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「青春18×2 君へと続く道」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
青春18×18.jpg
藤井道人監督が日本台湾合作の青春映画を作りました。

これは岩井俊二作品へのリスペクトがベースにあって、
内容自体は物凄くベタな感じのものなのですが、
台湾のパートは如何にも台湾映画らしい空気感があり、良さがあって、
その一方日本のパートは、
こちらはモロに岩井俊二さんの空気感があって、
それが非常に幸福な出逢い方をしている、
という感じがありました。

台湾で台湾流にお茶を飲む場面があると、
日本でも日本風にお茶を飲む場面があり、
台湾の列車の場面があると、
それに対比される日本の列車の場面もあって、
それがとても綺麗にシンクロして、
お互いをリスペクトし合っている、
という雰囲気がとても良いのですね。
合作の理想だな、という気がするのですが、
意外にこうしたものが今までになかったという気がします。

特に台湾のランタンを飛ばす景色と、
それから18年後に日本でランタンを飛ばす場面が、
見事にシンクロするという奇観は、
本当に感動的で素晴らしかったと思います。

この映画の成功の一番の肝は、
主人公の青年を台湾のシュー・グァンハンさんが演じたことで、
ある意味かなり気恥ずかしい感じの役柄なのですが、
彼がこれを自然体で演じることで、
こちらも自然体で作品の世界に没入出来る雰囲気が醸成されました。

合作としてはかなりの成功例と言って良い、
奇を衒わない愛すべき力作で、
シンプルな恋愛映画が観たい、
という向きには今一番のお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「蛇の道」(フランス版セルフリメイク) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
蛇の道.jpg
黒沢清監督が1998年にビデオムービーとして作った作品を、
フランスを舞台とした、
セルフリメイクの新作映画としてリクリエーションし、
日本とフランスなどの合作として製作された映画が、
今ロードショー公開されています。

黒沢清監督は大ファンで、
関連するインタビュー本なども全て持っているので、
これは絶対観なければと思い公開早々に鑑賞しました。

監督の作品は、
一般受けはあまりしないことが多く、
あっと言う間に公開が終了してしまうことが多いからです。

殺された娘の復讐を誓う男に、
謎の人物が協力して、
犯人の疑いのある男を監禁して拷問するのですが、
監禁された男は、
別の人物を真犯人として告発するので、
その告発の連鎖の中で、
事件の真相は次第にあやふやになり、
復讐を誓う男と協力者との関係も、
変貌して迷宮のような世界に誘われます。

オリジナルは謎の協力者を、
数学者で塾教師の男に設定して、
哀川翔さんが演じたのですが、
今回のリメイク版ではフランスに舞台を移し、
復讐を誓う男をフランス人の男性が演じる一方、
協力者は柴咲コウさん演じる、
フランス在住の心療内科医に変更しています。
そのため全体の構成はほぼ同じであるものの、
ラストは全く新しいものになっています。

オリジナルは哀川翔さんが、
謎めいた、別世界から現れたような人物で、
その正体は最後まで明確に明かされることはなく、
最後は観客も別世界に誘われるような感じがあるのですが、
今回のリメイク版では、
柴咲さんの意図はもう少し明確になっていて、
「CURE」の催眠術師に近いニュアンスがあり、
ラストもより明確なものになっています。

これはオリジナル版も面白いし、
今回のリメイク版も、
黒沢清監督のファンにはたまらない、
傑作の1つになっていたと思います。

オリジナルはね、
北野武映画の影響が大きいと思うのですね。
哀川翔さんの役を、
北野武さんがやればピタリと来る、という感じなんですね。
暴力の連鎖の感じも、
ちょっと歪んだ間抜けなキャラの感じも、
北野映画の匂いがプンプンとする感じです。
ただ、脚本の高橋洋さんが、
「怪奇大作戦」や「悪魔くん」、「妖怪人間ベム」などで育った、
怪奇大好きな人なので、
仕込み杖の女殺し屋など、
怪奇に寄せたキャラが登場すると共に、
大和屋竺さんのトリッキーな脚本による、
ルパン3世ファーストシーズンや、
鈴木清順監督の「殺しの烙印」、
若松孝二監督の「処女ゲバゲバ」みたいな世界も、
同時に展開されるのが魅力です。

