
空間や時間を超えた、
極めて普遍的な作品に昇華されている点が、
素晴らしいのですね。
ただ、このように傑作であることは間違いのない「ピローマン」ですが、
実際に日本で翻訳劇として上演して、
その真価を観客に伝えることは、
それほど簡単な作業ではありません。
この作品の主題は「物語」なので、
役者が「物語」を語り、
それを可視化することが、
ストーリーの中心にあるんですね。
最初は尋問でカトゥリアンに語られるだけの物語が、
その後のパートでは演劇的に可視化され、
それが現実と対話することで、
現実も動き始めます。
そして、物語が1つの命を救うという、
感動的なパートがあり、
ラストは非常に残酷なものでありながら、
「死者の語り」という様式を持つことで、
物語が現実を超えて生きる可能性を示唆して終わるのです。
この物語を観客に理解してもらうには、
残酷な童話の語りを、
しっかりと集中して聞いてもらわないといけません。
ただ、そのために物語を可視化するような演出をすると、
その後のパートで物語が可視化されることの、
印象を弱めてしまうので、
そうしたことは出来ないのです。
つまり、敢えて前半を退屈にする必要がある訳です。
日本初演の長塚圭史さんの演出では、
最初から残酷な童話の中に入り込んだような、
グロテスクでポップな世界が展開されましたが、
特に前半台詞の雰囲気とのギャップが違和感を感じさせました。
「如何にも凄いことが起こりそうなのに、左程のことが起こらない」
という印象がどうしても残ってしまったのです。
2022年の寺十吾さんの演出では、
全てが闇に包まれたようなダークな世界が展開され、
特に尋問の場面は良かったと思うのですが、
後半はもっと残酷演劇的なポップさや色彩感が、
欲しいように思いました。
今回の小川絵梨子さんの演出は、
翻訳もしてこの作品を熟知しているだけあって、
シンプルな舞台装置の中央ステージに、
語りをしっかりと伝えられる技量を持つ、
4人のキャストを配し、
この作品の台詞劇としての豊饒さを、
シンプルに伝えることに力点を置いた、
高レベルのものでした。
ただ、それでも不満もあります。
まずキャストが地味ですよね。
勿論実力重視で悪い訳ではないのです。
でもこの作品は、オールスターキャストでも、
悪くないと思うんですよね。
メインの4人は物凄い個性のぶつかり合いで、
キャラ設定も非常に明確でしょ。
このキャラならこの人がベスト、
というような人に、
演じてもらいたい気持ちもあるのです。
それから後半の悪夢的な光景は、
もっと極彩色の感じが欲しいんですね。
今回のものは、まあ新国立劇場という枠もあるので、
あまりグロテスクな描写は、
出しにくかったのだと思いますが、
本来はもっと凄味のあるものにして欲しかった、
という部分はあります。
いずれにしても、
松尾スズキさんのこれまでの劇作の全てを、
煮詰めて蒸留して1つに結晶させたような傑作で、
今後もまた新しいアプローチでの上演に、
是非期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は祝日でクリニックは休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。

マクドナーが2003年に発表した傑作「ピローマン」が、
新国立劇場のレパートリーとして、
芸術監督の小川絵梨子さんの台本・演出で、
今上演されています。
この作品は長塚圭史さんがパルコ劇場で、
2004年にいち早く上演しています。
長塚さんはその前に、
「ウィートーマス」という怪作を上演していて、
その印象が強烈だったので、
今回もそんな感じかしらと思って観に行くと、
後藤ひろひとさんや、中島らもさんがパルコ劇場でやっていた、
童話タッチのホラー芝居みたいなタッチのもので、
延々と童話の語りの芝居が続くので、
「なんじゃこりゃ」という感じで、
ほぼほぼ後半は睡魔と闘った、
という恥ずかしい鑑賞でした。
ただ、その後マクドナーの作品が次々と上演され、
それがまた抜群に面白いので、
これは絶対「ピローマン」も面白かった筈だ、
僕の理解が足りなかったのだと反省。
再演の機会を窺っていたのですが、
2022年に演劇集団円の上演があって、
そこで初めてこの作品の真価を知った、
というような流れがあります。
ただ、その時の上演もややモヤモヤする部分はあり、
寺十吾さんの演出は僕は大好きなのですが、
「ピローマン」の演出としては、
もう一工夫あるべきではないか、
この作品はもっと衝撃的で、
もっと感動的なものなのではないか、
という感じが抜けませんでした。
それで今回、翻訳もされ、
マクドナー演劇を知り尽くしている小川さんの演出で、
この作品が再演されることを知って、
「これは絶対行かなければ」と思い、
劇場に駆け付けた、という感じで足を運びました。
戯曲も買いました。
鑑賞後の感想としては、
これまで僕が観た上演の中では、
今回が抜群だったと思います。
ただ、これが完成形かと言うと、
そうではないという気持ちもあります。
この作品はある全体主義的国家が舞台となっていて、
時も処もあまり明確ではない設定になっています。
明確でないのはそればかりではなくて、
メインのキャストは4人の男性ですが、
その年齢も明らかではありません。
カトゥリアンとミカエルという兄弟がいて、
幼少期に両親による悪夢的な実験を受けた結果、
兄のミカエルは知的障害が残り、
弟のカトゥリアンは、
動物処理場の仕事をしながら、
その多くで子供が酷い目に遭う、
残酷な童話を書いています。
その残酷な童話そっくりに、
2人の子供が連続して殺されるという事件が起き、
更に少女が行方不明となったため、
警察は童話と殺人との関連を疑い、
作者のカトゥリアンを捕らえて尋問します。
残りの2人のメインキャストは、
トゥポルスキとアリエルという刑事で、
この2人の刑事が、
拘留されたカトゥリアンを尋問するところから、
この舞台は始まります。
こうした設定から、
サイコスリラーみたいなものを期待して、
多くの観客は観始めるのですが、
最初から本筋にはなかなか入らない、
かなりまわりくどい対話が続き、
事件の元になったらしい童話を、
ほぼ全文語りで説明する、という描写が続くので、
何だか予想とは違うぞ、
という空気が漂います。
その後で、今度は兄弟の悲惨な生い立ちが語られるのですが、
それもカトゥリアンが書いた、
事実を改変した童話という形で語られ、
後半では今度は刑事の1人が、
自分の小説を1人語りするパートまであります。
事件の真相は明らかにはなるものの、
別に捻りがあるという訳ではなく、
それは無雑作に途中で提示されるだけです。
お分かりのように、
これはサイコスリラーではなくて、
悲惨で残酷な世界の中で、
「物語」はどういう価値を持つのか、
というテーマの作品なのです。
猟奇的な事件が起こると、
そのヒントとなったと思われる小説やドラマが、
やり玉に挙げられることがありますよね。
残酷な世界には、残酷な物語も満ちている訳ですが、
その物語は現実世界に、
どのような影響を与え、
それがあることは、
どのような意味を持つのでしょうか?
