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生菌製剤(VE303)によるクロストリジウム・デフィシル菌感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
クロストリジウム経口製剤の有効性.jpg
JAMA誌に2023年4月15日ウェブ掲載された、
腸内細菌の経口製剤で、
難治性の感染性腸炎を予防する試みについての論文です。

クロストリジウム・デフィシル菌というのは、
嫌気性有芽胞菌という分類に属する細菌で、
破傷風の原因である破傷風菌や、
食中毒の原因となるボツリヌス菌などと、
同じ仲間に属する病原体です。

この細菌は人間の腸の常在菌で、
日本人の大人の1割は持っている、
という報告もありますが、
通常は人間には悪さをしません。

それが問題になるのは、
主に抗菌剤の使用時で、
抗菌剤の使用により、
大腸の正常な菌叢が乱され、
腸内細菌が死滅すると、
このデフィシル菌が異常に増殖し、
偽膜性腸炎という名称の、
下痢を伴う腸炎を起こします。

ポイントは抗菌剤を使用していて、
強い下痢の症状が出現したら、
すぐに薬を中止することで、
軽症であればそれで腸内菌叢が正常に復することにより、
デフィシル菌の増殖も抑えられて元に戻ります。

ただ、
実際には全身状態が悪く、
抗菌剤の使用が必須の患者さんで、
こうしたことが起こると、
免疫力の低下なども相俟って、
経過は遷延して重症化することも稀ではなく、
デフィシル菌の除菌のために、
再度抗菌剤を使用することも已む無し、
という事態になります。

こうした場合に使用される薬剤の筆頭は、
バンコマイシンやフィダキソマイシンと呼ばれる抗菌剤ですが、
一旦は改善しても、
再発することが多いことが知られています。
その頻度は40から60%という統計があるほどです。

このデフィシル菌による腸炎の再発予防に、
腸内細菌製剤を使用するという考え方があります。

以前ご紹介した2022年のNew England…の論文
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2106516
では、
SER-109という、
健康なドナーの便から抽出した、
ファーミキューテス門という腸内細菌の1分類区画を、
増殖した芽胞製剤を用いて、
クロストリジウム・デフィシル菌による偽膜性腸炎の再発が、
68%予防されたとする結果が報告されていました。

今回ご紹介する論文では、
VE303と名付けられた、
矢張り健康な成人の便から抽出した、
毒性のない8種のクロストリジウム属の細菌製剤の、
有効性を検証しています。

アメリカとカナダの複数施設において、
18歳以上で6か月以内に1回以上クロストリジウム・デフィシル菌による腸炎に罹患し、
再発リスクが高いと判断された79名を登録し、
本人にも主治医にも分からないように3つの群に分けると、
生菌製剤VE303の低用量と高用量の使用群、そして偽薬群に割り付けて、
1日1回2週間の治療を継続し、
その後8週間の再発リスクを比較検証しています。

その結果、
8週間のクロストリジウム・デフィシル菌による腸炎の再発は、
VE303低用量使用群で37.0%、
高用量使用群で13.8%、偽薬群で45.5%に認められ、
高用量では81%(90%CI:0.05から0.71)の予防効果が確認されました。

このように、今回の臨床試験においても、
生菌製剤の使用により、
デフィシル菌の再発が明確に抑制されており、
今後こうした生菌製剤の使用が、
デフィシル菌感染再発予防の治療の柱になってゆくことは、
間違いがなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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