今回のリメイクは、
柴咲コウさんが患者を操る感じなどに、
「CURE」のテイストがありながら、
大和屋竺風の怪奇味のあるトリッキーな残酷劇の雰囲気、
1970年代モノクロ映画の感じも、
濃厚に漂っていて、
僕は最初から、いいな、いいな、という感じで観ていて、
最後のモニターの中で青木崇高さんが凍り付くカットまで、
これでなくちゃ、という感じで堪能することが出来ました。

大好きです。

ただ、一般の映画ファンの方が観て、
皆さんが面白いと感じるような作品ではなく、
ヒッチコック映画と同じく、
これはその1つ1つのカットの技巧を、
藝術品として楽しむようなタイプの映画なので、
是非その点は理解の上で鑑賞して頂きたいと思います。

たとえば、街中の廃墟みたいな場所で、
監禁することが不自然、というような意見があるのですね。
それは普通に考えれば勿論そうなのですが、
そういうリアルな表現を一旦排除したところに、
この映画のビジュアルは成立しているんですね。
それは「処女ゲバゲバ」で密室での拷問劇を、
敢えて荒野で表現する、というのと同じなんですね。

黒沢清監督は、
その書かれたものやインタビュー記事などを読めば、
物凄くロジカルに、
1つ1つのカットを考える人なんですね。
好い加減に撮られたカットは1つたりともないのです。
なので一見、いい加減で辻褄の合わないように思えるシーンでも、
映画としてのロジックは緻密で一貫しているものなのです。
観ながらそれを確認して読み解くことが、
黒沢清作品の一番の醍醐味なのです。

今回の作品もその1つの完成形と言える傑作で、
是非大スクリーンで鑑賞出来る機会を、
お見逃しにならないようにして下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「マッドマックス フュリオサ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
マッドマックス フュリオサ.jpg
マッドマックスの新作が今公開されています。
大傑作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の前日談で、
前作でシャーリーズ・セロンが演じたヒロインのフュリオサの、
前作のオープニングに至るまでの人生を辿ります。

今回の作品のラストがそのまま前作に繋がり、
ラストクレジットでは前作の映像が流れるという趣向です。

これはそれなりに良かったのですね。

極彩色のオープニングから、
ただ事ではない感じでワクワクしますし、
ラストまでつるべ打ちのように、
壮絶なアクションが展開されます。
ヒロインの魅力もなかなかです。

ただ、観る前から想像の付くことですが、
「前日談」というのは弱いですよね。
観終わった瞬間の感想は
「やっぱりデス・ロードは良かったね」
という感じなんですね。
壮大な前振りではあるのですが、
所詮前振りは前振りであるからです。

あと、今回登場する悪役のディメンタス将軍が、
矢張りキャラとして弱いのですね。
スーパーヒーローを演じた役者さんが演じる、
というところに捻りがあるのですが、
正直悪さがあまり感じられないので、
どうしても弱いなあ、という感じが最後まで抜けませんでした。
それから、もっと前作からは想像の付かないようなキャラや兵器が、
バンバン出て欲しかったな、と思うのですが、
全て前作から想像出来る範囲のものしか出て来ないのですね。
それも弱いなあ、と感じてしまいました。

そんな訳で世界観はとても良かったのですが、
どうしても前作のおまけ的な感じが抜けず、
少し残念な思いはありました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「関心領域」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
関心領域.jpg
ポーランドなどの合作で、
2023年のカンヌのグランプリを獲得した「関心領域」が、
今ロードショー公開されています。

これは内容というよりも、
その様式がかなり特異な映画で、
オープニングから映像のない黒い画面に、
気持ちを逆なでするような音楽のみが、
延々と流れますし、
ラストも再び音効のみで締め括られます。

観ていない方も多くがご存じのように、
アウシュビッツ収容所の所長を長く務めた、
ルドルフ・ヘスの一家のドラマが、
その隣にある収容所での虐殺を、
ないものであるかのように展開され、
その家族劇的な凡庸なドラマのみが、
ほぼ作品の全てとなっています。

