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早期肺癌の縮小手術の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
肺癌縮小手術の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2023年2月9日掲載された、
早期の肺癌に対する縮小手術の有効性についての論文です。

肺癌はその組織から、
大きく小細胞肺癌とそれ以外の非小細胞肺癌とに分類されます。

そして、非小細胞肺癌については、
転移などにより困難な場合を除けば、
手術により病変を切除することが第一選択の治療です。

特に臨床分類でT1N0という、
腫瘍の大きさが3センチ以下で、
腫瘍が肺の中に留まっていて、
リンパ節の転移もない状態では、
手術により腫瘍を周辺部を含んで切除することにより、
高い生命予後が得られることが分かっています。

ただ、問題は腫瘍を含むどのくらいの肺組織を、
切除するべきかということです。

腫瘍が小さくても、
肺葉切除と言って、
腫瘍が存在する肺葉という大きな範囲を、
丸ごと切除するという考え方があり、
その一方で腫瘍周辺の一部のみを切り取る、
縮小手術という考え方があります。

1995年に発表された有名な臨床研究があり、
そこではT1N0の肺癌症例で、
肺葉切除と縮小手術とを比較したところ、
縮小手術をすると局所の再発が3倍に増え、
死亡リスクが50%増加するという結果が得られています。

そのため多くのガイドラインにおいて、
T1N0の非小細胞肺癌は肺葉手術が第一選択とされたのです。

ただ、当時はまだCTを施行したような肺癌検診は一般的ではなく、
発見される肺癌の多くは2センチを超えていました。

従って、
たとえば1センチ程度の肺癌のみを対象としても、
肺葉切除をしなければいけないのか、
という点については、
検証の余地が残っていたのです。

この疑問に対して先行的に臨床試験を施行したのは日本です。

2022年のLancet誌に発表された、
JCOG0802という大規模な臨床試験の結果では、
T1N0で大きさが2センチ以下の非小細胞肺癌の事例、
1106例をくじ引きで2つの群に分け、
肺葉切除と縮小手術に割り付けてその予後を比較したところ、
生命予後に明確な優劣はありませんでした。
この研究では腫瘍の画像の、
すりガラス陰影と充実性の部分の比率を、
1つの判断の指標にしています。

今回の研究はアメリカ、カナダ、オーストラリアの複数施設において、
腫瘍の大きさが2センチ以下の非小細胞肺癌の事例、
697例をくじ引きで2つの群に分けると、
一方は肺葉切除を施行し、
もう一方は縮小手術を施行して、
中間値で7年の経過か観察を施行しています。

その結果、先行する日本のデータと同様、
観察期間中の死亡と再発を併せたリスクには、
両群で明確な優劣は認められませんでした。
5年生存率や総死亡も両群で同等でした。
その一方で残存肺機能については、
縮小手術施行群が有意に高くなっていました。

このように、
画像の評価法や縮小手術の方法などについては、
日本の研究と今回のものでは違いもあるのですが、
基本的にT1N0の2センチ以下の非小細胞肺癌では、
縮小手術がその予後において肺葉切除に劣らない、
という知見は一致していて、
これが今後のガイドラインにおいても、
基礎となる知見となることは、
間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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