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「エンパイア・オブ・ライト」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
エンパイアオブライト.jpg
サム・メンデス監督によるイギリス・アメリカ合作で、
1980年初頭のイギリスを舞台に、
精神を病んだ中年の女主人公と若い黒人男性との、
繊細な感情の結びつきを、
不況で黒人差別が顕在化した当時の世相と、
古い映画館のノスタルジックな風景を背景に描いた作品です。

これは昔からある「老いらくの恋」という、
古典的な恋愛映画のテーマを、
これも定番の「映画への愛」というテーマと合体させ、
そこに人種差別と精神疾患という、
現代映画では欠かせない要素を振りかけた、
という感じの作品で、
ちょっとくっつけ過ぎかな、という感じもするのですが、
格調のある映像の美しさと構図の安定感が素晴らしく、
一貫した少しスローだけれどスロー過ぎない、
という感じの絶妙のテンポとも相俟って、
なかなか魅力的で品格のある作品に仕上がっています。

変にドギつくない、
昔みたいないい映画が観たいな、
という向きには、
今一番のお勧めかも知れません。

何より、主役のオリビア・コールマンが抜群にいいですよね。
ちょっとシモーヌ・シニョレみたいな仕上がりになっていて、
昔のフランス映画を観ているような気分に浸れます。

絶対に結び付くことが出来ない2人の話でしょ。
どうするのかなあ、と思っていると、
幾つかの山と谷を経て、
お互いに肉体的にも精神的にも傷ついて、
映画館で映画を観るように、
人生をちょっと客観視したような終わりになるのも、
なかなかしっとりとして良いな、
と思いました。

途中で「炎のランナー」のプレミア上映が、
舞台となる映画館で行われるというシーンがあるんですね。
でも、明らかに「炎のランナー」を権威主義の象徴のようにディスっていて、
なるほど今はそうした評価なのね、と、
その時代背景とのリンクを感じました。

細部の構造は意外に細かいんですね。
映画館そのものがちょっと迷宮的になっていて、
一番下の階では主人公は映画館のオーナーに凌辱されるのですが、
上の階はもう使われない閉ざされた映画館になっていて、
そこには鳩が舞い、主人公達が密かな逢瀬を重ねます。
これは縦構造で時間の流れを表現していると共に、
主人公の心の構造を示しているんですね。
主人公は招かれていないのに、
ドレスアップして「炎のランナー」のプレミアを訪れるのですが、
後ろを向くとドレスは乱れていてきちんと着られていません。
この辺りもとても細かくてリアルです。

欲を言えば、ちょっとありきたりなディテールが多いんですね。
映画は24コマの光の間の闇が生み出す幻だ、
みたいな講釈、
「それ結構何度もこれまで聞きましたけど…」
と突っ込みたくなるような感じですし、
大晦日に映画館の屋上で花火を見るというのも、
ちょっと他になかったのかな、
という思いはありました。

でも、そうした細部を除けば、
非常に格調高く完成度も高い力作であることは確かで、
映画好きには是非是非映画館に足をお運び頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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