確かに面白い発想だと思います。

ただ、鑑賞前のイメージとしては、
本当に牧歌的な美しい家族のドラマのみが展開され、
そのまま終わるようなものを想定していたのですが、
実際にはそれほど徹底している訳ではなくて、
ヘスの妻の母親は、
その異様な雰囲気に怖れをなして逃亡してしまいますし、
途中で暗視カメラのような映像が流れ、
ポーランドの地元の少女が、
密かにユダヤ人を助ける、
というようなパートが童話的に差し挟まれます。
わざわざ暗視カメラにしたのは、
それが「見えない」ということを徹底しているのだと思いますが、
何か中途半端な印象になるので、
却って入れない方が良かったように感じました。
ラストにヘスが意味ありげに嘔吐するのも、
拮抗を欠くような気がしますし、
現在の博物館となったアウシュビッツで、
職員が掃除をする風景を唐突に入れるのも、
とても意地悪でひねくれた発想だなあ、
とは思うものの、
これもない方が良かったように感じました。

全体に描写がしつこいのも個人的には趣味ではなくて、
たとえば焼却されたユダヤ人の灰を肥料にして、
ヘスの家の庭に極彩色の花が咲くのを、
延々と映すのも、やり過ぎ感がありました。

そんな訳であまり良いとは思えなかったのですが、
僕は前から新しいタイプの作品を受け入れるのが苦手で、
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」も、
「ワイルド・アット・ハート」も、
「バービー」も、
初見ではとても良いとは思えなかったので、
今回の作品もその斬新な素晴らしさを、
おそらく見落としている可能性が高いのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「あんのこと」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日でいつも通りの外来になります。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
あんのこと.jpg
入江悠監督がかなり深刻な実話を元に脚本演出を勤め、
今注目の河合優実さんが体当たりの熱演を見せた映画が、
ロードショー公開されています。

入江監督は「22年目の告白」と「AI崩壊」が、
新たな日本の娯楽映画の可能性を感じさせて好印象でしたが、
その後はあまり企画に恵まれていないな、
というような印象がありました。
幅広い作品を手掛けていますが、
かなり出来にはムラがあります。

これはゴミだらけの狭い公団住宅の部屋で、
家族が罵り合い取っ組み合いを続ける様子を、
延々と撮り続けるようなヘビーな作品で、
大森立嗣監督や是枝裕和監督、白石和彌監督などにも、
同じような素材を扱った映画がありましたが、
そのどれよりも画面は暗く構図も歪み、
ある意味ノンフィクションよりも荒れた映像が連続します。

情緒的な泣かせのような水分もほぼなく、
観ていると、
こちらの心も砂漠と化してしまうような気分になります。

これは今の社会の空気感でないと望まれない作品、
良くも悪くも、
この映画をこのように観ることが出来るのは、
今生きている観客のみだろう、
という感じがする作品です。

僕自身もかなりのダメージを受けましたが、
精神的にダウンしているような時には、
とてもお勧め出来ないタイプの映画です。

皆さんもご注意下さい。

主演の河合優実さんが抜群で、
この役をこのように演じられる役者さんが、
今他にいるとは思えません。

彼女の纏う空気感が、
おそらく今の社会の閉塞感と、
絶妙にリンクしているのだと思います。

評価が分かれるだろうと思うのは、
複雑なキャラの警察官を演じた佐藤二朗さんで、
僕も大好きな俳優さんですが、
今回の役柄に関しては、
ややミスキャストのように感じました。
この役は表面的には、がさつだけれど良い人、
というように見えないといけないと思うのですが、
佐藤さんが演じると、
「得体の知れなさ」が出てしまうのですね。
それではいけないように感じました。

作劇としては、
ラストが少し中途半端に感じました。
ちょっと泣かせと希望を入れようとしているのですが、
この映画はハノケみたいに、
身もふたもないくらいに、
無雑作に絶望的に終わらないといけないですよね。
多分作り手はそうしたかったのだけれど、
それが許されなかったのではないかな、
というように感じました。

いずれにしても鑑賞には非常に精神的体力の必要な、
かなりヘビーな力作で、
こうした作品が国内外問わず多い気がするのは、
それはもう今の時代の反映なのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ミッシング」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ミッシング.jpg
現代を間違いなく代表する映画監督の1人である、
吉田恵輔監督の新作が、
オリジナル台本で石原さとみさんの主演で完成し、
今ロードショー公開されています。

