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タミフル耐性(?)インフルエンザ(H7N9)の1事例 [インフルエンザ(H7N9)]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
H7N9インフルエンザ事例.jpg
今月のEmerging Microbes and Infections誌に掲載された、
中国で発生しているインフルエンザ(H7N9)の感染事例の、
症例報告の論文です。

ともかく滅多矢鱈と発表されている、
インフルエンザ(H7N9)関連の論文ですが、
玉石混交でこれはどちらかと言うと、
「石」の部類です。

たったお1人の事例の紹介である上に、
ウイルスの遺伝子が解析されているのでもありませんし、
タミフルを常用量で使用したものの、
効果がなかったので、
タミフル耐性の可能性があるかも…
というだけの薄弱な根拠で、
事例の経過を途中で発表しているという、
ある種の節操のなさがあります。

ただ、
幾つか興味深い点もありますので、
その点を主にご紹介したいと思います。

取り上げられている事例は、
56歳の男性で、
明確に書かれていませんが、
上海市の事例のようです。

この男性の妻が、
発熱と肺炎で3月27日に発症し、
A型インフルエンザ(H7N9)ウイルスの感染と診断されて、
4月3日に亡くなっています。

その濃厚な接触者31名のうちの1人であった、
夫であるこの男性は、
4月2日より乾いた咳と38.5度を越える熱の症状を示し、
妻からの感染を疑われて、
同日よりタミフル1日150mgが投与されています。
これは日本での常用量と同じ使用法です。

実際には妻の感染がインフルエンザ(H7N9)
であることが分かったのは、
4月4日のことですから、
この時点では疑いでしかなかったのですが、
初期からのタミフルの使用が行なわれているのです。

しかし、
病状は急速に悪化し、
4月5日には低酸素血症となり、
レントゲンでは両肺に広範な、
スリガラス様の肺炎像が出現増悪し、
CT検査にても浸潤性の陰影と胸水貯留を認め、
人工呼吸器を装着して治療に当たり、
4月25日の時点で、
予断を許さない状況が続いている、
と記載されています。

この男性は、
4月4日と5日の咽喉の検体では、
H7N9の遺伝子検査は陰性でしたが、
4月10日に3回目の検査を行ない、
その際に初めてH7N9の陽性が確認されています。

今回の事例から分かることが幾つかあります。

まず、
遺伝子診断は病初期には、
もう肺炎像が明確に出現している時期であっても、
陰性になるケースが有り得る、
ということです。

従って、
検査が陰性であっても、
病状の経過等からインフルエンザ感染が疑われる場合には、
その可能性を簡単に否定するのは危険だ、
ということになります。

2009年の「新型インフルエンザ(H1N1)」の際には、
日本でも同様に生前の検査では陰性で、
死後に初めて感染が判明した、
というような事例が複数ありました。
今回の事例では、
複数回の検査が行われていますが、
2009年時の保健所等の対応を見る限り、
日本ではもっと杜撰な対応になるのではないかと、
危惧がされるところです。

論文において強調されていることは、
第一にこの事例がタミフル耐性ウイルスの可能性がある、
ということと、
第二にはこの事例が、
家族内の人間から人間への感染の事例の可能性がある、
という点です。

ただ、
第一のタミフル耐性については、
今回の文献においては、
当該のウイルスの解析結果が提示されておらず、
遺伝子的にタミフル耐性の変異があるかどうかが、
不確かであるので、
どちらとも言い切れないと思います。

重症の感染であることを考えると、
経口で150mgという常用量は、
少な過ぎた可能性もあり、
一概にタミフル耐性ウイルスとは言えません。

第二に家族内感染の可能性についてですが、
確かにこの事例では、
最初に感染した妻は、
毎日のように市場で生きた家禽との接触があり、
その一方で夫は明らかな家禽との接触が、
確認されていないので、
その可能性はあるのですが、
これもウイルスの相同性が、
遺伝子レベルで確認されてはいないので、
推測に留まるものです。

ただ、
仮に家族内感染であるとすると、
濃厚接触者31名のうち、
発症したのは1名のみですから、
矢張りこのウイルスは、
人から人への感染自体は起こし得ても、
その確率はかなり低い、
ということは推測されるように思います。

もう日本にも、
既にこのウイルスの感染者は存在する可能性がありますから、
そうした危機感を持って、
末端の医療者の1人として、
日々の診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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