暴力の連鎖というものが言われることがあります。
親の暴力が子供に影響を与え、
その子供の暴力に繋がるというような概念ですが、
悲惨な出来事を物語化することで、
物語の影響も連鎖するのでしょうか?
それが現実を改変する可能性はあるのでしょうか?
その創作するものにとって根源的な問いかけを作品化したのが、
この「ピローマン」なのです。
虐待され閉じ込められた兄弟とか、
残酷な物語が現実化する恐怖とか、
この作品は松尾スズキさんの劇作に、
非常に近い部分があるんですね。
ほぼ同じじゃないか、と思えるような部分もあります。
ただ、僕は松尾さんの作品も大好きなのですが、
今松尾さんの過去作を上演しても、
この作品のような感銘を与えることは難しいと思います。
それは松尾さんの作品が、
それが書かれた時代にかなり強く結びついていて、
今ではどうしても古く見えてしまうんですね。
許容される表現の範囲が、
発表当時と今とではかなり違っているため、
そのままの上演は難しかったり、
観客の拒否反応を招く、
という点もハードルとなっています。
その点この「ピローマン」は、
敢えて設定に多くの余白を作ることで、
空間や時間を超えた、
極めて普遍的な作品に昇華されている点が、
素晴らしいのですね。
ただ、このように傑作であることは間違いのない「ピローマン」ですが、
実際に日本で翻訳劇として上演して、
その真価を観客に伝えることは、
それほど簡単な作業ではありません。
この作品の主題は「物語」なので、
役者が「物語」を語り、
それを可視化することが、
ストーリーの中心にあるんですね。
最初は尋問でカトゥリアンに語られるだけの物語が、
その後のパートでは演劇的に可視化され、
それが現実と対話することで、
現実も動き始めます。
そして、物語が1つの命を救うという、
感動的なパートがあり、
ラストは非常に残酷なものでありながら、
「死者の語り」という様式を持つことで、
物語が現実を超えて生きる可能性を示唆して終わるのです。
この物語を観客に理解してもらうには、
残酷な童話の語りを、
しっかりと集中して聞いてもらわないといけません。
ただ、そのために物語を可視化するような演出をすると、
その後のパートで物語が可視化されることの、
印象を弱めてしまうので、
そうしたことは出来ないのです。
つまり、敢えて前半を退屈にする必要がある訳です。
日本初演の長塚圭史さんの演出では、
最初から残酷な童話の中に入り込んだような、
グロテスクでポップな世界が展開されましたが、
特に前半台詞の雰囲気とのギャップが違和感を感じさせました。
「如何にも凄いことが起こりそうなのに、左程のことが起こらない」
という印象がどうしても残ってしまったのです。
2022年の寺十吾さんの演出では、
全てが闇に包まれたようなダークな世界が展開され、
特に尋問の場面は良かったと思うのですが、
後半はもっと残酷演劇的なポップさや色彩感が、
欲しいように思いました。
今回の小川絵梨子さんの演出は、
翻訳もしてこの作品を熟知しているだけあって、
シンプルな舞台装置の中央ステージに、
語りをしっかりと伝えられる技量を持つ、
4人のキャストを配し、
この作品の台詞劇としての豊饒さを、
シンプルに伝えることに力点を置いた、
高レベルのものでした。
ただ、それでも不満もあります。
まずキャストが地味ですよね。
勿論実力重視で悪い訳ではないのです。
でもこの作品は、オールスターキャストでも、
悪くないと思うんですよね。
メインの4人は物凄い個性のぶつかり合いで、
キャラ設定も非常に明確でしょ。
このキャラならこの人がベスト、
というような人に、
演じてもらいたい気持ちもあるのです。
それから後半の悪夢的な光景は、
もっと極彩色の感じが欲しいんですね。
今回のものは、まあ新国立劇場という枠もあるので、
あまりグロテスクな描写は、
出しにくかったのだと思いますが、
本来はもっと凄味のあるものにして欲しかった、
という部分はあります。
いずれにしても、
松尾スズキさんのこれまでの劇作の全てを、
煮詰めて蒸留して1つに結晶させたような傑作で、
今後もまた新しいアプローチでの上演に、
是非期待をしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。