吉田監督は「空白」が、
現代社会を鷲掴みにしたような大傑作で、
非常な感銘を受けました。
それを更に先鋭化させたのが、
次作の「神は見返りを求める」でしたが、
フィクショナルな展開が、
やや暴走気味で収拾がつかなくなった感がありました。

今回の映画はその方向性とは全く別の形、
過激な展開の連鎖や、
キャラの誇張を避け、
リアルでありそうな展開のみを、
物語的にはあまり面白みのない設定と性格のキャラ達に演じさせ、
殆どノンフィクションを指向しながら、
そこにフィクションの意義を見出そうとした、
吉田監督の作家性が、
非常に強く打ち出された力作でした。

これは個人的には大傑作だと思うのですが、
その真価はおそらく今よりも、
5年から10年くらいが経過して、
今の時代の狂気の熱が少し冷めた時に、
明らかになるような気がします。

マスコミの描き方にしても、
SNSの描き方にしても、
今の時代に多くの人が、
何となく正しいと感じていることとは、
実は真逆に近いことを、
作り手は主張しているのですね。
ただ、それをそのまま主張したら、
反発されることが分かっているので、
表面的にはそうでもない風を装いつつ、
その奥に真実を忍ばせるような描き方をしています。

そのため、この作品を観た人は、
何となく居心地の悪さを感じるのです。
それは実は作り手から観客に向けられた、
刃の切っ先なのですが、
それが理解出来ないと、
「もっと別の展開を予想していたので、期待外れだった」とか、
「何が言いたいのか分からず、心に響かなかった」
というような感想になるのではないかと思います。

鑑賞後にすぐ連想したのは、
マクドナーの「スリー・ビルボード」で、
どちらも「母が最愛の娘を失う」という、
1つの事件を主軸に据えながら、
その事件が解決するのではなく、
娘を喪失した母の心情のエネルギーを梃子にして、
その周辺の世界を描いています。
つまり、これは一種の物理実験のようなもので、
得体の知れない世界に、
母の感情をぶつけることにより、
その揺らぎから世界の本質を観測しよう、
という試みなのです。

そして、もう1つのポイントは、
いずれの作品においても、
母の心情はその喪失後にしか基本的には描かれず、
それ以前の母娘がどのような関係であったのかは、
完全なブラックボックスになっている、という点にあります。
「空白」においては、
父と死んだ娘との関係性は、
最後に至ってある程度明らかになり、
そこに1つのカタルシスが生まれるのですが、
この作品では敢えてそれをせず、
事件の真相のみならず、
事件前の親子の関係性すら、
未解決のままにしているのです。

これはどういうことかと言うと、
私達がたとえば女の子が失踪した、
というような事件を報道で見て、
そこから得られる情報と基本的には同じものだけを、
この映画も提示している、
ということなのですね。

それがワイドショーやSNSなどで拡散されると、
私達は何の関係もないその家族について、
実は親子は仲が悪かったのではないかなど、
根拠もない憶測から勝手に自分の物語を作り、
それを共有することによって「娯楽化」するのです。

この映画が本質的に描いているのは、
そうした現実が虚構化され、
物語化されて消費される過程なのです。

しかし、そんなものが果たして面白いでしょうか?

現実の報道は実在の人物を傷つけるけれど、
虚構の報道の利点は誰も傷つけることがない点にあります。

その虚構がそれ自体として面白ければ、
人は現実の詰まらない事件を追い求めて、
そこに娯楽を見出すような必要はなくなります。

今回の映画がやりたかったことは、
自分が創作した物語が、
現実の娯楽化を超えられるのか、
という挑戦であって、
そこにこの映画の本質があるという気がします。

その試みが成功したのか、という点については、
おそらく今はまだ決着が付かないのです。

いずれにしても吉田恵輔監督にして初めてなしえた、
あまり類例のない意欲的な傑作で、
この混乱と狂気の時代に、
確実に観るべき1本だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ブルックリンでオペラを」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ブルックリンでオペラを.jpg
レベッカ・ミラー監督による、
ニューヨークを舞台に、
恋と人生に翻弄される大人の男女の人間模様を、
時にコミカルに、時にほろ苦く描いたオシャレな映画です。

