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アスピリンの腹部大動脈瘤進行予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アスピリンの腹部大動脈瘤に対する有効性.jpg
JAMA Network Open誌に、
2023年12月12日付で掲載された、
腹部大動脈瘤に対するアスピリンの有効性についての論文です。

腹部大動脈瘤は高齢者に多い大動脈疾患で、
その名の通りお腹の大動脈が、
瘤のように腫れるという病気です。

上記文献の記載によれば、
先進国では65から85歳の年齢の死因の1.3%に関連し、
ガイドラインでは、
概ねその径が5.5センチ以上となった場合や、
年間5ミリ以上と急速な増大傾向のある時には、
破裂のリスクが高いことから、
手術治療の適応とされています。
ただ、この病気は内臓機能の低下した高齢者に多く、
他の病気も併発していることが多いので、
手術のリスクも決して低いものではありません。

従って、その進行のリスクを減らし、
致死的となる可能性が高い動脈瘤の破裂を、
予防するための保存的な治療の必要性が高いのです。

しかし、現時点で血圧のコントロールや禁煙以外に、
有効な進行予防の方法は確立されていません。
これまでに多くの薬剤の、
腹部大動脈瘤進行予防効果が検証されていますが、
殆どの臨床試験においてその有効性は確認されていません。
唯一糖尿病治療薬のメトホルミンに、
一定の有効性が確認されていますが、
まだ確実と言えるものではありません。

血小板の活性化が、
大動脈瘤の増大に影響しているという基礎データがあり、
抗血小板作用のある低用量のアスピリンに、
動物実験のレベルでは、
腹部大動脈瘤の進行予防効果が確認されています。
しかし、実際の臨床において、
アスピリンの使用に、
そうした効果があるかどうかは明確ではありません。

そこで今回の研究では、
アメリカの単独施設において、
超音波検査で3センチ以上の径の腹部大動脈瘤を持つ、
3435名の患者を、
10年間フォローしたデータを活用して、
アスピリンの使用と大動脈瘤の進行との関連を比較検証しています。

その結果、
アスピリン使用群の、
腹部大動脈瘤の平均年間増大径は2.8±3.0mmなのに対して、
アスピリン非使用群では3.8±4.2mmで、
アスピリンの使用は大動脈瘤の増大を、
有意に抑制していました。

また、アスピリンの使用は、
大動脈径が年間5mmを超えて増大することで定義される、
大動脈瘤の急速進行のリスクを、
36%(95%CI:0.49から0.89)有意に低下させていました。

一方で総死亡のリスクや出血のリスクについては、
両群で明確な差は認められませんでした。

このように、今回のデータにおいては、
アスピリンの使用による腹部大動脈瘤進行予防に、
一定の有効性が確認されました。
その一方で生命予後の改善については、
確認することは出来ませんでした。

今後より精度の高い介入試験などによって、
アスピリンの有効性が検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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