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甲状腺機能亢進症と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
甲状腺機能と認知症リスク.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2023年10月23日付で掲載された、
甲状腺機能異常と認知症リスクとの関連についての論文です。

甲状腺の機能異常と認知症との関連では、
甲状腺機能低下症における、
認知機能低下が有名です。
この場合見掛け上は普通の認知症のように見えるのですが、
実際には甲状腺の機能低下に伴う一時的な症状で、
甲状腺ホルモン剤を使用して機能低下が改善すると、
認知機能低下も元に戻るのです。

その一方で甲状腺ホルモンの過剰、
これは主に機能低下症に対するホルモン剤の治療が、
甲状腺ホルモンの過多に結びついていることが多いのですが、
その場合に認知症のリスクが高まることが、
複数の疫学データの解析から報告されています。

この場合の甲状腺ホルモンの過剰というのは、
血液の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の低下として診断されます。

現在使用されている甲状腺ホルモン製剤は、
主にT4製剤で、
体内でT3に変換されることによって、
活性のあるホルモンとなります。
そのためある程度過剰に使用されても、
その全てがT3になる訳ではなく、
体はTSHを下げることによってその調整を行っているので、
強い甲状腺機能亢進症となることは、
殆どないのですが、
TSHが通常より低下する程度の、
潜在性の甲状腺機能亢進症においても、
認知症のリスクが高まると言うのです。

それは事実なのでしょうか?

今回の研究では、
プライマリケアの医療データを活用することで、
65歳以上の65931名のデータを解析。
血液のTSH濃度と認知症リスクとの関連を検証しています。

その結果TSHが0.45mIU/L未満であることは、
関連する因子を補正した結果として、
75歳までに認知症を発症するリスクを、
1.39倍(95%CI:1.18から1.64)有意に増加させていました。

TSH低下の原因はその60%がホルモン剤の使用によるもので、
バセドウ病など内因性の亢進症によるものは17%でした。
ホルモン剤の使用によるTSHの低下は重度のものは少なく、
TSHが0.1未満に抑制されていたのは、
全体の31%でした。

ここで原因別に分けて検証すると、
内因性の亢進症では認知症リスクの有意な増加はなく、
ホルモン剤の内服によるTSH低下のみで、
認知症リスクは1.34倍(95%CI:1.10から1.63)有意に増加していました。

今回の結果では、
ホルモン剤を使用して潜在性甲状腺機能亢進症が生じると、
その後の認知症リスクが増加していました。

こうしたデータのみで、
軽度の甲状腺機能亢進でも認知症のリスクになる、
と言い切ることは出来ないと思いますが、
年齢と共に徐々にTSHが上昇すること自体は正常な加齢現象なので、
甲状腺機能低下症をホルモン剤で治療する際には、
投与が過剰にならないように留意することは、
重要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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