こういう映画は以前は沢山あったと思うのですが、
最近はあまりないな、という印象です。

監督自身も言っているようですが、
明らかにウディ・アレンの都会的なコメディを、
下敷きにしているという感じの作劇です。

主役のピーター・ディンクレイジさんの役柄が、
芸術的才能は豊かであるのに、
自己肯定感が非常に低く、
小心者でコンプレックスの塊なのですが、
これはもうウディ・アレンさんが映画で主役を演じる時の、
役柄そのものですよね。
それでいて美人にばかりモテてしまう、
というところも同じです。

その小心者の役柄を、
身長の低い役者が演じる、
という辺りのセンスを、
面白いと取るかどうか、
という辺りが、
この映画が好きになるかどうかの、
分かれ道であるように思います。

僕は基本的にウディ・アレンの映画が大好きなので、
悪くはないのですが、ちょっと物足りない感じはありました。

ウディ・アレン映画に登場する人物は、
表面的に紳士的なのに変態であったりと、
意外な裏側が隠れている、
というような趣向が多いのですが、
この映画に登場するキャラは、
基本的に皆表裏がないのですね。

そこも個人的には少し物足りない部分でした。

中ではアン・ハサウェイが演じた潔癖症の精神科医が、
突飛とも思える顛末を迎えるのですが、
要するに自分自身の過去に「穢れ」を感じ、
最終的には夫にも「穢れ」を見出して、
そうした行為に至るのですね。
唐突に見えてその辺りの段取りは、
かなり緻密に組まれていると感じました。

キャストではマリサ・トメイ姐さんが、
今回一番の儲け役で、
魅力的で格好の良い姐御ぶりでした。

そんな訳で、
ウディ・アレンの「ハンナとその姉妹」辺りと比較してしまうので、
どうしても点は辛くなるのですが、
今では貴重な感じの、
ニューヨークを舞台にした大人の人生ドラマで、
こうした映画が懐かしい方には、
お薦めは出来る作品だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「悪は存在しない」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
悪は存在しない.jpg
濱口竜介監督の新作が、
今ロードショー公開されています。
監督の作品は好みではないものもあるのですが、
オムニバスの「偶然と想像」は最高でした。

今回の作品はかなりの問題作で、
これまでの濱口作品も日本映画よりヨーロッパ映画的でしたが、
それがより加速した感じで、
タルコフスキーに近い没入感と難解さを併せ持った作品でした。

一番素朴に似ていると思った映画は、
キューブリックの「2001年宇宙の旅」です。
最初は悠然たる自然描写が展開され、
それがオムニバス的趣向で、
途中から非常に物語性を帯びるのですが、
ラストに掛けて予測不能の展開を見せ、
ラストは何と言うのか、
現実の底が抜けたような、
異様なビジョンで締め括られます。

観終わった瞬間は全く意味不明でしたが、
殆ど上映中寝ていた妻に、
あらすじを話して聞かせると、
「要するに自然と自分とのバランスを回復するためにやったのね」
と言うので、
なるほどと得心しました。

異常なラストなのですが、
冒頭から周到に伏線が敷かれていて、
それらが全て緻密に絡み合っているので、
これはいい加減にこうした内容にした訳ではない、
ということが理解されて、
より複雑でモヤモヤした気分になるのです。

素直に面白いと思えるような映画ではありませんが、
映画ならではの技巧を駆使した、
これまでにあまり類例のない作品で、
映画の好きな方には、
必見と言って間違いはないと思います。

是非心してご覧下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「変な家」(2024年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は連休でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
変な家.jpg
覆面作家でyoutuberの雨穴さんによるベストセラー小説が、
テレビドラマ演出に実績のある、
石川淳一さんの監督で映画化されました。

これは原作は先に読んでいました。
掴みが非常に巧みなネット小説的な作品で、
前半は非常に面白かったのですが、
後半はちょっと荒唐無稽さが加速する感じになって、
ラストはやや尻つぼみという印象でした。

映画版は「事故物件 恐い間取り」と同じパターンで、
作者を主人公として登場させ、
虚実ない混ぜという雰囲気で、
手持ちカメラやスマホの画像も入れ込んで、
没入感のある恐怖とスリルを体感させよう、
という趣向です。

