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高齢者に対する入院中の抗精神病薬使用からの離脱率 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
非定型精神病薬の中断率.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年2月17日ウェブ掲載された、
入院中のせん妄に対する投薬治療とその離脱率を検証した論文です。

ストレスなどによる一時的意識障害をせん妄と言います。
典型的なのは高齢者が急性疾患で入院した場合で、
入院するまでは何ら精神的な問題はなかったのに、
入院すると夜大声を上げて騒いだり、
幻覚を訴えたり、点滴などをむしり取ったりもします。

これは通常は一時的な症状で、
入院の原因となった病状が安定し、
退院すると何事もなかったように、
元の状態に戻ることが多いのです。
ただ、ベースに軽度の認知症があったりすると、
入院中のせん妄をきっかけとして、
退院後に認知症が顕在化するようなことはあります。

こうした入院中のせん妄状態に対して、
使用されることが多いのが、
鎮静作用の強い抗精神病薬です。
抗精神病薬はもともとは統合失調症の治療薬ですが、
せん妄における興奮状態には、
統合失調症の陽性状態に近い部分があることと、
通常の安定剤はせん妄状態には無効のことが多いので、
経験的にせん妄状態には抗精神病薬が使用されているのです。

しかし、特に高齢者においては、
抗精神病薬の使用は死亡リスクの増加や、
重症不整脈、肺炎、立ち眩み、排尿障害など、
多くの有害事象に結び付きやすいという側面があります。

このため現行の多くのガイドラインにおいては、
せん妄状態に対する抗精神病薬の使用は、
慎重に適応を検討して行うと共に、
基礎疾患が改善すれば速やかに中止することが推奨されています。

しかし、実際にそのどの程度の患者さんにおいて、
入院中の抗精神病薬の処方が、
すぐに中止されているかどうかは、
正確なデータが不足しているのが実際です。

今回の研究ではアメリカの医療保険のデータを活用して、
この問題の検証を行っています。

抗精神病薬にはハロペリドールなど、
従来型のタイプのものと、
比較的副作用や有害事象が少ないと考えられている、
非定型抗精神病薬というタイプの薬剤があります。
今回の研究では抗精神病薬をその2種類に分けて検証を行っています。

65歳以上で精神疾患の既往がなく、
感染症により入院して30日以内に抗精神病薬の処方が開始された、
トータル5835名の患者データを解析したところ、
処方開始後30日以内に処方が中止されていたのは、
非定型精神病薬使用群では11.4%(95%CI:10.4から12.3)、
ハロペリドール使用群では52.1%(95%CI:48.2から55.7)でした。
入院が長いことと認知症の合併があると、
抗精神病薬の離脱率は低下していました。

このように、
入院中のせん妄状態の治療に使用された抗精神病薬は、
1か月を超えて使用継続されている事例が多く、
特に非定型精神病薬は継続的に使用されているケースが多い、
という傾向が認められました。
確かに従来型の薬と比較すれば、
副作用は少ない傾向はあるものの、
その基本的性質には大きな違いはないので、
その使用継続には、
より慎重であるべきだと思います。

日本においても、
高齢者が急性疾患で入院中に抗精神病薬を使用され、
退院後も使用が漫然と継続されているケースは、
少なからずあるのが現状だと思います。
末端の医療者の1人としては、
そうしたことが起こらないように、
その処方内容の確認と適応の判断には、
より慎重に対処したいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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