前半はほぼ忠実に原作のストーリーが再現されます。
結構ショッキングな場面もあります。
ただ、間取りがおかしい、という趣向は、
矢張り映像より小説向きだと感じました。
原作を知らないと入口が分かり難い、という印象です。

問題は後半で、
原作は犯人に近い人物の手記で、
何となく集束してしまう感じになるのですが、
映画ではそれでは駄目なので、
主人公達が敵の本拠に乗り込んで、
恐い目に遭う、という趣向になっていました。
ただ、それがかなり間抜けで低予算な感じになっているので、
これはせめてネットフリックスくらいのクオリティで、
やって欲しかったな、と思いました。

ただ、後半をより面白くするには、
余程原作を改変しないと無理なので、
勿論成功とはとても言えないレベルの映画ですが、
これ以上を目指すのは、
企画そのものにかなり問題が大きかったのではないかと、
そんな風に感じました。

総じて、意外に忠実な「変な家」の映画化で、
その後半の安っぽさに目を瞑れば、
チープなホラーの良作として、
まずまず楽しめる1本ではあったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「メメント」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは5月の連休のため休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
メメント.jpg
クリストファー・ノーラン監督の出世作「メメント」が、
今特別上映という感じでリバイバル公開されています。

これは2000年製作、日本公開は2001年です。
僕は公開時には映画館では観ていなくて、
何かの記事で興味を持って、
レンタルビデオで観たのが初見です。
とても衝撃的で感銘を受けて、
次に公開された「インソムニア」は映画館で観たのですが、
これは「メメント」とは違って、
とても普通の感じの地味なサスペンス映画だったので、
正直とても肩透かしの感じを持ったことを覚えています。

外傷の後遺症で、
記憶が10分しか持たなくなった男が、
自分の妻を殺した犯人を探し求めるというストーリーで、
それを「犯人」を殺した瞬間から、
記憶が持続している10分を一区切りにして、
逆向きに遡ってゆくという、
小説の叙述ミステリーをそのまま映像化したような奇想が素晴らしく、
後から購入したDVD版には、
それを時間軸を元通りにして、
再編集した別ヴァージョンも収録されていました。

ノーラン監督は、
「インターステラー」も最高でしたし、
新作の「オッペンハイマー」も良かったのですが、
矢張り初見の衝撃ということで言うと、
この「メメント」が今に至るまで1番であることは間違いがありません。

記憶が短時間しか持たない、
という症状を利用したフィクションは、
勿論前例がない訳ではありませんが、
それがポピュラーになったのは、
矢張りこの作品以降であると思います。
小川洋子さんの「博士の愛した数式」という作品が、
数年後に発表された時には、
「これパクリじゃん」という感想しか浮かびませんでした。
これはこれで素晴らしい小説であると、
比較的最近読了して分かりましたが、
それまでとても読む気がしなかったのは、
「メメント」があったからです。

この映画は初めて観た時に、
主人公が探し求めていた犯人は○○だ、
ということだと理解したのですが、
今回改めて映画館で観返してみると、
はっきりとそうは言っていない、
という気がしたので、
「あれれ…そうじゃないの?」と疑問に感じ、
家に帰ってから結局もう一度、
ユーネクストで観直しました。

これはそうした魔力のある作品ですね。

それでもう一度慎重に確認したのですが、
まあ最初に観た時の感想は、
間違っていなかったのですね。
ただ、それほど明確に台詞化はされていないのと、
それが「嘘吐き」と散々言われている人物の口からの台詞なので、
それを明確に事実とはしていないのね、
というようには感じました。

これはノーラン監督の天才にして初めて可能となった、
ほぼ完璧に近い構成の作品で、
しかもそれをギリギリのところで、
完全にクリアにはしない部分を残して、
長く記憶に残るカルトにしている、
という稀有な作品です。
しかもおそらくノーラン監督のフィルモグラフィの中でも、
最も強く情緒を揺さぶる、切なく衝撃的な場面が、
中段に差し挟まれています。

そのために何度も何度も観返してしまうというところは、
個人的経験の中では、
「ツィゴイネルワイゼン」や「日本殉情伝 おかしなふたり」、
「記憶の棘」、「ピクニック・アット・ハンギングロック」などと並んで、
偏愛しているカルト映画の1本なのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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